105 / 110
104話 昼食
しおりを挟む
「わぁー! アラクネお姉ちゃんおめめ真っ赤っかぁー!」
「ほんとだ! どうしたの!? 誰かに泣かされたの!?」
「おいお前! お姉ちゃんに何したッ!!」
掃除を終えて大広間に戻ってきた子供たちが俺の周りを取り囲んで騒ぐ。
「こ、こら、やめなさい! お兄さんは何も悪くないの! お姉ちゃんが悪いのよ!!」
それをアラクネさんが慌てて止めようとする。
「どうやら話は上手くいったようだね」
「ああ、何とかな……」
「でも一体どう言う流れで?」
同じく戻ってきたレイボルトとローグが不思議そうに思う。
「色々とな……」
今の俺にそれを説明するほどの気力と余裕はなく、まだぐるぐると周りを囲んでいる子供たちに叩くや蹴るなどのちょっかいをかけられる。
「あらあら、レイルさんは随分と孫たちに気に入られたようですね」
アラナドさんはアラナドさんで呑気に的外れなことを言う。
この状況を懐かれているというのならば、世界はもっと平和なはずだ。
「お食事の方をお持ちしました……おや? また賑やかですね?」
そんなどうでもいいことを考えているとまたも老紳士が食事を乗せたワゴンカートを引いて大広間に現れる。
「ちょうどいいタイミングだわフルーエル。皆さん! お掃除やお庭のお手入れご苦労様でした、フルーエルがお昼を持ってきてくれたので食べましょう!」
「わーい! ご飯だー!!」
「お腹空いたぁー!」
「こら! 走ったら危ないわよ!」
それを見たアラナドさんはそう言うと、今まで俺の周りを取り囲んでいた子供たちは一直線に老紳士の方へと走っていく。
「やっと開放された……」
子供の底なしの元気というのは恐ろしい。俺もまだまだ若い方だが、それでも小さい子供と言うのは考え無しに突っ込んでくるから何をしてくるか全く分からない。
「僕達もいただいちゃっていいんですか?」
「ええ勿論です。大勢で食べた方が食事は美味しいでしょう?」
「ぐはッ……! 天使だ! ここに天使がいるよレイボルト! ……いや女神かッ!?」
「少し落ち着けローグ……アラナドさんありがとうございます」
俺がぐったりとしていると他の二人もアラナドさんに促されて席に着く。
「レイルさんもどうぞ」
全員が席に着いたところで、まだ唯一席に座っていない俺は慌てて席に着く。
「それでは皆さん、遠慮なく沢山食べてください」
「「「いただきます!!」」」
その一言で全員で楽しい昼食を取る。
朝食の時とは打って変わって、各々が思い思いに食事の感想や楽しげな会話をしながらの賑やかな昼食となる。
フルーエルの作った食事は朝食べた時も感じたが、とても美味しく、手の込んだ料理が多いので食べていて飽きなかった。それまでのひもじい生活を思い出すとじんわりと食事の有り難さを再確認する。
そうして思い思いに食事を楽しんだところで食後のティータイムとなった。
「色々と今更になってしまいますが私の魔装機を紹介しますね」
老紳士が入れてくれたハーブティーに舌鼓を打っていると、同じ柄のティーカップを持ったアラクネさんが俺たちに水を向ける。
そう言えばまだ魔装機の方とは挨拶をしていなかったな。何度かその名を話の中で聞いてはいたが、しっかりとした自己紹介はまだだ。
……それならばこちらの魔装機も一緒に紹介した方がいいのでは?
そう思い俺は腰の鞘に収めた銃剣に意識を向ける。
「それならこっちの魔装機も……アニス」
「はい、マスター」
名前を呼ぶと直ぐにアニスは俺の意図を汲んでくれて悪魔の姿で現れる。
他のアッシュやエリスも同様にだ。
まずは数の多いこっちから軽く名前と武器種の説明をする。
「フルーエル以外の魔装機を見るのは初めてですがその個体によって性能や能力が変わるのですね。とても興味深い……」
「はい……皆さんとても強そうです」
それを聞いてアラクネさんとアラナドさんは興味津々にアニス達を見ながら話を聞いていた。
「えっと……じゃあ次はそちらの執事さんのご紹介をよろしいでしょうか?」
何やら二人でブツブツと話し合っているのを申し訳なく思いながら遮ってお願いをする。
「あ! そうですね、ごめんなさい。それじゃあフルーエル、皆さんにご挨拶を」
「畏まりました」
アラクネさんは我に返ったように目を見開くと慌てたように紳士を呼んで一歩前に出させる。
「大変ご挨拶が遅れました。私の名前はフルーエルと申します、創造主たる魔王さまが作りし魔笛でございます。今はご縁あってアラクネお嬢様に五年ほど前からお仕えしております」
改めて老紳士は名乗ると綺麗なお辞儀をする。
魔笛フルーエル。見た目は五十代半ば辺りの老紳士を思わせる。黒を基調とした燕尾服に身を包み、身長はこの部屋にいる誰よりも高い。近いところで言うとラミアの魔装機であるガーロットと近いだろうか。白髪をオールバックにしてとても清潔感がある。
笛の魔装機は当然初めて見た。
というか笛の魔装機もあったのかって感じだ。ヤジマさんは一体何を目指していたんだろうか?ここまで色々な物を作っているのを見ると逆に何を作っていないのか気になってくる。
いやあの悪魔なら「とりあえずこの世にある武器や物はある程度作った」とか言いそうだ。……マジでありそうだなオイ。
「そのレイルさん達はそれなりに魔装機に対する知識がお有なんですよね?」
そんな我が師匠の事を思い出していると、何やら興味津々と言った様子で目を輝かせたアラナドさんが質問をしてくる。
「ええ、それなりには」
「もしよろしければお話を聞かせて貰えないでしょうか。私、魔法や魔道具を研究するものとして魔装機の事がとても気になるんです!」
俺の返答にアラナドさんは表情をさらに輝かせると身を乗り出して聞いてくる。
……この人もなんだかヤジマさんと同じ匂いがする。
もう目の輝きがあの悪魔と同じだ。
そして本当に軽く、自己紹介に続いて魔装機の説明をアラナドさんとアラクネさんにした。
二人からすれば俺の話した説明の殆どが新しい事だったようで興味深そうに途中からはフルーエルも一緒になって話を聞いていた。アラナドさんは何やらペンと紙を持って来て、一生懸命に俺の説明をメモしていた。
本当にこういった類の話や研究が好きなのだろう。
「とても有意義な内容でした、ありがとうございます」
「私もこれからの戦闘のことに活かせそうなことがあって勉強になりました。ね、フルーエル!」
「はい、自分の知らない知識というのはとても興味深かったです。ありがとうございますレイル様」
それぞれそう感想を言ってもらえて、こちらも説明をしたかいがあったというものだ。
「……このような試す結果となって聞きそびれていたのですがレイルさん達はどうしてあんなに疲弊しておられたのですか? アラクネから聞けば突然気を失ったとのこと、かなり無理をしてオーデーまで来られたようですが……」
説明を終えてハーブティーのおかわりを貰い、喉を潤しているとアラナドさんが尋ねてくる。
そう言えばどうして俺たちがこんな形でアラクネさんに接触することになった理由を話せていなかった。
無事にアラクネさんには協力してもらえることになったのだし、リュミールの事も含めて話しておかなければいけないだろう。
「えーと、それは……ヘンデルの森に最近盗賊団が出るのはご存知ですよね?」
どこから話すべきか俺は少し考えてそう話を切り出した。
「ッ!!」
「……え、ええ勿論」
俺の質問に二人は一瞬眉を顰めるとぎこちなく頷く。
「……」
そんな二人の反応を見て俺は関所での門番たちに感じた違和感と同じ感覚を覚える。
なんだ?オーデーではこの話はタブーなのか?
まだこの話をしたのがアラナドさん達と門番たちだけなのでなんとも言えないが、こうも分かりやすく同じ反応をされると勘繰ってしまう。
「──恥ずかしながら俺たちはその盗賊団に襲われまして、盗賊団の団長を名乗るアラドラと言う男に荷馬車に積んでた旅の荷物や有り金、そして私の大事な仲間を盗まれまして──」
違和感を覚えながらも俺は説明を途中できる訳にはいかず言葉を続ける。
「アラドラですって!?」
「アラドラですか!?」
すると二人は俺の『アラドラ』という名前に反応して今度は驚いた様子で興奮気味に聞いてくる。
「え? あ、はい……アラドラって男とその仲間に全部持っていかれまして……」
予想していた反応と違い、そのものすごい二人の剣幕に俺は驚いてしまう。
「まさか本当に帰ってきていたとは……」
「はい、盗賊団の噂は知っていましたが……」
俺の今の発言でアラナドさんとアラクネさんはどんどん何かを考え込むように二人だけの思考の世界へと沈んでいってしまう。
「あの~……」
少し待っても二人はその世界から帰ってくる気配はなく、俺はただ少しぬるくなったティーカップを見つめることしか出来なくなる。
二人の間に何か引っかかる単語があったというのは分かる。それが『アラドラ』という男の名前だと言うことも。
しかしどうしてあいつの名前なのだろうか?
アリアの話では盗賊団がヘンデルの森に姿を見せるようになったのは最近……一ヶ月やそこら辺と言っていた。それまでに奴らの名前やそういった情報はオーデーに広まらなかったのだろうか?
奴らがどれほどの悪事をあの森の中で働いてきたのか知らないが門番達の反応を見ると被害にあった人間は相当な数だろう。それならばそれなりの情報が出ていてもおかしくはないと思う。
……でもあの門番達の反応からして、彼らも盗賊団のまともな情報を持ってる様子は疎か、あの盗賊団を捕まえる目処は無いのだろう。盗賊団をいつになっても捕まえられないことにオーデー騎士団や、その管轄であるあの門番たちは被害にあった俺たちを見て苦い顔をしていたのだろう。
有益となる情報がまだ揃っていない。
それならばこの二人が盗賊団の親玉の名前を聞いて驚くのは不思議なことではないが、そんな何か思い詰めるほどのことなのだろうか?
「……」
俺も二人の真剣な様子にそのような思考を巡らせてしまう。
「レイルさん──」
数分の沈黙の後、アラナドさんは口を開く。
「──あなた方がどのような理由でそうなったのかは理解致しました。とても苦労されたのですね──」
「どうも……」
その声はとてもこちらを気遣った優しい声音だ。
「そして本当に申し訳ありません……」
そして続けて放たれたその言葉は謝罪だった。
「えっと……どうして二人が謝るんですか?」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるアラナドさんとアラクネさんの意図が全くわからず俺達三人は首を傾げることしか出来ない。
「ハッ……そうですね、しっかりと理由とお話しないとわけが分かりませんよね」
アラナドさんは自身の説明不足に気づき、慌てて顔を上げてこう続けた。
「今ヘンデルの森で悪さをしている盗賊……アラドラは私の孫、アラクネの四つ下の弟なのです」
「…………は?」
付け足されたアラナドさんの説明を聞いても俺は頭の理解が追いつかず呆けてしまう。
あの変顔道化師がアラナドさん達の血縁者?
「ほんとだ! どうしたの!? 誰かに泣かされたの!?」
「おいお前! お姉ちゃんに何したッ!!」
掃除を終えて大広間に戻ってきた子供たちが俺の周りを取り囲んで騒ぐ。
「こ、こら、やめなさい! お兄さんは何も悪くないの! お姉ちゃんが悪いのよ!!」
それをアラクネさんが慌てて止めようとする。
「どうやら話は上手くいったようだね」
「ああ、何とかな……」
「でも一体どう言う流れで?」
同じく戻ってきたレイボルトとローグが不思議そうに思う。
「色々とな……」
今の俺にそれを説明するほどの気力と余裕はなく、まだぐるぐると周りを囲んでいる子供たちに叩くや蹴るなどのちょっかいをかけられる。
「あらあら、レイルさんは随分と孫たちに気に入られたようですね」
アラナドさんはアラナドさんで呑気に的外れなことを言う。
この状況を懐かれているというのならば、世界はもっと平和なはずだ。
「お食事の方をお持ちしました……おや? また賑やかですね?」
そんなどうでもいいことを考えているとまたも老紳士が食事を乗せたワゴンカートを引いて大広間に現れる。
「ちょうどいいタイミングだわフルーエル。皆さん! お掃除やお庭のお手入れご苦労様でした、フルーエルがお昼を持ってきてくれたので食べましょう!」
「わーい! ご飯だー!!」
「お腹空いたぁー!」
「こら! 走ったら危ないわよ!」
それを見たアラナドさんはそう言うと、今まで俺の周りを取り囲んでいた子供たちは一直線に老紳士の方へと走っていく。
「やっと開放された……」
子供の底なしの元気というのは恐ろしい。俺もまだまだ若い方だが、それでも小さい子供と言うのは考え無しに突っ込んでくるから何をしてくるか全く分からない。
「僕達もいただいちゃっていいんですか?」
「ええ勿論です。大勢で食べた方が食事は美味しいでしょう?」
「ぐはッ……! 天使だ! ここに天使がいるよレイボルト! ……いや女神かッ!?」
「少し落ち着けローグ……アラナドさんありがとうございます」
俺がぐったりとしていると他の二人もアラナドさんに促されて席に着く。
「レイルさんもどうぞ」
全員が席に着いたところで、まだ唯一席に座っていない俺は慌てて席に着く。
「それでは皆さん、遠慮なく沢山食べてください」
「「「いただきます!!」」」
その一言で全員で楽しい昼食を取る。
朝食の時とは打って変わって、各々が思い思いに食事の感想や楽しげな会話をしながらの賑やかな昼食となる。
フルーエルの作った食事は朝食べた時も感じたが、とても美味しく、手の込んだ料理が多いので食べていて飽きなかった。それまでのひもじい生活を思い出すとじんわりと食事の有り難さを再確認する。
そうして思い思いに食事を楽しんだところで食後のティータイムとなった。
「色々と今更になってしまいますが私の魔装機を紹介しますね」
老紳士が入れてくれたハーブティーに舌鼓を打っていると、同じ柄のティーカップを持ったアラクネさんが俺たちに水を向ける。
そう言えばまだ魔装機の方とは挨拶をしていなかったな。何度かその名を話の中で聞いてはいたが、しっかりとした自己紹介はまだだ。
……それならばこちらの魔装機も一緒に紹介した方がいいのでは?
そう思い俺は腰の鞘に収めた銃剣に意識を向ける。
「それならこっちの魔装機も……アニス」
「はい、マスター」
名前を呼ぶと直ぐにアニスは俺の意図を汲んでくれて悪魔の姿で現れる。
他のアッシュやエリスも同様にだ。
まずは数の多いこっちから軽く名前と武器種の説明をする。
「フルーエル以外の魔装機を見るのは初めてですがその個体によって性能や能力が変わるのですね。とても興味深い……」
「はい……皆さんとても強そうです」
それを聞いてアラクネさんとアラナドさんは興味津々にアニス達を見ながら話を聞いていた。
「えっと……じゃあ次はそちらの執事さんのご紹介をよろしいでしょうか?」
何やら二人でブツブツと話し合っているのを申し訳なく思いながら遮ってお願いをする。
「あ! そうですね、ごめんなさい。それじゃあフルーエル、皆さんにご挨拶を」
「畏まりました」
アラクネさんは我に返ったように目を見開くと慌てたように紳士を呼んで一歩前に出させる。
「大変ご挨拶が遅れました。私の名前はフルーエルと申します、創造主たる魔王さまが作りし魔笛でございます。今はご縁あってアラクネお嬢様に五年ほど前からお仕えしております」
改めて老紳士は名乗ると綺麗なお辞儀をする。
魔笛フルーエル。見た目は五十代半ば辺りの老紳士を思わせる。黒を基調とした燕尾服に身を包み、身長はこの部屋にいる誰よりも高い。近いところで言うとラミアの魔装機であるガーロットと近いだろうか。白髪をオールバックにしてとても清潔感がある。
笛の魔装機は当然初めて見た。
というか笛の魔装機もあったのかって感じだ。ヤジマさんは一体何を目指していたんだろうか?ここまで色々な物を作っているのを見ると逆に何を作っていないのか気になってくる。
いやあの悪魔なら「とりあえずこの世にある武器や物はある程度作った」とか言いそうだ。……マジでありそうだなオイ。
「そのレイルさん達はそれなりに魔装機に対する知識がお有なんですよね?」
そんな我が師匠の事を思い出していると、何やら興味津々と言った様子で目を輝かせたアラナドさんが質問をしてくる。
「ええ、それなりには」
「もしよろしければお話を聞かせて貰えないでしょうか。私、魔法や魔道具を研究するものとして魔装機の事がとても気になるんです!」
俺の返答にアラナドさんは表情をさらに輝かせると身を乗り出して聞いてくる。
……この人もなんだかヤジマさんと同じ匂いがする。
もう目の輝きがあの悪魔と同じだ。
そして本当に軽く、自己紹介に続いて魔装機の説明をアラナドさんとアラクネさんにした。
二人からすれば俺の話した説明の殆どが新しい事だったようで興味深そうに途中からはフルーエルも一緒になって話を聞いていた。アラナドさんは何やらペンと紙を持って来て、一生懸命に俺の説明をメモしていた。
本当にこういった類の話や研究が好きなのだろう。
「とても有意義な内容でした、ありがとうございます」
「私もこれからの戦闘のことに活かせそうなことがあって勉強になりました。ね、フルーエル!」
「はい、自分の知らない知識というのはとても興味深かったです。ありがとうございますレイル様」
それぞれそう感想を言ってもらえて、こちらも説明をしたかいがあったというものだ。
「……このような試す結果となって聞きそびれていたのですがレイルさん達はどうしてあんなに疲弊しておられたのですか? アラクネから聞けば突然気を失ったとのこと、かなり無理をしてオーデーまで来られたようですが……」
説明を終えてハーブティーのおかわりを貰い、喉を潤しているとアラナドさんが尋ねてくる。
そう言えばどうして俺たちがこんな形でアラクネさんに接触することになった理由を話せていなかった。
無事にアラクネさんには協力してもらえることになったのだし、リュミールの事も含めて話しておかなければいけないだろう。
「えーと、それは……ヘンデルの森に最近盗賊団が出るのはご存知ですよね?」
どこから話すべきか俺は少し考えてそう話を切り出した。
「ッ!!」
「……え、ええ勿論」
俺の質問に二人は一瞬眉を顰めるとぎこちなく頷く。
「……」
そんな二人の反応を見て俺は関所での門番たちに感じた違和感と同じ感覚を覚える。
なんだ?オーデーではこの話はタブーなのか?
まだこの話をしたのがアラナドさん達と門番たちだけなのでなんとも言えないが、こうも分かりやすく同じ反応をされると勘繰ってしまう。
「──恥ずかしながら俺たちはその盗賊団に襲われまして、盗賊団の団長を名乗るアラドラと言う男に荷馬車に積んでた旅の荷物や有り金、そして私の大事な仲間を盗まれまして──」
違和感を覚えながらも俺は説明を途中できる訳にはいかず言葉を続ける。
「アラドラですって!?」
「アラドラですか!?」
すると二人は俺の『アラドラ』という名前に反応して今度は驚いた様子で興奮気味に聞いてくる。
「え? あ、はい……アラドラって男とその仲間に全部持っていかれまして……」
予想していた反応と違い、そのものすごい二人の剣幕に俺は驚いてしまう。
「まさか本当に帰ってきていたとは……」
「はい、盗賊団の噂は知っていましたが……」
俺の今の発言でアラナドさんとアラクネさんはどんどん何かを考え込むように二人だけの思考の世界へと沈んでいってしまう。
「あの~……」
少し待っても二人はその世界から帰ってくる気配はなく、俺はただ少しぬるくなったティーカップを見つめることしか出来なくなる。
二人の間に何か引っかかる単語があったというのは分かる。それが『アラドラ』という男の名前だと言うことも。
しかしどうしてあいつの名前なのだろうか?
アリアの話では盗賊団がヘンデルの森に姿を見せるようになったのは最近……一ヶ月やそこら辺と言っていた。それまでに奴らの名前やそういった情報はオーデーに広まらなかったのだろうか?
奴らがどれほどの悪事をあの森の中で働いてきたのか知らないが門番達の反応を見ると被害にあった人間は相当な数だろう。それならばそれなりの情報が出ていてもおかしくはないと思う。
……でもあの門番達の反応からして、彼らも盗賊団のまともな情報を持ってる様子は疎か、あの盗賊団を捕まえる目処は無いのだろう。盗賊団をいつになっても捕まえられないことにオーデー騎士団や、その管轄であるあの門番たちは被害にあった俺たちを見て苦い顔をしていたのだろう。
有益となる情報がまだ揃っていない。
それならばこの二人が盗賊団の親玉の名前を聞いて驚くのは不思議なことではないが、そんな何か思い詰めるほどのことなのだろうか?
「……」
俺も二人の真剣な様子にそのような思考を巡らせてしまう。
「レイルさん──」
数分の沈黙の後、アラナドさんは口を開く。
「──あなた方がどのような理由でそうなったのかは理解致しました。とても苦労されたのですね──」
「どうも……」
その声はとてもこちらを気遣った優しい声音だ。
「そして本当に申し訳ありません……」
そして続けて放たれたその言葉は謝罪だった。
「えっと……どうして二人が謝るんですか?」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるアラナドさんとアラクネさんの意図が全くわからず俺達三人は首を傾げることしか出来ない。
「ハッ……そうですね、しっかりと理由とお話しないとわけが分かりませんよね」
アラナドさんは自身の説明不足に気づき、慌てて顔を上げてこう続けた。
「今ヘンデルの森で悪さをしている盗賊……アラドラは私の孫、アラクネの四つ下の弟なのです」
「…………は?」
付け足されたアラナドさんの説明を聞いても俺は頭の理解が追いつかず呆けてしまう。
あの変顔道化師がアラナドさん達の血縁者?
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!
ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。
私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~
果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。
王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。
類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。
『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』
何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる