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62話 剣術大会予選

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こんなに人がごった返しているところに来るのは初めての経験だ。

 今日は騎神祭当日。
 たくさんの人がとても綺麗な夜の満月を見ようと朝早くから王都バリアントに足を運んでいた。

「すごいな……」

 王都の広い道を埋め尽くすたくさんの人達の迫力に目を奪われる。

「本当に凄いですね」

「あはは、気持ち悪いな~」

 アニスもこんなに人が集まるのを初めて見て驚いているようだ。

 ……二つ目の感想は無視しよう。

 学園の方は騎神祭と言うことで休み。生徒達もこの日を楽しみにしているようでチラホラと見覚えのある制服の姿がある。

 アニス達も今日は少しでもお祭りの雰囲気を肌で感じたいということで姿を出して一緒に回ることを許した。

「おいおい、いつまでも突っ立ってないで早く広場に行った方がいいんじゃないか?」

 道の端に寄って人波を眺めているとリュミールが手を引っ張ってくる。

「そうだな早く行くか」

 グイグイとリュミールに引っ張られながら人混みの中に入っていく。

「む……」

 するとアニスがリュミールが掴んでない方の服の裾を小さくギュッと摘んでくる。

「ん? どうしたアニス?」

 何かあったかのかと思ってアニスの方を見るが特に何も言わず下を向いたまま裾を掴んだままだ。

「あ、いえ、その……」

 心做しか顔が赤いような気がするけれどどうかしたのだろうか?

「……ああそうか、確かに面倒くさいしな、しっかり掴んでろよ?」

 少し考えて考えて納得する。

「はい……」

 これだけ人がいればはぐれちゃうかもしれないから俺の服を掴んではぐれないようにしてるのか。

「おいリュミールあんまり急ぐなよ」

 納得してゆっくりと中央広場へと向かう。

 ・
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 ・

 この中央広場に来るのも久しぶりだ。

 今日はこの広場で剣術大会が行われる。朝早くから大会に出るべくたくさんの人が広場で受け付けをして予選が始まるのをまっている。
 例年通りならば100人以上猛者たちが大会に参加して本選に進むために8人まで数が絞られる。

 この日だけのために特別に設けられる正方形の大きな石畳の足場。そこで決闘が行われる。
 加えて豪華な観覧席が用意されており、偉い人たちがあそこで本選から大会を見に来るらしい。

 朝に予選を行い、日が暮れる頃に本戦が始まる。
 毎年予選の競技は違うらしく、単純に何十人かの塊を作って乱戦をしたり、長距離マラソンをしたり、はたまたクジで決めたり色々あるみたいだ。

「一体何をするんだろうか?」

 受付を済ませて時間になるのを待つ。

「おはようレイル君」

 するとそこにラミアと赤髪の男の姿が見える。

「おはようラミア、ガーロットも」

「どうやら生きて帰ってこれたみたいだな」

 こうやってしっかりと話すのは久しぶりなので懐かしい感じだ。

「お前もな」

 アニスの方を見てガーロットは付け足す。

「ええ、久しぶりですねガーロット」

 アニスも軽く挨拶をする。

「森で見た時も感じたがかなり面白くなったようだな」

 ガーロットは嬉しそうに頬をつり上げる。

「もう受付は済ませたの?」

「ああ、今済ましてきたところだよ」

「そっか、それじゃあ私達はまだたがら受付してくるよ。本選で戦えるのを楽しみにしてるね」

 そう言ってラミアとガーロットは受付の方へと歩いていく。

「相棒ー!!」

 ラミアを見送ったかと思えば次はローグとマキアがこちらに向かってくる。

「おはよう二人とも、アッシュとアルコも久しぶりだな」

「いやぁ、お久しぶりですね旦那!」

「アニス、元気してた?」

「はい、久しぶりです!」

 ローグとマキアは出店の方にでも行っていたのか、手にはこんがり焼けた肉串がある。

「ローグは受付済ませてきたのか?」

「うん、もう済ませたよ」

「そっか、お互い本選に行けるといいな」

「うん、そうだね!」

 そんな事を話していると周りの視線が一点に集中していく。

「なんだ?」

 視線の方に流されて見てみると受付のお姉さんが看板に大きな張り紙が張り出す。

「皆さん大変長らくお待たせいたしました、これより王都バリアント騎神祭剣術大会の予選を開始致します!」

 魔法で拡張された声が広場に響く。

「それじゃあ皆さん頑張ってくださいね!」

「おう!」

「頑張るよマッキー!」

 大会に出ないマキアは観覧席の方へと小走りで走る。

「毎年予選の種目は違うものです、それもこの剣術大会の醍醐味! 今回皆さんに予選として行ってもらう競技はこちらです!」

 受付のお姉さんはポケットから小さなそこら辺に転がっている大きさの魔石を取り出す。

 しかしその魔石から感じる魔力はとても微弱なものだ。

「私が今手に持っている魔石と同じような物を城下町のどこかに8つ隠してあります。それを今回皆さんには夕刻までに見つけ出していただきます。この魔石が含む魔力量はとても少なく、魔力探知のスキルを使ったとしても探すのは至難の業。しかし魔力探知は基礎中の基礎のスキル、それを使いこなせなければ本選に出る資格などありません。ルールは街の物を壊したり、他のお祭りを楽しんでいる皆さんに迷惑をかけなければなんでも大丈夫! もしこれを破った人達は即刻失格なので悪しからず。それでは頑張って見つけてくださいね!」

 爛漫の笑顔でお姉さんは説明をする。

「単純だけど結構難しいなコレ」

「うん、あんな小さな魔力しか感じない小石程度の魔石をこの広い城下町に隠したって、かなり意地悪だね」

 お姉さんの説明をしっかりと聞きながらローグと内容を確認する。

 それに街の物を壊さなかったり他の人に迷惑をかけないってルールも大雑把としすぎて判定が難しい。
 絶対に一つの石に何十人との人が群がって奪いになる。色々と馬鹿に出来ないぞこの予選。

「今回はなんと約300名もの人がこの大会に出場してくれました、ありがとうございます! それでは怪我なく頑張ってくださいね! 予選を開始致します!!」

 受付のお姉さんが大きく手を挙げて開始の合図を出す。

 それを見て一斉に広場から約300人の大会参加者が城下町の中へと散り散りにちって行く。

「それじゃあ相棒! これからは敵どうし、正々堂々行こうね!」

「ああ、望むところだ!」

 そうして、俺達も別れて城下町の方へと走っていく。

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 ・

 予選開始から13分くらい経ったろうか、隠し物といえば路地裏のような気がして適当なところに入り魔石を探していた。

「結構いるな」

 俺と同じような考え方をしてる人が他にもいたらしく路地裏には数人ほど参加者が血走った目で木箱や樽、花瓶の中を探していた。

 魔力探知を最大限使用したとしても広場であれほど微弱にしか魔石の魔力は感じ取れなかったので、ある程度ヤマを張って探す必要があるだろう。

「感じないな……二人はどうだ?」

 アニスは剣、リュミールは石の中に戻して聞いてみる。

「いえ感じません。ここにはないでしょう」

「うん、アニスの言う通りだ。流石に半径20mに入ればあれだけ小さな魔力でも感じ取れるけどこれだけ広い街を探すとなると大変だね」

「それじゃあ移動だな」

 二人も感じ取れないようだ、さて次はどこに行こうか……。

「わっと!」

 そんな事を考えながら回れ右をして来た道を戻ろうとすると突然ドンッと何かにぶつかった衝撃で体がよろめく。

 幸い、俺は倒れなかったが相手の方は大丈夫だろうか?

「す、すみません!!」

 下から慌てた声が聞こえて見てみると俺と同じ歳くらいの女の子が尻餅をついて倒れていた。

「あ、ごめん大丈夫?」

 なんだか悪い気がしてきて、手を差し出しながら謝る。

「いえいえ! 悪いのはぶつかった私です、本当にごめんなさい!!」

 女の子は俺の手を掴んで勢いよく立ち上がる。

「ありがとうございます」

 立ち上がった女の子は綺麗な柑子色の髪を揺らしながら直ぐにお辞儀をしてお礼を言う。

 身長は俺より少し小さいくらい、短く切りそろえられた柑子色の髪はキラキラと光る陽射しを思わせる。よく見るとかなり可愛らしい女の子だ。

 "マスター……"

 おっと、一般的に見れば可愛い女の子だ。

「あの……ごめんなさい! 勝手にぶつかっといてあれだけど私急いでるの、それじゃあ!!」

 少女はもう一度頭を下げてどこかへとまた走っていく。

「……なんだったんだ?」

 嵐のような娘だったな。

「マスター、やっぱり……」

「お! 浮気? 浮気かい!?」

「いや、違うからね……」

 というか浮気ってなに?


 さて、俺も気を取り直して次の場所に……。

「ん?」

 切り替えて移動しようとすると魔力探知に反応がある。それはすぐに下、足元だ。

「これは?」

 そこには石ころぐらいの魔石が転がっていた。

「魔石ですね」

「魔石だね」

 二人も直ぐに気づいたようだ。

「もしかしてさっきの女の子の落とし物か?」

 というかこの魔石さっき広場で見た物と似ている。

「おっと、これは運がいいんじゃないかい?」

 リュミールの悪い笑みが目に浮かぶ。

「おいおい、それじゃあただのズルじゃないか」

「何を言ってるんだい、落としたあの小娘が悪いよ。それはもう拾った君のものだ」

 リュミールはこの魔石が予選の物だと分かり、それをそのまま横取りする気だ。

「そうは言ってもなあ……アニスはどう思う?」

「落としたあの女狐が悪いです。マスター、早くその魔石を持っていきましょう」

 おっとぉ?いつもなら「落し物は持ち主に返しましょう」とか言うアニスなのに今日はどうしたのだ?

「アニスまで……」

 うーん、二人はああ言ってるけどなんだかこのまま予選を合格しても気分も良くないしやっぱりあの娘に魔石を返そう。大会参加者なら多分、急いで走っていった場所は広場だろうし一旦広場に戻ろう。

 そう決めて、他の参加者にバレないように急いで広場の方へと走る。

「やっぱりマスターはあの女のことが気になるのですね……」

「なるほどね、レイルはああいうのが好みなのか」

 なんだか二人がとても変な勘違いをている。

「だから違うって、このまま本選に行けても気分良くないし出来れば自分の力で見つけたいだろ?」

「またそんなこと言って~」

「マスターはお優しいですから……」

 二人に理由を言ってもちゃんと聞いてくれる様子はない。

 あー、これは何言っても駄目なやつだ。

 諦めて何も言わず広場へと向かう。

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