上 下
71 / 110

70話 騎神祭剣術大会準決勝第二回戦

しおりを挟む
 考え方、戦い方、態振る舞い方、喋り方、まだ上げたりないが今はこれぐらいにしておこう。俺は奴が気に食わない。

 もしこの要素が気にならなかったとしても俺は奴と仲良くできるとは到底思えない。本能的に奴とは相容れない、これが一番しっくりくる答えだ。

『何もしなくていい』と二人の少女に告げて目の前の敵を睨む。少女達は何か講義の声を上げるがそれを無視する。

 コイツには一人で勝たなければ意味が無い。俺だけの力で勝ってこそ意味のある勝利だ。

 ……こんなことアニスとリュミールに正直に言ったら『ふざけるな!』と怒られるだけなので言わない、まあ怒られてもしょうがない理由だ。これはただの俺の意地なのだから。それでもこれは推し通らないといけない意地だ。

 アニスを構えて意識を目の前の敵だけに集中する。
 奴からは魔力を少したりとも感じない。ならばこちらも何も魔法は使わない。

「騎神祭剣術大会準決勝第二回戦、開始!!」

 鳴らされた銅鑼の音に素早く反応し、地面を蹴る。

 アニスを下段に構え敵に接近、斜めに一本の線を描くように敵の胴体目掛けて斬りあげる。

 その速度は常人の目では到底とらえきれず、一筋の光が瞬く間に通り過ぎるような速さ。

 ……まずは挨拶だ。

 ベルゴは俺の攻撃をギリギリまで引きつけると左手に持った毒々しい色の短剣で受け止める。

「他にもあるぜ?渾身の一撃を意図も簡単に防がれた時の惚け面も間抜けだったなあ~」

 目の前の屑は思い出したように言う。

「黙れって言ってるだろ!」

 我武者羅に力を入れて短剣を弾き、ガラ空きになった敵の腹部に蹴りを入れる。

 左足を軸に爪先の方に重心を入れつつ、体全体を捻らせてその勢いで弧を描くように右足を振り抜く。

 しかしその蹴りは短剣を持っていない空いた右手で難なく受け止められ防がれる。

「体術はまだ荒削りだな」

 値踏みするように放たれた言葉を無視してすぐさま足を引こうとするがベルゴの右手に完全に捕まり自由を奪われる。

「はぁああ!」

 ベルゴは服の上からでも分かるほど右腕の筋肉が膨れ上がらせ、片腕で軽々と俺の体を持ち上げるとそのまま地面に向けて鞭のように腕を振り下ろす。

「く……!」

 叩きつけられる既の所でアニスを地面に突き刺し勢いを殺して直撃を避ける。一瞬、奴の右手の力が弱まりその隙に足を引いて自由を取り戻す。

 今のは少し焦った。

「ふん、それぐらいはやってもらわんとな」

 反撃を躱されたことに大して気にした様子もなくベルゴはすぐさま接近してくる。

 矢継ぎ早に放たれる連撃をアニスで防ぎながら反撃の機会をうかがう。

 しかし、性根は腐っていようがタイラスと渡り合えるぐらいには実力のある剣士。隙のない鋭い剣筋は反撃を許そうとせず、捲し立てるようにこちらへと襲いかかってくる。

 "おい! 聞いてるのか!? やられっぱなしじゃないか!!"

 "マスター、魔力を!!"

 頭の中では依然として二人の少女がこちらに手助けをしようと言ってくる。

 "大丈夫だよ二人とも、少しは俺を信用してくれよ"

 本当に心配症というかなんというか……こんなに言われれば『俺ってそんなに危なっかしい戦い方をしているのか』と自分で自分を疑ってくる。

 "何が『大丈夫だよ』だ! 私たちが魔力を廻さないから押され気味だろ!!"

 まあ、傍から見れば俺が劣勢に見える展開だろう。

「……」

 あえてリュミールの言葉に返答せず戦闘に集中する。

 "なにか言えよ!!"

 手を振り回しながらプンプンと怒っている姿が目に浮かぶ。

 うちのお嬢さんがたも退屈してきたようだしそろそろ見に徹するのはいいだろう。とりあえず何も無い状態の剣筋はほぼ見切れた。

「フッ……!」

 少しずつベルゴの剣速よりも動きを速める。

 あの地獄の日々を思えば目の前のベルゴの剣は可愛らしくも思えてくる。

「………!!」

 少しずつ攻守が逆転していく違和感にベルゴは直ぐに気づき短剣を引いて、一旦距離を取ろうとする、がそれはこちらが許さない。

 一歩、深く踏み込んで逃げる隙を与えぬほど速く、鋭く、アニスを振る。

「お前……!」

 苦虫を噛み潰したような顔をしながらベルゴはこちらを睨む。

 完全に形勢は逆転。ベルゴがギリギリ受け切れる速さで剣速を維持して適当なところでわざと剣を逸らして距離を取る。

「どうした? 疲れたのか?」

 肩をすくめながら目の前で冷や汗をかく適に聞いてみる。

「……お前、何者だ?」

 口を強ばらせてベルゴは質問を質問で返してくる。

「何者って、毎日騎士になるために鍛錬を積んでいるただの学生さ」

 適当に言って、質問を返す。

「巫山戯るな!お前はさっきの小娘と似たような変な武器を使っているが全くの別物だ。その若さでどうしてそこまで行けた?何を見てきた?」

 困惑した顔色を隠さずまたも質問してくる。

「…………巫山戯てるのはどっちだ」

 目の前の屑に聞こえるか聞こえないかの声でそう言うと俺はアニスを構え直す。

「何?」

「魔法も使わないで余裕こいてると痛い目見るぞって言ったんだ……」

 どうやら奴に今の言葉は聞こえなかったようだ。ならばもうこれ以上話すことは無い。

 "やっと出番か!?"

 "やってやりましょう!!"

 "いや、二人は何もしなくていい"

 "え……"

 "え……"

 一瞬、嬉しそうな声が聞こえてきたが残念ながら今回は御二方の出番はない。

 アニスに魔力は送って貰わず、自分の体の中に残っている僅かな闇魔力を動かす。僅かながらも魔力は電光のように体を駆け巡り、先ほどよりも力が満ちていくのを感じる。

 以前の無能で未熟な自分ならばこんな少しの魔力で地面の上で苦痛にもがき苦しみ、とても見ていられる状態になっていただろう。

 黒い流れは体に馴染むように速く、夙く、体を駆け抜け、全身を黒い瘴気のようなもので包んでいく。

「いくぞ、覚悟はいいか不死鳥」

 投げ捨てるように言って地面を弾く。

 なんの小細工も必要ない、一直線に、最初に挨拶替わりとして仕掛けた攻撃と同じ形で敵に近づく。ただ一つ違うことは最初の攻撃と比べて速いこと。

 それは会場の観客は愚か、目の前の敵ですら視認できないもの。

「何を……」

 急いでベルゴも自身の体を魔力で強化して俺の攻撃を迎え撃とうとする。

 その魔力量はただの剣士が持ち得るものではなく碧玉級の魔法使いと同等の質と量を備えた、剣士としては一級品のものである。

 しかし、それほど大量の魔力で自身を強化してもこちらの微かな闇魔力には適わない。

 全く反応できていないベルゴを他所に下段に構えたアニスを先程と同じように斜めに腹部目がけて切り上げる。さすがに本当に腹をかっさばくのは死にかねないので柄頭を使って峰打ちにする。

「くはっ!!」

 腹部から鈍い音が鳴って苦しそうに体の中に溜まっていた空気を吐き出し膝から地面に倒れ込む。確認するまでもなくベルゴは気を失い、司会の方を見やる。

「き、決まりました! なんとも静かに決着がつきましたがなんということでしょうか、不死鳥のベルゴが大会王者、剣戟のタイラス以外の剣士に負けるとは誰が予想したことでしょうか!!」

 勝負はたった一瞬、今の戦いの内容がほとんど何も分かっていないであろう司会のそんな言葉でなんとも呆気なく終わる。

 俺は遅れて沸き起こる観客の歓声を聞き流して地面に倒れ付し起きる様子のないベルゴを背負いながらテントの方へ向かう。

 勝ったというのに気持ちは晴れず、まだどこか胸の端に不快感が残っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...