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64話 剣術大会本戦第一回戦

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「最後まで負けないでよ?」

「そっちこそ」

 本戦に出場が決まった参加者の控えテントの中、俺とラミアは隣同士に座って話す。

 あれから直ぐに俺達はこのテントに案内されて少し待っているように言われた。
 どうやら組み合わせや最後の準備があるらしい。
 テントの中は静かでピリピリとした緊張感が漂っていた。

 俺は一番最後に魔石を持って帰ってきたので落ち着く暇もないままここまで連れてこられたのでやっと気持ちが落ち着いてきた。

 "緊張してるかい?"

 リュミールが珍しく心配してくる。

 "いいや、俺にはお前達がいるし全力でやるだけさ"

 "私達も全力でお力添え致します!!"

 なんとも頼もしい相棒たちだ。

「皆様お待たせ致しました。それではこれより剣術大会本戦のルールをご説明致します」

 一人の係員の男性が四角い箱を持ってテントの中に入ってくる。

「本戦では1対1の決闘形式で対戦相手をクジを引いて決めます、勝ち上がり方式で相手が負けを認めるか戦闘不能にすれば勝利です。あ、当たり前ですが殺しはナシです。箱の中には1~4の数字が書かれた紙が二枚づつ、全部で八枚入っています。同じ数字の紙を持った人同士が一回戦の対戦相手となります、では前回の優勝者のタイラス様からお引き下さい」

 男は丁寧説明をしたあとタイラスの前に箱を持っていく。

「………俺は1だ」

 箱の中をじっくりと漁らず、勢いよく直ぐに紙を引いて男に数字を教える。

「それではナタリー様、どうぞ……」

 そのまま男はさっき紹介された順番通りにクジを引かせていく。

「最後にレイル様、どうぞ」

「どうも」

 もう箱の中には紙が一枚しか入ってなく、なんの数字かもわかっているというのに係員の男性は律儀に俺にクジを引かせてくれる。

「……4です」

 しっかりと紙を見せながら係員に数字を伝える。

 係員は紙にしっかりと組み合わせを書き取り、最後に間違いがないか確認をしてテントを後にする。出る間際で「もう少しお待ちください」と申し訳なさそうな顔をした。

 組み合わせはこうなった。
 一回戦……ロイ対タイラス
 二回戦……アラトリアム対ヤーガン。
 三回戦……ベルゴ対ラミア。
 四回戦……ナタリー対俺。
 まあクジで決まったことなので特に文句などはない。

 今決まった組み合わせを広場の掲示板に張り出して、そこから特設された試合会場の最終点検や周りの観覧客に被害が出ない為の結界を張って準備が整う。

 陽が辺りを橙に染めあげて、それを合図に剣術大会が幕を開く。

「さあさあ、皆様大変長らくお待たせ致した! これから剣術大会本戦、第一回戦を開始致します。最初から決勝戦でもおかしくない組み合わせでございます!!」

 実況の男性が話し始めると同時にタイラスとロイはテントの中から表へと出ていく。

「お手柔らかに頼みます、タイラス隊長」

「元、隊長だ。お前との手合わせも久しぶりだなロイ、どれだけ研鑽を積んできたか見せてもらおうか」

 二人はとても落ち着いた様子で軽く言葉を交す。

「出て参りました! 剣戟のタイラスと白馬の騎士ロイです!!」

 観客は今まで一番大きい歓声を上げて二人を出迎える。

 四方に一つずつ置かれた煌々と燃え盛る大松明、特別に作られた試合会場に二人の騎士が中央に立ち構え合う。

「それでは騎神祭剣術大会本戦、第一回戦開始です!!」

 実況の男の言葉と共に重たく響く銅鑼の音が広場に鳴る。

「胸をお借りします!」

 最初にしかけたのはロイだ。

 両手で構えた長剣をタイラスに向けて振り掛ける。

「いい一撃だ」

 タイラスはロイの一振を真正面から受け止める。

 激しく衝突する鋼の音と衝撃が響いて、観客は一瞬息を呑み静まる。

 しかし本人達はそんなこと露知らず、常人では目で捉えることも出来ない速さで続けざまにお互いの武器をぶつけ合う。

「………」

 観客は初撃の打ち合いを最後に目の前で起きている一瞬の中に潜む尋常ではない読み合いの攻防を理解できず、盛り上がるに盛り上がれない。

「マジかよ……」

 テントの中では誰もが二人の一挙一動に目を見張る。

 別に周りから見ればただ早く戦っているように見えるだろうがこれはそんな生ぬるいものでは無い。タイラスとロイはまだ1度も魔法やスキルなどでの能力強化を行っていないのだ。

 何もしていない状態で普通の人の目では捉えられない速さの剣の動き、それは異常だ。

「ぐっ……!」

 何とか互角にやりあっていた2人だが、着々とロイはタイラスの速さについていけず少しづつ傷を負い始める。

「まだ上げるぞ?」

「え?」

 タイラスは気にせずに刀をさらに速く振り、手数を増やしていく。

 戦況はだんだんとタイラスが有利になって行く。

「今はここまでか……」

 ロイの口が微かに動き、空気が変わる。

「お前もなかなか演芸者だな」

 タイラスは依然として魔法やスキルを使いそうにない。

「今日こそは勝たせてもらいますよ隊長?」

「元……隊長な」

 ロイは先程まで感じさせなかった魔力を纏う。

「さあ、本気を見せてみろ」

 タイラスは余裕綽々だ。

「我が炎は全てを刺し穿つ。吼えろ、蒼キ焔」

 詠唱が終わると獅子によく似た蒼い炎の獣が現れる。

 蒼い獅子は地を弾いて一直線にタイラスの首元目がけ飛び込んでいく。

「ふん……」

 タイラスは顔色一つ変えずにロイの魔法を刀一振で蹴散らす。

 しかし、炎は消えず細い紐のように形を変えてタイラスに最後まで襲いかかる。

「ほう」

 獅子から紐に変わった炎に身動きを封じられてもタイラスに焦った様子はなくいつも通りだ。

「これで終わりです」

 ロイは身動きの取れなくなったタイラスにすぐさま接近してトドメと言わんばかりに長剣を向けて袈裟懸けに斬りつける。

「本当にお前は演芸者だよ……」

 瞬間、タイラスは体に巻き付いていた炎を引きちぎりロイの剣を弾く。

「そんな無茶苦茶だ!!」

 あとも少しで勝てると思った矢先にロイは攻撃を止められ仕舞いには弾かれた衝撃で大きく吹き飛ぶ。

「まだまだ研鑽が足りないな、お前も騎士なら己が身一つで勝てるくらい剣を極めろ!」

 鬼斬の剣先をロイに突きつけ無茶苦茶なことを言い出す。

「……参りました」

 剣を手放しロイは大きく両手をあげる。

「き、決まったー!! ほとんど何が起きたのか分かりませんでしたが第一回戦は剣戟のタイラスの勝利です!!」

 実況の男が興奮のあまり一回戦の終了を告げる銅鑼を自分で鳴らす。

 銅鑼の音に負けないぐらい観客も大きな歓声を上げて場は一気に盛り上がる。

「お疲れさん」

「やっぱり強いやタイラス隊長は……」

 タイラスに差し出された手を掴みロイは嬉しそうに笑う。

「己が身一つで戦う」か、そんなこと言えるのはあの怪物だけだろうな。

「ハハ……」

 あまりの非常識さに頬が引き攣る。
 まさか一度も強化をしなかった。

 "怖気付いたかい?"

 リュミールがわざとらしく聞いてくる。

「まさか」

 負けるわけにはいかないし、負ける気もしない。

 "へえ……"

 "マスターなら余裕ですよ!!"

「……」

 強く頷いてテントの外に見える男を見据える。

 胸の内はザワザワと落ち着かず、何かが居座っていた。

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