上 下
10 / 110

9話 旅立ち

しおりを挟む
 10分ほど2人で騒ぎまくっていただろうか、肩で息をしながら俺とシスカは椅子に座っていた。


 やばい、途中から変に興奮して後半なんてほとんど関係ないことで騒いでいたし、めっちゃ疲れた。
体は酸素を求め続け吸って吐いてを繰り返す。


「本当におめでとうレイル」
 息を整えながらシスカは口を開く。
「うん、ありがと……」
 まだ心臓がバクバクと脈打ち、息が整わない。


「そういえばなんかあんたの天職、変な名前だったのよね~」
「変な名前?剣士じゃないの?」
「うーん剣士は剣士なんだけどね、って言う名前なのよ。私小さい頃から父さんの儀式とか鑑定で色々な天職を見てきたけどそんな名前初めてなのよね~。まあ、剣士ってついてるし戦闘系の天職のはずだから大丈夫よ」
「魔剣士……か」


 まあ、そんな名前が付いてもおかしくはない……よな?アニスは普通の剣じゃないし、俺の天職が変わった理由はアニスが大きく関係してるだろうし。
 さすが魔王に作られた剣とでも言うべきか、人の天職を変えてしまうなんて聞いたことないぞ。


「なに難しそうな顔してんのよ! そんなに気にすることないわ。それより早く行った方がいいんじゃない?」
「行くってどこに?」
シスカの言葉の意図がつかめず聞き返す。


「あんたはバカか天職が変わって自分の夢が叶いそうなのよ、ステラおばさんを説得しなくていいの?」
 呆れた顔をしながらシスカは椅子から立ち上がる。
「あ!忘れてた、あの分からず屋を説得しなきゃ騎士になれない。喜んでる場合じゃない!」
 俺も椅子から立ち上がり急いでステラのところへ向かおうとする。


「そうだ、はいコレ」
 シスカはいつ書いたのか、鑑定結果の書かれた紙を教会から出る前にくれた。
「シスカ姉ありがとう!」
 シスカに礼を言って教会をあとにする。
「いいってことよ、可愛い弟のためですもの」
 満面の笑顔でシスターは少年を見送った。

 ・
 ・
 ・

 目的地へ着くとそこはまだ酷い有様だった。
 地面は抉れて畑も踏み荒らされている。近くにあった家も人が住めるものではなく。一刻も早く元の生活を取り戻すために村の人達は忙しく動き回っていた。


「手伝う前に、母さんとアニスはどこにいるんだ?」
 辺りを見渡し二人の姿を探す。
「こちらですマスター」
 すると後ろからよく通る綺麗な声が聞こえてくる。
「うお!ビックリした~。脅かさないでくれよアニス」
 驚いて後ろを向くとそこにはアニスの姿があった。


「申し訳ございません、おいたがすぎました」
 悪戯が成功した子供のようにアニスはクスクスと笑う。
「母さんは?」
「お母様ならあちらの方で畑の修復を行っております」
 アニスの手の指す方を見るとステラが凄まじい速さで鍬を動かし畑を直していた。


「やっぱり流石だな~」
「本当だぜ、同じ農民とは思えないぐらい早くて正確で素晴らしい鍬捌きだ」
「いよっ! 畑の女神様!!」
 村の人達のそんな声が聞こえてくる。


 いやいや畑の女神ってなんだよ、暴君の間違いじゃないか?
 頭の中で本人にバレれば殺されるであろうツッコミをする。


「よーし、みんな休憩だ!」
 太陽の上り具合から見て時刻は昼頃。復旧作業の指揮をしているガーディアが作業をしている人達にそう伝える。


「あらレイル、いつここに来たの?」
 ステラも高速に動かしていた鍬を止めて畑からでてきた。
「ついさっきだよ」
「そう、それでどうだったの?」
「うん、これ」
 先程シスカからもらった鑑定結果の紙をステラに見せる。


「……そう、変わってたのね」
 鑑定結果を見て落ち着いた声で言う。
「あの、母さん、俺……」
「行くって言うんでしょ?」
ステラは俺の言葉を先に当てる。
「うん……。その、いい……かな?」
「あんたの小さい頃からの夢だもの、ダメって言っても行くんでしょ? 好きにさない」
「いいの? もっとなんかこう反対とかしないの?」
 思った反応と違いあっさり許可が貰えたので変なことを聞いてしまう。


「これも神様の決めたことだもの私は何も言わないわ」
「そ、そう」
「それよりお腹減ったでしょ? お弁当作ったから食べましょう、アニスちゃんも」
「は、はい!」
 ステラは何かを誤魔化すようにアニスと一緒に休憩場所へと行ってしまう。
「………」


 その後俺も作業の手伝いをして夕日が落ち始めた頃に今日の作業は終わった。


 次の日俺は村長ラインとガーディアのところに行き王都バリアントにあるバルトメア魔法騎士学園の試験を受ける話した。ラインとガーディアは寂しそうな顔をしながら応援すると言ってくれた。
 来年の春に入学試験があるということなのでそれまでガーディアに剣術や雑学などを習うことになった。3ヶ月と時間がかなり少なかったのでガーディアの指導はとても厳しいものだったが毎日が楽しく充実していた。


 ステラとはそれから、ろくに話しておらず家の空気はどこかギクシャクしていた。


 村の復興は着々と進み年が明ける前にボロボロになっていた畑や家は元通りになり、予定よりかなり早くに作業は終わった。


 それからは剣術や雑学、アニスのおかげで魔法も使えるようになったので魔法の練習をよりいっそう頑張った。


 3ヶ月はあっという間に過ぎてゆき、気がつくと出発のときを迎えていた。


「寂しくなるの~」
 ラインが目頭に涙をためながら別れを惜しむ。


「大丈夫さこの3ヶ月、お前は見違えるように成長した向こうに行っても苦労はするだろうがやっていける!」
 ガーディアからお墨付きをもらい自信が湧く。


「あんた1人でも大丈夫? 私もついて行きましょうか!?」
 シスカが泣きながら心配してくる。


「寂しくなるなあ~」
「大丈夫、レイルならできるわ」
「レイル兄ちゃん! お土産よろしくね!!」
 村の人達と一人一人別れの挨拶をする。
「うん、頑張るよ」
 その中にステラの姿はない。


「全くどうしたのじゃステラのやつは息子の旅立ちじゃぞ!」
 ラインと村の人達がそわそわした様子でステラが来るのを待っている。


「すみません、そろそろ出発しないと……」
 御者の人が申し訳なさそうに言ってくる。
「もう少し、もう少しだけ待ってくれんか!」
 ラインが何とかステラが来る時間を稼ごうとするが。
「もういいよ爺ちゃん、別にもう会えなくなるわけじゃない」
 俺はラインを止める。


「それに試験に絶対受かるってわけじゃないしすぐ帰ってくるかもしれないんだ。こんな大勢で見送りなんてよかったのに……」
これで、はい落ちましたと帰ってくるのはかなり恥ずかしい。
「何を今からそんな弱気なことを言っておるか!! お主は絶対に受かる! 自信をもて!」
 俺の弱気な発言にラインは喝を入れる。


「あの~、そろそろ……」
 これ以上は駄目なようで御者の人が馬車に乗るように言ってくる。
「すみません、今乗ります。アニス行こう」
「はい、マスター」
「あ、これレイル!」
「行ってくるよみんな、元気で」
 別れの言葉を告げ馬車の荷車に乗り込む。御者の人が乗り込んだことを確認すると馬車はゆっくりと走り出し出発する。


 結局、何も言えなかったな……。
 胸の奥が抉られるような感覚になり今更になって後悔してきた。


「レイルーーーー!!!」
 するとそこに小さい頃から聞いてきたよく通る大きな声が聞こえてくる。
「母さん!?」
 後ろの方を見るとステラが小いさな布袋を持って走ってきていた。
「な、何してんだよ母さん!」
「これを!!」
 ステラは物凄い肩の力で小さな布袋を俺の方へと投げてくる。


「自分でやるって決めたんだ! 信念曲げずにあんたの正しいと思う道を突き進みなさい! 試験に落ちてすぐに帰ってきたらタダじゃ置かないからね!!」
 投げられた袋を受け取りなんともステラらしい激励の言葉が聞こえる。


「あんたが立派な騎士になって美味しいもの沢山食べさせてくれて、でっかい家建ててくれるの楽しみにしてるからね!!!」
 そしてどこかで聞いたことのある言葉も叫ぶ。


「っ!! クソ、覚えてたのかよ……」
 何も言わず前の方を向き投げつけられた布の袋を強く握る。
「何も言わなくてよろしいのですか?」
 アニスが聞いてくる。
「ああ、別に今生の別れってわけじゃない。それにこのまま後ろ向くと気が変わっちゃいそうだからやめとくよ」
「……そうですか」
 納得した顔でアニスも前の方をむく。


 馬車はさらにスピードを上げて村から遠ざかって行く。


「体には気をつけるんだよ!!!!」


 鼻水混じりの大きな大きな優しい声を背に俺は王都へと旅だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

傭兵アルバの放浪記

有馬円
ファンタジー
変わり者の傭兵アルバ、誰も詳しくはこの人間のことを知りません。 アルバはずーっと傭兵で生きてきました。 あんまり考えたこともありません。 でも何をしても何をされても生き残ることが人生の目標です。 ただそれだけですがアルバはそれなりに必死に生きています。 そんな人生の一幕

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...