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分かり合えない
しおりを挟む家に着く頃には
もう21時を回っていた。
私は誰もいないアパートの部屋の電気をつけ
ただいま、と呟く。
東城は散々私の心を乱した後、
すんなりと帰って行った。
私は結局一度も
楽器に口をつける事が出来ず、
ただ呆然と一人教室で
バスがなくなる時間まで待っていた
もしバスに乗ってしまったら
他の部員達に声を
かけられるかもしれないと思ったからだ
あんな事があったのだから
とても明るく話せる気分ではなかった
暗い道を一人で歩いていても
いつもの恐怖心はなく
ひたすら明日からの事を考えていた
しかし未だにその答えは出ない
今日の様子からして
クラスメイトから
何か言われる事はなさそうだ。
そもそも私は
吹奏楽にしか興味が湧かなかったから
部員とは仲がいいが
クラスとは特に関わっていなかった
だからかクラスメイトも
私が東城と絡もうが
別にどうって事ないのだろう。
ましてや、
東城に過去のことで嫌われてる…とでも
思っているのだろう……
教室では静かにしてればいい
それが私が出した唯一の答えだ
あとは部活のこと
東城の言動………
何故あそこで
付き合って…と言われたのだろう
内心面白がっていたのかもしれない。
私の泣いてる姿を見たい…
なんて頭がどうかしてる
特に食べ物を口にしないまま
シャワーを浴びに浴室へ向かう
普段は自炊をしているが
ご飯を食べる気にすらならなかった
熱いシャワーを頭から浴びる
自然と涙をつたったけれど
シャワーの水と一緒に流れていった
シャワーの音と共に
東城が吹いたファンファーレが
頭からはなれなかった…
少し長くお風呂に入り
タオルを巻いて部屋に入ると
ちょうど通知音がした
開くと隆弘先輩からだった
おつかれさま !
これから少し行ってもいいかな!?
家に来るというメッセージだった
もしかしたら
私が落ち込んでいたことに
気づいていて
話がしたいのかもしれない…………!
気が落ちていた分
私はそのメッセージが嬉しくて
来ていいよ!とすぐ返事を送った
隆弘先輩とは地元が同じため
自転車で来れば15分ほどで
家に着く
私は慌ててルームウェアに着替えて
部屋を片付けた
今から今日のことを話して
少しでも解決出来れば
気分がすっきりするだろう
きっとまた
普通に楽器を吹くことが出来るだろう
そう考えていると
先輩が会いに来てくれることが
とても嬉しく思えた
髪を乾かしているとチャイムがなった
隆弘先輩がインターホン越しに
微笑み手を振っている
私はすぐドアを開けにいって
先輩を招き入れた
隆弘先輩を家に入れるのは
これで3回目。
さすがに慣れた様子で
部屋のソファーまで歩く
普段は一緒に帰ってるし
部活の休日しか会わないため
なかなか家に遊びに来ることはない
とりあえず私は
ゆっくり話がしたかったため
コーヒーを淹れていた
淹れたてのコーヒーの匂いが
部屋中を満たし
とても気分が良い
先輩と私の前にコーヒーを置き
隣に腰をかけた
隆弘先輩は
コーヒーを冷ましながら
口に含んでいた
その可愛らしい仕草が
好きな理由の一つでもある
少し間があく
なかなか話が切り出されないため
私は思い切って口を開いた
「「あのねっ………!」」
運悪くなのか仲良くてなのか
隆弘先輩とたまたまかぶってしまった
笑い合い、
お互い譲りあう
しかし私は先輩の口から
大丈夫?という言葉を聞きたかったため、
半ば強引に話をさせた
隆弘先輩は
急に真剣な目つきになる
思わず私も構える
結局自分では
どうしていいか分からなかったから
先輩の意見は貴重だ
そんな事を思いながら
口の開くのを待った
「…俺たち付き合って
もう半年だよな?」
「…………うん?」
「だからさ…
そろそろいいんじゃないかな?」
?
先輩の言っている意味がわからない
私がきょとんとしていると
先輩が顔を近づけてきた
「俺、莉奈とセックスがしたい。」
言葉を聞いた瞬間
目の前が真っ暗になった
いや、違う。
真っ暗にされたのだ
先輩の大きな手のひらが
私の目を覆う
普段そんなことはされないため
一気に恐怖心が私を襲う
そして強引に口を重ねられた
淫らなキスを…
………私の中で何かが崩れるのを感じた
隆弘先輩を強く押し退け
私はソファーから離れる
「……ごめん
今そんな気分じゃないんだ…」
ただこれだけを言うことが
精一杯だった
壁の角を見つめ
先輩とは目を合わせなかった
涙が溢れてくるのに気付かれるのが
無性に嫌だった
先輩は慌てて
ごめんねと
何度も謝りながら
私の部屋を出て行った
ドアが閉まる音を確認すると
また沢山の涙が溢れてきた
先輩なら分かってくれる
と期待した自分が悪いのだろうか…
何故今日なんだろうか……
好きで付き合ったのに
今はどうして
付き合ったしまったのだろう
と後悔と悲しさが押し寄せる
その日は先輩から
連絡が来ることはもうなかった
嫌だ…
と思いつつも
あっという間に朝が来てしまった
ただでさえ東城のことで
学校に行きたくなかったのに
先輩の言動で
さらに行く気になれない
しかし今日は
部活のミーティングがある
冬に行われる
大事なアンサンブルコンテストの
パート振り分けがあるからだ
私は重い身体を起こし
学校へ向かった
家を出る前、
何度も歯を磨き口をゆすいだ
あんなに好きだった
隆弘先輩のことを
けがわらしいと思っていた
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