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第二ボタン
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その日を境に、俺たちは急に仲良くなった。受験を控えた毎日は目まぐるしく過ぎてゆき、生徒会長を引退してからは放課後古川と自習室へ行くのが常となった。思い返せば、目立って遊びにも行かなかったが、十分に親友と言えるほどに俺たちは打ち解けていたと思う。夏の暑さがすっかり引いて、肌寒くなってきた頃には、勉強に集中せざるを得なくなった。
「ゲーム没収されたよ」
「生き甲斐を?どうするんだ」
「親に黙ってPC版買った。...何だよその顔」
その後も彼は彼なりにゲームとお付き合いを続け、国立大の工学部に総合型選抜で合格した。古川自身、面倒事は嫌いだから、暗記はてんで駄目だったのだが、頭の回転は人一倍速かったから意外ではなかった。一人で落ちる訳にはいかないので、俺も俺なりに精一杯勉強した。先週受験を終えたばかりだが、ここだけの話日本史にはかなり自信がある。
◇
俺が絹に呼び出されたのは、卒業式の後だった。
生徒会室で久しぶりに顔を合わせたと思えば、彼女はいきなり
「第二ボタン、私に頂戴」
と手を差し出した。これには流石に驚いた。別れを切り出したのは絹からだったけれど、もしかして忙しかった俺に遠慮していただけなのかも知れない。絹はずっと、俺の事を...?
「福田さん、俺のこと好きなの?」
「まさか。むしろちょっと嫌いだよ」
「え、そうなの?」
想像していたことと真逆の答えに、声が裏返ってしまった。うん、と絹は笑う。
「でもね、屋島君のボタンを貰えたら、気持ちが晴れる気がするんだ。君のことを嫌いな気持ちも消えてくれそう」
「...本屋に置いていかないでくれよ?爆発するぞ」
あ、それいいね、と絹が言う。俺はそれなら渡さないと胸元のボタンを手で覆った。
「あはは、しないしない」
俺はこの際だと思い、そういえば、と話を切り出した。
「ずっと聞きたかったんだけど、何で俺に告白してくれたの?理由もなくすぐに振られたけど」
ああ、と絹は申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめんね。だけど、私と付き合ってる時も、屋島君はずっと寂しそうだったもん。いつも皆に囲まれているのに、何がそんなに君を孤独にさせるのか分からなくて」
「別に寂しくなんか...」
そう言いかけて俺は押し黙る。今の絹には、何もかも見透かされてしまいそうだと思ったからだ。
「それで、彼女になれたら少しは心を開いてくれるかと思ったんだけど。君、ガード硬すぎるんだもん。それに、私にまるで興味無いんだから」
絹はえへへ、と苦笑いした。
「なんだよ、全部、ばれてたのか...」
彼女は俺が思うより、強くて、しなやかで、頭も良かったようだ。上手く取り繕えていると勘違いしていた自分が恥ずかしい。思えば絹も俺も、相手に都合よくあろうとしすぎて、お互い勝手に苦しんでいたように思う。
「でも、見つけたんでしょ、孤独を埋めてくれる存在。屋島君に必要なのは、親友だったんだね」
絹は清々しい顔をしていた。初めて見る顔だけれど、彼女にはこの表情が一番似合うと思った。
「絹」
「なに?」
「ありがとう」
うん、と絹は頷いた。
「ゲーム没収されたよ」
「生き甲斐を?どうするんだ」
「親に黙ってPC版買った。...何だよその顔」
その後も彼は彼なりにゲームとお付き合いを続け、国立大の工学部に総合型選抜で合格した。古川自身、面倒事は嫌いだから、暗記はてんで駄目だったのだが、頭の回転は人一倍速かったから意外ではなかった。一人で落ちる訳にはいかないので、俺も俺なりに精一杯勉強した。先週受験を終えたばかりだが、ここだけの話日本史にはかなり自信がある。
◇
俺が絹に呼び出されたのは、卒業式の後だった。
生徒会室で久しぶりに顔を合わせたと思えば、彼女はいきなり
「第二ボタン、私に頂戴」
と手を差し出した。これには流石に驚いた。別れを切り出したのは絹からだったけれど、もしかして忙しかった俺に遠慮していただけなのかも知れない。絹はずっと、俺の事を...?
「福田さん、俺のこと好きなの?」
「まさか。むしろちょっと嫌いだよ」
「え、そうなの?」
想像していたことと真逆の答えに、声が裏返ってしまった。うん、と絹は笑う。
「でもね、屋島君のボタンを貰えたら、気持ちが晴れる気がするんだ。君のことを嫌いな気持ちも消えてくれそう」
「...本屋に置いていかないでくれよ?爆発するぞ」
あ、それいいね、と絹が言う。俺はそれなら渡さないと胸元のボタンを手で覆った。
「あはは、しないしない」
俺はこの際だと思い、そういえば、と話を切り出した。
「ずっと聞きたかったんだけど、何で俺に告白してくれたの?理由もなくすぐに振られたけど」
ああ、と絹は申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめんね。だけど、私と付き合ってる時も、屋島君はずっと寂しそうだったもん。いつも皆に囲まれているのに、何がそんなに君を孤独にさせるのか分からなくて」
「別に寂しくなんか...」
そう言いかけて俺は押し黙る。今の絹には、何もかも見透かされてしまいそうだと思ったからだ。
「それで、彼女になれたら少しは心を開いてくれるかと思ったんだけど。君、ガード硬すぎるんだもん。それに、私にまるで興味無いんだから」
絹はえへへ、と苦笑いした。
「なんだよ、全部、ばれてたのか...」
彼女は俺が思うより、強くて、しなやかで、頭も良かったようだ。上手く取り繕えていると勘違いしていた自分が恥ずかしい。思えば絹も俺も、相手に都合よくあろうとしすぎて、お互い勝手に苦しんでいたように思う。
「でも、見つけたんでしょ、孤独を埋めてくれる存在。屋島君に必要なのは、親友だったんだね」
絹は清々しい顔をしていた。初めて見る顔だけれど、彼女にはこの表情が一番似合うと思った。
「絹」
「なに?」
「ありがとう」
うん、と絹は頷いた。
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