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20話 戦斧の魔装機使いはやっぱり〇〇がお好き

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 さて、突然始まった食堂のおばさんを巡っての模擬戦。
 いまいちやる気になれない中俺はアニスを構えてタイラスの合図を待つ。
 対峙するローエングリンは全長100cm程の緑色が特徴的な戦斧を片手で軽々と構え、やる気満々だ。


 "マスター、あの斧、魔装機です"
 アニスが頭の中で突然そうつぶやく。
 "なに!? 本当か?"
 "はい、あの紅い槍と同じ感覚、それに魔石のようなものも埋め込まれています"
 アニスの言葉を聞いてよく見てみると刃の中心に翠の魔石がひとつ埋め込まれていた。


 "気をつけてくださいマスター"
 "うん、ありがとうアニス"
 相手が魔装機では中途半端な気持ちで戦うと痛い目を見るので気を引き締め直す。


「両者準備はいいな?」
 タイラスが確認をしてくる。
「はい、僕はいつでもいいですよ!」
「俺も問題ないです」
「うむ、それでは死なない程度に殺れ。最悪、腕や足ぐらいならくっつくから安心しろ」
 いや、しれっと怖いこと言わないで貰えますかね……。
 相手が相手だけに怖くなってくる。


「初め!!!」
 タイラスの掛け声で模擬戦が始まる。


「同士に会えたことは嬉しいがこれもまた運命! さあ、本気でかかってこい! アリスさんは僕のものだ!!!!」
 ローエングリンは叫びながらものすごい勢いで突進してくる。


 だからそんな大声で恥ずかしいこと言うのやめて!ほら女子の目はおろか男子も少し引いてるでしょうが!
 ラミアさんそんな目で見ないで!!


 "マスター、アリスさんとは誰ですか! 私というものがありながらまた浮気ですか!?"
 ローエングリンの叫びを聞いてアニスが変な勘違いをしてくる。
 "また浮気ですかって俺そんなことしたっけ!? それ勘違いだから、あのイケメンナンパ野郎が勝手に言ってることだから気にしないで!!"
 話しがややこしくなってきて頭が痛くなってくる。


 気がつくとローエングリンは俺の目の前まで来て鋭く戦斧を上から振り下ろす。
「っ!!」
 一撃が重たい!!ラミアの時とはまた違う感じだ。


 アニスで攻撃を受け止めるが元々の力と斧の重さが合わさって押し潰されそうになる。
「へえー、初めて魔装機と戦ったけど流石だ。普通ならこれで終わってるはずなんだけどね」
 ローエングリンも俺が魔装機使いだとわかっているようでそんなことを口にする。


 次はこっちからだ。
 斧を力いっぱいで弾き返しローエングリンの体勢を崩す。そのまま大きくいっぽ踏み込んで上、左下から切り上げ、と連続で攻撃を仕掛ける。


 しかしローエングリンは器用に戦斧の柄の部分で攻撃を防御して、全く攻撃が通らない。
 まあ、こんなんじゃダメだよな……。


 俺の攻撃をなんなく受止めすぐに横に一閃、巨大な刃が無造作に振るわれる。
「あぶね!」
 大きく後ろに飛んで攻撃を躱すが胸の方を見ると少し服が破けていた。


 クソ、ギリギリってとこか。どうする、不用意に突っ込んでもあの大きな斧を振り回されておしまいだ。
 …………。
 まだ制御が難しくて使うのは怖いがを使うか。


「僕は負けられないんだ……アリスさんのために!!!」
 愛する人の名前を叫び先ほどよりも速く突っ込んでくる。


 攻撃を受け止めようとするが重さ威力が俺では受け止められないほど強く後ろに大きく吹き飛ばされる。
「かハッ!」
 地面に強く叩きつけられ肺の空気が一気に口から出ていく。


 "マスター、大丈夫ですが!?"
 "問題ない、アレを使うから力を貸してくれアニス"
 心配してくるアニスにそう言って、追撃を喰らわないようにすぐに立ち上がる。


 "わかりました! 微力ながら魔力をお渡しします"
 アニスから魔力が流れ込んでくる感覚がしてその魔力と自分の魔力を合わせ、魔法を発動させる。


 もともと俺に魔法適性はなく魔力もほぼゼロに近いためこうしてアニスから魔力を借りないとまともに魔法を使うことは出来ない。そして今まで魔力制御と言うものをしてこなかったせいで半分の確率で魔法が暴走してしまうのだ。だからあまり魔法は使いたくないのだが戦う以上負けるのは嫌なので全力を出し切る。


「纏え、黒キ外套。我が闇は全てを閉ざし砕くものなり……」
 発動に必要な詠唱を唱え、アニスを持っていない左手を前に出す。


「魔法か。だけどそんな遅い詠唱じゃあ間に合わないよ!!」
 ローエングリンは俺が魔法を発動する前にカタをつけるつもりで急接近してくる。


「……ありがたい」
 小さく呟く。


 そのままローエングリンが俺に攻撃してくるのを待つ。奴の戦斧が俺の胴体を切り裂こうとした瞬間それは起動する。


 俺の前に突然黒い球体が現れ、ローエングリンの体、魔装機をまるまる飲み込み、攻撃を間一髪で止める。
 ローエングリンは身動きが取れず苦しそうな顔をする。
 前に出していた左手をギュッと握りしめてその球体を爆散させる、黒い球体から開放されたローエングリンは気を失いそのまま地面に倒れそこでやめっ!とタイラスの声がかかる。


「お、おい大丈夫か?」
 さすがにやりすぎたか?
 アニスを鞘にしまい、ローエングリンの元まで駆け寄る。


「くっ!! 負けて、しまった……。悔しいが認めざるを得ない、キミこそがアリスさんを愛するにふさわしい男だ!!!」
「いや、俺は別にそんな権利いらねぇよ……」
 正直そんなことを言われても困るだけだ。


「そ、そう! 俺は模擬戦に勝ってもアリスさんを思う気持ちはお前に負けてた。そんな俺にはアリスさんなんてもったいない、本当にアリスさんを愛してるお前こそがお似合いだと俺は思うよ………。それに俺たちもう親友だろ? 親友の恋路を邪魔するほど俺は野暮じゃないよ」
 苦しそうな顔をしながらまだそんなことを言うローエングリンを見て呆れながらアリスさんを愛する権利を擦り付ける。


「な、なんと………! 僕にそんなこと言ってくれるのか!! じゃあ僕はアリスさんを愛し続けてもいいのか!?」
「あ、ああ、いいんじゃないか?」
 顔を引きつらせながら俺が決めていいことではないので疑問形で答える。


「そうか、ありがとう……ありがとう!!」
 ローエングリンは号泣しながらそのまま医務室へと運ばれて行った。


 いや、何この変な終わり方……。
 なんか後ろからものすごい痛い視線を感じるですが。
 "マスター、やはり………"
 アニスもなにか盛大な勘違いをしてる。


「おい! そんな目で俺を見るな!! 俺は普通だ!!!」
 運動場に誰にも伝わらない悲痛な叫びが響いた。
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