上 下
29 / 110

28話 通りすがりの剣聖さん

しおりを挟む
「はぁあああ!!」
 グサッと刃が肉に突き刺さる音が聞こえ、それと同時に魔物のうめき声が響く。


「よしこれで48匹目!!」
 ラミアは楽しそうに魔物を次々と串刺しにしていき迷宮に入って1時間もしないうちにすでに目標数の半分が終わろうとしていた。


 しかも下級や中級の魔物ではなく上級の狼型の魔物、スパイラルウルフだけを倒してこのペースだ。
 普通の生徒なら逃げるしかないのだが魔装機使いの俺たちからすればちょうどいい強さでバッサバッサとスパイラルウルフをなぎ倒していた。


「なんかつまんなくなってきた~」
 しかしラミアはスパイラルウルフを倒すのに飽きてきたようで文句をたれる。
「つまんなくって……もうここら辺にはスパイラルウルフより強い魔物なんていないぞ」
「んー、じゃあもっと奥の方に行ってみようよ~」
 ラミアは一人で迷宮の奥の方に走っていってしまう。


「あ!おい待て!!……たく」
 呼び止め用としても無駄、ラミアは俺の声を無視して消えた。
「しょうがない、行くしかないね相棒!」
 ローグはどこか嬉しそうに奥の方に歩く。
「だ、大丈夫でしょうか?」
 マキアもべったりローグの後ろをついていく。


 なんで嬉しそうなんですかね?
 もうちょっと慎重に行動して欲しいだけど……。
 "それは少し難しい話ではないでしょうか?"
 アニスがボソッと呟く。
「うん、知ってる」
 俺も3人のあとを追いかけて迷宮の奥へと進んでいく。


「うわ~!すっごーい!!」
 ゆっくりと歩いていると先に走って行ったラミアの声が聞こえてくる。
 走って行ってみるとそこには1本の長い鼻と二本の太い牙を携えた巨大な象の魔物がいた。


「こんなの初めて見たよ……」
「は、早く逃げましょう!」
 二人も驚いて素早く来た道を戻ろうとするが。
「何言ってんのさ二人とも!こんな魔物滅多にお目にかかれないよ~」
 1人だけやる気満々で軽く20mは超える象に突っ込んでいく。


「お、おい!」
 止めるのはまあ不可能。ラミアは象のこめかみまでものすごい跳躍をしてガーロットで思いっきり一突きする。
「!!!!!!」
 像は今の一撃で完全に戦闘態勢に入り俺たちを敵とみなす。


「はあ、やるしかないのかやっぱり……」
 わかりきっていたことではあるが認めたくなかった。
「ローグは俺と一緒にあの象を攻撃!マキアは後ろから弓と魔法で援護を頼む!」
「了解!」
「はい!」
 簡単に指示を出してラミアに加勢する。


 踏み潰されれば一溜りもない象の大きな前足を俺とアッシュで左右からチクチクと攻撃する。
 ラミアは依然、こめかみの上で攻撃を続ける。


「はあぁ!!」
 縦に一閃、剣を薙ぐが皮が厚く攻撃をしている感じが全くしない。


 いやいや、硬すぎるでしょ、こんなの倒せるはずない。
 やっぱり撤退するべきだ。


「おいラミア…………」
 ラミアに声をかけようとしたその瞬間、バコンと激しい音と象の悲痛の叫びが響く。


「!?」
 見るとラミアは魔法を使って象の牙の片方を根元からポッキリと砕いていた。
「やった~!これ楽しい~!!」
 今回の訓練の中で一番の笑顔をしながらラミアは叫ぶ。


 マジかよ……あの人強過ぎない???
 軽く思考が停止して自分が何をしようとしていたのか忘れる。


 ……あ!!そうだ逃げなきゃ!
「おいラミア、もう満足したろ!?流石にもう危険だ退くぞ!!」
 何をしようとしていたか思い出して大声で言う。
「何言ってるのさレイル君、まだまだこれからだよ~!」
 わがままお嬢様はまだ満足していないようでもう一本の牙を折りに行こうとする。


 しかし、象は自分の牙が折れたことに理性が狂い。長い鼻を適当に振り回して大暴れする。
「きゃ!!」
「やばい!」
「アリスさ~ん!」
 三人とも一気に吹き飛ばされて攻撃を食らう。


「だ、大丈夫ですか!?」
 援護していたマキアがこちらに近づいてくる。
「わかったかラミア!?これ以上は危険だ退くぞ!!」
「嫌だ!絶対に倒す!!」
 俺の言葉にラミアは本当に駄々を捏ねて拒否をする。
「仲間の命があることも考えろ!今お前は一人で戦ってるんじゃないぞ!!」
 そのまま魔物のことなんて忘れてラミアと言い合いになってしまう。


「ふ、二人とも今はそれどころじゃ……」
「うるさい!!」
「うるさい変態!!」
 ローグが仲裁に入ってくるがそんなの関係なく言い合いを続ける。


「!!!!!!」
 すると象の咆哮が耳の中に響き、身動きが取れなくなる。
 やばい……!!
 正気に戻ったところでもう遅く、象はこちら目がけて長い鼻を鞭のようにしならせて攻撃してくる。


 全員が死を覚悟した。
 しかし攻撃が当たる直前、何かの影が現れて象の長く硬い皮の鼻を真っ二つに斬る。
「!!!!!!」
 象は大きくのけ反り鳴き叫ぶ。


「大丈夫ですか?」
 目の前には俺たちとは違う訓練服を着た1人の短い金髪の少年がいた。
 少年はたまたま通りがったような軽い感じで話しかけてくる。
「き、キミは……」
 事態が上手くつかめず言葉が出てこない。


「話しは後で、今はこの魔物です。少し待ってくださいね」
 少年はこちらを振り向かずに言って、象に黒い剣を向ける。
「いくよ、エリス」
 ひとつ呟いて少年は迅雷が如く、目に止まらぬ速さで象を攻撃していく。


 右前脚、左前脚、牙、左後脚、右後脚、最後に胴体を綺麗に真っ二つ。
 全てに無駄がなく剣に迷いがなかった。


 なんだよこれ……。
 夢でも見ているよな感覚に陥りながら漠然としていた。


 象の魔物は何一つ反撃することができず、赤子の手を捻るように少年に倒されてしまった。
「すみません、お待たせしました」
 少年は汗ひとつかかず、平然とした様子でこちらに戻ってくる。
「えーと、バルトメア魔法騎士学園の方ですよね?」
 少年は質問してくるがこちらは誰も言葉を発さない。


「あのー……」
「あ!ご、ごめん。助けてくれてありがとう、君のおかげで死なずにすんだよ」
 少年の困った顔を見てようやくなにか話さなければいけないことに気がつく。
「俺の名前はレイル、君は……」
「僕はレイボルト=ギルギオン、レイボルトでいいですよ」
 レイボルトは破顔しながら握手を求めてくる。
「よろしく。あ、こいつらは……」
 後ろのラミアたちの方を見る。


「助けてくれてありがとう僕はローエングリン、ローグでいいよ」
「ま、マキア=レイベルトです。助けていただきありがとうございます」
「……」
 二人とも自己紹介をして礼を言うがラミアだけ何故か黙りとしている。


「あの、ギルギオンって名字もしかして剣聖の一族のギルギオン家ですか?」
「はい、そうです。僕は5代目の剣聖なんですよ」
 レイボルトがマキアの質問に丁寧に答える。


「……剣聖?」
 するとラミアが剣聖という言葉に反応しピクっと身を動かす。
「おいラミア、ちゃんとお礼を……」
「ねえ、剣聖ってことは君ものすごく強いよね?私と闘ってよ」
 俺の言葉を遮りラミアはいきなり突拍子もないことを言う。


「おい!助けてもらったのに失礼だろいきなり」
 槍を構えてレイボルトへ近づこうとするラミアを止めようとするが……。
「うるさいなぁ!レイル君には関係ないでしょ!?」
 激しく俺の手を払いラミアは怒鳴る。


「……え?」
 ラミアがこんなに怒ったのは初めてで思考がまた止まる。
「さ、やろうよ。君も元々そのつもりだったんでしょ?」
 ゆっくりと前を歩きレイボルトを挑発する。


 "マスター、あの男が持っている剣、魔装機です。今まで気づきませんでした。かなり高度な隠蔽系のスキルを使っていたと思われます"
 アニスがとんでもないことを言ってくる。


「あれ?バレてた?僕もまだまだだな~、こんな格下にバレちゃうなんて。まあいいか、こんな一気に魔装機使いと会えるなんてないだろうし楽しませてくれよ三下」
 先程の優しい人間味のある顔は消え去り、酷く引き攣った邪悪な笑が浮かんでいる。


 なんだ?さっきと全然雰囲気が違う。それに今のアニスの言葉、レイボルトが魔装機使い?
 レイボルトの剣を注意深く見る。その姿はアニスと瓜二つで同じ部分に赤い魔石が埋め込まれていた。


「見せてあげるよ、魔王が一番最初に創り上げた魔装機、エリスの力を!!」
 レイボルトの言葉が終わると、ラミアは一直線に攻撃を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~

果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...