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63話 剣術大会予選②

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 広場に戻るがそこにさっきの少女の姿はなかった。

「あれ、いない?」

 もう一度辺りを見渡すがやはり少女はいない。

 もしかして魔石がないことに気づいて路地裏に戻ったのだろうか?だとしたら入れ違いになってしまった。

「お! レイルじゃないか。流石に早いな」

 申し訳ない気持ちになっていると前からタイラスの声が聞こえる。

「あれ? 先生、こんな所で何してるんですか?」

「何って、もう魔石を見つけたからここでゆっくりと戻ってくる奴らを待ってるんだよ」

 タイラスはポケットから形の歪な魔石を取り出す。

「え! もう見つけたんですか!?」

 さすがに早すぎはしないか?

 まだ始まって20分も経ってないだろうに……。

「何驚いてるんだよ? お前だってもう魔石を見つけたんだろ?」

 俺の握った手を指さして首を傾げる。

「これは違います……えっと、ここに明るい柑子色の短かい髪の女の子が来ませんでした? この魔石はその娘のなんです」

 ここにずっと居たのならタイラスは彼女を見ているはずだ。

「女の子? いや見てないな。というかわざわざその嬢ちゃんに魔石を返す必要は無いんじゃないか?」

 タイラスはどうやら見ていないようだ。

「いや、そういう訳には……」

「はあ……まあ別にお前がその魔石をどうしようが俺は知らんが、今の自分の立場も考えて行動しとけよ?」

 タイラスは呆れた顔をしながら受付の方へと戻っていく。

 自分の立場か……。
 確かにこのまま予選に合格した方が賢いんだろうけど何故かそれは自分の中で許せないんだよな。

「とりあえず魔石も探しつつ、女の子も探そう」

「本当にお人好しだなぁ~」

「マスターがそれでいいのでしたら……」

 まだ時間はあるがそれも有限だ早く済まそう。

 そう判断し、また広場を後にして商業区の方へと足を走らせる。

「…………あれがお前の生徒かタイラス?」

 受け付けの係員がいるテントの奥の方で座っていた一人のフードを深く被った男が尋ねる。

「ああ、あいつはかなり強いぞ」

 タイラスはフードを被った男の質問に答えながら隣に腰を下ろす。

「ハッ! あんな甘ちゃんに負ける気がしないな」

 フードの男は鼻で笑って組んでいた足を組み直す。

「まあそこら辺はまだまだだが、お前もレイルとやって見ればわかるさ、ベルゴ……」

「瞬殺してやるよ」

 ベルゴと呼ばれた男はそこで会話を切り、深く目を閉じ眠る。

 ・
 ・
 ・

 商業区、ここには以前アニスの服を買いに来たことがあった。

「久しぶりだなここも」

 騎神祭ということで通りにはたくさんの出店が立ち並び人の量も尋常ではない。

「本当に見つけるつもりかい?」

「くどいぞリュミール、もう決めたんだからお前も手伝ってくれ」

 アニスとリュミールはどうしても俺がさっきの女の子を探すことに納得がいかないようで先程からずっと、本当に?、本当に?としつこく聞いてくる。

「はあ……わかったよ、分かりましたよーだ」

 実際に見たわけでもないのに顔を膨らませて口をとんがらせているリュミールの顔が浮かぶ。

「ここにも魔石の反応はありません、マスター」

「みたいだな。もう少しじっくりと探索してみよう」

 アニスも口では文句を言っていないが嫌々探してる感が否めない。

 なんで二人は女の子一人探すくらいでこんなに渋っているのか、全く分からない。

「おい! アイツじゃないか!?」

「きっとそうだ! アイツから魔石の魔力を感じる!!」

 わんさかいる人の波を掻き分けながら前に進んでいると後ろから下手くそな尾行で俺を付けてくる男二人組のそんな声が聞こえてきた。

 俺の持ってる魔石を狙っているのだろう。

「あーあ、レイルがあのまま魔石を受け付けに見せに行けばこんな面倒なことにはならなかったのにねー」

 嫌味ったらしくリュミールが言ってくる。

「うるさい」

 それにしても下手くそな尾行だ、話し声も丸聞こえだし、これでよく魔石を横取りできると思い上がったものだ。

「まくか」

 面倒なので早々に姿を眩ませよう。
 気配遮断と魔力隠蔽のスキルを使って人混みに紛れる。

「あ! おい! お前が話しかけるからさっきの坊主を見失ったじゃねーか!!」

「なんだと! お前だってさっき『可愛い女がいる』とか言ってよそ見してただろうが!!」

「な、なにおう!!」

 俺を見失った男二人組はいきなり道のど真ん中で醜い責任のなすりつけあいを始めた。

「……」

 わざわざスキルを使ってまであのアホ二人組をまくことなどなかっと後悔しながらそそくさと先へと進む。

「だいたいおめーは…………!!」

「お前の方だって…………!!」

 だんだんと喧嘩は関係ない方向へと進んでいきそれを面白がって傍観する野次馬も増え始める。

 みんな何かの出し物かと勘違いしているのだろう。

「馬鹿だ……」

「間抜けですね……」

「ちょっと見ていかない?」

 そんなことをしてる暇はないのでさっさと先に進む。

 すると先の方に遠目からでも目立つ、艶やかな柑子色の髪が目に映る。

「あ!!」

 しかし、直ぐにそれは人混み中に紛れてしまい見失う。

 すぐにそれを追いかけるために少し強引に人混みを掻き分ける。

 通り過ぎる人達は皆、こちらのことを怪訝そうな顔で睨みつけてくるが今はそんなことを気にしている暇はない。

「マスター?」

 アニスとリュミールは分からなかったようでまだ状況をよくわかってない様子だ。

「クソ、やっぱりもういないよな……」

 柑子色の髪が見えた場所にすぐ行くがそこに女の子の姿はない。

 辺りを見渡してまだ近くにいないか探していると酒場や宿屋がある区画の方を歩く少女の姿を見つける。

「いた!」

 直ちにそれを追いかけるがそれもすぐに見失ってしまう。

 すると路地裏の方へと歩いていく少女の後ろ姿が見えてそれを追いかける。

 ……………。

 そんな見つけては見失って、見つけては見失ってを日が暮れまで繰り返した。

「……なんでチラッと見つかるのにすぐ見失うんだ?」

 肩で息をしながらそんな独り言をボヤく。

「不思議だよね~、幽霊の類か何かかな?」

 リュミールは完全に他人事、そんな巫山戯たことを言う。

「マスター、そろそろ時間が……」

 結局、魔石を探すついでと言っておいて最後は女の子を探すことに力を入れてしまった。

 陽は着々と辺りを真っ赤に染め始め、そろそろ広場の方に戻らないと間に合わなくなる。

「もう諦めなよ。君も今後がかかっているんだ、こんな所で躓いていられないだろ?」

「そうですよマスター!」

 二人の言いたいことは十分に分かる、時間が無いのもわかっている。

「うーーーん……」

 しばらく熟考して結論を出す。

「背に腹は変えられない、俺も今後がかかってる、あの娘には申し訳ないがこの魔石は頂くしかないか……」

 こんなにも時間をかけてギリギリまで探したというのにこんな結論に至るとは自分が情けなく思えてくる。

「はあ……なら最初から探さなければいいのに……」

「最もなご意見です」

「マスターは優しすぎるんです……」

「本当にごめんなさい」

 二人に大分止められたのに頑固に自分の意見を押し通して結果このザマだ。
 ほんとうに申し訳ない。

「まあいいや、さっさと広場に戻ろう。本当に時間が無くなりそうだ」

「早くしましょう!」

「はい……」

 しばらくは二人の言うことはしっかりと聞くようにしよう。そう心に誓う。

 ・
 ・
 ・

「さあ、最後の魔石を持ち帰ってきたのはまたもバルトメア学園の生徒だあ!!!」

 広場に戻って受け付けに魔石を見せに行くとそんな実況のような声が聞こえる。

 確認が済むとすぐに予選に合格した、魔石を見つけてきた八人の参加者が横一列に観客の前に立たされる。

 たくさんの人がこの国で一番強い者が決まる瞬間を見届けるために広場に集まる。観客席は超満員でおしくらまんじゅう状態、特別な観覧席にも国王やら大臣などの国の重役方、それとレイブン学長が豪華な椅子に腰を下ろしてこちらを見定めていた。

「今ここに立っている人達が今回の剣術大会、本戦へと歩みを進めた八人の戦士達です!!」

 受付のお姉さんが興奮気味の司会に観客もつられて「ウオォー!!!」と会場全体が盛り上がる。
 なんというかすごい迫力だ。

「それでは一人づつかるーくご紹介致しましょう! まずは皆さんお馴染み、王直属の精鋭部隊アルバーンの騎士団長をしていました! 今年も優勝をかっさらっていくのか!? 剣戟のタイラスさんです!!!」

 お姉さんの紹介でまたも観客は大きな歓声を上げる。

 紹介された本人のタイラスは気にした様子もなく、素っ気なく手を挙げて歓声に応える。

「さあ続きましてもお馴染みの方! この剣術大会、剣戟のタイラスに続く強さ!! 何度敗れても不死鳥のように甦る不屈の男、不死鳥のベルゴ!!!」

 またも激し歓声が巻き起こるが黒いフードを深く被った男は特に反応せずつまらなそうに突っ立っているだけだ。

「続きましてこの方! 今回二人いる女性の予選突破者の一人! その美貌でたくさんの男性を虜にして、たくさんの男性が彼女を我がものにしようとしました、しかし綺麗な薔薇には棘がある!! この女性、かなりやります……茨のナタリー!!!」

 いっそう強くなる男達の歓声に紫色の波のように流れる髪とおっとりした表情をした女性、ナタリーは投げキッスをして歓声に応える。

 勢いが止まることはなくお姉さんの司会はさらに熱が帯びる。

「続きましてはこの御方!! その甘美なお顔を見れば女性なら誰もが恋に落ちる!! 私も例外ではありません……。まだ24歳という若さでありながら精鋭部隊アルバーンの現騎士団長。白馬の騎士ロイ=ユリウス様!!!」

 次は女性観客の黄色い声が聞こえて、それに金色の綺麗な髪、悔しいが男でさえもカッコイイと思えてしまう美男子が礼儀正しく礼をする。

「さて今回は珍しく魔法士の方も参加、脳筋野郎には負けなぞ!と強い意志を感じます! 火、水、風、雷のなんと四属性を操る天才魔法士アラトリアム!!!」

 とんがり帽子に黒いローブ、それに木の杖と分かりやすいくらいの格好をした男、アラトリアムは上空にキラキラと爆散する綺麗な爆発魔法を放ち会場を沸かせる。

「さあお次で六人目、今年も未来の騎士を目指す少年少女たちが参加! まずは一人目! バルトメア学園最強と呼ばれ、既に精鋭部隊アルバーンへの入隊も決まっている、二本の剣を腰に携えた少年!!ヤーガン=ハロルド君!!」

 短く切りそろえられた黒髪と無骨で真面目そうな顔の学園の先輩、ヤーガンはロイと同じく綺麗な礼をする。

「さてお次の未来の騎士の卵は今回二人目の女性での予選突破者! この可愛らしい容姿からは想像がつかない強さを秘めた、バルトメア学園の一年生ラミア=アンネット!!!」

 聞きなれた名前が聞こえてきて少し安心する。
 ラミアはニコニコと作り笑いをしながら歓声に手を振る。

「さあ最後です! 時間ギリギリで魔石を見つけてきたこの幸運な少年もバルトメア学園の一年生! 今年のバルトメアの一年生は実力者が多い!? 事前情報が東の最果てにあるガリスの村から来たということしか分からない、なんとも喋ることないレイル君です!!」

 そして最後に俺の事が紹介される。

 一瞬変な間があって観客達の温かく優しい拍手が聞こえてくる。

 なんでみんな俺の時だけそんな微妙な反応なの?

 複雑な気持ちになりながらとりあえず礼をしておく。

 "アハハハハハハハハ!!!"

 リュミールが今ので大爆笑しているのは無視する。

「以上が今回の本戦進出者です! もう一度大きな拍手をお願いします!!」

 お姉さんの一言で会場から大きな拍手が巻き起こり、騎神祭一番人気の催し物、剣術大会本戦が始まった。

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