甘い偽りも誤ちも (完結)

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真実

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わたしたちはあのまま

眠ってしまったようだ……




ふと目が覚めると

開けっ放しにしてあったカーテンから

真っ暗な夜空が見える…



カーテンを閉めようと身体を起こすと

全身が酷く痛んだ…




壁に叩きつけられた
背中が痛い…


噛まれた全身の皮膚が
ヒリヒリと痛い…




その痛みを感じたら

なんとなく涙が出そうになる…




千尋を起こしてはいけないと
その涙をグッと我慢する…







もう一度ベッドに横になり
ケータイの画面をみる




時刻は3時…


明日は学校も部活も休みなため
朝早起きしなくてもいい。




ケータイを枕元に置き
もう一度目をつぶる………









「莉奈さん。」




千尋が声をかけてきた…





「…ごめんね、起こしちゃった?」





「…どこまで勘づいてるかわかんねえけど…」


「俺の兄貴の話……していい?」








その言葉には驚いた……




あんなに今は話せないとか
自分で考えろとか言っていたのに
千尋が初めて
「兄貴」と呼ぶ人の話に
自分から触れてきたのだ…







「……………聞かせて欲しい。」





わたしは素直に答えた。










電気がついていないため

薄暗い部屋に千尋の声が

ぽつりぽつりと響く…











千尋とお兄さんの子供の頃からの話を

全て教えてくれた……



もちろんお兄さんの死や、

お母さんの話も聞いた……

お父さんの新しい恋人の話も教えてくれた…








わたしは涙が止まらなかった



声を出して泣いた……








「…なんで莉奈さんが泣くの?」



そう聞く千尋も声が震えていた……




「…わかんない…

でもごめん……………

なにも知らなくて

でもきっとずっと千尋のことを
傷つけてたんだね…。」



「わたしが千尋を知らなかった
中学の時からずっと……」



考えれば考えるほど
言葉にならなかった…

中学1年生からこの5年間…


どれほど傷つけてしまっただろうか……



それは計り知れないし
どんなに悔やんでも謝っても
お兄さんは戻ってこない…


お母さんだってきっと戻ってくる事はない…








千尋が口を開く…








「莉奈に謝って欲しいわけじゃない。

ただ俺自身が分からなくなったんだよ…」





「兄貴の死はお前のせいじゃないって
心の中では分かっているのに、


でも中学生だった俺は
お前を恨むことしか出来なくて、
いつか絶対負かしてやるって…


…俺が殺してやるって……」




わたしは泣きながら


うん、うん

と頷く。



「…でもあの時は気づかなかったけど

恨んでたはずなのに

俺はお前の出す鮮明な音に惹かれていた…。

恨んでるはずなのに、
超えなきゃいけない存在なのに
お前が既に好きで
もう一度出会いたい…と思ってた」



「そしてとうとう見つけた…

高一のコンクール…。」





それには驚いた……


まさか好かれてると

思わなかったから。




「歪んでるだろ?

殺したい奴なのに
好きなんて………」



そう言っている千尋は

呆れているようにも感じた





「なあ、俺はどうすればいい?」



「殺さなきゃいけないのに…。


大切な兄貴を奪ったんだから…。

や、違う。
お前のせいじゃないんだけど


でもきっかけはお前だって分かってるから
どうしても許せなくて…


だから殺してやりたいのに………」




「でもあんたが俺の前から居なくなったら

俺にはもう何も残らない…


それにお前まで居なくなったら

俺はまた最愛の人を無くして


もう生きていける気がしない…………」










それを聞きわたしは

ぼろぼろと泣いた…




千尋の言ってること全てが理解出来た…




やり場のない怒りと悲しみ…

それがどれだけ大きいものかは
私にはわからない…



いままで散々我慢してきたんだろう…









わたしは…












「…わたしのことを殺してくれてもいい。

それでお兄さんへ
少しでも償いが出来るなら
それでいい。



でもね、

わたしは千尋に生きて欲しい…


生きてあなたのそのトランペットを

どうかお兄さんへ届けて欲しい…



お兄さんもトランペットが
大好きだったんだから。



きっと千尋が今自分のトランペットを
吹いてるって分かったら
お兄さん心から嬉しいと思う。」



「綺麗事かもしれない。


死んでしまった人に
音が届くかも…なんて。


でも…それでも
千尋の気持ち届くと思うよ…。



…だって千尋は

お兄さんの事小さい頃から

大好きだったんだもん。」







千尋は肩を震わせ
泣いた…




わたしは千尋を抱きしめた…





長いこといっしょに泣いた
















やり場のない哀しみに包まれ

散々2人で泣き

わたしたちは手を繋いで眠りについた




千尋は

何度も

ありがとう…と言った





わたしはそれを聞いて

また泣いた























目が覚めると


千尋は先に起きていた






リビングに行くと


ベランダに千尋の姿があった









そっと窓を開け

ベランダへ出る



千尋はタバコをふかしている






「…おはよう」








「おはよう、

お前、顔すげーブスだよ?

目ぇ腫れすぎ」



そう言って
ケラケラと笑っている




その笑顔にすこし救われた…





「千尋だって腫れてるじゃん」

と言おうとしたが
それはやめておいた…







「なあ、今日一緒に行って欲しいとこ
あるんだけどいーか?」


「うん?いいよ」




そう言い
わたしたちは出かける準備をした




















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