2人だけのユートピア

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8.期待

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    昼休みになり、いつもの如く、屋上前の秘密の場所へ向かう。二人だけの時間、二人だけの場所という秘密めいた響きに、僕は密かに酔いしれていた。
 最近の楽しみは、お互いのお弁当の中身を交換することだ。鷹野の作る卵焼きは、だし風味で美味しい。今まで弁当は親が作っていてくれていたけれど、鷹野に食べてもらいたくて卵焼きだけは自分で作り始めた。僕は甘い卵焼きを作る。どんな出来でも美味しいね、と微笑み、毎日昨日より良くなったところを見つけては褒めてくれるのが嬉しくて堪らない。人が作った物は苦手だったはずだが、いつの間にか克服していた。
「あーあ、今年の夏休みどうしよっかな、何も予定入れてないんだよね。女の子とデートしたーい」
「鷹野はどんな子が好きなのさ、杏だって相当綺麗だと思うんだけどな」
さりげなく気になっていた質問をぶつけてみる。
「分かってないなあ、ああいう女の子はモテるだろ?だからデートとかなんだとか慣れっこな訳。そんなんじゃなくて、俺はなんかもっとこう…純真無垢で」
そういうと鷹野はぐっと顔を寄せてくる。今にも触れてしまいそうな距離にドギマギする。
「お前みたいにすぐ顔真っ赤にするような子がいいなぁ」
「バカっ、からかうなっ!」
目の前の胸を突き飛ばすと、鷹野はケラケラと笑う。もう、ほんとにこっちの気も知れないで…。
「あ、そうだ、今年の夏まつり俺と行かない?何だかんだ美島と遊んだことなかったし」
思いもしなかった提案に僕は目を輝かせる。
「ふふん、その顔なら決まりだね、来週の日曜、7時集合、開けとけよー?」
こくりと僕はうなずいた。夏まつり、夏まつり…煌めいたその言葉が脳内をくるくると舞う。最後に齧ったミニトマトは甘くて、とても美味しかった。
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