アングレカム

むぎ

文字の大きさ
上 下
32 / 56
学園入寮編

29

しおりを挟む
全員がこっちをみて、ニヤニヤとしている。
何か言わなきゃいけない雰囲気になっていて嫌なんだけど!!

「……………ぃ君」
「ん?何て?」
声が小さく、聞こえなかったようだ。櫂斗がニヤッとしながら聞き返してくるのにも少しムカッとする。
「櫂(かい)君っ!!」
斗を抜き、君付けにしただけだが、意識的に言うとなるとかなり恥ずかしい。反抗するように思わず大きな声になってしまったし…。
真っ赤になっているだろう顔を見られない様に、椅子の上で体育座りをして顔を埋める。

「…シグ、もう一回。」
「何…うわっ」
顔を上げずにそのまま答えると身体が浮いた。そのまま櫂斗の足の上に乗せられる。

「もう一回、呼んでくれ。シグ。」
「ーっ、恥ずかしいから言わないっ!」
ポカポカと櫂斗の胸板を叩き、降りようとするも降りられない。
「ばかぁ。」
諦めて、櫂斗の上でまた体育座りをして丸まる。

「まぁまぁ、あんまり虐めるなよ。ほら、時雨君お菓子いるか?」
そう言って差し出されたのはポテチ。残念ながら食べられない。

「ごめんなさい。いらないです。」
「シグ。機嫌直して。無理に言わせないから。」
「知らないもん。鳴先輩は何か趣味とかありますか?」困り顔で櫂斗が見てくるが知った事ではない。
とにかく話を逸らさねばと鳴先輩に質問する。

「うぇっ?僕?僕は、ガーデニング、かな…。」
「鳴の家は茶華道の家元でな。ベランダと一部屋は一面花だらけで綺麗だぞ。」
「時雨君にも、今度、見せて、あげるね。」
「すっごい綺麗なんだよ~!家の中に庭がある感じ!鳴ちゃんのお部屋で話す時はそこを使ってるから楽しみにしててね!」

「本当は壁をぶち抜いてやりたかったんだが、学園から辞めてくれと言われてな。仕方なく。屋上の一部もガーデンにさせて貰ってるから、散歩する時にでも見てくれ。」
修一先輩も真面目そうに見えて中々苛烈である。
「お邪魔するの、楽しみにしてます!」

「時雨ちゃんはどうなんだ?つか、お前ら部活はどーするの?1・2年は強制だけど。櫂斗は生徒会入るから免除になるが、時雨ちゃんはどーするのかなって。」

「ブカツって何ですか?」
アメリカでは部活はなく、シーズン毎にスポーツなどに参加するのが一般的で、後はクラブに入る事が多く、時雨の頭に部活という言葉が存在しない。
ブカツとは何だろうか。

「放課後に1つのクラブに参加して練習や試合なんかに出る活動の事だな。俺は剣道部、鳴は花道部、広大はサッカー部、羽衣君は空手部に所属している。」
「アメリカって部活無いんだね。時雨君は習い事とか何かしてたの?」
羽衣先輩が不思議そうに聞いてきた。」

「習い事は特に何も。ピアノはパパに教えて貰ってちょっと弾けるくらいですね。」
「そうなんだ。入学式の次の日から部活動見学だから色々見てみると良いよ。結構いろんな部があるからさっ。」

「色々見てみます。」
運動系は無理だが、聞く限りでは文化系のものもありそうだ。そっちなら出来るかもしれない。

「櫂斗はー?どーすんの?生徒会一本?」
「そうですね。部活は考えていませんでしたが、入るならシグと同じ所ですね。」
「えぇ~。いいよ。好きなところ入って?」
「駄目か?入ったとしても生徒会優先になるからあまり参加は出来ないんだが、俺もシグと同じものがしたい。」

「あるかわからないけど、アニメ系の部活とか、コスプレ?ってゆーの?そんなジャパニーズ文化系に入るって言っても?」
「「「ブッ…!!」」」
時雨の質問に、全員が吹き出す。
実際、6歳で日本を離れたため、日本の文化には興味がある。向こうでもアニメ何かは時々見ていた。

「あ、ああ、アニ研でも、オカルト研でも、よくわからない部活でも、シグと同じなら構わないさ。コスプレだけはやめて欲しいが。」
「…いや、よく無いだろ…」ボソッと広大が呟いた。

「ま、まぁまぁ、ウチには残念ながらアニ研もオカルト研も無いしね?コスプレも部活ではしないかな?回ってみて決めても良いと思うよ。」
羽衣先輩の言う通りだ。まだ何も見ていないから、色々見て決めたい。

「はい、そうします。」
「うん。僕も部活見学の時に空手部で演武するから、良かったら見にきてね。」
「運動部には入らないですが、見に行くだけでもいいですか?」
「もちろん!櫂斗君と是非おいで~っ」
「はいっ、良いよね?櫂斗さん?」
「ああ。一緒に行こう。」

そんなこんなでワイワイと話していると時間は21時近くになっていた。
「そろそろお暇しようか。シグ。」
「うん。先輩方今日はありがとうございました。そろそろ帰りますね。」
櫂斗の上から立ちあがろうとしたが、グワンッと視界が歪みその場に崩れ落ちそうになった。
「シグっ!!」
櫂斗が途中で抱き抱えてくれたようで、叩きつけられる事は無かったが、気持ち悪さが抜けずグッタリと櫂斗に寄りかかる。

「ごめ、ちょっと、ハァ、立ちくらみが…」
「大丈夫か、時雨君。」「横になる?」

「いえ、このまま部屋に戻ります。すみませんが、失礼します。今日はありがとうございました。」
「すみま、せ…」
「いや、楽しかったよ。気にしないでね。またいっぱいお話しようねっ!」
「は、い。」

櫂斗は時雨の靴も纏めて手に持ち、急いで部屋に戻るとベッドに寝かせて、服を緩めてくれた。

「ごめ、かい、そこの、ケースとって…」
「これか?どれが必要?」
「2、2つ…」
ピルケースは薬が混ざらない様、蓋が別々になっている。予め薬には番号をつけており、今日みたいな時に人にお願いするのに役立っている。

薬を飲んで、暫くは気持ち悪さが抜けなかったが、徐々に落ち着いてくる。
櫂斗さんは側で心配そうにずっと背中を撫でてくれた。

「ごめんね。だいぶ良くなったよ。ありがと。」
「本当か?だいぶ顔色が戻ったが、まだ白い。まだ寝ていろ。」
櫂斗は慣れた手つきで体を拭き、服をパジャマに着替えさせる。

一度櫂斗は点滴持ってくると言い、出て行ってしまった。

ぽつんと残された静寂の部屋で、急に不安になる。今日が入寮で初めて夜を過ごす部屋であり、落ち着かないし、知らない場所に取り残された様に感じる。

暫くして櫂斗が道具を持って戻ってくると、自分でつける?と聞かれたが、まだ怠い体を動かす気になれずお願いする。

消毒から、滴下開始まで難なくこなすと、ベッドに腰掛けて、髪を撫で付けながら「気分悪くなったらこのボタン押して」と何故かナースコールを渡してきた。
鳴らすと部屋中にあるスピーカーから音が鳴るらしく、何処にいても気づけるそうだ。

最後にサラッと髪を撫で、額に「おやすみ」と口づけを落として櫂斗が出て行こうとする。

「ま、まって…」
思わず引き止めてしまった。どうしよ…

「どうした?シグ。」
心配そうに側に来て、顔が見えるようにしゃがみ込んでくれた。




「ね、寝るまで、一緒にいて…?」
発作や体調を崩した時は、いつもパパや父などが居ることの出来る限りはいてくれたが、面会時間外の夜は別だ。
発作や不調の時は、しーんとした真っ暗な部屋で1人になると、死への不安が急に襲ってきて気づかれない様に1人で震えていた。

櫂斗が病室に来て初めて夜も一緒に横で寝てくれて、暖かさに包まれ安心して眠る事が出来たのだ。
また一緒に入れるなら、出来れば側にいて欲しい。



シーンと黙ったままの櫂斗に不安になる。
「ご、ごめん。1人で寝れるから、大丈夫。おやすみなさい。」
今日だけでもいっぱい迷惑かけているのに、これ以上我儘を言う事は出来ない。布団を頭までかぶり、ぎゅっと目を瞑る。

櫂斗が出ていったのか扉がカチャッと閉まる音がした。
そっと布団から顔を出すと、誰も居ない。
遮光カーテンも閉まっており、真っ暗な中、部屋のスイッチと輸液ポンプの充電を示す緑色のランプが不気味に光るだけだ。

「っ」
何であんな強がり言っちゃったんだろう…
でも、櫂斗さんにばかり迷惑はかけられないし…
思わず涙が滲むのを布団に丸まり無かったことにする。

どのくらい時間が経っただろうか、キィィイッと音が響いた。
何の音??何にも見えないし、怖いよ…

「…シグ、寝てる?」
小さな声で、ボソッと頭の上から声がする。

櫂斗さんーーー。

布団をバッと取り払い、身体もお構いなしに声の方向へ飛び込んだ。

「うわっっ、シグ?どうした?」
ポンポンと背中を叩きながらベッドに腰掛けて何も言わない時雨を抱きしめてくれる。


「こわ、怖かった…」
グズグズと涙を流すとギョッとしていたが、
「大丈夫だ。一緒にいるよ。」
と頭を撫でたり、額や頬にキスを落として存在を証明してくれる。

暫くして落ち着くと、櫂斗は点滴チューブを巻き込まないようにそっと時雨を抱き抱えたままベッドに横になった。

「俺もここで寝て良い?風呂は入ってきたから。」
どうやら、一度出ていったのはシャワーを浴びていたらしい。

「うん…」
ギュッと抱きついたまま答えると、「ありがと」と頭上から聞こえ、またポンポンと背中を叩いてくれる。
櫂斗のフェロモンがフワァッと香り、背中のリズムも相まってどんどん力が抜けていく。

「な、俺のこと、カイって呼んでくれないか?」
「…カイ?」
「ああ。短い方が、何かあった時でも呼びやすいだろ?俺をカイって呼ぶ人は家族意外いないし、どう?」
「…うん…。そー、する。」
ポカポカと暖かく、どんどん目が閉じていく。

「おやすみ、シグ。」
「……ゃすみ…カィ…」
誘惑のままに、安心感に包まれながら眠りについた。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

処理中です...