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出会いは最悪
しおりを挟む「うさぎはね、寂しいと死んじゃうんだって」
中学生の頃、
なんとなく読んでいた小説に
書いてあった言葉。
当時、そんな馬鹿げた話あるわけないし…と
気にも留めなかったし
その小説は結局最後までは読まなかった。
まだ幼かった。
何も知らなかった。
暗くもなく、
けれどそこまで明るい訳でもない中学校生活を終え
わたしは高校生になった。
「莉奈ー!部活行こー!」
親友の藍が私を手招きする。
16時05分、そろそろ部活の始まる時間だ。
「うん、急ごう!」
私たちは手を繋いで小走りで音楽室へ向かう
小学校の頃から吹奏楽を続けていて
もう6年目になる
この高校の受験のときも
ここで吹奏楽がやりたいです!と
断言していた。
ただ音楽を続けたかった
それがこの高校での目的であり
目標でもあった
受験する時期、わたしにはそれしかなかった
入学が決まると家を飛び出し
今は一人暮らしをしながら
この高校に通っている
「本日もよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
部員の威勢の良い声が
音楽室へ響き渡る
トランペットを持ち
楽譜を用意してると視線を感じたその先には
クラリネットの隆弘先輩が
私を見てニコッと微笑んだ
私も照れくさそうに笑顔で返す
そう、隆弘先輩は私の彼氏。
まだ半年だけど上手くやっていると思う
入部した日、
隆弘先輩のクラリネットの音色に惚れ
その優しくて温かい人柄に惹かれ
あっという間に告白してしまった。
何もかも純粋だった
隆弘先輩への気持ちも
音楽への強い意志も
全てが本気だった
そう、
あいつさえ私の前に立ちはだからなければ…
それは1週間前…
通常通りホームルームが始まった
「えー、今日は転校生の紹介をするぞー」
「ちなみに男だー」
その言葉に女子がキャーキャーざわめく
「男だってー!イケメンかなー!?」
「この時期に転校なんて
めずらしいよね!もしかして難あり⁉︎」
「どうせ真面目な根暗でしょー」
廊下にいるであろう転校生に
聞こえるようにわざと大きな声で騒ぎ立てる
藍はこちらを振り返る
「ちょっと楽しみだねー♪」と言い
にこにこしてる。
藍は絶賛彼氏募集中だ
内心、わくわくしているのだろう。
「…私は興味ないなー。」
窓際を見てしらけていると、
「莉奈には隆弘先輩がいるもんねー!」と
わざとらしく私をからかう。
真っ赤になっていく顔に気付きながらも
平静を装った
それを見て藍はニヤニヤしている
藍は私と違って
よく表情が変わって女の子らしい。
男子からも人気があるのに
彼氏がいないのが不思議なくらいだ
「東城!入っていーぞ」
先生が廊下に顔をだし転校生を手招きする
教室に足を踏み入れた瞬間
女子がさらに騒いだ
「ちょーイケメンきたー!!!」
「やばい、背ぇ高くて綺麗!!!」
「髪の毛さらさら~」
明らか自分に言われてるだろうと
気づいてるはずだが
転校生は表情一つ変えない。
(言われ慣れてます。ってやつね)
私はただ一人、そんな卑屈な考えをしていた
転校生が口を開く
「東城千尋です。
部活の関係でここに転校してきました。」
それだけ言って、
あっさり自己紹介を終えてしまった
「えー、東城君って
なんの部活入るのー??」
一人の女子がすかさず質問をした
「…吹部」
その言葉を聞いた瞬間
思わず東城を強く見てしまった。
東城が私の視線に気づき、
目を合わせてくる。
東城の視線を追った周りの女子が
私を嫌そうな顔で
見ているのがなんとなくわかる
なんとなく冷たい空気が流れた気がした。
吹部、と発言した彼に
質問したい事が山ほど頭をよぎった
しかし、今のこの空気で
私が東城に質問責めをしたら
確実に女子たちの目の敵にされるだろう
それだけは避けたいため
わたしは目を背けた。
東城の視線はまだ感じられ、
早く目を離してよ!と願っていたのに、
そんな思いとは裏腹に
東城がこちらに歩いてきた
目を背けている私の机を
コツンと叩き
無理やり私と視線を合わせる
「トランペットの柏木莉奈…でしょ?」
名前を知られてて
びっくりして立ち上がってしまった
あまりにも唐突のことで言葉は出ない
挙動不審の私の顔を見て
東城が微笑んだ
「アンタに会うために転校してきた。
よろしくね、柏木莉奈さん?」
その微笑みは
まるで何かを企んでいるような、
そんな悪い笑い方だった
私は冷汗が頬を伝うのがわかった
そう…
これが最悪の始まり。
ホームルームが終わり
授業の始まる10分前、
東城の周りには女子たちが集っていた
どうやら私に言い放った一言よりも
彼と仲良くなりたいのか、
アピールをしに行ったようだ
少し安堵する
教科書を適当にめくっていると
藍が隣の席に座ってきた
その表情は深刻だ
「ねえ、莉奈の知り合い?
なんか莉奈に対して怖い顔してたよね?」
藍は自分の好みじゃなかったせいか、
キャアキャアする様子もなく
私を心配そうな顔でのぞいた
「知らないし、
あんな顔で見られる筋合いないんだけど」
思った通りのことを言った。
しかし小さく呟いたつもりが
彼に聞こえてしまったらしい。
東城が周りの女子をかき分けて
私と藍の前に立った
「………なに?」
ここで怯んではいけないと思い
無表情で見上げた
東城が口を開く
「忘れたなんて言わせないからな。
俺はお前に復讐する。
音楽も高校生活も何もかもな」
口元は笑っているのに
目はキツく私を睨みつけていた
周りが疑いの目で私を見る
藍はオロオロ困った様子だ
…なぜこんな目に合わなければいけないのだろう
こんな見ず知らずの転校生に……
さすがの私も込み上げる怒りが
抑えきれなくなった
「あんたの事これっぽっちも知らないし
そんなこと言われる筋合いない!!
睨まれる意味もわかんないし
私に構わないでっ!!!」
大きな声で放ったせいか
廊下にいた生徒たちもこちらを覗き始めた
しかしそんな事は気にしてられない。
ここまで勝手に言われて
立ち向かわないわけにはいかない。
チャイムが鳴るとともに
シンとした空気のまま授業が始まった
……わたしは不思議でしょうがなかった
苛立って放った言葉を聞いて
彼が優しく微笑んでいたのだ………
3限目が終わる頃になっても
授業は耳に入らなかった
奴の事で頭の中がぐるぐるしている
部活…
あいつは本当に吹部に
入ってくるのだろうか…
楽器は何を吹いているのだろうか…
…部活中に朝のような
問題を起こさないだろうか…
………復讐とは
何のことだろうか……
そんなことを考え続けていると
急に気分が悪くなってしまい、
私は授業が終わると共に
保健室に向かった
ベッドに横になると
暖かい日差しが入ってきて
今にも眠れそうだった
考えるのはやめ少し休もう…
そう思い目を瞑ると
すぐに眠りについた
次に目が覚めたときは
昼間の日差しはなく
夕方のようだった
(先生起こしてくれなかったんだ…)
授業に出れなかった事を
後悔しつつも
少しだけ気持ちは落ち着いていた
起き上がろうとし
窓際を向いていた身体を天井へ戻す
「っ!!!!!!!?」
驚いた
東城が私のベッドへ腰を下ろし
こちらを見ていたのだ
「なっ、なにっ!!!?」
思わず身構えてしまった
そんな慌てている私の姿を
面白がるような表情をしている
「具合はどう?部活行かれそう?」
言葉とは逆で
決して心配している様な顔には見えない
蘇る苛立ちと不安を抑え
わたしはただ頷いた。
目は合わせられない
今は二人きり…
復讐、という言葉がよぎり
怖くてとても見られなかったのだ
そんな私を見て
彼が私に手をのばしてきた
何をされるのかと
驚いて身体は硬直している
おびえて目を強く閉じる
その手は私の頬を優しく包んだ
その手にまた驚いて目を見開いた
先ほどの表情とは違い
熱のこもった優しい目で
見つめている。
夕日でカーテンが赤く染まり
外からは帰宅する生徒たちの声が響く
「……ずっと
会いたかった」
それだけ呟くと
頬にあった手を下げ
私を強く抱きしめたのだ
何が起きたかわからなかった
落ち着いていた気持ちが
また不安を覚える
「…ねえ、意味わからない
…離して……」
キツく抱かれた身体を
ほどこうと動かしても
力が強くて離れられない
彼の鼓動が速いのが伝わり
私までおかしくなりそうだった
体が熱くなる
…初めてだった
隆弘先輩に抱きしめられても
今まで緊張したことなかった
なのに何故だろう
自分の鼓動も速すぎて
息が荒くなる
「…事情はまた話すから…
今はもう少しこのままでいて…」
あまりにも弱い声…
昼間の挑発するような発言とは
まるで別物だった
同情しようとは思わない。
しかし私の腕は
彼の背中に手をまわしていた
彼は私に優しく微笑み
さらに強く抱きしめた
今思えば
この時とった行動も全て
間違っていたのかもしれない………
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