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59話 久しぶりの森
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このラグラスの森に出たのはただの偶然だった。
「帰ってきたな」
「はい、そうですね」
「いやー懐かしいね~」
久しぶりの森に足を踏んで感慨深い気持ちになる。
昨夜の宴会から俺達は魔王の作った、精霊の森にあった魔導具・世渡りに似た魔導具で学園に近い所まで適当に転移してもらった。
「もう少しいればいい」と最後の最後まで引き留められたが俺にもやることがあるのでここまで送って貰った。
というかあの魔王はなんでも作ってしまうようでとても珍しく貴重な転移系の魔導具まで作れるとは思わなかった。
「もう一種の中毒か何かだよな……」
呆れてそんな言葉が出てくる。
「変なこと言ってないで学園に戻った方がいいんじゃない?」
リュミールに変なものを見るような顔をされるのは腹立たしいが言う通りだ。早く帰えろう。
そう思い、もう自分の庭かのように把握している森の中を進もうとすると一つの魔力の気配に気づく。
「アニス、これは……」
「はい、悪魔がこの森の中にいます」
アニスの肯定で確信する。
今までのアニスがいない状況での闇魔力の制御をする修行や晦冥の会得、アニスが治ってからの魔王の厳しい修行のお陰で俺の闇魔法やスキルは何段階も上のものへと昇華していった。
新しく覚えたり、強化されたスキルは沢山ある。
今までアニスに任せ切りだった魔力探知のスキルを俺も使えるようになりこの森一帯の全ての人や魔物、悪魔の魔力を感じ取れる。
これは常時発動しているのですぐに強い魔力などに反応できて便利だ。
「どうするんだい?」
「どうするって……この森にこんなに強い魔力を持った悪魔がいるはずなんてまず有り得ないし、万が一学園の生徒がこんな奴と鉢合わせになったら危険だ。魔力のする方へ行くに決まってるだろ」
「まあ、そうだよね~」
リュミールはそう言って精霊石の中に戻る。
「アニスも武器の姿になってくれ」
「かしこまりました」
アニスを変身させて足早に強い魔力反応がある場所へ向かう。
「新魔王軍って名乗ってる奴らには気をつけて」、ふと別れ際に魔王から言われた言葉が頭の中をよぎる。
「もしかすると新魔王軍って奴らかもしれないな……」
小さく疑問を呟き、森の奥へと駆けていく。
・
・
・
「ちっ……」
舌を打ち、出遅れたことに腹が立つ。
随分と懐かしく感じられる顔が揃っているが今は再会を喜んでいる場合ではない。
「笑うぐらい余裕があるなら君から死んでね?」
「今行くよ、レイル君」
悪魔の振り下ろした魔装機が艶やかな黒髪の少女の首元を斬り伏せるギリギリのところでそれをアニスで受け止める。
「一体どこに行くんだよ?」
突然現れた俺を見て少女は口を開けて間抜けな顔をする。
こんな顔初めて見たな。
可笑しくて思わず笑ってしまう。
「は? 誰だよ君?」
目の前の褐色肌の悪魔は良いところで水を刺され不満そうにこちらを見てくる。
「えーと……この学園の生徒です?」
果たして俺の名前はまだこの学園に有るのか?不明だがとりあえず首をかしげながら答えてみる。
「あい……ぼう……?」
「レイルさん……?」
なんだよローグもマキアも幽霊でも見たような顔して、そんなに俺がここに居るのおかしいか?
「久しぶり」
空いてる方の手を挙げて二人に再会の挨拶をする。
「お前巫山戯てるのか? いい度胸してるな!!」
「おっと」
悪魔は自分の攻撃が軽々と受け止められたことに腹を立てたのか、俺に怒りを露わにする。
そのまま悪魔は力強く重なり合った剣を弾く。
"え?今のやり取りの中で怒る要素あった?"
"いえ、私にはさっぱり……"
"適当にあしらわれて怒ったんじゃないの?"
思わず二人に聞いてそんな答えが帰ってくる。
……なるほど、お相手さんはどうやら怒りやすい性格のようだ。
「私は魔王レギルギア様から名前を授かり、魔装機を与えられた四天王が1人、ガラム=インディゴアだぞ!!」
右手に持った紫紺の魔装機を天高く上げて悪魔は自己紹介をしてくれる。
ああなるほど、名持ちだからこんなにプライドが高いのか。
基本的に名持ちの魔物は態度が大きいと魔王が言っていた、少しはトシミツの謙虚さを見習った方がいいと思う。
「その四天王が1人のガラムさんはこんな森に何しに来たの?」
「ふん! どうせ死ぬ行くのだ、冥土の土産として教えてやろう。私は魔王様からの命により、この世界にある全ての魔装機を回収しているのだ!」
魔装機の回収?
「そんなことして魔装機を何に使う気だよ?」
もう少し深く探るために質問をする。
「ふん! 決まっているだろうが、私達は魔装機の強大な力を使って貴様ら人間に復讐するのだ!!」
悪魔ガラムは天を見上げ高々と笑い声をあげる。
ふむ、色々なところで新魔王軍とか言う名前を聞いてきたが奴らの目的がまさか人間の復讐とはな……てかヤジマさん反旗翻されてない?反逆されてない?
まあとりあえず大まかなことはわかった。
「さて、無駄話はここら辺にしてそろそろ私を侮辱したツケを払って貰おうか!!」
頭の中で状況を整理しているとガラムが魔力を剥き出しにしてこちらを睨みつけてくる。
「に、逃げてレイル君! 私たちじゃあアイツに勝てないよ!!」
ラミアが俺の服の裾を必死に引っ張る。
「そうだな、ラミア達は安全な所に先に逃げてくれ。俺はコイツを倒してから追うから」
「な、何言ってるんだよ相棒!? コイツはほかの魔物と比べ物にならないくらいに強い! 一緒に逃げよう!!」
「そ、そうですよレイルさん!!」
ローグとマキアも必死に俺の事を止めようとしてくる。
「そりゃあまあそこらへんの魔物よりは強いでしょ? 名持ちだし、なんでか魔装機持ってるし……てか三人とも俺の事全く信じてくれてないのな……」
なんだか悲しくなってくる。
「当たり前じゃない! だってあなたアニスちゃんは………」
そこでラミアは目を大きく開いて口を止める。
「アニスがどうしたって? まあいいか、逃げないなら巻き込まれないよに離れててくれ」
ラミアとローグを後ろに下げてガラムを見据える。
「まずは一番私をコケにしてくれた貴様からだな?」
「ああ、どうぞお手柔らかに頼むよ」
アニスを中段に構えて悪魔の方を向く。
「さっきはよく私の攻撃を受け止めたが、ただの偶然だったのかな? 今の君から魔力を全く感じない」
ガラムは先程の攻撃よりも多くの魔力を剣に注ぎ込む。
「いや、まあ、師匠の教えで「力はひけらかさないのが美徳だ」と教わっていまして……」
「なんだいそれは? 君の師匠は馬鹿なのかな? 力は示さないと意味が無いじゃないか!!」
まあ言う通りといえば言う通りだし、あの悪魔はある種の馬鹿だと思う。
「まあいい、もう黙って死ね!!」
鋭く絡みつくように迫る魔装機は大量の魔力を帯びて今にも爆発しそうだ。
「アニス」
「はい!」
こちらもガラムの紫紺の魔装機と同じくらいの魔力量を纏ってそのままアニスをぶつける。
瞬間、巨大な風船が割れたような破裂音がして、お互いの魔力が消し飛ぶ。
「何をした貴様!?」
ガラムは自分の攻撃が二度も防がれるとは思っていなかったのだろう、困惑した様子だ。
「何って……ただ魔力反発を起こしただけだろ?」
「魔力……反応……?」
どうやらこの悪魔、魔力反発を知らないのか?
まあいい、わざわざ教えてやる必要も無いしさっさと終わらせよう。
「リュミール」
「はいはーい」
光魔力を使いビー玉ぐらいの小さな光弾をガラムの前に飛ばす。
「次はなんだ!!」
ガラムの目が開ききった瞬間を狙って光弾を炸裂させる。
空気の乾いた音と共にガラムの目の中に大量の光が襲いかかる。
「め、目がっ!!」
両目を必死に抑えてふらつくガラムに間髪入れずに追撃をする。
「一本貰うぞ……」
引き金を引いて音速を超える速さで剣を振動させる。奴の左の肩口に向かって銃剣を袈裟懸けに斬り降ろす。
生き物、ましてや強化魔法のかかっている悪魔を斬り伏せるのは簡単な話ではない。
しかし、超振動の加わった剣の一振はまるでハサミで紙を切るのと何ら変わらない滑らかさでそれを成す。
「あああぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
目の次は肩を抑えて傷口から大量に吹きこぼれる黒い血を止めようと必死だ。
もう奴に戦う意思など微塵も感じない。
だが、ここで終わるつもりは毛頭ない。
「ひ!!? く、来るな!!!」
とどめを刺すべく悪魔に最後の一振をくれてやろうとした所、背中から羽を出して空高く逃げてしまう。
「まだ飛ぶ元気はあったか……」
あんなに血を出してるのに凄いな。
「ぼさっとしてると逃げられるぞ?」
「分かってる。アニス、二割でいけそうか?」
「問題ありません」
「それじゃあ二割で」
剣先を空に向けて悪魔に狙いを定める。
「魔弾装填……いけます」
アニスからの合図と共に引き金をもう一度ひく。
刹那、耳の中に突き刺さる撃鉄の弾ける音と鼻の奥を漂う火薬の焦げる匂いがして魔力でできた弾丸が一筋の光となり悪魔に襲いかかる。
弾丸は真っ直ぐに悪魔の脳天を貫き、躱すことも出来なければ逃げることもできずに空の上で死ぬ。
そのまま自由落下した悪魔の死体は握り潰したトマトのように無残な姿になり消え去り、紫紺の魔装機も白い灰になって無くなる。
「レイル……君?」
完全にガラムが消滅したのを確認してラミアたちの元へ行く。
「他に誰だと思う?」
「その武器……それに今の……」
目の前で怒ったことにイマイチ実感がわかないのだろう、少し間抜け面だ。
まあ確かに俺も新しくなったアニスを使い始めた頃は驚くことばかりだったしな~。
それももう一ヶ月も前の話だ。
「まあ、色々と聞きたいこととか話したいことはあるけどとりあえずまずは……」
なんだか改まって言うのは照れ臭いが、何かと迷惑とか心配をかけたと思うし一言。
「ただいま」
………やはり小っ恥ずかしいな。
「帰ってきたな」
「はい、そうですね」
「いやー懐かしいね~」
久しぶりの森に足を踏んで感慨深い気持ちになる。
昨夜の宴会から俺達は魔王の作った、精霊の森にあった魔導具・世渡りに似た魔導具で学園に近い所まで適当に転移してもらった。
「もう少しいればいい」と最後の最後まで引き留められたが俺にもやることがあるのでここまで送って貰った。
というかあの魔王はなんでも作ってしまうようでとても珍しく貴重な転移系の魔導具まで作れるとは思わなかった。
「もう一種の中毒か何かだよな……」
呆れてそんな言葉が出てくる。
「変なこと言ってないで学園に戻った方がいいんじゃない?」
リュミールに変なものを見るような顔をされるのは腹立たしいが言う通りだ。早く帰えろう。
そう思い、もう自分の庭かのように把握している森の中を進もうとすると一つの魔力の気配に気づく。
「アニス、これは……」
「はい、悪魔がこの森の中にいます」
アニスの肯定で確信する。
今までのアニスがいない状況での闇魔力の制御をする修行や晦冥の会得、アニスが治ってからの魔王の厳しい修行のお陰で俺の闇魔法やスキルは何段階も上のものへと昇華していった。
新しく覚えたり、強化されたスキルは沢山ある。
今までアニスに任せ切りだった魔力探知のスキルを俺も使えるようになりこの森一帯の全ての人や魔物、悪魔の魔力を感じ取れる。
これは常時発動しているのですぐに強い魔力などに反応できて便利だ。
「どうするんだい?」
「どうするって……この森にこんなに強い魔力を持った悪魔がいるはずなんてまず有り得ないし、万が一学園の生徒がこんな奴と鉢合わせになったら危険だ。魔力のする方へ行くに決まってるだろ」
「まあ、そうだよね~」
リュミールはそう言って精霊石の中に戻る。
「アニスも武器の姿になってくれ」
「かしこまりました」
アニスを変身させて足早に強い魔力反応がある場所へ向かう。
「新魔王軍って名乗ってる奴らには気をつけて」、ふと別れ際に魔王から言われた言葉が頭の中をよぎる。
「もしかすると新魔王軍って奴らかもしれないな……」
小さく疑問を呟き、森の奥へと駆けていく。
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「ちっ……」
舌を打ち、出遅れたことに腹が立つ。
随分と懐かしく感じられる顔が揃っているが今は再会を喜んでいる場合ではない。
「笑うぐらい余裕があるなら君から死んでね?」
「今行くよ、レイル君」
悪魔の振り下ろした魔装機が艶やかな黒髪の少女の首元を斬り伏せるギリギリのところでそれをアニスで受け止める。
「一体どこに行くんだよ?」
突然現れた俺を見て少女は口を開けて間抜けな顔をする。
こんな顔初めて見たな。
可笑しくて思わず笑ってしまう。
「は? 誰だよ君?」
目の前の褐色肌の悪魔は良いところで水を刺され不満そうにこちらを見てくる。
「えーと……この学園の生徒です?」
果たして俺の名前はまだこの学園に有るのか?不明だがとりあえず首をかしげながら答えてみる。
「あい……ぼう……?」
「レイルさん……?」
なんだよローグもマキアも幽霊でも見たような顔して、そんなに俺がここに居るのおかしいか?
「久しぶり」
空いてる方の手を挙げて二人に再会の挨拶をする。
「お前巫山戯てるのか? いい度胸してるな!!」
「おっと」
悪魔は自分の攻撃が軽々と受け止められたことに腹を立てたのか、俺に怒りを露わにする。
そのまま悪魔は力強く重なり合った剣を弾く。
"え?今のやり取りの中で怒る要素あった?"
"いえ、私にはさっぱり……"
"適当にあしらわれて怒ったんじゃないの?"
思わず二人に聞いてそんな答えが帰ってくる。
……なるほど、お相手さんはどうやら怒りやすい性格のようだ。
「私は魔王レギルギア様から名前を授かり、魔装機を与えられた四天王が1人、ガラム=インディゴアだぞ!!」
右手に持った紫紺の魔装機を天高く上げて悪魔は自己紹介をしてくれる。
ああなるほど、名持ちだからこんなにプライドが高いのか。
基本的に名持ちの魔物は態度が大きいと魔王が言っていた、少しはトシミツの謙虚さを見習った方がいいと思う。
「その四天王が1人のガラムさんはこんな森に何しに来たの?」
「ふん! どうせ死ぬ行くのだ、冥土の土産として教えてやろう。私は魔王様からの命により、この世界にある全ての魔装機を回収しているのだ!」
魔装機の回収?
「そんなことして魔装機を何に使う気だよ?」
もう少し深く探るために質問をする。
「ふん! 決まっているだろうが、私達は魔装機の強大な力を使って貴様ら人間に復讐するのだ!!」
悪魔ガラムは天を見上げ高々と笑い声をあげる。
ふむ、色々なところで新魔王軍とか言う名前を聞いてきたが奴らの目的がまさか人間の復讐とはな……てかヤジマさん反旗翻されてない?反逆されてない?
まあとりあえず大まかなことはわかった。
「さて、無駄話はここら辺にしてそろそろ私を侮辱したツケを払って貰おうか!!」
頭の中で状況を整理しているとガラムが魔力を剥き出しにしてこちらを睨みつけてくる。
「に、逃げてレイル君! 私たちじゃあアイツに勝てないよ!!」
ラミアが俺の服の裾を必死に引っ張る。
「そうだな、ラミア達は安全な所に先に逃げてくれ。俺はコイツを倒してから追うから」
「な、何言ってるんだよ相棒!? コイツはほかの魔物と比べ物にならないくらいに強い! 一緒に逃げよう!!」
「そ、そうですよレイルさん!!」
ローグとマキアも必死に俺の事を止めようとしてくる。
「そりゃあまあそこらへんの魔物よりは強いでしょ? 名持ちだし、なんでか魔装機持ってるし……てか三人とも俺の事全く信じてくれてないのな……」
なんだか悲しくなってくる。
「当たり前じゃない! だってあなたアニスちゃんは………」
そこでラミアは目を大きく開いて口を止める。
「アニスがどうしたって? まあいいか、逃げないなら巻き込まれないよに離れててくれ」
ラミアとローグを後ろに下げてガラムを見据える。
「まずは一番私をコケにしてくれた貴様からだな?」
「ああ、どうぞお手柔らかに頼むよ」
アニスを中段に構えて悪魔の方を向く。
「さっきはよく私の攻撃を受け止めたが、ただの偶然だったのかな? 今の君から魔力を全く感じない」
ガラムは先程の攻撃よりも多くの魔力を剣に注ぎ込む。
「いや、まあ、師匠の教えで「力はひけらかさないのが美徳だ」と教わっていまして……」
「なんだいそれは? 君の師匠は馬鹿なのかな? 力は示さないと意味が無いじゃないか!!」
まあ言う通りといえば言う通りだし、あの悪魔はある種の馬鹿だと思う。
「まあいい、もう黙って死ね!!」
鋭く絡みつくように迫る魔装機は大量の魔力を帯びて今にも爆発しそうだ。
「アニス」
「はい!」
こちらもガラムの紫紺の魔装機と同じくらいの魔力量を纏ってそのままアニスをぶつける。
瞬間、巨大な風船が割れたような破裂音がして、お互いの魔力が消し飛ぶ。
「何をした貴様!?」
ガラムは自分の攻撃が二度も防がれるとは思っていなかったのだろう、困惑した様子だ。
「何って……ただ魔力反発を起こしただけだろ?」
「魔力……反応……?」
どうやらこの悪魔、魔力反発を知らないのか?
まあいい、わざわざ教えてやる必要も無いしさっさと終わらせよう。
「リュミール」
「はいはーい」
光魔力を使いビー玉ぐらいの小さな光弾をガラムの前に飛ばす。
「次はなんだ!!」
ガラムの目が開ききった瞬間を狙って光弾を炸裂させる。
空気の乾いた音と共にガラムの目の中に大量の光が襲いかかる。
「め、目がっ!!」
両目を必死に抑えてふらつくガラムに間髪入れずに追撃をする。
「一本貰うぞ……」
引き金を引いて音速を超える速さで剣を振動させる。奴の左の肩口に向かって銃剣を袈裟懸けに斬り降ろす。
生き物、ましてや強化魔法のかかっている悪魔を斬り伏せるのは簡単な話ではない。
しかし、超振動の加わった剣の一振はまるでハサミで紙を切るのと何ら変わらない滑らかさでそれを成す。
「あああぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
目の次は肩を抑えて傷口から大量に吹きこぼれる黒い血を止めようと必死だ。
もう奴に戦う意思など微塵も感じない。
だが、ここで終わるつもりは毛頭ない。
「ひ!!? く、来るな!!!」
とどめを刺すべく悪魔に最後の一振をくれてやろうとした所、背中から羽を出して空高く逃げてしまう。
「まだ飛ぶ元気はあったか……」
あんなに血を出してるのに凄いな。
「ぼさっとしてると逃げられるぞ?」
「分かってる。アニス、二割でいけそうか?」
「問題ありません」
「それじゃあ二割で」
剣先を空に向けて悪魔に狙いを定める。
「魔弾装填……いけます」
アニスからの合図と共に引き金をもう一度ひく。
刹那、耳の中に突き刺さる撃鉄の弾ける音と鼻の奥を漂う火薬の焦げる匂いがして魔力でできた弾丸が一筋の光となり悪魔に襲いかかる。
弾丸は真っ直ぐに悪魔の脳天を貫き、躱すことも出来なければ逃げることもできずに空の上で死ぬ。
そのまま自由落下した悪魔の死体は握り潰したトマトのように無残な姿になり消え去り、紫紺の魔装機も白い灰になって無くなる。
「レイル……君?」
完全にガラムが消滅したのを確認してラミアたちの元へ行く。
「他に誰だと思う?」
「その武器……それに今の……」
目の前で怒ったことにイマイチ実感がわかないのだろう、少し間抜け面だ。
まあ確かに俺も新しくなったアニスを使い始めた頃は驚くことばかりだったしな~。
それももう一ヶ月も前の話だ。
「まあ、色々と聞きたいこととか話したいことはあるけどとりあえずまずは……」
なんだか改まって言うのは照れ臭いが、何かと迷惑とか心配をかけたと思うし一言。
「ただいま」
………やはり小っ恥ずかしいな。
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