森の中で偶然魔剣を拾いました。

EAT

文字の大きさ
上 下
49 / 110

48話 登山開始

しおりを挟む
 魔界領、名もなき森の中、人、精霊、悪魔、ホブゴブリンと言う異色のパーティーで魔王城の裏にある山へと鉱石を採るために歩いていた。

「ねーねー、今更だけど自己紹介しようよ!昨日の敵は今日の友って言うじゃない、仲良くしましょ」

「いいですねそれ!!」

 何が楽しいのか少女とゴブリンは興奮気味にそんな提案をする。

「はいそれじゃあ、トシミツから!!」

 ビシッと勢いよく少女はゴブリンを指名する。

「かしこまりました。……おほん。私の名前はトシミツ、見ての通りホブゴブリンだ、かれこれ20年ほどヤジマ様の元で仕えている。まあ色々とあったがよろしく頼む」

「ハイ、はくしゅー!」

 意外ときっちりした挨拶に感心してしまう。

 パチパチと疎らな拍手にホブゴブリンのトシミツは照れくさそうな顔をする。

「はーい、じゃあ次は私ね。私の名前はネメア、えっと魔王様の武器でーす。よろしくお願いね!」

 いや、雑過ぎない?

「質問してもいいか?」

 なんとなく挙手をしてネメアの方も見る。

「はい、どうぞ!」

 あっさりとお許しがでたので質問をする。

「その、魔王の武器ってことはネメアは魔装機ってことでいいのか?」

「んーと、魔装機って言えばそうなんだけど、少し違うかな。少し長くなるけどいい?」

「構わない」

「魔王様は自分が使う武器を作るためにたくさんの武器を作ってきた。その過程の中で武器に命を吹き込んで、成長する武器を作るっていう実験的なことも始めだした、それが魔装機の始まり。その実験にどんどんのめり込んで一時期魔装機ばっかり作ってたの、でも魔装機が完成しても魔王様が納得する一振は完成しなかった。最初はそのイラつきから魔装機を色んな場所に捨てていた、それがあなた達が今使っている魔装機。私は数ある魔装機の中でも魔王様が完成系と認めた魔装機、魔王様は魔刄機と読んでる武器、前も見せたけど型は大鎌ね」

 説明を終えてネメアは一息つく。

「魔装機と魔刄機の違いはなんなんだ?」

 間髪入れずに直ぐに次の質問をする。

「はい私の番は1回おしまい!そんな事いいから自己紹介の続き!はい精霊ちゃんどうぞ!!」

 ネメアはそう言ってリュミールの方を指さす。

「え、私かい?」

 いきなり話を振られて珍しく焦った様子だ。

「お、おほん。私の名前はリュミール、光の精霊だ。今はそこにいるレイルと契約を交わして一緒に旅をしている。どうぞよろしく」

 直ぐに落ち着きを取り戻し、当たり障りのない自己紹介をする。

「はくしゅー。じゃあ最後にあなた!!」

 再びパチパチと疎らな拍手が起きて、最後に俺の番となる。

「……」

 いざ自分の番になってみると気恥ずかしく、何をはしていいのかわからなくなる。

「何をそんなに固くなっているんだい、小さい子供じゃあるましい」

 横にいるリュミールに小突かれる。

「うるさい……」

 少しカンに障ったのでここで素晴らしい自己紹介を見せて見返してやろう。

「……俺の名前はレイル……です、えっと人間です……そこにいるリュミールと一緒にアニスを治してもらうためにこの魔界領に来ました……はい……」

 なんて息巻いてた自分が恥ずかしくなるような、とてもとても素晴らしく酷い自己紹介をかます。

 我ながら本当に酷い自己紹介だ。
 なんとも微妙な空気がその場に流れる。

「は、はい、はくしゅー……」

 ネメアは気まづそうに引き攣った笑顔を見せる。
 トシミツは拍手をしないでそっぽを向き、リュミールは隣で大爆笑する。

 ……クソ。

 自分でも顔が赤くなっているのがわかるくらい、顔が熱を帯びる。

「さ、さあ、一通り挨拶も済んだところで、さっきのレイルの質問に答えてあげよかな!!」

 この微妙な空気を一刻も早く脱したいのだろう、ネメアはさっき答えてくれなかった質問に答えてくれるようだ。

「あ、ああ、頼むよ」

 俺も誤魔化すようにネメアに乗っかる。

 隣ではまだあはははははははは、と大爆笑を精霊は続けている。
 こればかりはしょうがない、今回は受け入れよう。

「そうだな、まずは何から説明しようか……」

 顎を可愛らしく抑えてネメアは思案する。

「ゲェヘヘ、こんな所に人間がいるなんて珍しい、それに光の精霊に元魔王軍の悪魔までいるじゃないか!!」

 すると茂みから見るからに噛ませ犬のような言葉を吐く、二本の角と蝙蝠のような羽が背中に着いた典型的な魔物、デーモンが現れる。

「元……?」

「ああ、ちょうどいいのが出てきた」

 奴の言葉に違和感を覚えているとデーモンの発言がカンに触ったのだろう、かなりご立腹の様子でネメアは目の前の悪魔を睨みつける。

 隣から感じる物凄い魔力の量に少し相手が可哀想に思えてくる。

「ハッハッハッ!!!俺はついている、こいつらの首を魔王様の下まで持っていけば一気に出世街道まっしぐらだぜ!!……おっと一応報告をしとこう」

 デーモンはネメアの魔力に全く気づく様子もなく呑気にお花畑な妄想をしている。

 それを見てネメアは青筋を立ててさらに怒りを露わにする。

「そうだな、まず魔装機との大きな違いは私達はマスターがいなくても単独行動ができて、おのが身一つで戦うことができるってこと。私と戦った時に見たよね?私達魔刄機は自分の武器の姿を複製して扱うことができる。もちろん力は本来の時と比べると弱くなるけどそれでもこんな雑魚ぐらいなら十分に戦える」

 淡々と説明しながら空からネメアの身長を超える大きな鎌が現れる。

「ハハ!!なんだまずはお前から死にたいのかなぁ!?」

 本当にこいつはデーモンなのだろうか?目の前のデーモンより、いつの間にか後ろの安全な木の影に隠れているゴブリンのトシミツの方が賢く思える。

「それから他に違うところと言えば……特にないかな、あとは魔法や能力向上とかは魔装機の上位互換だと思ってくれて構わないよ」

 青筋の数がさらに多くなり、ネメアはすぐにでもデーモンに斬りかかりたいみたいだ。

「あ、ありがとう……」

 あまりの殺気に声出すのもためらわれる。

「それじゃあ実践ね」

「八つ裂きにして………」

 デーモンが何か言い終わる前にネメアは一瞬でデーモンの元まで近づいてい、片手で軽々と構えていた大鎌で頭からスパンと真っ二つに斬り裂く。

「………え?」

 そんな間抜けた声を最後にデーモンは黒い血のような液体を大量に流して何も話さなくなる。

「ま、こんな感じだよ」

 ネメアは完全燃焼とはいかず不満そうな顔をしながら俺たちの元まで戻ってくる。

 ……概要は何となくわかってたけど、実践は全然参考にならなかった。
 デーモンも十分に強い魔物なのは分かっているのだがなんとも呆気なさすぎる。

「流石でございます、ネメア様!!」

 トシミツが小躍りしながら喜ぶ。

「どう?これで私の強さが少しはわかったかな?」

「なんというか、君は化け物だな……」

 リュミールは額に冷や汗を見せながら驚いた様子だ。

「お褒めの言葉ありがとう。……それにしても、ここまで奴らが来ているとはね……」

「はい、何たる屈辱でしょう……」

 デーモンの死体を見て複雑な顔をする。

 あのデーモンは気になることを言っていた、ネメアとトシミツのことを「元」魔王軍と、言っていた。これは魔王ヤジマが魔王城を離れられないのと何か関係しているのだろう。魔界領では何が起こっているのか……。

「はあ、デーモンあいつのせいでちょっと面倒の種が増えたけど、気を取り直して目的地へと行こうか」

 心做しかネメアの笑顔はぎこちなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一
ファンタジー
 リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...