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50話 頑張れ、トシミツ君
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「なあ、本当にトシミツを置いてきてよかったのか?流石にあの数をホブゴブリン一匹ってのは無理があるような、何倍も格上のキングデーモンもいるし……」
火山を駆け上がりながら、前を先行するネメアに聞いてみる。
「まあ普通はそう思うよね、でも安心していいよ。ただのホブゴブリンが魔王様の直属の部下なわけがないでしょ?」
「それはずっと気になっていたけど……」
そう、トシミツに話を聞いたところあの魔王城を自由に出入りできるゴブリンはトシミツだけらしく、普通のゴブリンやホブゴブリンは魔王城に近づくことさえ許されていないという。
それほどまでに魔王に気に入られているのだから、何かしらあるとは思っていたが……。
「それに私、トシミツに無茶なことは頼んだことないの。今日はアレも持ってきているしきっと完勝ね」
トシミツが負けることなど微塵も思っていないようで、走る速度を緩めずネメアは真っ直ぐと先を見つめる。
「アレ?」
一体なんのことだろうか、何かトシミツにはあのデーモン達を倒す秘策でもあるのか……。
・
・
・
「ハッハッハッ! 時間を稼ぐだって? 黙って聞いていれば随分と私たちを馬鹿にしてくれたなホブゴブリン風情が……」
キングデーモンは目の前のホブゴブリンの言葉に怒りを覚え、拳を強く握る。
後ろでは奴の部下のデーモン達が乗っかるようにして野次を飛ばしている。
「「馬鹿にした」か、お前もさっきのデーモンと同じく敵を見定める力がないのですかな?」
ホブゴブリンは1匹取り残されたことで焦った様子もなく、デーモンの王を見定める。
「何を……!!」
「はあ、こんな簡単な挑発に乗る時点で力量は見えましたな。群れの長たるもの、冷静な思考が必要だと思いますが……」
ホブゴブリンは自分よりも数段も格上の敵を鼻で笑って、さらに発破をかける。
「どうやら早く死にたいらしいな。いいだろう、お望み通り八つ裂きにしてくれよう。行け!私の最強の兵士達よ!!!」
王の号令と共に後ろにいたデーモン達が襲いかかってくる。
「そちらもお急ぎのご様子で……」
ホブゴブリンは焦らず腰にたずさえた武器をまだ抜かず、手にかけて少し腰を落とす。
ホブゴブリンが腰に携えた武器は以前人間に向けた片手剣ではなく、素朴な古刀だった。
「俺が一番乗りだぁぁああ!!」
「いや、俺が殺してやるぜぇええ!!!」
「この雑魚ゴブリンがぁぁああ!!」
数にしてざっと三十ほどのデーモンが一斉に襲い掛かってくる。
王は全部のデーモンをホブゴブリンごときにぶつける必要は無いと判断したのだろう。
しかし、その判断は間違いだった。
「温いな」
全方向から取り囲むようにしてホブゴブリンに襲いかかっていったデーモン達は一瞬にして激しく黒い血を吹き散らしながら細かい肉の塊となっていく。
「な………」
デーモンの王は目の前の有り得るはずのない光景に一度思考が止まる。
ホブゴブリンは先程と体制を変えず、その場に突っ立ている。
……何が起きた?あのホブゴブリンは一体何をしたといのか?確実に今の攻撃で終わりだと思っていたのに何がどうなったのだ?
考えれば考えるほど王の謎は解けることなくどんどんと頭の中で深く渦巻いていく。
「何を驚くことがある。今、目の前に相手にしている敵はただのゴブリンでは無いぞ?」
古刀にベッタリと着いた黒い血を払いながらホブゴブリンはデーモンの王に向き直る。
「クソ、今のは何かの間違いだ! 怯むことはない、行け!兵士達よ!!」
もう王に冷静な判断などは無理な話だった。彼に狂った歯車を止める手立てはもうない。
残り全てのデーモン達がホブゴブリンに襲いかかっていく。
デーモン達は目の前のホブゴブリンを蹂躙するのではなく、死に物狂いで殺すべく、各々が持てる最大の力を持って向かってくる。
「……馬鹿め」
少し悲しそうに呟いてゴブリンは古刀を抜刀する。
刹那、目の前で起こったことは斬るという動作を省いて、デーモン達が斬られた後、先程とほぼ同じ光景が広がる。
「な、なんなんだ貴様は………。どうしてホブゴブリンごときにそのようなことが出来るんだ!!?」
一回目は目の錯覚だと信じたかったが同じことが二度起こるということはそれは間違いなく現実なのだとデーモンキングは否応なしに認めるしかなかった。
ホブゴブリンはあの短い隙で息ひとつつかず、自分を取り囲んだ全てのデーモンを木っ端微塵に斬り伏せたのだ。
それは一介のゴブリンごときにできる芸当ではない。
やつは何かある……。
「そう言えばまだ自己紹介をしていなかったな。私は魔王軍師団長、トシミツ。まあ、師団長と言っても名ばかりで自由気ままにその日暮らしのただのホブゴブリンだ」
「やはり名持ちか貴様!!」
デーモンの王は相手が悪すぎた。
魔物にはそれぞれ総称の名前があるが、自分よりも魔力の高い知性のある魔物や悪魔に固有の名前を付けられた魔物のことを名持ちと言う。
名前を貰った魔物はほかの同種の魔物より強い魔力と力を手に入れ、一つの別の魔物として進化する。力の伸び方は名付け親である魔物や悪魔の強さによって違ってくる。
キングデーモンは魔物の中でもかなり上の方に位置する強さだ。ホブゴブリンなど足下にも及ばない、羽虫程度の存在だがそれが名持ちだと話は変わってくる。
名持ちとは開き切った差を埋めるには大きすぎるほどの力を与えるのだ。
「クソっ、馬鹿か私は……」
今更後悔したところでもう遅い。
王の兵士たちはほんの数秒の出来事で全滅、残ったものは己が身一つ。
…………寒くて堪らない。
「お前は良き王だったのだろう。仲間思いなのもよろしい事だが……戦場ではなんの利益も産まぬ無能の王だな。優しさだけで生きていけるほどお前がいる場所は甘くないという事だ」
ホブゴブリンはデーモン達の死体を踏みつけながら王にゆっくりと近づいていく。
体はこの熱気を暑いと感じているはずなのにどうしてか、体の震えが止まらない。
体はこの熱気の暑さで汗をかいているというのに背筋が氷ったように震える。
何なんだこの感覚は……?
あまり経験のないこの感情にデーモンの王は戸惑う。
「どうしたんだ、そんなに震えて?」
目の前のホブゴブリンが一歩、また一歩と自分に近づいてくる度に体の震えは大きくなっていく。
何なんだこの感覚は?
どれだけ考えてもその答えは出ず、腹が立ってくる。
デーモンキングの歪に尖った耳にはホブゴブリンの足が地面を擦る音が嫌に木霊する。
何なんだこれは?
体は寒くて堪らない。
「仮にもデーモンの王だろうに……。何だその怯え切った顔は?」
立ち尽くすデーモンの前に着いて、ホブゴブリンは呆れて言う。
……………怯えている?
この私が?全てのデーモンを従えるこの私がただのホブゴブリンに怯えているというのか………?
……いや、ただのホブゴブリンではなかったか、コイツは名持ちの魔物、私より遥かに強い格上の敵。
そうか、私はこのゴブリンに恐怖を感じていたのか。
随分と長いことそんなものとは無縁だったから忘れていた感覚だ。
そう理解すると自然と体の震えは収まっていく。
「フッフッフッフッ………」
腹の底から笑いが止まらなくなってくる。
「……?」
「ハハハハハハハハハハハッ!!」
「いきなり笑って……気でも狂ったか?」
名持ちのホブゴブリンは不振な顔をせざるを得ない。
「ああ、そうだな狂ったように嬉しいよ。私が本気を出せる好敵手が現れたのだ、武者震いもすれば笑いたくもなってくるさ!」
否、デーモンの王は絶望していた。
武者震いもしていなければ嬉しくて笑っているのではない。
本当に最後まで愚か者だ。
死を覚悟した王は見え透いた虚勢を張るしかなかった。
「おまえ……」
当然、ゴブリンも今の言動がはったりだと分かり切っている
「いや、何も言うまい。一度張ったのだ、最後までその虚勢を張り続けろ」
ホブゴブリンは古刀に手を掛けて抜刀する。
「……………っ!!!!」
煌めく刃を見た瞬間、王の虚勢は崩れそうになる。
嫌だ。
痛いのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。居なくなるのは嫌だ。
でも駄目だ、私はここで死ぬ。
もう少しで私は仲間のところへ連れていかれる。
体が震えそうになるが何とか抑え込む。
「すまない」
ホブゴブリンは慈悲として一振でデーモンの王を殺すつもりだ。
振り上げられた古刀は一層煌めき、その光が強く目に刺さる。
迷いのない軌道で振り下ろされた古刀はデーモンキングの頭へと吸い込まれる。
死ぬのは嫌だ。
だが、自分は確実に死ぬ。
……しかし、このまま為す術なく殺されるのは無惨に死んで行った私の兵士に示しがつかない。
それだけは駄目だ!
ザクっ、とホブゴブリンが想像していたものとは違う感触が古刀から伝わってくる。
「……そうこなくては」
少し嬉しそうに笑って、デーモンを見遣る。そこには右側の腕を切り取られたデーモンの王が朦朧とたっていた。
「このまま終わってなるものか!!!」
今にも途切れそうな意識の中、もう片方の腕を思いっきり振ってホブゴブリンに反撃をする。
………が。名持ちのホブゴブリンにとってデーモンの攻撃は赤子が駄々を捏ねたようなもの、すぐさま体を後ろに下げて難なく躱す。
所詮こんなものか。
一度は必殺の一撃を躱され、喜びはしたが潮時だろう。
「締めだ……」
これ以上長引かせる必要なく、ホブゴブリンの古刀がデーモンキングの胸部を一直線に貫く。
完全に殺した。
そうホブゴブリンは確信し、古刀を引き抜こうとするがそれは叶わず、凄まじい力で体が締め付けられる。
「な、なんだ!?」
自分の体を見るとそこには一本の魔物の腕が絡みつくように自分の体を離すまいと締め付けてくる。
これで腕は使えなくなったがコレでいい、私にはまだ口がある。
「ハハ……これで逃がさない………」
デーモンの王は新底嬉しそうに笑う。
「お前、まさか………」
ゴブリンは何かに気づくがひとつ遅い。
「我が爆炎は全てを破壊する………爆ぜろ、紅き炎!!!」
デーモンの王は魔法を詠唱し終えるとあたりの空気が火花を散らし始める。
それは炎系最強の自爆魔法。
「………見事」
全ての敬意を持ってホブゴブリンはデーモンの王に小さく言葉を送る。
瞬間、大きな音を立てて、二匹の魔物を覆うように炎が爆ぜた。
火山を駆け上がりながら、前を先行するネメアに聞いてみる。
「まあ普通はそう思うよね、でも安心していいよ。ただのホブゴブリンが魔王様の直属の部下なわけがないでしょ?」
「それはずっと気になっていたけど……」
そう、トシミツに話を聞いたところあの魔王城を自由に出入りできるゴブリンはトシミツだけらしく、普通のゴブリンやホブゴブリンは魔王城に近づくことさえ許されていないという。
それほどまでに魔王に気に入られているのだから、何かしらあるとは思っていたが……。
「それに私、トシミツに無茶なことは頼んだことないの。今日はアレも持ってきているしきっと完勝ね」
トシミツが負けることなど微塵も思っていないようで、走る速度を緩めずネメアは真っ直ぐと先を見つめる。
「アレ?」
一体なんのことだろうか、何かトシミツにはあのデーモン達を倒す秘策でもあるのか……。
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「ハッハッハッ! 時間を稼ぐだって? 黙って聞いていれば随分と私たちを馬鹿にしてくれたなホブゴブリン風情が……」
キングデーモンは目の前のホブゴブリンの言葉に怒りを覚え、拳を強く握る。
後ろでは奴の部下のデーモン達が乗っかるようにして野次を飛ばしている。
「「馬鹿にした」か、お前もさっきのデーモンと同じく敵を見定める力がないのですかな?」
ホブゴブリンは1匹取り残されたことで焦った様子もなく、デーモンの王を見定める。
「何を……!!」
「はあ、こんな簡単な挑発に乗る時点で力量は見えましたな。群れの長たるもの、冷静な思考が必要だと思いますが……」
ホブゴブリンは自分よりも数段も格上の敵を鼻で笑って、さらに発破をかける。
「どうやら早く死にたいらしいな。いいだろう、お望み通り八つ裂きにしてくれよう。行け!私の最強の兵士達よ!!!」
王の号令と共に後ろにいたデーモン達が襲いかかってくる。
「そちらもお急ぎのご様子で……」
ホブゴブリンは焦らず腰にたずさえた武器をまだ抜かず、手にかけて少し腰を落とす。
ホブゴブリンが腰に携えた武器は以前人間に向けた片手剣ではなく、素朴な古刀だった。
「俺が一番乗りだぁぁああ!!」
「いや、俺が殺してやるぜぇええ!!!」
「この雑魚ゴブリンがぁぁああ!!」
数にしてざっと三十ほどのデーモンが一斉に襲い掛かってくる。
王は全部のデーモンをホブゴブリンごときにぶつける必要は無いと判断したのだろう。
しかし、その判断は間違いだった。
「温いな」
全方向から取り囲むようにしてホブゴブリンに襲いかかっていったデーモン達は一瞬にして激しく黒い血を吹き散らしながら細かい肉の塊となっていく。
「な………」
デーモンの王は目の前の有り得るはずのない光景に一度思考が止まる。
ホブゴブリンは先程と体制を変えず、その場に突っ立ている。
……何が起きた?あのホブゴブリンは一体何をしたといのか?確実に今の攻撃で終わりだと思っていたのに何がどうなったのだ?
考えれば考えるほど王の謎は解けることなくどんどんと頭の中で深く渦巻いていく。
「何を驚くことがある。今、目の前に相手にしている敵はただのゴブリンでは無いぞ?」
古刀にベッタリと着いた黒い血を払いながらホブゴブリンはデーモンの王に向き直る。
「クソ、今のは何かの間違いだ! 怯むことはない、行け!兵士達よ!!」
もう王に冷静な判断などは無理な話だった。彼に狂った歯車を止める手立てはもうない。
残り全てのデーモン達がホブゴブリンに襲いかかっていく。
デーモン達は目の前のホブゴブリンを蹂躙するのではなく、死に物狂いで殺すべく、各々が持てる最大の力を持って向かってくる。
「……馬鹿め」
少し悲しそうに呟いてゴブリンは古刀を抜刀する。
刹那、目の前で起こったことは斬るという動作を省いて、デーモン達が斬られた後、先程とほぼ同じ光景が広がる。
「な、なんなんだ貴様は………。どうしてホブゴブリンごときにそのようなことが出来るんだ!!?」
一回目は目の錯覚だと信じたかったが同じことが二度起こるということはそれは間違いなく現実なのだとデーモンキングは否応なしに認めるしかなかった。
ホブゴブリンはあの短い隙で息ひとつつかず、自分を取り囲んだ全てのデーモンを木っ端微塵に斬り伏せたのだ。
それは一介のゴブリンごときにできる芸当ではない。
やつは何かある……。
「そう言えばまだ自己紹介をしていなかったな。私は魔王軍師団長、トシミツ。まあ、師団長と言っても名ばかりで自由気ままにその日暮らしのただのホブゴブリンだ」
「やはり名持ちか貴様!!」
デーモンの王は相手が悪すぎた。
魔物にはそれぞれ総称の名前があるが、自分よりも魔力の高い知性のある魔物や悪魔に固有の名前を付けられた魔物のことを名持ちと言う。
名前を貰った魔物はほかの同種の魔物より強い魔力と力を手に入れ、一つの別の魔物として進化する。力の伸び方は名付け親である魔物や悪魔の強さによって違ってくる。
キングデーモンは魔物の中でもかなり上の方に位置する強さだ。ホブゴブリンなど足下にも及ばない、羽虫程度の存在だがそれが名持ちだと話は変わってくる。
名持ちとは開き切った差を埋めるには大きすぎるほどの力を与えるのだ。
「クソっ、馬鹿か私は……」
今更後悔したところでもう遅い。
王の兵士たちはほんの数秒の出来事で全滅、残ったものは己が身一つ。
…………寒くて堪らない。
「お前は良き王だったのだろう。仲間思いなのもよろしい事だが……戦場ではなんの利益も産まぬ無能の王だな。優しさだけで生きていけるほどお前がいる場所は甘くないという事だ」
ホブゴブリンはデーモン達の死体を踏みつけながら王にゆっくりと近づいていく。
体はこの熱気を暑いと感じているはずなのにどうしてか、体の震えが止まらない。
体はこの熱気の暑さで汗をかいているというのに背筋が氷ったように震える。
何なんだこの感覚は……?
あまり経験のないこの感情にデーモンの王は戸惑う。
「どうしたんだ、そんなに震えて?」
目の前のホブゴブリンが一歩、また一歩と自分に近づいてくる度に体の震えは大きくなっていく。
何なんだこの感覚は?
どれだけ考えてもその答えは出ず、腹が立ってくる。
デーモンキングの歪に尖った耳にはホブゴブリンの足が地面を擦る音が嫌に木霊する。
何なんだこれは?
体は寒くて堪らない。
「仮にもデーモンの王だろうに……。何だその怯え切った顔は?」
立ち尽くすデーモンの前に着いて、ホブゴブリンは呆れて言う。
……………怯えている?
この私が?全てのデーモンを従えるこの私がただのホブゴブリンに怯えているというのか………?
……いや、ただのホブゴブリンではなかったか、コイツは名持ちの魔物、私より遥かに強い格上の敵。
そうか、私はこのゴブリンに恐怖を感じていたのか。
随分と長いことそんなものとは無縁だったから忘れていた感覚だ。
そう理解すると自然と体の震えは収まっていく。
「フッフッフッフッ………」
腹の底から笑いが止まらなくなってくる。
「……?」
「ハハハハハハハハハハハッ!!」
「いきなり笑って……気でも狂ったか?」
名持ちのホブゴブリンは不振な顔をせざるを得ない。
「ああ、そうだな狂ったように嬉しいよ。私が本気を出せる好敵手が現れたのだ、武者震いもすれば笑いたくもなってくるさ!」
否、デーモンの王は絶望していた。
武者震いもしていなければ嬉しくて笑っているのではない。
本当に最後まで愚か者だ。
死を覚悟した王は見え透いた虚勢を張るしかなかった。
「おまえ……」
当然、ゴブリンも今の言動がはったりだと分かり切っている
「いや、何も言うまい。一度張ったのだ、最後までその虚勢を張り続けろ」
ホブゴブリンは古刀に手を掛けて抜刀する。
「……………っ!!!!」
煌めく刃を見た瞬間、王の虚勢は崩れそうになる。
嫌だ。
痛いのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。居なくなるのは嫌だ。
でも駄目だ、私はここで死ぬ。
もう少しで私は仲間のところへ連れていかれる。
体が震えそうになるが何とか抑え込む。
「すまない」
ホブゴブリンは慈悲として一振でデーモンの王を殺すつもりだ。
振り上げられた古刀は一層煌めき、その光が強く目に刺さる。
迷いのない軌道で振り下ろされた古刀はデーモンキングの頭へと吸い込まれる。
死ぬのは嫌だ。
だが、自分は確実に死ぬ。
……しかし、このまま為す術なく殺されるのは無惨に死んで行った私の兵士に示しがつかない。
それだけは駄目だ!
ザクっ、とホブゴブリンが想像していたものとは違う感触が古刀から伝わってくる。
「……そうこなくては」
少し嬉しそうに笑って、デーモンを見遣る。そこには右側の腕を切り取られたデーモンの王が朦朧とたっていた。
「このまま終わってなるものか!!!」
今にも途切れそうな意識の中、もう片方の腕を思いっきり振ってホブゴブリンに反撃をする。
………が。名持ちのホブゴブリンにとってデーモンの攻撃は赤子が駄々を捏ねたようなもの、すぐさま体を後ろに下げて難なく躱す。
所詮こんなものか。
一度は必殺の一撃を躱され、喜びはしたが潮時だろう。
「締めだ……」
これ以上長引かせる必要なく、ホブゴブリンの古刀がデーモンキングの胸部を一直線に貫く。
完全に殺した。
そうホブゴブリンは確信し、古刀を引き抜こうとするがそれは叶わず、凄まじい力で体が締め付けられる。
「な、なんだ!?」
自分の体を見るとそこには一本の魔物の腕が絡みつくように自分の体を離すまいと締め付けてくる。
これで腕は使えなくなったがコレでいい、私にはまだ口がある。
「ハハ……これで逃がさない………」
デーモンの王は新底嬉しそうに笑う。
「お前、まさか………」
ゴブリンは何かに気づくがひとつ遅い。
「我が爆炎は全てを破壊する………爆ぜろ、紅き炎!!!」
デーモンの王は魔法を詠唱し終えるとあたりの空気が火花を散らし始める。
それは炎系最強の自爆魔法。
「………見事」
全ての敬意を持ってホブゴブリンはデーモンの王に小さく言葉を送る。
瞬間、大きな音を立てて、二匹の魔物を覆うように炎が爆ぜた。
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