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12.殿下のお迎え
しおりを挟む「レオ様……どうしたんですか、こんな朝早くに」
グレイの予感が的中した。翌朝、レオナルドがリズベットを訪ねて、突然ナイトレイ子爵家にやって来たのだ。
確か彼は、今日王城から別邸に戻る予定だったはず。経路を考えると、恐らく別邸に帰る前に子爵家に寄ったのだろう。
第一王子の急な来訪に、ナイトレイ子爵家は朝から大騒ぎだった。ひとまずレオナルドを屋敷の応接室に招き入れると、しばらくの間は義父が彼の対応をしていたようだ。
一方、当のリズベットはというと、久しぶりの休暇ということで日が昇ってからも呑気に二度寝を楽しんでいた。しかし、レオナルドの来訪で叩き起こされ、急いで身支度をし、ようやく今応接室にたどり着いたところなのである。
今この部屋には、レオナルドと義父、そしてリズベットがいる。
リズベットの対面に座るレオナルドは、なぜか焦っている様子だった。
「突然訪ねてきて申し訳ない。専属医をリズから変更したと父から聞かされて、居ても立っても居られず」
「え……?」
まるでリズベットがクビになったことを知らなかったような口ぶりに驚く。一体どういうことだろうと首を傾げていると、レオナルドが続けた。
「リズが追い出されたのは、全てマイアの仕組んだことだったんだ。未然に防げなくてすまなかった」
話を聞くと、マイアは父親であるアールリオン公爵に「レオナルド殿下の専属医はもっと熟練した医師に変えるべきだ。今の女医師では、殿下が再び魔法を使えるようにはならない」と訴えたらしい。
それを聞いた公爵が国王に進言したところ、レオナルドの意思とは関係なく、専属医が別の医師に変更されることになってしまった、というわけだ。
昨日、国王から専属医変更の話を聞いたレオナルドは、リズベットのこれまでの功績を説明し、すぐさま配置換えの撤回を申し出た。患者本人がそう言うならと、無事その訴えは通り、今は一応リズベットが彼の専属医ということになっているようだ。
マイアがわざわざそんな進言をした理由は想像に難くない。要はリズベットが邪魔だったのだろう。気に入られたい相手の近くに女がいたら、遠ざけたくなるのもわからなくはない。
いずれにせよ、レオナルドに嫌われて追い出されたのではないとわかり、リズベットは安堵の表情を浮かべた。
「そうだったのですね。てっきり、何か粗相を働いてしまったのかとばかり……」
「粗相などあるものか。君は俺のためによく尽くしてくれている。感謝こそすれ、追い出したりなど絶対にしない」
レオナルドの言葉は力強く、青の瞳はじっとリズベットを見つめていた。
彼と離れて三日ほどしか経っていないのに、この青を見るのは随分と久しぶりな気がする。
「リズ。俺が至らないばかりに、振り回してしまって本当に申し訳ない。だが、君が嫌じゃなければ、屋敷に戻ってきてはくれないだろうか」
レオナルドの瞳は真剣だった。ここまで必要とされて、断る理由などどこにもない。それに、乗りかかった船だ。ひとりの医師として、彼が魔法を使えるようになるまで支えたいという気持ちもあった。
そしてリズベットは、微笑みながら彼に返事をする。
「慌てて追い出されて引き継ぎができなかったので、ちょうど心配していたんです。私を必要としてくださるなら、喜んで」
その答えにレオナルドは安堵の表情を浮かべ、微笑み返してきた。
「ありがとう、リズ」
そして、隣りに座っていた義父が、慈愛に満ちた表情で言葉をかけてくれた。
「リズ、良かったね。しっかりおやり」
「はい。すぐに荷物をまとめてきます」
そうしてリズベットは、レオナルドとともに王家の別邸に戻るのだった。
* * *
屋敷に着くと、キーツが今にも泣きそうになりながら出迎えてくれた。
「嬢ちゃん……! 良かった、無事で……!」
昨日キーツが買い出しから戻ると、見ず知らずの黒縁眼鏡の医者がいて心底驚いたという。そしてその医者から、リズベットがひとりで屋敷を去ったことを聞かされ、とても心配してくれていたようだ。
今回の配属が間違いだったことがわかり、当の医者は既に屋敷を去った後だった。昨日のリズベットへの態度から考えて、恐らくあの医者もマイアの回し者だったのだろう。
「すみません、ご心配をおかけして。ただいま戻りました」
自然と「ただいま」という言葉が口から出てきて、リズベットは少し驚く。半年ほどこの屋敷で過ごしていたせいか、いつの間にか随分と馴染んでいたようだ。
その後、リズベットは自室に荷物を置いてからレオナルドの部屋に向かった。ここ数日、彼の健康状態を見ていなかったので、その確認だ。
レオナルドをソファに座らせ、脈を測ったり、顔色や肌艶の確認をしていく。
「王城ではあまり眠れませんでしたか?」
ここ最近はレオナルドの不眠も改善傾向にあったのだが、今の彼には目の下にクマができていた。元々王城で暮らしていたはずだが、久しぶり過ぎて落ち着かなかったのかもしれない。
するとレオナルドは、苦笑しながら自嘲気味に言った。
「ああ。気を張ってしまってな。昔はそんなことなかったのに、今は城の皆が敵に見えて仕方ないんだ」
珍しく聞く彼の弱音に、リズベットは心を痛めた。
レオナルドの魔力暴走は、誰かが仕組んだものではないかと噂されている。英雄の名に傷をつけて得をするのは、彼の周辺の人物のはずだ。彼が他人を信じられなくなるのも当然のことだった。
リズベットが何も言えずにいると、レオナルドはとても優しい微笑みを向けてくる。
「でも、屋敷に帰ってきて気が休まった。リズの顔を見ると、どうしてかとても安心するんだ」
「それは……何よりです」
急にそんなことを言われ驚いたリズベットは、うるさく鳴りだした心臓を抑えながら何とか言葉を返した。
こんな綺麗な人に微笑みかけられた上に、「お前は特別だ」みたいな言葉をかけられたら誰だってドキドキするだろう。
脈を測っていたときは全く気にならなかったのに、今はどうしても彼との距離を意識してしまう。彼は今、リズベットのすぐ隣に座っているのだ。
(患者……彼は患者……。きっと、患者が医者を見て安心しただけよ……他意はない、他意は……)
自分を落ち着かせるように心の中でそう唱えていると、レオナルドに追い打ちをかけられてしまった。
「リズ。少しだけ、抱きしめてもいいだろうか」
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