森の中で偶然魔剣を拾いました。

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65話 剣術大会本戦第二回戦

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子供の頃の夢は騎士になること。
 そんなの小さい時なら誰しもが思うことだった。
 自分の父が王都の騎士なら尚更だ。

 しかし、俺にはその資格はなかったらしい。

「アラトリアム君、やはり君の天職は賢者だ」

 教会の神父はこの場に立ち合えたことを嬉しそうに俺にそう告げた。

「父さんはお前が誇らしいぞアラトリアム!!」

 父も嬉しそうに俺の頭を乱暴に撫でる。

「……賢者?」

 それは他の人ならば飛んで喜ぶことなのだろうけど、自分にとってはあまり良い知らせとは言えなかった。

 確かに他の同年代の子供たちと比べれば俺は魔法が得意だった。

 それだけで俺の天職は賢者になったのか?
 いや……それだけで理由は十分なのか。

「どうしたアラトリアム? 賢者だぞ? 嬉しくないのか?」

 騎士の父は首をかしげながら聞いてくる。

「父さんは………」

 俺が騎士にならなくてもいいの?そう聞き返そうとしたが喉が強ばって上手く言葉にはできなかった。

「アラトリアム?」

「父さん、俺はこの国最強の魔法士なるよ!」

 拳を強く握り締め感情を押し殺して俺は教会で父に笑いかけた。

 ・
 ・
 ・

「さあ小休憩と設備の点検を終えたところで第二回戦を始めたいと思います!!」

 夕暮れ時ももう少しで終わる。

 いっそう強く赤い光が広場を染め上げていく。
 観客の熱も冷めることは無くそれどころかさらに上がっている。

「懐かしいものを見たな……」

 目を開けて自分の出番がきたのを確認する。

「二回戦はアラトリアム対ヤーガン! これはどのような戦いがみれるのでしょうか? 楽しみです! それではお二人の入場です!!」

 隣に立つ少年は少し緊張した様子で腰に携えた二本の剣を大事そうに押さえる。

「若いってのはいいねぇ~、俺も小さい頃は騎士を夢見たもんだ」

 テントに出る前とんがり帽子をかぶり直しながらついさっきの夢につられてそんな言葉が出る。

「え?」

 ヤーガン少年はなんの事か分からず首を傾げる。

「ハハ、気にするなおじさんの昔話さ」

 ヤーガンの肩を軽く叩いてテントの外へ出ていく、それを追いかけるようにヤーガン少年も小走りで出る。

 外に出ると観客の暑い声援が耳に響く。

「改めまして騎神祭剣術大会、第二回戦開始です!!」

 今回唯一の魔法士、剣術大会と銘打っているため俺の立場は危うい場所だ。

 誰もが激しくぶつかり合う剣と剣の戦いが見たい。
 自然と観客達の俺を見る視線が冷たく感じられてしまうのは自意識過剰だろうか?

 俺は杖を構え、目の前のヤーガン少年は二本の剣を構る。

 やはり杖より剣を構えた方が様になるな。
 銅鑼の音が響き戦いの火蓋が切って落とされる。

「我が炎は全てを射抜く。駆けろ熱キ焔!」

 先手必勝、杖を天高く構え高速で詠唱を終わらせる、空中にカボチャくらいの大きさの火球を20個ほど浮かび出す。

 俺が杖を振り下ろすとその火球達は一斉にヤーガン少年に向けて放たれていく。

 かなりの速度で襲ってくる火球にヤーガンは腰を少し落として剣を構えているだけだ。

「せいっ!」

 とめどなく降ってくる火球をヤーガンは二本の剣で斬り伏せ、難なく躱す。

 その動きは独特で空中で回転をしたり、地面を這うような足取りで回避して、まるで曲芸を見ているような気分だ。

 観客も見てい楽しいのだろう手を叩いて盛り上がる。

 まあ気持ちは分かる、あんな独特な戦い方は滅多にお目にかかれるものではない。
 とういうか以外だ、ヤーガン少年の見た目はどこからどう見てもお堅い騎士風だしこんな奇抜な戦い方をするとは誰も想像出来ないだろう。

 人は本当に見かけで判断してはダメだな。

「面白い戦い方だ、相当努力してきたんだろう」

 こんな相手と手合わせできるのもあまりない、こちらも楽しませてもらおう。

 少年の剣技を評して纏っている魔力量をさらに上げる。

「我が雷は全てを砕く。駆けろ雷鳴ノ槍!」

 次は長い槍状の雷を無数に飛ばす。

「なんの!」

 ヤーガンは能力向上系の魔法やスキルを全て惜しみなく使いさらに動きのキレを増していく。

 そうして雷の槍を躱しながら一気にこちらに近づいていく。

 まずいな。

「くらえ!!」

 体を捻り大きく溜めをつくって円を描くように一回転、二本の剣で襲いかかってくる。

「防げ凍テツク氷壁!!」

 すぐさま短縮詠唱で氷の壁を作り何とかヤーガン少年の攻撃を防ぐ。

 しかし、短縮詠唱で発動した魔法は普通の詠唱で発動した時よりも威力が半減してしまうのでヤーガン少年の次の攻撃まで防ぐことはできず壊れていく。

「……駆けろ雷鳴ノ槍!」

 ここのままでは完全に致命傷を貰いかねない、少しでも意識を逸らすため無理やり魔法を放つ。

「あぶ!!」

 近距離で放たれた魔法によりヤーガン少年は体制を崩され追撃できず雷の槍を弾いて一旦距離を取る。

「さあ、激しいぶつかりあいだ!!」

 実況や観客達の激しい歓声が聞こえてくる。

「危ない危ない! これでまだ10代って本当に将来が楽しみだなあ」

 本当に羨ましくなってくる。

「いえ、私はまだまだ……」

 それに加えて謙虚な心もあると……まさに騎士の鏡だ。

「おつかれの様子だね、おじさんの涼しい風で休みなさい。我が風は全てを荒す。さざめけ龍ノ息吹!」

 少し意地悪をしたくなったので風の魔法でヤーガンに攻め込む。

「がっ……!」

 ヤーガンは何とか攻撃を躱そうとするがさっきの雷魔法で集中が切れたのか攻撃を躱しきれない。

「いやー本当、剣の才能がある人が羨ましいよ。俺には魔法しかないからね」

 魔法士が使う魔法と騎士が使う魔法とでは質が天と地ほど違う。

 攻撃、防御、補助、どれをとっても一級品の魔法だ、それをモロに受けてしまえば一溜りも無い。

 きっとまだ本当の魔法などまともに体験したことなんてないんだろうな。
 まあ、当然か………。

 それでも魔法士は騎士よりも劣る。

「ぐ……」

 地面に打ち倒されたヤーガン少年は何とか立とうとするがそれも難しい、傷が相当深いのだろう。
 すごい精神だ、今のをまともに受けてもまだ意識があるとは……。

 さすが騎士様、どれだけ打ちのめされようと立ち上がるか。

「我が雷は………」

 ……だが、もう終わりだ。
 魔法の詠唱を終わらせて雷の槍をヤーガンに向ける。

「さあ終わりだよ、未来の騎士殿……」

 本当に君たちが羨ましいよ。

「参り……ました……」

 ヤーガンはそこで意識を完全に失う。

「決まりました!勝者は天才魔法士アラトリアムです!!」

 銅鑼と観客の熱い音が響き会場が再び盛り上がる。

 別に喜ぶわけでもなく、意識を失ったヤーガン少年を背負ってテントの方へと戻っていく。

「それでは少しの間小休憩を取りたいと思います。皆様次の試合まで暫くお待ちください」

 実況の言葉で観客達は飲み物などを買いに行くため席を一斉に立ち上がり始める。

 これでやっとスタートに立てた。
 目標までもう少しだ。
 拳を握り、最強の男を見る。

 こんなとこで負けるものか。
 心の中に何度もひとつの言葉を反芻する。

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