ボーイミーツメイト

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怒り

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マスキングテープ、横穴ホチキスの次はアクリル絵の具を借りに美術室へ足を運んだ。絹が作った文化祭全校企画の提案書は華やかで、その分色々と経費がかさんでいる。買わなくていい物はとことん借りなければいけない。
「古川いる?」
勢いよくドアを開けると、五、六人の生徒が一斉に振り向いた。その中に古川は見当たらない。俺は驚いて、思わず後ずさりしてしまう。
「え、生徒会長?」
部員も俺に負けず劣らず驚いている。
「屋島君、古川はいないけど。美術部に用事?」
部長の田城さんが、落ち着いた口調でそう言った。
「アクリル絵の具を借りたくて」
「ああ、用意するね」
田城さんが絵の具を取りに行って、残った部員と気まずい空気に取り残されていると、彼女は直ぐに帰ってきた。
「古川と知り合いなら、ついでに言っておいてよ。部室をたまり場にするなって」
絵の具を受け取りながら、俺は誤魔化すように苦笑いした。ほとんどのタイプを攻略してきたけれど、機嫌の悪い女子の扱い方だけは未だに分からない。
「確かに。古川先輩って活動日全然来ませんよね」
一年生の何気ない一言に、二年生が場を緩ませるように笑った。
「絵に興味無いんでしょ。放課後親にバレずにゲーム出来る場所が欲しいだけだよ」
いつもは無口なはずの田城さんが食いついた。嫌な雰囲気に会話が傾いてゆく。絵に興味が無い?偉そうに言うけれど、彼らは一体古川の何を知っているんだろう。
「あはは、あいつゲームばっかで目標とか無さそうだもんなあ」
そんなことない。古川は...。
「そうよ。大体あいつ...」
「やめろよ!」
耐えられずに俺は口を開いた。
「あいつは描いてるよ!見せるのが恥ずかしいだけで、沢山描いてるし目標だってある。だからその、ゲームは駄目だけど...その...」
急に高まった感情は急に冷めて、自分の声が意図せず大きくなっていたことに気づく。
「それ以外のことを悪く言うのは、やめた方がいいと思う」
慌ててボリュームを下げたけれど、みんなの驚いた視線に刺されて俺は動けなくなった。
「ごめん、仲が良い人の前でこういう話は良くなかった。私も別に古川のこと嫌いじゃないんだけど、つい。ごめんなさい」
田城さんは俺の声に驚くことなく、淡々と言った。次いでに抱えていたアクリル絵の具を渡される。
「いや、俺の方こそごめん。大声出すつもりは...」
ううん、と田城さんは首を振った。他の部員はまだ固まっている。田城さん独特の常に眠そうな目が、今日は何だか怖く感じて、俺はその瞳に促されるように部室を出た。
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