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68話 騎神祭剣術大会準決勝第一回戦
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それでも魔法士は騎士に劣る。
誰が言った訳でもないが俺はずっとそう思っている。
理由はそんなに難しくない。
魔法というのは使える属性、威力、習得する速さが個人によって大きく違う。ほとんどの人が一つ、多くて二つの属性魔法しか使うことができないし。覚えるにしてもその人の才能によってどれほどの魔法が覚えられるか、習得する速さ、覚えられる数が全く違う。努力ではどうにもならないものが魔法には存在する。仮に魔法を覚えることができてもそこから魔物に致命傷を与えれるまでの威力、強度にするために研鑽が待っている。
つまり戦場で戦力になる魔法士を育てるのは時間がかかり、言ってはアレだが効率的ではないのだ。
別に魔法士が戦場で戦力にならないわけではない、むしろ逆だろう。
一人の金剛級魔法士が戦場にいるだけで戦況というのは大きく変化する。しかしそこまで魔法を習得することができた魔法士というのは大体が年老い、碌に動けもしない、直ぐに狙われてお終いの戦場では足でまといなものなのだ。
それを克服しようと近接戦闘も学べば次は魔法の方が疎かになり質が落ちる。あちらを立てればこちらが立たずになってしまう魔法とはそういうものだ。
騎士になりたいと思う人が増えるのは当然の事なのかもしれない。
俺も三十という若さでここまで魔法を習得できたのは才能と天職あってこそのもの。
それは普通なら喜ぶことなのだろうけどそれでも俺は………。
騎士というものに憧れてしまった。
・
・
・
「お待たせしました! それでは騎神祭剣術大会、準決勝第一回戦の方に参りたいと思います!!」
俺が今回この大会に参加した理由はその「憧れ」を断ち切るためだった。
「それでは出てきてもらいましょう! 剣戟のタイラスと天才魔法士アラトリアムです!!」
隣に立つこの国、最強の男を倒せば俺はその思いを捨てれるから。
「噂は聞いているぞ魔法士アラトリアム、その若さで魔法士の実力は金剛級と聞く。君と戦えると分かってから年甲斐もなく楽しみで仕方がなくてな。お互い全力で戦おう」
最強の男は子供のように無邪気な笑みを浮かべ、テントを出る前に握手を求めてくる。
さすが精鋭部隊の元騎士隊長、礼儀もある。
「私もこの時を楽しみにしていました。本気で行かせてもらいます」
差し出された手を強く握り、言葉を返す。自分の手よりも大きく何千何万回と剣を振ってきて出来た手のマメは岩のように硬い。一体どれほど剣を振ればこんな手になるのだろうか。
最強の男は満足したように頷き、同時に外へと歩みを進める。
「さあ出てきました、まさに夢の対決! 最強の騎士と最強の魔法士が今同じ戦いの場に立ちました!!」
また随分と誇張されて紹介されてしまったものだ。
まだまだ俺なんてあの御老公達に比べればヒヨっ子も同然なんだけどな。
まあこう言った方が会場が盛り上がるから、実況もこんな紹介をしたのだろう。
現に会場は最強と最強の戦いに今から待ちきれず興奮した様子だ。
帽子を深く被り直して、気を静める。
「両者、準備が整いました!」
目の前の最強は腰に下げた刀を抜刀し、こちらを見定めている。
……すごい迫力だ。
一瞬、その独特の迫力と空気に呑まれそうになる。
しかし、そこで気負っていれば話にならない、歯を強くかんで気を強く持つ。
「騎神祭剣術大会、準決勝第一回戦を開始致します!!」
強く鳴り響く銅鑼によって開戦の合図。
「我が雷は全てを崩壊させる。轟け………!!?」
目の前の相手には手探りなど不要、そう思い自身が持てる最高火力の魔法を詠唱する。
が、それはすぐ妨げられる。
「………クっ! 凍テツク氷壁!!」
突然目の前に現れた鬼人の一振によって俺は咄嗟に防御魔法を発動せざるを得ない。
しかしそれはただの気休め、鬼人は氷の壁を簡単に破壊して追撃を続けてくる。
一瞬で刀を振れば届く距離まで詰められる。
この距離は完全にあちらの間合い、どうにかして離れなければ!
何とか距離を離そうと考えるが鬼人がそれを許さず瞬く間にいくつもの刃が四方八方から降ってくる。
それはまさに閃光だ。
「まずい……!」
特殊な魔力加工を施した杖で刀を防ぐが全てを捌けてる訳では無い。
体中に切り傷が無数にでき始め、血がローブに染み込んでいく。
「…………」
鬼人は一言も話さず、刀を振る。
「………吹き荒れろ龍ノ嵐!!!」
このまま傷を負うのは体が危険と感じ、考えるより先に口が開く、短縮詠唱でも十分に威力を発揮する風魔法を放つ。
前方から巻き起こる暴風に鬼人は体制を崩し後ろに飛ぶ。
よし、成功した。
距離を離すことに成功して思わず手を強く握り締める。
「……まあそんな簡単にはいかないか」
だがその喜びも束の間、鬼人は魔法によって後ろに飛ばされたが難なく綺麗に着地をして無傷のようだった。
距離を詰めてこようと体制を上げる鬼人に対し素早く魔法を放つ。
「封じよ凍テツク足枷!!」
魔法により鬼人の足が氷で覆われる。
短縮詠唱なのですぐに氷は破壊されてしまうが少しでも時間が稼げれば十分だ。
「我が炎は全てを消し去る。爆ぜろ劫炎ノ焔!!!」
畳み掛けるように続け様に魔法を詠唱をする。今度は完全詠唱、威力は桁違いだ。
鬼人の足元に大きな赤い魔法陣が浮かび上がりそこから天を貫く勢いで大きな火柱が立ち上る。
「どうだ!?」
炎の中から鬼人は出てこない、完全に魔法は当たった。
それでもまだ終わったという感覚は沸かず、どこか胸がざわつく。
「今のは効いたぞ……」
後ろから耳に重たい声が入ってくる。
「な!?」
後ろを向くとそこには少し服を黒く焦がした鬼人が目を血走らせ、まさに本当に鬼人の如く刀を此方に走らせてくる。
「凍てつく………ゴハッ!!」
魔法で防ごうとするが間に合うはずもなく腹部に強烈な峰打ちを喰らう。
今度は俺が大きく後ろに飛び、上手く着地なんてできるはずもなく地面に叩きつけられる。
意識が遠くなる感覚がする。
──まあよく頑張ったんじゃないか?
そんな自分を称える声が聞こえてくる。
──相手はあの剣戟だぞ?魔法士のお前にしてはよくやったんじゃないか?
甘い囁きが聞こえる。
「………」
いつの間にか口の中は切れて血が溜まる、それに地面に倒れた時に入ってきた砂利と相まって不快感が倍増だ。
──まだやる気なのか?
呆れたように誰かが聞いてくる。
──分かったろ?やっぱり魔法士は騎士よりも劣るって事を。
……五月蝿いぞ。
「……は……あ……」
体は今の一撃で立つことすら一苦労になっている、杖を頼りにしなければ今にも崩れ落ちそうだ。
──もういいじゃないか、憧れだった騎士に負けるなら本望だろ。
よく聞きなれた声は満足気だ。
五月蝿いって言ってるのがわからないのか?
「憧れだからだろうが………」
憧れを目の前にしてこんな情けなく終わってたまるもんか。
この人と自分が納得出来る最後まで戦わないと認められないんだ。
俺の子供の時から憧れだった剣戟のタイラスに勝って、魔法士である俺がこの国最強にならないと納得出来ないんだ。
足を踏ん張り、杖に寄りかかるのをやめて最後の強がりをする。
目の前の憧れだった男はどうしてか俺に斬りかかって来ない。
「本当に………」
最後まで言葉にせず杖を前に構える、これでおしまいだ。
彼の大魔法士、アルカノア=ダストンでさえも属性魔法と属性魔法の融合、二重魔法を完成させることはできなかった。
それには色々な説があるが一番の有力な説としてこんなものがある。
『アルカノア=ダストンの天職はただの魔法使いであった』
まだ魔法が深く研究されていなかった時代に先陣を切ってそれを始めたのがアルカノア=ダストンだったと言われている。
才能の限界値、どれだけ剣や魔法の才能があったとしても限界というものはある、天職とはそれを表していると言うのだ。
もしそれが本当ならばアルカノア=ダストンの限界値は全属性の魔法を使えるところまでだったのではないか?
もし彼の天職が賢者だったならば二重魔法を完成させることが出来たのではないか?
いや、そんなもしもの話は今はどうでもいいだろう。
なぜなら………。
「我が雷炎は全てを破滅させる、二つの理は今対となった、轟き燃え上がれ、焔霆ノ裁き!!!」
二つの異なり、交わり合うこと無かった魔力はさも当然かのように融合していき新たな魔法となる。
空に臙脂、地に金色の魔法陣が現れ、その魔法は顕現する。
大地から生える霆は巨人すらも束縛する鎖となり、憧れの英雄は身動きを完全に封じられる。天空からは焔の大剣が断罪をするかのように最強に降り落ちる。
その光景は幻を見ているように神秘的で会場にいる全ての人間が息を潜める。
断罪の大剣が地面に完全に落ちたと共に大爆発が起こり、何重にも精密に組み上げられた強固な結界が破壊される。
その威力はまさに神の裁き。
結界も地面も全て壊れ、広場の中心だけが荒地と化していた、こんな所に生命があるとは到底考え難い。
しかし、巻き起こる砂煙の中の荒地に一つのしっかり地面を踏む影が移る。
「嘘だろ……」
もうここまで来たら、どうしてあの男にここまでの力があるのか分からなくなってくる。
「今まで見てきた魔法で一番の威力だ」
ゆっくりと歩いてくる男の全身はボロボロ、上着など無いに等しい、頭からは血が大量に流れている。
「どうして……?」
何がこの男をここまで強くしているのか知りたくなり思わず言葉が出る。
「どうして……か、あの地獄よりはマシだったからだ」
鬼人は俺の元まで来ると今までずっと手放さなかった刀を鞘にしまい顔面に一発、重たい拳を飛ばしてくる。
「がっ!」
躱す気力など残っているはずもなく無防備に拳を貰う。
全力は尽くした。
やはり俺の憧れの騎士は俺の全力を持ってしても倒せなかった。
でもやっぱり。
「悔しいな……」
俺の意識はそこで完全に切れる。
「き、決まったー! 死闘を繰り広げ、勝利したのはこの男、剣戟のタイラス!しかし、我々はとんでもないものを見てしまったのかもしれません! 誰もが成し得なかった二重魔法、そしてここまで傷ついた剣戟のタイラスを誰が見たことがありましょうか!? 歴史に残る勝負となるでしょう!!」
銅鑼を鳴らすのも忘れて実況の声が会場に響く。
だが他に声を上げるものはいない、誰もが一人の男を見て呆然とする。
その男は何事も無かったように地面に寝ている魔法士を抱えてテントの中へと戻っていく。
その後ろ姿は鬼のように恐ろしかった。
誰が言った訳でもないが俺はずっとそう思っている。
理由はそんなに難しくない。
魔法というのは使える属性、威力、習得する速さが個人によって大きく違う。ほとんどの人が一つ、多くて二つの属性魔法しか使うことができないし。覚えるにしてもその人の才能によってどれほどの魔法が覚えられるか、習得する速さ、覚えられる数が全く違う。努力ではどうにもならないものが魔法には存在する。仮に魔法を覚えることができてもそこから魔物に致命傷を与えれるまでの威力、強度にするために研鑽が待っている。
つまり戦場で戦力になる魔法士を育てるのは時間がかかり、言ってはアレだが効率的ではないのだ。
別に魔法士が戦場で戦力にならないわけではない、むしろ逆だろう。
一人の金剛級魔法士が戦場にいるだけで戦況というのは大きく変化する。しかしそこまで魔法を習得することができた魔法士というのは大体が年老い、碌に動けもしない、直ぐに狙われてお終いの戦場では足でまといなものなのだ。
それを克服しようと近接戦闘も学べば次は魔法の方が疎かになり質が落ちる。あちらを立てればこちらが立たずになってしまう魔法とはそういうものだ。
騎士になりたいと思う人が増えるのは当然の事なのかもしれない。
俺も三十という若さでここまで魔法を習得できたのは才能と天職あってこそのもの。
それは普通なら喜ぶことなのだろうけどそれでも俺は………。
騎士というものに憧れてしまった。
・
・
・
「お待たせしました! それでは騎神祭剣術大会、準決勝第一回戦の方に参りたいと思います!!」
俺が今回この大会に参加した理由はその「憧れ」を断ち切るためだった。
「それでは出てきてもらいましょう! 剣戟のタイラスと天才魔法士アラトリアムです!!」
隣に立つこの国、最強の男を倒せば俺はその思いを捨てれるから。
「噂は聞いているぞ魔法士アラトリアム、その若さで魔法士の実力は金剛級と聞く。君と戦えると分かってから年甲斐もなく楽しみで仕方がなくてな。お互い全力で戦おう」
最強の男は子供のように無邪気な笑みを浮かべ、テントを出る前に握手を求めてくる。
さすが精鋭部隊の元騎士隊長、礼儀もある。
「私もこの時を楽しみにしていました。本気で行かせてもらいます」
差し出された手を強く握り、言葉を返す。自分の手よりも大きく何千何万回と剣を振ってきて出来た手のマメは岩のように硬い。一体どれほど剣を振ればこんな手になるのだろうか。
最強の男は満足したように頷き、同時に外へと歩みを進める。
「さあ出てきました、まさに夢の対決! 最強の騎士と最強の魔法士が今同じ戦いの場に立ちました!!」
また随分と誇張されて紹介されてしまったものだ。
まだまだ俺なんてあの御老公達に比べればヒヨっ子も同然なんだけどな。
まあこう言った方が会場が盛り上がるから、実況もこんな紹介をしたのだろう。
現に会場は最強と最強の戦いに今から待ちきれず興奮した様子だ。
帽子を深く被り直して、気を静める。
「両者、準備が整いました!」
目の前の最強は腰に下げた刀を抜刀し、こちらを見定めている。
……すごい迫力だ。
一瞬、その独特の迫力と空気に呑まれそうになる。
しかし、そこで気負っていれば話にならない、歯を強くかんで気を強く持つ。
「騎神祭剣術大会、準決勝第一回戦を開始致します!!」
強く鳴り響く銅鑼によって開戦の合図。
「我が雷は全てを崩壊させる。轟け………!!?」
目の前の相手には手探りなど不要、そう思い自身が持てる最高火力の魔法を詠唱する。
が、それはすぐ妨げられる。
「………クっ! 凍テツク氷壁!!」
突然目の前に現れた鬼人の一振によって俺は咄嗟に防御魔法を発動せざるを得ない。
しかしそれはただの気休め、鬼人は氷の壁を簡単に破壊して追撃を続けてくる。
一瞬で刀を振れば届く距離まで詰められる。
この距離は完全にあちらの間合い、どうにかして離れなければ!
何とか距離を離そうと考えるが鬼人がそれを許さず瞬く間にいくつもの刃が四方八方から降ってくる。
それはまさに閃光だ。
「まずい……!」
特殊な魔力加工を施した杖で刀を防ぐが全てを捌けてる訳では無い。
体中に切り傷が無数にでき始め、血がローブに染み込んでいく。
「…………」
鬼人は一言も話さず、刀を振る。
「………吹き荒れろ龍ノ嵐!!!」
このまま傷を負うのは体が危険と感じ、考えるより先に口が開く、短縮詠唱でも十分に威力を発揮する風魔法を放つ。
前方から巻き起こる暴風に鬼人は体制を崩し後ろに飛ぶ。
よし、成功した。
距離を離すことに成功して思わず手を強く握り締める。
「……まあそんな簡単にはいかないか」
だがその喜びも束の間、鬼人は魔法によって後ろに飛ばされたが難なく綺麗に着地をして無傷のようだった。
距離を詰めてこようと体制を上げる鬼人に対し素早く魔法を放つ。
「封じよ凍テツク足枷!!」
魔法により鬼人の足が氷で覆われる。
短縮詠唱なのですぐに氷は破壊されてしまうが少しでも時間が稼げれば十分だ。
「我が炎は全てを消し去る。爆ぜろ劫炎ノ焔!!!」
畳み掛けるように続け様に魔法を詠唱をする。今度は完全詠唱、威力は桁違いだ。
鬼人の足元に大きな赤い魔法陣が浮かび上がりそこから天を貫く勢いで大きな火柱が立ち上る。
「どうだ!?」
炎の中から鬼人は出てこない、完全に魔法は当たった。
それでもまだ終わったという感覚は沸かず、どこか胸がざわつく。
「今のは効いたぞ……」
後ろから耳に重たい声が入ってくる。
「な!?」
後ろを向くとそこには少し服を黒く焦がした鬼人が目を血走らせ、まさに本当に鬼人の如く刀を此方に走らせてくる。
「凍てつく………ゴハッ!!」
魔法で防ごうとするが間に合うはずもなく腹部に強烈な峰打ちを喰らう。
今度は俺が大きく後ろに飛び、上手く着地なんてできるはずもなく地面に叩きつけられる。
意識が遠くなる感覚がする。
──まあよく頑張ったんじゃないか?
そんな自分を称える声が聞こえてくる。
──相手はあの剣戟だぞ?魔法士のお前にしてはよくやったんじゃないか?
甘い囁きが聞こえる。
「………」
いつの間にか口の中は切れて血が溜まる、それに地面に倒れた時に入ってきた砂利と相まって不快感が倍増だ。
──まだやる気なのか?
呆れたように誰かが聞いてくる。
──分かったろ?やっぱり魔法士は騎士よりも劣るって事を。
……五月蝿いぞ。
「……は……あ……」
体は今の一撃で立つことすら一苦労になっている、杖を頼りにしなければ今にも崩れ落ちそうだ。
──もういいじゃないか、憧れだった騎士に負けるなら本望だろ。
よく聞きなれた声は満足気だ。
五月蝿いって言ってるのがわからないのか?
「憧れだからだろうが………」
憧れを目の前にしてこんな情けなく終わってたまるもんか。
この人と自分が納得出来る最後まで戦わないと認められないんだ。
俺の子供の時から憧れだった剣戟のタイラスに勝って、魔法士である俺がこの国最強にならないと納得出来ないんだ。
足を踏ん張り、杖に寄りかかるのをやめて最後の強がりをする。
目の前の憧れだった男はどうしてか俺に斬りかかって来ない。
「本当に………」
最後まで言葉にせず杖を前に構える、これでおしまいだ。
彼の大魔法士、アルカノア=ダストンでさえも属性魔法と属性魔法の融合、二重魔法を完成させることはできなかった。
それには色々な説があるが一番の有力な説としてこんなものがある。
『アルカノア=ダストンの天職はただの魔法使いであった』
まだ魔法が深く研究されていなかった時代に先陣を切ってそれを始めたのがアルカノア=ダストンだったと言われている。
才能の限界値、どれだけ剣や魔法の才能があったとしても限界というものはある、天職とはそれを表していると言うのだ。
もしそれが本当ならばアルカノア=ダストンの限界値は全属性の魔法を使えるところまでだったのではないか?
もし彼の天職が賢者だったならば二重魔法を完成させることが出来たのではないか?
いや、そんなもしもの話は今はどうでもいいだろう。
なぜなら………。
「我が雷炎は全てを破滅させる、二つの理は今対となった、轟き燃え上がれ、焔霆ノ裁き!!!」
二つの異なり、交わり合うこと無かった魔力はさも当然かのように融合していき新たな魔法となる。
空に臙脂、地に金色の魔法陣が現れ、その魔法は顕現する。
大地から生える霆は巨人すらも束縛する鎖となり、憧れの英雄は身動きを完全に封じられる。天空からは焔の大剣が断罪をするかのように最強に降り落ちる。
その光景は幻を見ているように神秘的で会場にいる全ての人間が息を潜める。
断罪の大剣が地面に完全に落ちたと共に大爆発が起こり、何重にも精密に組み上げられた強固な結界が破壊される。
その威力はまさに神の裁き。
結界も地面も全て壊れ、広場の中心だけが荒地と化していた、こんな所に生命があるとは到底考え難い。
しかし、巻き起こる砂煙の中の荒地に一つのしっかり地面を踏む影が移る。
「嘘だろ……」
もうここまで来たら、どうしてあの男にここまでの力があるのか分からなくなってくる。
「今まで見てきた魔法で一番の威力だ」
ゆっくりと歩いてくる男の全身はボロボロ、上着など無いに等しい、頭からは血が大量に流れている。
「どうして……?」
何がこの男をここまで強くしているのか知りたくなり思わず言葉が出る。
「どうして……か、あの地獄よりはマシだったからだ」
鬼人は俺の元まで来ると今までずっと手放さなかった刀を鞘にしまい顔面に一発、重たい拳を飛ばしてくる。
「がっ!」
躱す気力など残っているはずもなく無防備に拳を貰う。
全力は尽くした。
やはり俺の憧れの騎士は俺の全力を持ってしても倒せなかった。
でもやっぱり。
「悔しいな……」
俺の意識はそこで完全に切れる。
「き、決まったー! 死闘を繰り広げ、勝利したのはこの男、剣戟のタイラス!しかし、我々はとんでもないものを見てしまったのかもしれません! 誰もが成し得なかった二重魔法、そしてここまで傷ついた剣戟のタイラスを誰が見たことがありましょうか!? 歴史に残る勝負となるでしょう!!」
銅鑼を鳴らすのも忘れて実況の声が会場に響く。
だが他に声を上げるものはいない、誰もが一人の男を見て呆然とする。
その男は何事も無かったように地面に寝ている魔法士を抱えてテントの中へと戻っていく。
その後ろ姿は鬼のように恐ろしかった。
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