上 下
41 / 110

40話 ゴブリンとの戦闘

しおりを挟む
 木々から漏れる陽の光が青白く輝く鋼の剣に反射して煌めく。
 さっきまでアンガーゴート達に追いかけられていたのを忘れて全速力でゴブリン達に走り込む。


 後ろから聞こえてきた足音にゴブリン達は気づいてこちらを睨みつけてくる。
 どうやらお楽しみのところ邪魔されて不服のようだ。


 一気に距離を縮めて一番近くにいたゴブリンに斬り掛かる。
 キンっ!と金属の弾ける音がして俺の攻撃は簡単にゴブリンに止められてしまう。


 魔物の中で最弱と言われているゴブリンでも今の俺にとっては強敵には違いない、むしろこのまま何事もなく殺されることの方がおかしいのだ。


 目一杯力を込めて剣を前に押し出そうとするがゴブリンはビクともせず逆にこちらが力負けしそうだ。
 やはり天職による身体能力の強化、補正がないことが大きい。


 やばい、こいつ結構力あるな……。
「後ろからも来るぞ!!」
 俺が一匹のゴブリンだけに集中していると後ろからもう一匹のゴブリンが木の棍棒で殴りかかってくる。


「やばい!」
 目の前にいるゴブリンのナイフを滑らすように何とか横に受け流して、その勢いで後ろの棍棒も紙一重で躱す。


 すると次は右から弓を持ったゴブリンから矢が放たれる。
 今の目では捉えるのが厳しく、鋭く、速い矢が俺の顳顬こめかみ目がけて吸い込まれるように飛んでくる。
 それを勘だけで適当に振るった剣で弾き飛ばす。


 ほかの二匹のゴブリンも武器を構えてこちらを威嚇してくる。
 今のところは何とか騙し騙しで戦えてはいるがこのままいけばいずれボロが出る。
 まだ温存したかったけどそうも言ってられなくなってきた。
「リュミール、魔力を廻せ」
 精霊石の中に戻っていた精霊に声をかける。


「やっと出番か。まだ完全に君の体に魔力が慣れてる訳では無いからあまり速くは廻せないけどいいね?」
「ああ」
 リュミールの確認に了承して魔力を廻してもらう。


 瞬間、体の中に光魔力が流れ込んでくる。闇魔力の時とは違い、光魔力は体の中で馴染まず、暴れ回る感覚がする。
 魔力が体全体に馴染んでくれるまでゴブリン達は待ってくれるはずもないのでゴブリン達の攻撃を何とかいなしながら完全に魔力が廻りきるまで耐える。


 ……もう少しだ。
 全身に異物が巡っていく感覚。
 ………………廻った。
「よし、いけるよ」
 感覚的に判断した瞬間にリュミールからも合図が出る。
 ゴブリン達の猛攻を大きく後ろに飛び退き距離を撮る。


 それじゃあまずゴブリン達には見えなくなってもらおう。
 先程、リュミールがアンガーゴート達に使った同じ魔法を準備する。


「好き勝手もそこまでにしてもらおうか!!」
 左手を前に突きだし体の中にある光魔力を解き放つ。
 瞬間、リュミールが先程アンガーゴート達に使用した発光魔法を発動する。威力はリュミールが一人で発動した魔法よりも数倍光量の多い発光魔法が森一体を埋め尽くす。


 当然、突然の魔法にゴブリン達は対処できるはずもなく目を抑えて地べたをはいずり回る。


「やった、成功だ!」
 自分の思い描いたように魔法が成功したので思わず喜びの声を上げてしまう。
「いやいや、今のはちょっと加減が足りなさすぎじゃないか?もっと肩の力を抜いた方がいいよ」
 と、喜んでいところにリュミールの空気の読めない横槍が入る。
「……」
 気に食わないので助言を無視して未だ苦しむゴブリン達の息の根を止める。


 最後の一匹のゴブリンの首を刈り取り、襲われていた少女の元へ行く。
「大丈夫か?」
 少女はまだ状況が理解出来ていないようでポカンと口を開けながら地面に座り込んでいる。
「おーい、生きてるか~?」
 少女の目の前でわざとらしく手を振って意識があるか確認をする。


「は!!え!?あっと、その、助けていただきありがとうございました!!」
 ようやく我に返ったようで少女は慌てて立ち上がり頭を下げる。
「よかった、怪我はないみたいだね」
「はい、大丈夫です。私意外と頑丈なんで!」
 少女は自分の頭を軽く叩いてみせる。


「あ!申し遅れました。私、この森に住む光の精霊、ディトンと申します」
「俺はレイル、色々と理由があってこの森にある魔導具を使わせてもらうためにここに来たんだ」
 お互いに自己紹介をしてこの森に来た理由を説明していると魔物とはまた違った何かが近づいてくる音がする。


「何だこの音?」
「さ、さあなんでしょうか?」
 ディトンと一緒に首をかしげながら様子を伺う。
 すると俺の周りを取り囲むように20人程の精霊が突然現れる。


「貴様が侵入者だな!我らが同胞を襲うとは許せん!命を持って償ってもらうぞ!!」
 一人の綺麗な女性が俺の首元に剣を突きつける。それを合図のように周りの精霊達も俺に剣を向ける。


 ……何事でしょうか?


 ・
 ・
 ・

 今俺は体を縄でぐるぐる巻きに拘束されて精霊の里の長が住んでいるという屋敷の部屋で正座させられていた。
 あれから精霊石の中にいるリュミールはうんともすんとも言わない。


 部屋の中には俺が助けたディトンと俺を拘束してここまで連れてきた綺麗なお姉さんがいた。
 肩口まで伸びた綺麗な金髪にすらっと伸びた足、誰がどう見ても美人と認めるだろう。


「あのー何か勘違いを……」
「黙れ!!」
 誤解を解こうと弁明をしようとしたところ綺麗なお姉さんに再び剣を突きつけられ強制的に黙らせられる。


「……」
 完全に信用されてないな……というかあの馬鹿精霊は石の中で何をしているんだ、あいつがいればこの状況を一気に解決できるというのに……。


 そんなことを考えていると部屋の扉が開いて一人の老婆が入ってくる。
「長、これが先ほど話した侵入者です!」
 綺麗なお姉さんは老婆が入ってきた瞬間に俺に向けていた剣を収めて姿勢を正す。
「うむ、ご苦労だったなパルメよ。やあどうも、私はこの里の長を務めるバーバラと申す者だ。それでお客人殿、こんな何も無い森になんの御用かな?」
 老婆は俺の目の前にある少し装飾の施された椅子に腰をかける。


「あの~、お話の前にこの縄を解いて貰えませんかね?」
 愛想笑いをしてバーバラと名乗った老婆に提案をしてみる。
「うむ、そうしたいのはやまやまなのだがな、まだお主が私たちに危害を加えないものかわからない故、今暫くそのままでいてくれ。それでお主は何をしに来たんだ?」
 俺に斬りかかろうとしていたパルメを手で制しながらバーバラはこちらを見据えてくる。


「さっきもそこにいるディトンとパルメさん?に話したけど俺はこの森にある魔導具を使わせてもらうためにここへ来た」
「魔道具とは世渡りのことか?」
「名前までは知らないけど、多分それだ」
「この森に魔導具があると誰から聞いた?これはこの森に住むものしか知らないはず……」
 バーバラは不審な顔をする。


「ああそれは……おいリュミール、そろそろふざけてないで出てこい」
 俺は石の中で黙りを決め込んでいる精霊を呼び出す。
「リュミールじゃと!?」
「リュミール!?」
 バーバラとパルメは馬鹿精霊の名前を聞いて驚いた顔をする。


 そんな二人を他所にリュミールはケタケタと笑いながら石の中から出てくる。
「いやいや、思いっきり楽しませてもらったよ!君は本当に不幸者だな~!!」
 これまでの一連の流れを思い出したのか再び腹を抱えて笑う。


「りゅ、リュミール貴様、こんな所で何をしているのだ!?」
「そうじゃぞお主、突然森を出て行ったと思ったら突然帰ってきおって……」
 パルメとバーバラはリュミールに言いたいことが山ほどあるのだろう、ものすごい勢いで言いよっていく。


「それにそこの人間に魔導具のことを教えたとはどういう事じゃ!何故そんなことをした!?」
 二人は俺を指さしてくる。
「いやいや、どういうことって理由は一つしかないでしょ?私はそこにいるレイルと契約を結んだんだ、しかも契約の中で一番上にあたる死紋の契約をね」
「な………あのいつも怠惰な生活を貪り、里のために何もしてこなかった穀潰しのリュミールが契約じゃと!?」
 バーバラの辛辣な物言いに思わず吹き出してしまう。


「こら、そこ笑わない」
 リュミールは少し恥ずかしそうに頬を描きながら怒る。
「まあ私にも色々とあるんだよ。とりあえずツレの縄を解いてもらってもいいかい?」
「ああ、そうじゃな。パルメや解いてくれ」
「はい」
 綺麗なお姉さんパルメはバーバラに言われたとおり俺の縄を解いてくれた。雑ではあったが……。


「……それでは詳しく話を聞こうか」
 精霊の里の長を務める老婆は深くため息をついて続けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...