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100話 無意識のうちに

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「勢いで連れてきちゃったけど何なのかしらこの子達?」

 いきなり私に声をかけてきたと思ったら、その次には目の前で倒れてしまった少年たち。

 そのまま見て見ぬ振りをするのも気が引けたし、気になる単語が少年の口から聞こえてきたのでなし崩し的に悲しげな瞳の馬の手網を持って我が家まで来てしまった。

「家族になんて説明しよう……」

 ″お嬢様のご家族ならばあっさりと理解してくださると思いますが?″

 自分でも全く理解していない状況を家で自分の帰りを待っている家族にどう説明したものか頭を悩ませていると脳内に落ち着いた男性の声がする。

「フルーエル……」

 腰に付けていたケースに入っている横笛を取り出し、笛の名前を呼ぶ。

「心配することはないかと思います。私を連れてきた時もお嬢様のご家族は快く私を出迎えてくれました。それに魔装機の事を知っている少年達です、放っておく訳にも行きません」

 すると笛はその姿形を人の容姿に変化させて、目の前にナイスガイな初老の男が現れる。

「たまらん……」

「お嬢様?」

 私が目の前に突然現れた癒しに見蕩れていると、初老は不思議そうに首を傾げる。

 ……おっといけない。ついつい私好みド直球な殿方が出てきて脳死でガン見してしまった。今は荷馬車に乗せた少年たちを早くベットで休ませなければ。

 そこで死にかけていた意識を叩き起こして、動き出す。

「フルーエル、申し訳ないけれど男の子たちを家まで運んでくれる? 私はこの馬を庭まで連れていくわ」

「かしこまりましたお嬢様」

 私の短い指示に初老のナイスガイは丁寧にお辞儀をすると器用に少年たちを三人一遍に担いで荷馬車から運ぶ。

「行きましょうか」

「ヒヒーン……」

 それを確認して私は馬を荷馬車ごと家の裏にある小さな庭に連れていく。

「狭けど我慢してね、後でお水と食べ物を持ってくるから今はゆっくり旅の疲れを癒してちょうだい」

 馬と荷車を繋ぐハーネスを取り外して、軽く毛並みを整えてやる。馬は気持ちよさそうに目を細めて鼻を鳴らすと静かにその場に座り込んだ。

 少しの間それを見届けると私は庭の裏口から家に入る。

 中に入るとそれはそれはとても騒がしくたくさんの子供の声で溢れていた。

「フルーエル遊んでーっ!!」

「私も私も~!!」

「お腹減ったよー!!」

「あ!お姉ちゃんだ!!」

 元気が有り余っているのか私の可愛い弟妹達はそれぞれ自由奔放に家の中を駆け回っていた。

「ただいまみんな、元気に……してるわね、良い子にしてた?」

「「「してたーっ!!」」」

 私の姿を見つけるやいなや弟妹達は一斉に私の元に駆け寄り元気に返事をする。

「よろしい……みんなお腹減ったでしょ? 今日はなんと屋台で串焼きを買ってきました!」

「わーい串焼だー!」

「手抜きだ手抜きー!」

「今日は帰りが遅かったから手抜きー!」

 私が串焼きの袋を見せると弟妹達は両手を上げて喜びながらそんなことを言う。

「はいはい、そんなこと言わないの。みんなで仲良く食べるのよ?」

「「「はーい!!」」」

 先程まで私に群がっていた弟妹たちの興味は一気に串焼へと移り、まだ熱々の串焼きを美味しそうに食べ始める。

 そんな幸せそうな子供たちにほっこりと心が安らぐのを覚えて、自分が家に帰ってきたのだと再確認をする。

「お嬢様、先程の少年たちを客間の方で休ませています」

 同じく子供たちから解放されて少し寂しそうな顔をした初老──フルーエルが私の隣に立ってそう耳打ちをしてくる。

「ありがとうフルーエル。あの子たちにはまだバレてないのね?」

「はい、先に彼らを部屋に運んでからご弟妹に帰宅をお伝えしましたのでバレてはいないです。しかし……」

 私の問にフルーエルは平然と答えるが最後の方で尻すぼみになってしまう。

「あー、まあお祖母様には筒抜けでしょうね……わかったわありがとう。貴方はそのまま子供たちの様子を見てて、私はお祖母様に帰ってきたご挨拶をしてくるから」

「かしこまりました」

 その理由を察して私は落ち込んだ表情を見せるフルーエルにそう指示をして、子供たちのいる大広間を出てとある部屋へ足を運ぶ。

 部屋の前にすぐに着いて、部屋に入る前にその場で軽く身嗜みを整える。一度深く深呼吸をして扉を二回軽く叩く。

「どうぞ」と言う嗄れた老婆の声がしてすぐには扉を開けずにその場で声をかける。

「アラクネです。ただいま戻りましたお祖母様」

「……入りなさい」

 少しの沈黙の後、入室の許可を貰い私は扉を静かに開けて部屋に入る。

 部屋の中は暗く、唯一ある明かりはベットの横に備え付けられた小さい棚に置かれた角灯の光のみ。
 その光に照らされた老婆がベッドに上体を少し上げた状態で私を見つめていた。

「おかえりなさいアラクネ」

 お祖母様は体の上体を完全に起こすと先程まで少し鋭かった瞳を柔らかくする。

「ただいま帰りましたアラナドお祖母様」

 私はその瞳に少し緊張が解れて、改めてお辞儀をする。

 お祖母様はそれを見て頷くと直ぐに質問をしてくる。

「今日は帰りが遅かったようですが理由は貴方が連れてきた理由は貴方が連れてきた少年たちの所為ですか?」

 やはりお祖母様には倒れた少年たちを家に連れてきたことがバレており、そのことに思わず顔を顰めてしまう。

 この人にはなんでもお見通しのようだ。

「いえ、あの方たちは関係ありません。今日は少しパーティーメンバーの方たちにお食事に誘われて少しそれに顔を出していたのですそれで少し……」

「そうでしたか……その様子からするとまた謂れ無い事を言われてパーティーを抜けてきたようですね」

「うっ……」

 一つ呆れたように溜息をしてお祖母様は呆れたように酒場であったことを言い当ててる。

 やはりこの人にはなんでもお見通しのようだ。

「まあそれは今に始まったことではありませんし、貴方の交友関係に口を出すつもりもありません。ですが家に連れ込んできた少年たちの事は別です。どう言った要件で彼らを家に招き入れたのですか?」

 お祖母様は真っ直ぐに私の瞳を見つめてくる。そのさっきまでの優しい瞳とは別の怖い瞳に見つめられたことで萎縮してしまう。

「えーと……いきなり声をかけられて……」

「なんですか若い殿方に口説かれてその気になったのですか?貴方はまだ23とこれからなんですから素敵な出会いなんていくらでもあります考え直しなさい」

「いやそう類の話ではなくてですね……目の前でいきなり倒れてしまって……」

「倒れたから連れてきたのですか? 野良犬じゃあるまいし、近くにいた憲兵の方にでも任せたら良かったのでは?」

 私の煮え切らない答えにお祖母様はその瞳をさらに険しくさせる。
 その度に私の心はどんどん泣きそうになってくる。

「その……彼らはフルーエル──魔装機の事を知っているようでした……」

「ッ!!」

 やっと出てきた彼らを連れて来ようと思った理由をお祖母様に告げる。
 お祖母様は私の『魔装機』という単語に目を見開き、また瞳の色を変える。

「……そういう事ですか、分かりました。くれぐれも彼らから目を離さないようにしなさい、まだ確実に安全と決まった訳ではありません。あの子たちもいるのですから」

 お祖母様は深く呼吸をすると優しく微笑みベットに背を下ろす。

「はい、わかっています」

 そこで話は終わったのだと悟り、一つお辞儀をしてから部屋を後にする。

 部屋を出た廊下からはフルーエルと弟妹達のはしゃぐ声が聞こえてきた。

 ・
 ・
 ・

 目が覚めるとそこは見知らぬ部屋だった。

「……」

 これで何度目かと思うほどのこの感覚に少しは慣れてきたのか、俺は体を起こして状況を直ぐに把握する。

 気持ち程度の机や椅子、棚などの家具が置かれた広めの部屋。ベッドが三つあり、そこに俺たちは寝かされていたようだ。左どなりとその奥にはまだローグとレイボルトが静かに寝息を立てている。

 どうしてこんなところで寝かされているのか理由はわかっている。

 昨日、いきなり声をかけた魔装機使いの女性がここまで運んでくれたのだろう。

「アニス、起きてるか?」

 それは何となく予想は着くのだかどう言った流れでここまで連れてこられたのか正確な情報が欲しかったので、俺たちが倒れた後に対応をしたであろう少女に声をかける。

「はいマスター、こちらに」

 するとアニスは銃剣ではなく悪魔の姿で現れる。

「おはようアニス。いきなりで悪いけど俺たちが倒れた後どうなった?」

「……」

 直ぐに何があったか少女に問うて見るがその返答はすぐに帰ってこない。

 それどころかどんどんと少女は自身の不甲斐なさを悔いるように悲しそうな顔をする。

「ど、どうしたんだアニス?」

「……申し訳ございませんマスター。マスターが倒れた後の事を私も分からないのです。恐らく他の魔装機の方たちも……」

 俯いてそう答える彼女に俺は首を傾げる。

「といいますと?」

「……はい。マスター達と同じように私や他の魔装機の方たちも体力的に限界が来ていました。マスターがあの女性に声をかけた時には私や他の方たちは失礼ながら回復のため眠りについていたのです」

「なるほど……」

 アニスの説明を聞いて納得する。

 確かにあの時は全員疲弊していた。それはアニス達も同じでむしろずっとスキルや魔法の使用や補助をしていたアニスたちの方が疲労は大きかったはずだ。それなのに俺は自分のことだけを考えてアニスに頼り気になってしまった。

「申し訳ございません……マスターもお疲れの中頑張っていらしたというのに私は許可なく回復のため眠りについてしまい……」

 こちらが悪いと言うのにアニスはそれでも自分の事を責めて深く頭を下げる。

 それがとても申し訳なくて、自分の未熟さを再び痛感する。

 俺はまたやってしまった。

「頭を上げてくれアニス。むしろ謝るのは俺の方だ」

 彼女に近づき優しく頭を撫でる。

「えっ?」

 突然の接触に驚いたのかアニスは直ぐに顔を上げる。その目尻には大粒の涙が溜まっていた。

「そんなに自分を責めないでくれ、アニスにはずっと無理をさせていたって言うのにそれを考えず自分の事ばかりになっていた。すまない」

 今度は俺の方がゆっくりと深く誠意を込めて頭を下げる。

「そんな……違います! マスターは悪くないです! 私がしっかりとマスターが倒れたあともあの女性の対応をしていればマスターに状況を説明できたというのに……!!」

 本当に純真で責任感の強い子だ。今回は全て俺に非がある。俺は特に彼女に何の指示もしていないし、勝手に何とかしてくれると思い込んでいただけだ。だから彼女は何も責任を感じる必要なんてない。

 それなのにアニスは自分が悪いのだと本当に思っている。
 本当に純真で責任感が強すぎる。俺には本当に勿体ない相棒だ。

「ほんとに、こういう話になるとアニスは譲らないよな」

 苦笑と共に再び手が彼女の頭の上に乗る。

「ま、マスター! はぐらかさないでください」

 アニスはそれが面白くなかったのか頬を赤くして怒る。

 ……おっと無闇に触りすぎたか?
 たとえ知ってる相手でもベタベタと頭を触られるのは確かに嫌だよな。

 自分の配慮が足りないと察し、急いで手を頭から話す。

「あ……そういうことでは……」

 これで機嫌が少しでも良くなるかと思いきや、むしろアニスはしょんぼりと方を落としてし俯く。

「あ、アニス?」

 俺はまたなにか気に触るようなことをしてしまったのかと心配になって覗き込むようにアニスの顔を見る。

「ッ! 今は見てはダメです!!」

「えー……」

 それに対して焦ったようにアニスは両手で顔を覆ってそっぽを向いてしまう。

 何とか話をそらすことには成功したけど釈然としないな……。

 アニスが何を考えているか分からなくなってしまい首を傾げながら何となく扉の方に視線を移す。

「……ん?」

 と、開けたはずのない部屋の扉が何故か開いており、そこには一人の鼻水を垂らした坊主の少年がこっちをガン見していた。

「えっと……どちらさま?」

 勝手に他人の家に上がり込んどいて偉そうな物言いだがそんな言葉しか思いつかない。

 小さい7歳くらいの少年はしばらくの沈黙の後に鼻を一回すするとこう言った。

「姉ちゃーん!! イケメンじゃない方の兄ちゃんが女の子と朝っぱらからイチャイチャしてたー!!!」

 部屋……いや、家中に響く大声。

「ちょ、ちがう! ……いや傍から見ればそうだったのかもしれないが違う!! その無邪気な感想はすっごく変な勘違いを産んでしまうぞ!?」

 咄嗟に少年に近づきそう弁明したくなるのは仕方がないことだと思いたい。
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