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101話 大広間にて
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「こいつねぇー見かけによらず結構やり手だよ! 女たらしだよ姉ちゃんっ!!」
「こ、こらっ! お兄さんに失礼でしょ! ……すみませんうちの弟が……」
目が覚めてから先程のやり取りを少年に目撃されていた俺は今、大広間へとローグ、レイボルトと共に案内されていた。
「あはは……大丈夫ですよ……」
特に何の説明や質問もなくここまで連れてきてくれた翡翠色の綺麗な髪をした女性はものすごい勢いで頭を下げてくる。
……俺らを助けてくれた人だよな?
そのまま女性に大広間にある大きな食卓テーブルの適当な席を勧められて座る。
「もうちょっと待ってくださいね、今お祖母様を呼んでくるので──」
「あ、はい」
ここまで案内してくれた女性は一緒に着いてきた子供たちに何か注意をすると、足早に広間を後にする。
それを一つ返事をして見送ると同時に部屋の中を見渡す。
「随分と立派なお屋敷だな……」
……ここに来る途中も感じたが俺たちはかなり立派なお屋敷で寝泊まりをしていたようだ。今いる大広間にしろ、廊下や、俺たちが寝ていた部屋、その全てがとても普通の家とは思えない豪華……まではいかないが良い作りをしていた。端々に飾られた絵画や花瓶、家具は腕利きの芸術家や職人が作ったものに違いない。一目で貴族の屋敷と思うほどだ。
しかし、普通の貴族の屋敷とは少し様子が違う。
まずこれだけ立派なお屋敷なのにも関わらず、今まで使用人らしき人間がいる気配が全くない。それに『立派な屋敷』とは言ったがそれは過去形の話だ。今は手入れが行き届いていないのか、所々壁や床にヒビや腐った箇所があったり、飾られた絵画や家具もだいぶ埃を被ってしまっている。加えて子供たちが着ている服も至って普通の街子供が着るような布服だ。
昔はとても立派な屋敷なのだろうが今はその名残が少し残るばかりで、今は随分と古ぼけたお屋敷のようだ。
「おい、お前たち! なんでお前たちは僕たちの家で寝てたんだ!!」
少しの間部屋の中を観察していると後ろからかなりの勢いで椅子の背もたれを引っ張られる。
「うわっ! 危ない危ない!」
突然の浮遊感に驚き、勢いで椅子から立ち上がる。
引っ張られた後ろに視線を移すとそこには部屋で一部始終を見ていた鼻水を垂らした坊主の少年と、彼の兄妹だろうか三人の子供がこちらを不信気に見上げていた。
「えっと……君は……」
無言で見つめ続けてくる少年少女に何と声をかけるべきかわからず口ごもる。
「なんだって聞いてるんだよ!」
少年たちはかなり俺たちを警戒しているようで、身構えながらもう一度質問をしてくる。
まあ確かにいきなり自分の家に知らない男共がいたら驚くし、警戒もするよな……。
「……」
少年たちの様子を目の前にしてそう思いながら、どう答えたものかと思考する。
「さっきのお姉さんが魔装機使いで、僕達はあのお姉さんを一緒に魔王を倒す仲間にしに来たんだよ」なんて簡潔に言ったところでどこまでこの子達は理解できるだろうか?
いや、普通に無理だ。
かと言って嘘をつくのも後々面倒なことになりそうだし、上手い言葉が見つからない。
「なにか言えよ!」
少年たちと向かい合ったまま無言で答えを考えていると、痺れを切らした坊主の少年は俺の足を勢いで蹴ってくる。
「あいたっ」
急な衝撃に思考を止めてそんな間抜けな声を出してしまう。
「大丈夫相棒?」
「あー、うん大丈夫」
それを見ていたローグが心配そうに声をかけてくるが、直ぐにそう返す。
小さい子供の蹴りだ、身構えてない状態でそれなりの勢いで蹴られても所詮は子供の力。全く問題は無い。しかし子供たちには申し訳ないことをした。
直ぐに質問の答えを返さなかったことで子供たちを不安にさせてしまった。
「あーごめんね──「何をしているのですかルート?」
子供たちの納得のいく説明ができないことに申し訳なくなり、しゃがんで子供たちに謝ろうとしたところでその言葉は遮られた。
「お客様に何をしていたのですかルート?」
「ッ!!」
落ち着き払ったさっきの女性とは声色の違う声が広間に響く。ルートと呼ばれた坊主の少年はその声で目線を俺の先へと向けて顔を強ばらせる。
「申し訳ございません。私の孫が失礼をしました」
少年を一気に静かにさせた声が次は俺に向けられる。
しゃがむために曲げかけて止まっていた膝を戻して声のしたほうに体を向けると、そこには白髪混じりの翡翠色の髪を一本結に纏めた老婆が深く頭を下げていた。
「い、いえ、子供のしたことですし……全く気にしていないので顔をあげてください」
その姿に俺は慌ててそう言う。
この人が先程の女性が言っていた『お祖母様』だろう。その貫禄ある雰囲気に一瞬背筋が伸びる。
「ありがとうございます、そう言って貰えると助かります。……ルート、後でお話があるので部屋まで来るように」
老婆は優しく微笑むと、少年の方に険しい目線を送り静かにそう言う。
「は、はい……」
ルート少年は素直に頷くと深く肩を落として広間を出ていく。
それにつられるかのように他の子供たちも焦ったように早足で広間を後にする。
「……子供たちもいなくなりましたしお話をしましょうか?」
老婆は再びこちらに向き直ると椅子に座るよう促してくる。
「え、ええ……」
どうしてかその独特な緊張感にしり込みしてしまい、返事が上ずる。
・
・
・
「さて、まずはお互いに自己紹介からいたしましょうか」
テーブル挟んで俺たちの向かい側に老婆は腰をかけて一息つくとそう提案をする。
老婆と一緒に広間に戻ってきていた俺たちを助けてくれた女性は席には掛けず老婆の右斜め後ろで立っている。
「私はこの屋敷の主人、アラナド=トワールと申します。こちらは──」
「──その孫のアラクネ=トワールです。冒険者をしています」
そのまま老婆と女性は続けて名乗る。
白髪混じりの翡翠色の長髪を一本結に纏めた老婆がアラナド、翡翠色の綺麗な長髪を腰元まで流した女性がアラクネ……助けてくれた恩人の名前がやっとわかった。
そうして今一度恩人の顔を見て思ったことは。二人が祖母と孫娘の関係だと言われても不思議ではないくらいに瓜二つの容姿をしているということだ。加えてアラクネは言い寄ってくる男が後を絶たない程に整った綺麗な顔立ちをしている。アラナドも歳のせいで衰えて見えるが昔は綺麗な女性だったのだと分かる。俺の隣に座る物好きが何やらアラナドを血走っためで見つめている。
「大変申し遅れました、俺はレイルと言います。こっちの青髪がローエングリン、こっちの金髪はレイボルト=ギルギオンと言います。今回は倒れたところ助けていただき本当にありがとうございました」
全員を代表して俺が名乗り、頭を深く下げる。
随分と遅くなったがやっとお礼を言うことが出来た。
「いえいえ、大したことはしていませんのでどうかお顔を上げてください。孫も当然のことをしたまでです」
アラナドは一斉に頭を下げる俺たちを見て微笑む。
さて、この人がどこまで知っているのかは分からないがここからが本題だ。
まさかこんなに早く目的の人物と接触できるとは思わなかった。
思考を切り替えて、話をどう切り出すか考える。
魔装機の姿は見えないが、反応はすぐ近くにある。が多分武器の姿でアラクネの手元にあるわけではない、恐らくこの屋敷の敷地内で何かをしているのだろう。それならばどう話を切り出したものか……。
「俺たちは──「皆さんお腹は空いていませんか?」
少しの思考の末、俺が話を切り出そうとしたところでそれはアラナドに遮られる。
「え?」
突然の質問に惚けた声が出る。
いや、確かに時間的に朝飯時と言えばそうだ。腹……は確かに昨日からろくなものを食べてないから空いているかと聞かれれば空いてはいるが……どうして急に……。
「あ、そう言われれば僕達は昨日から何も食べてないよね?」
アラナドの質問でローグが思い出したかのようにお腹を叩く。
「本当ですか? それならば何のおもてなしもできていませんし、よろしければ一緒に朝食はいかがでしょうか?」
ローグの反応を見たアラナドは嬉しそうに手を叩きながらそう提案をしてくる。
「是非いただきますッ!」
ローグはアラナドの提案を即答で受ける。
「え、いや……」
その前に色々と話さないといけないことがあると思うんですが?
思わず自身の欲望のままに頷くローグの方を見て固まる。
そんなにお腹がすいていたのかいローグ?確かに何も食べてないけど我慢できないほどじゃないでしょ?もう少し我慢してくれません?
そう思いながらも思うだけで口には出せない。
理由は我慢が効かなくなったローグが目の前でアラナドをナンパし始めたからだ。
「とても綺麗な瞳をしているんですねアラナドさん……」
ローグはテーブルに身を乗せてそう言うと胸ポケットから赤い一輪の花を取り出してアラナドに手渡す。
「……え?」
アラナドは突然の出来事に目を丸くする。
……その胸ポケットから出した花は一体いつ拾ってきたんだよ。
そう疑問に思ったところで無駄。この熟女好きはそういう奴だ。
「おいローグ、やめないかいきなり失礼だろ! テーブルから降りるんだ!」
「うるさいよレイボルト! こんな美しい人を目の前にして我慢してる方が可笑しいんだよ! 僕は今すぐアラナドさんと一緒に愛を囁き合いたいッ!!!」
レイボルトが依然としてテーブルに身を乗り出すローグを止めようとするがその努力も虚しく撃退される。
うん……さっきからずっとガン見してたもんね。なんなら今までよく我慢してたよね。
ローグがこうなってしまえばもう止めることは不可能。ローグが満足するまで愛を囁くか、アラナドに振られるまでこれは続くだろう。
そんな愛を囁かれているアラナドさんは……。
「そ、そんな……いけませんローエングリンさん……。私、もう若くないんです。揶揄うのはよしてくださいな……」
……満更でも無さそうだ。
後ろのアラクネも自分の祖母が女の顔になって驚いた表情をしている。
「そんな……愛に年齢なんて関係ないじゃないですかッ!!」
うん……すごくいいことを言っているんだけど、時と場合を考えてくれないか?
「……これはもうダメだな……」
まともな会話に戻せる雰囲気では完全になくなってしまった。収拾のつけようが無い。
そう諦めて俺は閉じた扉の方に感じる気配の方へと歩みを進める。
「「「わっ!?」」」
「おやおや?」
扉を開けるとそこには広間から逃げてしまったはずの子供たち四人と、見覚えのない老紳士がいた。
「おお、本物の執事さんだ……」
老紳士を目の前にして思わずそんな言葉が漏れる。
ずっと使用人が居ないと思っていたが一人いたようだ。しかもそれが魔装機だとは驚いた。これが彼女の魔装機か……一体何の武器種なんだろうか?
反応はあったが確実な所在がわかっていなかった魔装機が計らずも目の前に現れてそんな思考をする。
「朝食を持ってきたのですが……?」
老紳士は俺の発言よりも奥の騒がしさが何事かと気になるようで首を傾げている。
食事が運ばれたワゴンカートからとても美味しそうな匂いがしている。
「こ、こらっ! お兄さんに失礼でしょ! ……すみませんうちの弟が……」
目が覚めてから先程のやり取りを少年に目撃されていた俺は今、大広間へとローグ、レイボルトと共に案内されていた。
「あはは……大丈夫ですよ……」
特に何の説明や質問もなくここまで連れてきてくれた翡翠色の綺麗な髪をした女性はものすごい勢いで頭を下げてくる。
……俺らを助けてくれた人だよな?
そのまま女性に大広間にある大きな食卓テーブルの適当な席を勧められて座る。
「もうちょっと待ってくださいね、今お祖母様を呼んでくるので──」
「あ、はい」
ここまで案内してくれた女性は一緒に着いてきた子供たちに何か注意をすると、足早に広間を後にする。
それを一つ返事をして見送ると同時に部屋の中を見渡す。
「随分と立派なお屋敷だな……」
……ここに来る途中も感じたが俺たちはかなり立派なお屋敷で寝泊まりをしていたようだ。今いる大広間にしろ、廊下や、俺たちが寝ていた部屋、その全てがとても普通の家とは思えない豪華……まではいかないが良い作りをしていた。端々に飾られた絵画や花瓶、家具は腕利きの芸術家や職人が作ったものに違いない。一目で貴族の屋敷と思うほどだ。
しかし、普通の貴族の屋敷とは少し様子が違う。
まずこれだけ立派なお屋敷なのにも関わらず、今まで使用人らしき人間がいる気配が全くない。それに『立派な屋敷』とは言ったがそれは過去形の話だ。今は手入れが行き届いていないのか、所々壁や床にヒビや腐った箇所があったり、飾られた絵画や家具もだいぶ埃を被ってしまっている。加えて子供たちが着ている服も至って普通の街子供が着るような布服だ。
昔はとても立派な屋敷なのだろうが今はその名残が少し残るばかりで、今は随分と古ぼけたお屋敷のようだ。
「おい、お前たち! なんでお前たちは僕たちの家で寝てたんだ!!」
少しの間部屋の中を観察していると後ろからかなりの勢いで椅子の背もたれを引っ張られる。
「うわっ! 危ない危ない!」
突然の浮遊感に驚き、勢いで椅子から立ち上がる。
引っ張られた後ろに視線を移すとそこには部屋で一部始終を見ていた鼻水を垂らした坊主の少年と、彼の兄妹だろうか三人の子供がこちらを不信気に見上げていた。
「えっと……君は……」
無言で見つめ続けてくる少年少女に何と声をかけるべきかわからず口ごもる。
「なんだって聞いてるんだよ!」
少年たちはかなり俺たちを警戒しているようで、身構えながらもう一度質問をしてくる。
まあ確かにいきなり自分の家に知らない男共がいたら驚くし、警戒もするよな……。
「……」
少年たちの様子を目の前にしてそう思いながら、どう答えたものかと思考する。
「さっきのお姉さんが魔装機使いで、僕達はあのお姉さんを一緒に魔王を倒す仲間にしに来たんだよ」なんて簡潔に言ったところでどこまでこの子達は理解できるだろうか?
いや、普通に無理だ。
かと言って嘘をつくのも後々面倒なことになりそうだし、上手い言葉が見つからない。
「なにか言えよ!」
少年たちと向かい合ったまま無言で答えを考えていると、痺れを切らした坊主の少年は俺の足を勢いで蹴ってくる。
「あいたっ」
急な衝撃に思考を止めてそんな間抜けな声を出してしまう。
「大丈夫相棒?」
「あー、うん大丈夫」
それを見ていたローグが心配そうに声をかけてくるが、直ぐにそう返す。
小さい子供の蹴りだ、身構えてない状態でそれなりの勢いで蹴られても所詮は子供の力。全く問題は無い。しかし子供たちには申し訳ないことをした。
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子供たちの納得のいく説明ができないことに申し訳なくなり、しゃがんで子供たちに謝ろうとしたところでその言葉は遮られた。
「お客様に何をしていたのですかルート?」
「ッ!!」
落ち着き払ったさっきの女性とは声色の違う声が広間に響く。ルートと呼ばれた坊主の少年はその声で目線を俺の先へと向けて顔を強ばらせる。
「申し訳ございません。私の孫が失礼をしました」
少年を一気に静かにさせた声が次は俺に向けられる。
しゃがむために曲げかけて止まっていた膝を戻して声のしたほうに体を向けると、そこには白髪混じりの翡翠色の髪を一本結に纏めた老婆が深く頭を下げていた。
「い、いえ、子供のしたことですし……全く気にしていないので顔をあげてください」
その姿に俺は慌ててそう言う。
この人が先程の女性が言っていた『お祖母様』だろう。その貫禄ある雰囲気に一瞬背筋が伸びる。
「ありがとうございます、そう言って貰えると助かります。……ルート、後でお話があるので部屋まで来るように」
老婆は優しく微笑むと、少年の方に険しい目線を送り静かにそう言う。
「は、はい……」
ルート少年は素直に頷くと深く肩を落として広間を出ていく。
それにつられるかのように他の子供たちも焦ったように早足で広間を後にする。
「……子供たちもいなくなりましたしお話をしましょうか?」
老婆は再びこちらに向き直ると椅子に座るよう促してくる。
「え、ええ……」
どうしてかその独特な緊張感にしり込みしてしまい、返事が上ずる。
・
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「さて、まずはお互いに自己紹介からいたしましょうか」
テーブル挟んで俺たちの向かい側に老婆は腰をかけて一息つくとそう提案をする。
老婆と一緒に広間に戻ってきていた俺たちを助けてくれた女性は席には掛けず老婆の右斜め後ろで立っている。
「私はこの屋敷の主人、アラナド=トワールと申します。こちらは──」
「──その孫のアラクネ=トワールです。冒険者をしています」
そのまま老婆と女性は続けて名乗る。
白髪混じりの翡翠色の長髪を一本結に纏めた老婆がアラナド、翡翠色の綺麗な長髪を腰元まで流した女性がアラクネ……助けてくれた恩人の名前がやっとわかった。
そうして今一度恩人の顔を見て思ったことは。二人が祖母と孫娘の関係だと言われても不思議ではないくらいに瓜二つの容姿をしているということだ。加えてアラクネは言い寄ってくる男が後を絶たない程に整った綺麗な顔立ちをしている。アラナドも歳のせいで衰えて見えるが昔は綺麗な女性だったのだと分かる。俺の隣に座る物好きが何やらアラナドを血走っためで見つめている。
「大変申し遅れました、俺はレイルと言います。こっちの青髪がローエングリン、こっちの金髪はレイボルト=ギルギオンと言います。今回は倒れたところ助けていただき本当にありがとうございました」
全員を代表して俺が名乗り、頭を深く下げる。
随分と遅くなったがやっとお礼を言うことが出来た。
「いえいえ、大したことはしていませんのでどうかお顔を上げてください。孫も当然のことをしたまでです」
アラナドは一斉に頭を下げる俺たちを見て微笑む。
さて、この人がどこまで知っているのかは分からないがここからが本題だ。
まさかこんなに早く目的の人物と接触できるとは思わなかった。
思考を切り替えて、話をどう切り出すか考える。
魔装機の姿は見えないが、反応はすぐ近くにある。が多分武器の姿でアラクネの手元にあるわけではない、恐らくこの屋敷の敷地内で何かをしているのだろう。それならばどう話を切り出したものか……。
「俺たちは──「皆さんお腹は空いていませんか?」
少しの思考の末、俺が話を切り出そうとしたところでそれはアラナドに遮られる。
「え?」
突然の質問に惚けた声が出る。
いや、確かに時間的に朝飯時と言えばそうだ。腹……は確かに昨日からろくなものを食べてないから空いているかと聞かれれば空いてはいるが……どうして急に……。
「あ、そう言われれば僕達は昨日から何も食べてないよね?」
アラナドの質問でローグが思い出したかのようにお腹を叩く。
「本当ですか? それならば何のおもてなしもできていませんし、よろしければ一緒に朝食はいかがでしょうか?」
ローグの反応を見たアラナドは嬉しそうに手を叩きながらそう提案をしてくる。
「是非いただきますッ!」
ローグはアラナドの提案を即答で受ける。
「え、いや……」
その前に色々と話さないといけないことがあると思うんですが?
思わず自身の欲望のままに頷くローグの方を見て固まる。
そんなにお腹がすいていたのかいローグ?確かに何も食べてないけど我慢できないほどじゃないでしょ?もう少し我慢してくれません?
そう思いながらも思うだけで口には出せない。
理由は我慢が効かなくなったローグが目の前でアラナドをナンパし始めたからだ。
「とても綺麗な瞳をしているんですねアラナドさん……」
ローグはテーブルに身を乗せてそう言うと胸ポケットから赤い一輪の花を取り出してアラナドに手渡す。
「……え?」
アラナドは突然の出来事に目を丸くする。
……その胸ポケットから出した花は一体いつ拾ってきたんだよ。
そう疑問に思ったところで無駄。この熟女好きはそういう奴だ。
「おいローグ、やめないかいきなり失礼だろ! テーブルから降りるんだ!」
「うるさいよレイボルト! こんな美しい人を目の前にして我慢してる方が可笑しいんだよ! 僕は今すぐアラナドさんと一緒に愛を囁き合いたいッ!!!」
レイボルトが依然としてテーブルに身を乗り出すローグを止めようとするがその努力も虚しく撃退される。
うん……さっきからずっとガン見してたもんね。なんなら今までよく我慢してたよね。
ローグがこうなってしまえばもう止めることは不可能。ローグが満足するまで愛を囁くか、アラナドに振られるまでこれは続くだろう。
そんな愛を囁かれているアラナドさんは……。
「そ、そんな……いけませんローエングリンさん……。私、もう若くないんです。揶揄うのはよしてくださいな……」
……満更でも無さそうだ。
後ろのアラクネも自分の祖母が女の顔になって驚いた表情をしている。
「そんな……愛に年齢なんて関係ないじゃないですかッ!!」
うん……すごくいいことを言っているんだけど、時と場合を考えてくれないか?
「……これはもうダメだな……」
まともな会話に戻せる雰囲気では完全になくなってしまった。収拾のつけようが無い。
そう諦めて俺は閉じた扉の方に感じる気配の方へと歩みを進める。
「「「わっ!?」」」
「おやおや?」
扉を開けるとそこには広間から逃げてしまったはずの子供たち四人と、見覚えのない老紳士がいた。
「おお、本物の執事さんだ……」
老紳士を目の前にして思わずそんな言葉が漏れる。
ずっと使用人が居ないと思っていたが一人いたようだ。しかもそれが魔装機だとは驚いた。これが彼女の魔装機か……一体何の武器種なんだろうか?
反応はあったが確実な所在がわかっていなかった魔装機が計らずも目の前に現れてそんな思考をする。
「朝食を持ってきたのですが……?」
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