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第一章 大迷宮クレバス
20話 VS『グレータータウロス』
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青々とした森の中から一転、薄暗い洞窟内を慎重に進んでいく。
唯一の光は岩肌に乱雑に突き刺さった、薄緑に淡く輝く魔晄石のトーチのみ。
そんな洞窟を少し行けば開けた空間へと出る。
その無駄に広い空間はこの25階層から次の26階層へと下るための階段がある部屋である。
ただ下へと降りる為の階段があるだけでは勿体ないその広すぎる部屋にはもちろん階段以外のモノも存在する。
つい最近までそこに不在だったこの部屋の守り手は、階段の前に何食わぬ顔で堂々と胡坐をかく。
胡坐をかいていても分かるその大きな体躯は、立ち上がれば2メートルは優に超えるだろう。全身に盛り上がるように付いた筋肉はその硬さを疑う余地もなく剥き出しになっており、そいつが身にまとっている物は腰周りのボロの布切れ程度である。
これだけでも異様と言える出で立ちの奴が決定的に人外であると判断するにはその頭を見れば容易であろう。
それは普通の人の頭ではなく、二本の逞しい角を携えた牛の頭であった。
牛頭人はその体躯と同等の大きさの鉞を片手に、この先に進もうとする愚者を待ち構えるのみ。
静かにそこには居座っている。
「久しぶりに見たけどやっぱりとんでもない威圧感だな……」
まだ部屋に入ったばかりで俺たちと牛の距離はそれなりにある。だと言うのにそれを無視して牛頭人は威圧をしてくる。
「初めて対峙しますが確かに現段階で最強と呼ばれるだけはありますね」
今まで口を開かなかった隣の『静剣』もその姿に目を見開いている。
「怖気付いた?」
初めて見る彼女の様子に思わずそんな煽りをしてしまう。
「まさか、私とファイクさんの二人ならばあんな牛なんて瞬殺です」
「そいつは頼もしい」
しかしそんな煽りなど歯牙にもかけず、こちらに微笑んでくるアイリスは自信に満ちている。
「……作戦はさっき言った通りだ。俺が防御や拘束系の魔法で援護するからアイリスは思う存分暴れてくれ」
「分かりました」
ここまで来る間に立てた作戦を簡単に浚う。
アイリスが前衛で俺が中衛と後衛の両方、ときたまアイリスに混じって前衛と言った感じだ。まあ妥当な役割決めだろう。
俺とアイリス、どちらが高火力かと聞かれればば間違いなくアイリスだ。あの魔法を見れば尚更その意見は覆らない。俺もそれなりに前線を張って戦える自信はあるが、その相手がボスクラスのモンスターともなれば話は変わってくるし、使える魔法のバリエーション的にも俺が援護に回った方が効率的だ。
「よし、そんじゃあ行こうか」
問題がないことを確認してお互いに武器を構える。
「はい……っ!!」
アイリスが『颶剣グリムガル』を抜剣し、その場に風が巻き起こる。
今まで隣にいたはずの彼女は剣を抜いたと同時に地面を蹴って一直線に『グレータータウロス』の方へと向かっていった。
「魔法無しであの速さはどういう理屈なんだ?」
"無意識に魔力を体内に流し賦活している。彼奴もなかなか魔法の才があるようだ……勿体ないな"
俺の疑問にスカーはつまらなそうに続ける。
"そんなことはどうでもいい。呆けてないでお前もさっさと続け、あの女に全部持っていかれるぞ"
「……わーってる……よっ!!」
クソ爺の有難いお小言を適当に流して俺もアイリスに続く。
「……ふッ!!」
いち早く飛び出したアイリスはその俊足によって『グレータータウロス』の間合いへと入り込み、細剣を牛頭人の胸目掛けて突き出す。
閃光とも見間違える剣尖が襲いかかるがそれでも牛頭人は動くことなく胡坐をかいたままだ。
次の瞬間、激しい衝突音が洞窟内に響く。
それは問題なく『静剣』の一撃が牛頭人に衝突した音。
「硬いっ……!」
しかし攻撃を当てた等の本人は苦々しくそう口にする。
確かに『静剣』の一閃は牛頭人の胸部に直撃した。しかし、それによる牛頭人の外傷は皆無だった。
無防備の敵に放ったSランク探索者の渾身の一撃。他のモンスターならばそれで終わってしまうほどの威力を持った剣撃は『グレータータウロス』には何の意味もなかった。
そこでようやく牛頭人は目を覚ます。
「ッ! 一旦下がれアイリスっ!!」
「っ!?」
自身の攻撃が全く通用しなかったことに困惑の表情を見せたアイリスは攻撃直後、らしくも無くその場で呆然としていたため俺の指示に反応するのが遅れた。
今まで胡坐をかいていた『グレータータウロス』は自身の体躯を持ち上げると目の前で呆然と突っ立ていたアイリスを鉞を持っていない左手で掴み取る。
「あ……ぐっ……!!」
魔法を使い援護しようとするが間に合わない。胴体を大きな手によって力強く掴み上げられたアイリスは身動きが取れず、その表情を苦痛の色に染める。
「クソっ!」
走る速度を上げる。
やられた。
『グレータータウロス』の強さは理解しているはずだった。SランクとAランクの探索者4人でもギリギリ勝てるかどうかの相手だということは分かりきっていた。この目で実際に見たのだから。
それでも油断してしまった。
彼女なら……『静剣』アイリス・ブルームならばやってしまうのではないかと言う身勝手な期待をしてしまった。
これは俺の落ち度だ。もっと詳しく『グレータータウロス』の概要をアイリスに説明し、その上でもっと慎重に作戦を立てるべきだった。
走る中で体の中の魔力を熾す。
奴との距離は凡そ20メートル、このまま走って近づきアイリスを助けるのでは遅すぎる。
ならばこの場から直ぐに助ける。
心像するのはアイツの豪腕を穿ち貫く尖鋭された一撃。
「集い……顕現しろ!!」
無駄な言葉は紡がず、乱雑に心像を影にぶつける。
足元の影は一度蠢くと即座に牛頭人の元へと伸びていく。
影はアイリスが拘束されている前腕まで伸びる。そのまま下から飛び出すように鋭く尖った無数の影が牛頭人の左腕を貫く。
「グモっ!!?」
今まで物静かだった牛頭人はそこで初めて声を上げる。
突然の苦痛に牛頭人は瞳孔のない真赤な瞳を震わせて、アイリスを掴んでいた手を広げる。
「けほっ……!」
拘束から開放されたアイリスは着地に気を回す余裕など無く、そのまま無防備に約2メートルの高さから落ちていく。
「間に合えっ!」
「っ!!」
祈るような叫びと共に全速力でアイリスの落下地点へと滑り込み、両手と身体に激しい衝撃が襲いかかる。
「……ごほっ……何とか間に合った……」
大量の砂煙が巻き起こる中、その確かな重みと存在感に安堵する。何とかアイリスの体を受け止めることに成功した。
「あ……ありがとうございます」
自分が助かった実感がまだ無いのかアイリスは心ここに在らずと言った様子だ。
俺はアイリスを抱き抱えたまま急いで牛頭人のそばから距離を取る。
幸いにも『グレータータウロス』はまだ腕に突き刺さった影を除去するのに時間を食っている。
背後からの攻撃を気にすることなく無事に距離を取る事に成功した。
「申し訳ありませんファイクさん……」
「俺の方こそすまん、相手の力量を見誤っていた」
直ぐには牛頭人が接近してくることが無い距離まで来たところで、アイリスを地面に下ろし互いに謝罪する。
「お互いに色々と言いたいことがあると思うけど反省会は後だ、今は体勢を立て直そう。一旦俺が前線を張って時間を稼ぐ。その間にアイリスはこのポーションを飲んで少しでも体力を回復してくれ」
「分かりました。少しの間お願いします」
俺が影から取り出したポーションの小瓶を受け取りアイリスは頷く。
ポーションとは探索者の必需品で戦闘では欠かせないアイテムの一種だ。飲むと体内を再生能力を活性化させて少しだけ苦痛や傷を和らげる効果がある。高位の物になればその即効性が高くなり、『秘薬』と呼ばれる物になれば全損した腕や足を再生できるらしいが値段が有り得ないぐらい跳ね上がる。
今俺が渡したのはポーションの中でもランクの低い物だ。
おそらく今の『グレータータウロス』に身体を掴まれたことで肋骨や他の骨が何本か持っていかれているはずだ。本当はこのまま一旦撤退したいのだがそう上手くも行きそうにない。
俺一人であの牛野郎を倒せたら一番いいのだがそれこそ不可能。あの牛を倒すにはアイリスの力が必要不可欠だ。
申し訳ないが手負いでも戦ってもらう必要がある。
「いいか、あくまで無理はするなよ。骨も何本かやられてるだろうし十分に回復してから加勢してくれ。それぐらいの時間は余裕で稼いでやる」
「……っ──」
俺の念を押した忠告にアイリスは顔を気まづそうに顰める。
どうせ直ぐにでも前線に復帰するつもりだったのだろう。
「──はい、分かりました」
「よろしい。そんじゃあ行ってくる」
少しの間を置いてアイリスは頷く。それにさらに頷いて俺は牛頭人の方に視線を戻し駆け出す。
奴さんも俺の影が全部取れたようだ。
遠目からでも分かるぐらい怒って雄叫びを上げている。
それにしてもおかしい。
「なあスカー、今の雑な魔法であそこまでできると思ったか?」
走る中で俺は浮かんで出た疑問を『自称賢者』に質問をする。
"今のが『雑』か、お前も言うようになったな"
「は? どういうことだよ?」
要領を得ない賢者の返答にさらに問いただす。
"簡単に言えば魔力量の違いだな、お前の体が大量の魔力操作に慣れてきたんだ。今の基礎魔法はそれなりの魔力が使われていた、それだけであの牛の装甲を貫いた理由は説明できる。それにお前は『雑』と言ったがあの心像は良かったぞ"
「……は?」
とても珍しいスカーの高評価に俺は気の抜けた声が出る。
あの心像の何処が良かったというのか心像はいつもより深められなかったし、その心像を顕現させるために重要な詠唱も全部省いた。言ってしまえば速さを求めるあまりいつもより適当な魔法だったと自分では思っている。それをスカーは滅多にすることない高評価をした。
どういうことだ?
"納得してないようだからもう少し手短に説明してやる。いいか、一流の魔法使いはその全てに無駄がない。その根幹にあるのは全てを成し遂げると言う強い意志だ。さっきのお前には『絶対に助ける』という強い意志があった。覚えとけ心像とは意思でもある。今言えるのはそれだけだ"
「……」
もう少し詳しい説明を要求したいがそれどころではないのが現実だ。今は難しいことはどうでもいいと無理やりに殴り捨てる。いつもより質の高い魔法が使えるのならそれで十分だ。相手取るのは強敵、気なんて抜いてられない。
雄叫びを上げていた『グレータータウロス』が赤目を向けて俺を視認する。
気持ち悪いほど透き通ったその瞳に自然と潜影剣を握る手が強くなる。
『グレータータウロス』は片手で鉞を振り上げると跳躍する。
この部屋は天井も相当高く、『グレータータウロス』はその天井ギリギリまで跳躍して一気にこちらとの距離を詰めてくる。
落ちてくるタイミングと同時に『グレータータウロス』は真上から俺の脳天目掛けて鉞を振り下ろす。
「グルルルアァァァアアアア!!!」
驚異的な速さで振り落ちてくる『グレータータウロス』とその鉞を咄嗟に躱すのは不可能、頭上に潜影剣を構えて最悪の形で奴の攻撃を受け止める。
「ぐっ……力強すぎだろ……っ!」
瞬間、今まで溜め込まれたインパクトが受け止めた潜影剣を通して俺の全身に流れてくる。
俺のいる足場は波打つように抉れ、まともに立っているのもままならない。そのまま片膝を抉れた地面に着き何とか『グレータータウロス』の強打を耐えることに成功するが、完全に出鼻をくじかれた。
鍔迫り合いの形と相成るがこの状態を続けていれば下から受け止めているこちらの方が完全に不利だ。
「クソ野郎が……!」
真横に向いている剣先を地面に向けて下に垂らすように動かす。そのまま刀身で受け止めていた鉞を俺から地面へと受け流す。
受け流された鉞はその勢い収まることなく無造作に地面に叩きつけられる。
抉れた地面がさらに深く掘り下げられ無数の瓦礫が飛び散る。
飛び散る瓦礫と同時に俺も『グレータータウロス』との距離を再び取る。
「ッフスーーーー!!」
鼻息を荒らげ『グレータータウロス』は地面に刺さった鉞を引き抜く。
「バケモンかよ……」
そんな姿を見ながら俺は独り言ちる。
今の一撃だけで潜影剣は無惨にも塵に消えてしまった。
直ぐに新しい潜影剣を影から顕現させるが、次はどれだけ持つか分かったものでは無い。
「ウグアアアァァァァアアア!!」
間髪入れずに『グレータータウロス』は再び鉞を振りかぶりこちらに突進してくる。
何度もあの馬鹿力から繰り出される強打を受けてはいられない。
そう判断し魔法を心像するが魔法を顕現させるよりも『グレータータウロス』の攻撃の方が速い。
仕方なく再び潜影剣で襲い来る鉞を受け止める。
「うぐっ……普通でこれかよ……!」
空中からの振り下ろし攻撃よりは威力は落ちるがそれでも強力なのには変わりがない。
先程の攻撃の所為で両腕の感覚がおかしい。もしかしなくても骨が持っていかれていることだろう。
そのまま数十合打ち合うが威力は落ちるどころか増していく。加えて縦横無尽、四方八方と色々な角度からの攻撃に段々と合わせるのが遅れてくる。
体の至る所に致命傷には至らないが決して浅くはない切傷が蓄積されていく。
「…………っ」
"このままじゃあジリ貧だ。簡単でも適当でもいい、とにかく心像しろ!"
増えていく傷と共に意識はどんどん朧気になっていく。そんな中、いつになく慌てた様子のスカーの声で無意識に心像する。
「いめー……じ……」
定まらない意識の中で心像する。
一瞬でいい、奴の動きを止めるんだ。
影……影の手だ。いつも使っているアレだ。
「つ、集え……顕……現せよ……」
詠唱なんてできるはずがない。
だが、常に体内を駆け巡っている魔力はその覚束無い言葉を糧に俺の心像を具現させる。
影は蠢くと『グレータータウロス』の方まで伸びていき、一本の影の魔手を顕現させる。
「グッ……………?」
それで一瞬、時間にして2、3秒『グレータータウロス』の間抜けな声が聞こえる。
"今だっ!!"
それで十分だった。
嗄れた声を合図に俺は思いっきり後ろに飛び、同時に再び心像をする。
依然として動きの鈍い頭を無理やりに使って、さっきよりもまともな心像をする。
心像するのは一枚の立ちはだかる黒影の障壁。天地を覆す一撃もその障壁の前では無に帰す。
「集え──」
勘でしかないが魔力はまだ十分にある。今自分にでき得る魔力操作の最大出力を駆使してその魔法を顕現させる。
「不落なるは魔城の障壁ッ!!」
言葉の次に眼前には俺の視界を覆い尽くす程の影の障壁がそり立つ。
「ウグォオオオオオオオ!!」
数秒の拘束の後、『グレータータウロス』はいとも簡単に影の魔手を引きちぎると再度こちらに鉞を振り下ろしてくるがそれを障壁が何も無いかのように防ぐ。
激しく鉄と障壁の弾ける鈍い音が聞こえてくるが奴の攻撃がこの壁を壊せるとは思えない。
"あの数秒でこの強度の魔法なら上出来だ。今のうちに回復をしておけ"
スカーのその声で影の中からポーションの小瓶が飛び出してくる。それを掴み取り、そのまま栓を開けて口に運ぶ。
「……プハァ……命拾いした」
小瓶一気に飲み干して一息つく。
少しだけ気分が楽になった気がする。
本当に命拾いをした。「休むだけの時間は稼ぐ」とアイリスの前で息巻いては見たが結果はこのザマだ。
今の俺では役不足もいいところだ。
本当に死ぬところだった。
どれくらい時間を稼げたのかは分からないがそれなりに『グレータータウロス』の気は引けたのではないだろうか。
最後の最後で何とか防御魔法で奴の足を完全に止めることができた。
後はアイリスの復帰を待って二人で畳み掛けるだけだ──。
そんな考えを巡らせていた時だった。
「暴颶」
凛とした綺麗な声音と共に『グレータータウロス』の猛攻が止む。
「……え?」
突然の変化に困惑する。
壁の向こう側で何が起きているのか分からないが、どういう訳か今まで止む気配すらなかった『グレータータウロス』の攻撃が止んだ。
それに今聞こえた声はアイリスだ。
もしかして回復が終わって戦闘に復帰したのか?
分からないがもしそうだとしたらアイリス一人に『グレータータウロス』の相手をさせる訳にはいかない。
そう判断して俺は急いで目の前の障壁を影に戻す。
「…………は?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
目の前を覆い尽くす障壁が無くなって、直ぐ目に飛び込んだのは、無防備に宙に舞う『グレータータウロス』の姿だった。
「あ、ファイクさん! お一人でこのクソ牛の相手をさせてしまい申し訳ありません! もう終わらせるので休んでいてください!」
彼女の明るい声とその傍らには竜巻……いや暴風があった。
激しい風きり音と龍を思わせる逆巻く暴風。その中に囚われ全方位から襲いかかる風に切り刻まれる『グレータータウロス』。
正直に言うと訳が分からなかった。
俺は夢でも見ているのだろうか?
余りに予想外の光景にそんな気がしてくる。
「終わりです……よくもファイクさんをあれだけ傷つけてくれましてねクソ牛……」
今までの笑顔を消し去り無表情で『グレータータウロス』の方へと一瞥するアイリス。
「風神疾走」
剣を一振して暴風を止めると身体強化の魔法を使い、未だ宙に舞っている『グレータータウロス』目掛けて跳躍する。
「グモッ─────ッッッ!!」
そのまま一直線に『グレータータウロス』の方へと飛んだアイリスは無防備に落下してくる奴の首元を細剣一閃で刈り取る。
「お待たせしましたファイクさんっ!!」
見事な大跳躍を果たし、難なく着地をしたアイリスは感情を全く感じさせない無表情から花の咲いたような笑顔に変えてこちらに駆け寄ってくる。
その後ろでは絶命した『グレータータウロス』の首と全身、鉞が無造作に地面に打ち付けられていた。
……何が起きた?
俺は未だ理解が追いつかずも、駆け寄ってくるアイリスを迎えようとするが急激に意識が薄れていく。
「……あ……れ……?」
身体に力が入らない。
その原因が『グレータータウロス』が突然倒された安堵からなのか、はたまた血を流しすぎた所為なのかそれとも脳がキャパオーバーして意識をシャットダウンしようとしているのかは分からない。
……いや、全部だなこれ。
意識が落ちていく最中、そんな結論を出したところで俺は完全に暗闇に沈んで行った。
唯一の光は岩肌に乱雑に突き刺さった、薄緑に淡く輝く魔晄石のトーチのみ。
そんな洞窟を少し行けば開けた空間へと出る。
その無駄に広い空間はこの25階層から次の26階層へと下るための階段がある部屋である。
ただ下へと降りる為の階段があるだけでは勿体ないその広すぎる部屋にはもちろん階段以外のモノも存在する。
つい最近までそこに不在だったこの部屋の守り手は、階段の前に何食わぬ顔で堂々と胡坐をかく。
胡坐をかいていても分かるその大きな体躯は、立ち上がれば2メートルは優に超えるだろう。全身に盛り上がるように付いた筋肉はその硬さを疑う余地もなく剥き出しになっており、そいつが身にまとっている物は腰周りのボロの布切れ程度である。
これだけでも異様と言える出で立ちの奴が決定的に人外であると判断するにはその頭を見れば容易であろう。
それは普通の人の頭ではなく、二本の逞しい角を携えた牛の頭であった。
牛頭人はその体躯と同等の大きさの鉞を片手に、この先に進もうとする愚者を待ち構えるのみ。
静かにそこには居座っている。
「久しぶりに見たけどやっぱりとんでもない威圧感だな……」
まだ部屋に入ったばかりで俺たちと牛の距離はそれなりにある。だと言うのにそれを無視して牛頭人は威圧をしてくる。
「初めて対峙しますが確かに現段階で最強と呼ばれるだけはありますね」
今まで口を開かなかった隣の『静剣』もその姿に目を見開いている。
「怖気付いた?」
初めて見る彼女の様子に思わずそんな煽りをしてしまう。
「まさか、私とファイクさんの二人ならばあんな牛なんて瞬殺です」
「そいつは頼もしい」
しかしそんな煽りなど歯牙にもかけず、こちらに微笑んでくるアイリスは自信に満ちている。
「……作戦はさっき言った通りだ。俺が防御や拘束系の魔法で援護するからアイリスは思う存分暴れてくれ」
「分かりました」
ここまで来る間に立てた作戦を簡単に浚う。
アイリスが前衛で俺が中衛と後衛の両方、ときたまアイリスに混じって前衛と言った感じだ。まあ妥当な役割決めだろう。
俺とアイリス、どちらが高火力かと聞かれればば間違いなくアイリスだ。あの魔法を見れば尚更その意見は覆らない。俺もそれなりに前線を張って戦える自信はあるが、その相手がボスクラスのモンスターともなれば話は変わってくるし、使える魔法のバリエーション的にも俺が援護に回った方が効率的だ。
「よし、そんじゃあ行こうか」
問題がないことを確認してお互いに武器を構える。
「はい……っ!!」
アイリスが『颶剣グリムガル』を抜剣し、その場に風が巻き起こる。
今まで隣にいたはずの彼女は剣を抜いたと同時に地面を蹴って一直線に『グレータータウロス』の方へと向かっていった。
「魔法無しであの速さはどういう理屈なんだ?」
"無意識に魔力を体内に流し賦活している。彼奴もなかなか魔法の才があるようだ……勿体ないな"
俺の疑問にスカーはつまらなそうに続ける。
"そんなことはどうでもいい。呆けてないでお前もさっさと続け、あの女に全部持っていかれるぞ"
「……わーってる……よっ!!」
クソ爺の有難いお小言を適当に流して俺もアイリスに続く。
「……ふッ!!」
いち早く飛び出したアイリスはその俊足によって『グレータータウロス』の間合いへと入り込み、細剣を牛頭人の胸目掛けて突き出す。
閃光とも見間違える剣尖が襲いかかるがそれでも牛頭人は動くことなく胡坐をかいたままだ。
次の瞬間、激しい衝突音が洞窟内に響く。
それは問題なく『静剣』の一撃が牛頭人に衝突した音。
「硬いっ……!」
しかし攻撃を当てた等の本人は苦々しくそう口にする。
確かに『静剣』の一閃は牛頭人の胸部に直撃した。しかし、それによる牛頭人の外傷は皆無だった。
無防備の敵に放ったSランク探索者の渾身の一撃。他のモンスターならばそれで終わってしまうほどの威力を持った剣撃は『グレータータウロス』には何の意味もなかった。
そこでようやく牛頭人は目を覚ます。
「ッ! 一旦下がれアイリスっ!!」
「っ!?」
自身の攻撃が全く通用しなかったことに困惑の表情を見せたアイリスは攻撃直後、らしくも無くその場で呆然としていたため俺の指示に反応するのが遅れた。
今まで胡坐をかいていた『グレータータウロス』は自身の体躯を持ち上げると目の前で呆然と突っ立ていたアイリスを鉞を持っていない左手で掴み取る。
「あ……ぐっ……!!」
魔法を使い援護しようとするが間に合わない。胴体を大きな手によって力強く掴み上げられたアイリスは身動きが取れず、その表情を苦痛の色に染める。
「クソっ!」
走る速度を上げる。
やられた。
『グレータータウロス』の強さは理解しているはずだった。SランクとAランクの探索者4人でもギリギリ勝てるかどうかの相手だということは分かりきっていた。この目で実際に見たのだから。
それでも油断してしまった。
彼女なら……『静剣』アイリス・ブルームならばやってしまうのではないかと言う身勝手な期待をしてしまった。
これは俺の落ち度だ。もっと詳しく『グレータータウロス』の概要をアイリスに説明し、その上でもっと慎重に作戦を立てるべきだった。
走る中で体の中の魔力を熾す。
奴との距離は凡そ20メートル、このまま走って近づきアイリスを助けるのでは遅すぎる。
ならばこの場から直ぐに助ける。
心像するのはアイツの豪腕を穿ち貫く尖鋭された一撃。
「集い……顕現しろ!!」
無駄な言葉は紡がず、乱雑に心像を影にぶつける。
足元の影は一度蠢くと即座に牛頭人の元へと伸びていく。
影はアイリスが拘束されている前腕まで伸びる。そのまま下から飛び出すように鋭く尖った無数の影が牛頭人の左腕を貫く。
「グモっ!!?」
今まで物静かだった牛頭人はそこで初めて声を上げる。
突然の苦痛に牛頭人は瞳孔のない真赤な瞳を震わせて、アイリスを掴んでいた手を広げる。
「けほっ……!」
拘束から開放されたアイリスは着地に気を回す余裕など無く、そのまま無防備に約2メートルの高さから落ちていく。
「間に合えっ!」
「っ!!」
祈るような叫びと共に全速力でアイリスの落下地点へと滑り込み、両手と身体に激しい衝撃が襲いかかる。
「……ごほっ……何とか間に合った……」
大量の砂煙が巻き起こる中、その確かな重みと存在感に安堵する。何とかアイリスの体を受け止めることに成功した。
「あ……ありがとうございます」
自分が助かった実感がまだ無いのかアイリスは心ここに在らずと言った様子だ。
俺はアイリスを抱き抱えたまま急いで牛頭人のそばから距離を取る。
幸いにも『グレータータウロス』はまだ腕に突き刺さった影を除去するのに時間を食っている。
背後からの攻撃を気にすることなく無事に距離を取る事に成功した。
「申し訳ありませんファイクさん……」
「俺の方こそすまん、相手の力量を見誤っていた」
直ぐには牛頭人が接近してくることが無い距離まで来たところで、アイリスを地面に下ろし互いに謝罪する。
「お互いに色々と言いたいことがあると思うけど反省会は後だ、今は体勢を立て直そう。一旦俺が前線を張って時間を稼ぐ。その間にアイリスはこのポーションを飲んで少しでも体力を回復してくれ」
「分かりました。少しの間お願いします」
俺が影から取り出したポーションの小瓶を受け取りアイリスは頷く。
ポーションとは探索者の必需品で戦闘では欠かせないアイテムの一種だ。飲むと体内を再生能力を活性化させて少しだけ苦痛や傷を和らげる効果がある。高位の物になればその即効性が高くなり、『秘薬』と呼ばれる物になれば全損した腕や足を再生できるらしいが値段が有り得ないぐらい跳ね上がる。
今俺が渡したのはポーションの中でもランクの低い物だ。
おそらく今の『グレータータウロス』に身体を掴まれたことで肋骨や他の骨が何本か持っていかれているはずだ。本当はこのまま一旦撤退したいのだがそう上手くも行きそうにない。
俺一人であの牛野郎を倒せたら一番いいのだがそれこそ不可能。あの牛を倒すにはアイリスの力が必要不可欠だ。
申し訳ないが手負いでも戦ってもらう必要がある。
「いいか、あくまで無理はするなよ。骨も何本かやられてるだろうし十分に回復してから加勢してくれ。それぐらいの時間は余裕で稼いでやる」
「……っ──」
俺の念を押した忠告にアイリスは顔を気まづそうに顰める。
どうせ直ぐにでも前線に復帰するつもりだったのだろう。
「──はい、分かりました」
「よろしい。そんじゃあ行ってくる」
少しの間を置いてアイリスは頷く。それにさらに頷いて俺は牛頭人の方に視線を戻し駆け出す。
奴さんも俺の影が全部取れたようだ。
遠目からでも分かるぐらい怒って雄叫びを上げている。
それにしてもおかしい。
「なあスカー、今の雑な魔法であそこまでできると思ったか?」
走る中で俺は浮かんで出た疑問を『自称賢者』に質問をする。
"今のが『雑』か、お前も言うようになったな"
「は? どういうことだよ?」
要領を得ない賢者の返答にさらに問いただす。
"簡単に言えば魔力量の違いだな、お前の体が大量の魔力操作に慣れてきたんだ。今の基礎魔法はそれなりの魔力が使われていた、それだけであの牛の装甲を貫いた理由は説明できる。それにお前は『雑』と言ったがあの心像は良かったぞ"
「……は?」
とても珍しいスカーの高評価に俺は気の抜けた声が出る。
あの心像の何処が良かったというのか心像はいつもより深められなかったし、その心像を顕現させるために重要な詠唱も全部省いた。言ってしまえば速さを求めるあまりいつもより適当な魔法だったと自分では思っている。それをスカーは滅多にすることない高評価をした。
どういうことだ?
"納得してないようだからもう少し手短に説明してやる。いいか、一流の魔法使いはその全てに無駄がない。その根幹にあるのは全てを成し遂げると言う強い意志だ。さっきのお前には『絶対に助ける』という強い意志があった。覚えとけ心像とは意思でもある。今言えるのはそれだけだ"
「……」
もう少し詳しい説明を要求したいがそれどころではないのが現実だ。今は難しいことはどうでもいいと無理やりに殴り捨てる。いつもより質の高い魔法が使えるのならそれで十分だ。相手取るのは強敵、気なんて抜いてられない。
雄叫びを上げていた『グレータータウロス』が赤目を向けて俺を視認する。
気持ち悪いほど透き通ったその瞳に自然と潜影剣を握る手が強くなる。
『グレータータウロス』は片手で鉞を振り上げると跳躍する。
この部屋は天井も相当高く、『グレータータウロス』はその天井ギリギリまで跳躍して一気にこちらとの距離を詰めてくる。
落ちてくるタイミングと同時に『グレータータウロス』は真上から俺の脳天目掛けて鉞を振り下ろす。
「グルルルアァァァアアアア!!!」
驚異的な速さで振り落ちてくる『グレータータウロス』とその鉞を咄嗟に躱すのは不可能、頭上に潜影剣を構えて最悪の形で奴の攻撃を受け止める。
「ぐっ……力強すぎだろ……っ!」
瞬間、今まで溜め込まれたインパクトが受け止めた潜影剣を通して俺の全身に流れてくる。
俺のいる足場は波打つように抉れ、まともに立っているのもままならない。そのまま片膝を抉れた地面に着き何とか『グレータータウロス』の強打を耐えることに成功するが、完全に出鼻をくじかれた。
鍔迫り合いの形と相成るがこの状態を続けていれば下から受け止めているこちらの方が完全に不利だ。
「クソ野郎が……!」
真横に向いている剣先を地面に向けて下に垂らすように動かす。そのまま刀身で受け止めていた鉞を俺から地面へと受け流す。
受け流された鉞はその勢い収まることなく無造作に地面に叩きつけられる。
抉れた地面がさらに深く掘り下げられ無数の瓦礫が飛び散る。
飛び散る瓦礫と同時に俺も『グレータータウロス』との距離を再び取る。
「ッフスーーーー!!」
鼻息を荒らげ『グレータータウロス』は地面に刺さった鉞を引き抜く。
「バケモンかよ……」
そんな姿を見ながら俺は独り言ちる。
今の一撃だけで潜影剣は無惨にも塵に消えてしまった。
直ぐに新しい潜影剣を影から顕現させるが、次はどれだけ持つか分かったものでは無い。
「ウグアアアァァァァアアア!!」
間髪入れずに『グレータータウロス』は再び鉞を振りかぶりこちらに突進してくる。
何度もあの馬鹿力から繰り出される強打を受けてはいられない。
そう判断し魔法を心像するが魔法を顕現させるよりも『グレータータウロス』の攻撃の方が速い。
仕方なく再び潜影剣で襲い来る鉞を受け止める。
「うぐっ……普通でこれかよ……!」
空中からの振り下ろし攻撃よりは威力は落ちるがそれでも強力なのには変わりがない。
先程の攻撃の所為で両腕の感覚がおかしい。もしかしなくても骨が持っていかれていることだろう。
そのまま数十合打ち合うが威力は落ちるどころか増していく。加えて縦横無尽、四方八方と色々な角度からの攻撃に段々と合わせるのが遅れてくる。
体の至る所に致命傷には至らないが決して浅くはない切傷が蓄積されていく。
「…………っ」
"このままじゃあジリ貧だ。簡単でも適当でもいい、とにかく心像しろ!"
増えていく傷と共に意識はどんどん朧気になっていく。そんな中、いつになく慌てた様子のスカーの声で無意識に心像する。
「いめー……じ……」
定まらない意識の中で心像する。
一瞬でいい、奴の動きを止めるんだ。
影……影の手だ。いつも使っているアレだ。
「つ、集え……顕……現せよ……」
詠唱なんてできるはずがない。
だが、常に体内を駆け巡っている魔力はその覚束無い言葉を糧に俺の心像を具現させる。
影は蠢くと『グレータータウロス』の方まで伸びていき、一本の影の魔手を顕現させる。
「グッ……………?」
それで一瞬、時間にして2、3秒『グレータータウロス』の間抜けな声が聞こえる。
"今だっ!!"
それで十分だった。
嗄れた声を合図に俺は思いっきり後ろに飛び、同時に再び心像をする。
依然として動きの鈍い頭を無理やりに使って、さっきよりもまともな心像をする。
心像するのは一枚の立ちはだかる黒影の障壁。天地を覆す一撃もその障壁の前では無に帰す。
「集え──」
勘でしかないが魔力はまだ十分にある。今自分にでき得る魔力操作の最大出力を駆使してその魔法を顕現させる。
「不落なるは魔城の障壁ッ!!」
言葉の次に眼前には俺の視界を覆い尽くす程の影の障壁がそり立つ。
「ウグォオオオオオオオ!!」
数秒の拘束の後、『グレータータウロス』はいとも簡単に影の魔手を引きちぎると再度こちらに鉞を振り下ろしてくるがそれを障壁が何も無いかのように防ぐ。
激しく鉄と障壁の弾ける鈍い音が聞こえてくるが奴の攻撃がこの壁を壊せるとは思えない。
"あの数秒でこの強度の魔法なら上出来だ。今のうちに回復をしておけ"
スカーのその声で影の中からポーションの小瓶が飛び出してくる。それを掴み取り、そのまま栓を開けて口に運ぶ。
「……プハァ……命拾いした」
小瓶一気に飲み干して一息つく。
少しだけ気分が楽になった気がする。
本当に命拾いをした。「休むだけの時間は稼ぐ」とアイリスの前で息巻いては見たが結果はこのザマだ。
今の俺では役不足もいいところだ。
本当に死ぬところだった。
どれくらい時間を稼げたのかは分からないがそれなりに『グレータータウロス』の気は引けたのではないだろうか。
最後の最後で何とか防御魔法で奴の足を完全に止めることができた。
後はアイリスの復帰を待って二人で畳み掛けるだけだ──。
そんな考えを巡らせていた時だった。
「暴颶」
凛とした綺麗な声音と共に『グレータータウロス』の猛攻が止む。
「……え?」
突然の変化に困惑する。
壁の向こう側で何が起きているのか分からないが、どういう訳か今まで止む気配すらなかった『グレータータウロス』の攻撃が止んだ。
それに今聞こえた声はアイリスだ。
もしかして回復が終わって戦闘に復帰したのか?
分からないがもしそうだとしたらアイリス一人に『グレータータウロス』の相手をさせる訳にはいかない。
そう判断して俺は急いで目の前の障壁を影に戻す。
「…………は?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
目の前を覆い尽くす障壁が無くなって、直ぐ目に飛び込んだのは、無防備に宙に舞う『グレータータウロス』の姿だった。
「あ、ファイクさん! お一人でこのクソ牛の相手をさせてしまい申し訳ありません! もう終わらせるので休んでいてください!」
彼女の明るい声とその傍らには竜巻……いや暴風があった。
激しい風きり音と龍を思わせる逆巻く暴風。その中に囚われ全方位から襲いかかる風に切り刻まれる『グレータータウロス』。
正直に言うと訳が分からなかった。
俺は夢でも見ているのだろうか?
余りに予想外の光景にそんな気がしてくる。
「終わりです……よくもファイクさんをあれだけ傷つけてくれましてねクソ牛……」
今までの笑顔を消し去り無表情で『グレータータウロス』の方へと一瞥するアイリス。
「風神疾走」
剣を一振して暴風を止めると身体強化の魔法を使い、未だ宙に舞っている『グレータータウロス』目掛けて跳躍する。
「グモッ─────ッッッ!!」
そのまま一直線に『グレータータウロス』の方へと飛んだアイリスは無防備に落下してくる奴の首元を細剣一閃で刈り取る。
「お待たせしましたファイクさんっ!!」
見事な大跳躍を果たし、難なく着地をしたアイリスは感情を全く感じさせない無表情から花の咲いたような笑顔に変えてこちらに駆け寄ってくる。
その後ろでは絶命した『グレータータウロス』の首と全身、鉞が無造作に地面に打ち付けられていた。
……何が起きた?
俺は未だ理解が追いつかずも、駆け寄ってくるアイリスを迎えようとするが急激に意識が薄れていく。
「……あ……れ……?」
身体に力が入らない。
その原因が『グレータータウロス』が突然倒された安堵からなのか、はたまた血を流しすぎた所為なのかそれとも脳がキャパオーバーして意識をシャットダウンしようとしているのかは分からない。
……いや、全部だなこれ。
意識が落ちていく最中、そんな結論を出したところで俺は完全に暗闇に沈んで行った。
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