上 下
6 / 110

5話 彼女の証明

しおりを挟む
 家に戻り今はアニスとテーブルを挟み向かい合って座っていた。 
 外では村の人達が騒がしく結界を張る準備をしていた。

「……」

「……」

 静寂が部屋を包む。

 やばい、何から話せばいいのだろう?
 色々と聞きたいことがあるんだけど……。

「……」

「……」

 ええいままよ! 考えてもしかたない、とりあえず話を切り出すんだ俺!

 意を決し、固く結ばれていた口を開く。

「えっと……さっきアニスは森で俺のことをマスターって言ってたけどどうゆうこと?」

「はい、あなたが私を必要と言ってくれましたのであなたをマスターとして認めました」

「え、それだけ?」

「はい、それだけで理由は充分です」

「そ、そうか……」

 そこで会話が途切れまた静寂が訪れる。

 なぜ森にいたのか聞いていいものかと考え込んでいるとアニスがぽつりぽつりと話しだした。

「私は捨てられました」

「捨てられた?」

「はい、創造主様は私を手に持った瞬間「これは駄目だ」と言ってすぐに私を捨てることを決めました。それから300年私は誰にも使われることのないままあの森にいました」

「なにか具体的な理由とかはなかったのか? 俺からすれば君ほど強くて立派な剣なんてないと思うけどな」

「ありませんでした。ただ「駄目だ」とそれだけ……」

 悲しそうな顔をして言う。

「悪魔の姿になれるならこんな東の辺境の場所にいるんじゃなくて、どこか別のとこにでも行って誰かに拾われたほうが良かったんじゃないか?」

 ふと疑問になったことを聞いてみる。

「それは不可能です。私単体では行動できません、一応武器なので誰か持ち主がいないと自由にこうして悪魔の姿になれないのです。もし仮に自由に動けたとしても私のような駄作は誰も手に取ってはくれません」

 アニスは話していくうちに顔をどんどん暗くし落ち込んでいる感じだった。

 それを見て俺は居ても立ってもいられなくなってしまい。

「アニス、今剣になることってできる?」

「は、はい大丈夫ですが。マスター?」

 アニスは話しの流れが掴めてないのかキョトンとしている。

「俺がアニスを使ってみて確認する。アニスが駄目じゃないってことを証明する!」

「え? あの.....」

「今は俺がアニスのマスターなんだろ? ならマスターである俺が実際にアニスを手に持って使ってみて駄目かどうか決める!」

「え、あの、その……」

「さあ早く!」

「は、はい!」

 謎理論を押し付け、俺が急かすとアニスは剣の姿に慌てて変身した。

「やっぱり綺麗だ……」

 さっきまで女の子がいたところに黒いシンプルなデザインの片手剣が現れる。

「い、いくぞ?」

「はい、どうぞ……」

「それでは失礼して」

 ゴクリと生唾を飲み込み剣を掴み持ち上げてみる。

「な、なんだこれ!?」

 剣は羽のように軽く全く重さを感じさせず本当に自分が剣を持っているのか分からなくなるぐらいだった。

 試しに何かを斬ってみようと思い外に出てみると、どこかから村の人達の悲鳴が聞こえた。

「ま、魔物だぁぁぁぁぁぁ!」

「魔物!?」

「に、逃げろ!」

 村の人達が悲鳴を上げ突然の魔物の襲撃に混乱する。

「魔物だって!? まずいこのままじゃみんなが危ない!」

 声のした方へ俺の足は勝手に動き出していた。

「マスター、魔物の数ですが先程森で倒した魔猪と同じ物の反応が4体ほどあります」

 アニスは走っている俺にそう言ってきた。

「わかるのか?」

「はい、魔力探知で大まかな数とその魔物の種類はわかります」

「すごいな数と魔物の種類がわかるなんて、でも4体か……」

 数が多いな、俺と村の男達を合わせてもあの猪を1体倒せるか倒せないかなのだ。

 それが4体もいるなんて考えたくもない。
 村の中で戦闘職なのは元騎士のガーディアだけあとは俺を含め全員が非戦闘職ばかり、かなりまずい状況だ。

 そのガーディアでもどれだけ戦えるかどうか……。

「早くしないと……!」

 走る速度を上げて声の場所まで急ぐ。

 ・
 ・
 ・

 声がした場所に着くとそこは酷い有様だった。

 一生懸命耕した畑はぐしゃぐしゃに荒され、近くにあった家もいくつかボロボロに壊されている。

 魔猪の数はアニスの言ったとおり4体。
 そしてその魔猪4体をガーディアが一人で対峙していた。

「ガーディア!」

「レイルなぜここに!? お前は家に戻ったんじゃないのか!?」

 突然現れた俺を見てガーディアは驚く。

「声が聞こえて急いで来た、加勢するぞ!」

「馬鹿言うな早く逃げろ!ほかの人たちはもう逃げたお前も早く....」

「それこそ馬鹿言うな! 俺も戦う!」

「戦うって言ってもお前武器はないだろ? どうやって戦う気だ!」

「それならここにある!」

 剣になったアニスを見せて無理やり納得させる。

「お、おいレイル!」

「アニス! お前の力みせてくれ」

「かしこまりましたマスター。それではマスターに私の魔法、スキルを全てお渡しします」

 ガーディアのことを無視してアニスは言う。

「え? そんなことできんの?」

 初耳である、てっきりこのまま戦うものだと思っていた。

「はい、私は武器です、誰かに使われて初めて真の力を発揮します。さあマスター行きますよ!」

「お、おう?」

「クソっ、死ぬんじゃないぞレイル!」

 ガーディアは諦めた顔でそう言って魔猪との戦闘を再開した。

 瞬間剣から黒いオーラが出て俺の体に入り込んでくる。

「な、なんだこれ!?」

「それは私の力の集合体のようなものです。体に害はありませんがそれを体に取り込んでいるあいだは身動きがとれません」

 え?それってかなり危険なのでは?

 そう思いながらも、黒いオーラが入ってきたことによりなにか強い力が溢れてくる。

 不思議と恐怖心はなく入ってくるオーラだけに意識が集中していく。
 するとガーディアと対峙していた2匹の魔猪がこちらに気づき突進してくる。

「流石にレイル1人に2匹は荷が重い、逃げろレイル!」

 ガーディアが焦りそう叫ぶが俺には一言も聞こえていなかった。

 猪との距離は約10m、片方の猪と衝突するあと数十cmのところで黒いオーラが全部自分の体に入り体が自由になる。

 棒立ちのまま魔猪めがけて力いっぱい剣を横に斬りつけ、一撃で魔猪を真っ二つにする。

 続けて来るもう片方の魔猪には上段から剣を振り下ろし、ものすごい速さで最初の猪と同じように真っ二つにする。

 何も考えずそのままガーディアのもとへ行き無言で三匹目の魔猪を左下から右上へ斜めに剣を一振りして斬り殺す。

 最後にガーディアが対峙している魔猪を後から剣を横振りで斬る。

 その全ての動きは農民の動きでは到底なく、異常な光景であった。

「……何が起きた?」

 そしてただの農民が一瞬の間で4体の魔猪を殺した姿を見てガーディアは口をあんぐりと開けて呆然としていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

神様と呼ばれた精霊使い ~個性豊かな精霊達と共に~

川原源明
ファンタジー
ルマーン帝国ハーヴァー地方の小さな村に一人の少女がいた。 彼女の名はラミナ、小さな村で祖母と両親と4人で平和な生活を送っていた。 そんなある日のこと、狩りに行った父が倒れ、仲間の狩人に担がれて帰宅。 祖母の必死な看病もむなしく数時間後には亡くなり、同日母親も謎の病で息を引き取った。 両親が立て続けに亡くなった事で絶望で埋め尽くされているなか、 『ラミナ元気出しぃ、ウチが側におるから! と言うても聞こえてへんか……』 活発そうな女の子の声が頭の中に響いた。 祖母にそのことを話すと、代々側に居る精霊様では無いかという そして、週末にあるスキル継承の儀で『精霊使い』を授かるかもしれないねと言われ、 絶望の中に居る少女に小さな明かりが灯った気がした。 そして、週末、スキル継承の儀で念願の『精霊使い』を授かり、少女の物語はここから始まった。 先祖の甥に学園に行ってみてはといわれ、ルマーン帝国国立アカデミーに入学、そこで知り合った友人や先輩や先生等と織りなす物語 各地に散る精霊達と契約しながら 外科医療の存在しない世の中で、友人の肺に巣くう病魔を取り除いたり 探偵のまねごとをしている精霊とアカデミー7不思議の謎を解いたり ラミナ自身は学内武道会には参加しないけれど、400年ぶりに公衆の面前に姿を現す精霊達 夏休みには,思ってもみなかったことに巻き込まれ 収穫祭&学園祭では、○○役になったりと様々なことに巻き込まれていく。 そして、数年後には、先祖の軌跡をなぞるように、ラミナも世界に羽ばたく。 何事にも捕らわれない発想と、様々な経験をしていくことで、周囲から神様と呼ばれるようになった一人の精霊使いの物語のはじまりはじまり

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

過労死社畜は悪役令嬢に転生して経済革命を起こす

色部耀
ファンタジー
社畜OL天野乙葉は連日の徹夜がたたり、大好きな乙女ゲームの発売日に急死してしまう。目を覚ますと大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまっていた。しかもヒロインではなくその意地悪な姉レジーナとして。 真面目で優しい乙葉は本来のシナリオとは違って清く正しい振る舞いをする。しかしその結果婚約者だった公爵アレクサンダーから婚約破棄をされてしまう。 悪役令嬢となるはずだった乙葉の清く正しい異世界物語。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...