ボーイミーツメイト

文字の大きさ
上 下
7 / 8

第二ボタン

しおりを挟む
その日を境に、俺たちは急に仲良くなった。受験を控えた毎日は目まぐるしく過ぎてゆき、生徒会長を引退してからは放課後古川と自習室へ行くのが常となった。思い返せば、目立って遊びにも行かなかったが、十分に親友と言えるほどに俺たちは打ち解けていたと思う。夏の暑さがすっかり引いて、肌寒くなってきた頃には、勉強に集中せざるを得なくなった。
「ゲーム没収されたよ」
「生き甲斐を?どうするんだ」
「親に黙ってPC版買った。...何だよその顔」
その後も彼は彼なりにゲームとお付き合いを続け、国立大の工学部に総合型選抜で合格した。古川自身、面倒事は嫌いだから、暗記はてんで駄目だったのだが、頭の回転は人一倍速かったから意外ではなかった。一人で落ちる訳にはいかないので、俺も俺なりに精一杯勉強した。先週受験を終えたばかりだが、ここだけの話日本史にはかなり自信がある。



俺が絹に呼び出されたのは、卒業式の後だった。
生徒会室で久しぶりに顔を合わせたと思えば、彼女はいきなり
「第二ボタン、私に頂戴」
と手を差し出した。これには流石に驚いた。別れを切り出したのは絹からだったけれど、もしかして忙しかった俺に遠慮していただけなのかも知れない。絹はずっと、俺の事を...?
「福田さん、俺のこと好きなの?」
「まさか。むしろちょっと嫌いだよ」
「え、そうなの?」
想像していたことと真逆の答えに、声が裏返ってしまった。うん、と絹は笑う。
「でもね、屋島君のボタンを貰えたら、気持ちが晴れる気がするんだ。君のことを嫌いな気持ちも消えてくれそう」
「...本屋に置いていかないでくれよ?爆発するぞ」
あ、それいいね、と絹が言う。俺はそれなら渡さないと胸元のボタンを手で覆った。
「あはは、しないしない」
俺はこの際だと思い、そういえば、と話を切り出した。
「ずっと聞きたかったんだけど、何で俺に告白してくれたの?理由もなくすぐに振られたけど」
ああ、と絹は申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめんね。だけど、私と付き合ってる時も、屋島君はずっと寂しそうだったもん。いつも皆に囲まれているのに、何がそんなに君を孤独にさせるのか分からなくて」
「別に寂しくなんか...」
そう言いかけて俺は押し黙る。今の絹には、何もかも見透かされてしまいそうだと思ったからだ。
「それで、彼女になれたら少しは心を開いてくれるかと思ったんだけど。君、ガード硬すぎるんだもん。それに、私にまるで興味無いんだから」
絹はえへへ、と苦笑いした。
「なんだよ、全部、ばれてたのか...」
彼女は俺が思うより、強くて、しなやかで、頭も良かったようだ。上手く取り繕えていると勘違いしていた自分が恥ずかしい。思えば絹も俺も、相手に都合よくあろうとしすぎて、お互い勝手に苦しんでいたように思う。
「でも、見つけたんでしょ、孤独を埋めてくれる存在。屋島君に必要なのは、親友だったんだね」
絹は清々しい顔をしていた。初めて見る顔だけれど、彼女にはこの表情が一番似合うと思った。
「絹」
「なに?」
「ありがとう」
うん、と絹は頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

音無さんはハーフパンツ!

蓮水千夜
恋愛
俺は今日も音無さんの性別がわからない──。 美術部に所属している高校一年生の水守は、スランプに陥っていた。 そんな水守の前に現れたのは、性別不明なとても美しい人だった──。

今日で最後~バレンタインイブの告白~

hamapito
恋愛
 今日で最後だから。  絶対に泣いてしまうのだと思っていた。  ――先月の、あの日までは。  バレンタインの前日にあこがれ続けた先生の元へ、私はチョコレートを届けに行った。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

野良インコと元飼主~山で高校生活送ります~

浅葱
ライト文芸
小学生の頃、不注意で逃がしてしまったオカメインコと山の中の高校で再会した少年。 男子高校生たちと生き物たちのわちゃわちゃ青春物語、ここに開幕! オカメインコはおとなしく臆病だと言われているのに、再会したピー太は目つきも鋭く凶暴になっていた。 学校側に乞われて男子校の治安維持部隊をしているピー太。 ピー太、お前はいったいこの学校で何をやってるわけ? 頭がよすぎるのとサバイバル生活ですっかり強くなったオカメインコと、 なかなか背が伸びなくてちっちゃいとからかわれる高校生男子が織りなす物語です。 周りもなかなか個性的ですが、主人公以外にはBLっぽい内容もありますのでご注意ください。(主人公はBLになりません) ハッピーエンドです。R15は保険です。 表紙の写真は写真ACさんからお借りしました。

アドルフの微笑

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の神楽颯人は目つきがとても鋭く、髪が白いため小さい頃から「狼」「白狼」「アドルフ」などと恐れられていた。  梅雨の日の夜。颯人は趣味で育てている花の様子を見ていると、人気のあるクラスメイトの美少女・月原咲夜と会う。すると、咲夜は、  「あたしのニセの恋人になってくれませんか?」  颯人にそんなお願いを言ってきたのだ。咲夜は2年生の先輩からラブレターをもらったが、告白を断りたいのだという。  颯人は咲夜のニセの恋人になることは断るが、クラスメイトとして先輩からのラブレターについて解決するまで側にいると約束する。このことをきっかけに、それまで話したことがなかった咲夜の関係や颯人の高校生活が変化し始めていく。  時には苦く、鋭く、シニカルに。そして、確かな温かさと甘みのある学園ラブストーリー。  ※「微笑」は「ほほえみ」と読みます。  ※完結しました!(2020.8.17)

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...