【完結】落ちこぼれ聖女は王子の寵愛を拒絶する〜静かに暮らしたいので、溺愛されても困りますっ〜

雨野 雫

文字の大きさ
上 下
11 / 44

10.久しぶりの我が家

しおりを挟む

 リズベットがナイトレイ子爵家の屋敷に着いたのは、ちょうど日が沈んだ頃だった。

 義両親はリズベットの突然の帰宅に驚きつつも、久しぶりの再会を大いに喜んでくれた。そして、急にクビになってしまったことを話すと、二人は優しく励ましてくれた。

「半年間お疲れ様、リズ。きっとレオナルド殿下の回復が順調だったから、早めにお役目が終わっただけさ」
「よく頑張ったわね。無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。二人だけだと、この屋敷は広くて寂しいと思っていたの。さあ、ちょうど夕食の時間だから、一緒に食べましょう」

 そうしてリズベットは、久々に義両親との食事を楽しんだ。

 リズベットには義理の兄と姉がいるが、義兄は王城務めで、義姉は結婚で既に家を出ている。だから、食卓を囲うのも三人だけだ。

 リズベットは夕食後、寝支度を済ませてから、自分の部屋で机に向かって書き物をしていた。

「何やってんの?」

 不意に後ろから声をかけられ、ドクンと心臓が飛び跳ねる。集中していたので、全く気がつかなかった。

「びっ……くりしたあ……! 急に現れないでっていつも言ってるでしょ、グレイ!」

 彼はこうして突然姿を見せることがある。心臓に悪いのでやめてと再三言っているのだが、全く聞く耳を持たないので困ったものだ。

 ちなみに、グレイもリズベットとともにこの家に拾われた身で、自室も与えられている。だが、彼が自室にいることは滅多にない。実を言うと、リズベットも彼がいつどこで何をしているのか、あまり良く知らないのだ。

「お前が鈍感すぎなだけ。で、何やってんの?」

 グレイはそう言うと、後ろから手元を覗き込んできた。

「レオナルド殿下のカルテをまとめているの。ちゃんと引き継ぎできなかったのが、少し心配で。明日、あの黒縁眼鏡の医者に郵送で送りつけてやろうかと思ってるの」
「健気だねえ。ああ、なるほど。王子殿下に惚れたか」
「違う」

 リズベットはグレイの勘違いを即座に否定し、彼の頭にチョップを食らわしてやった。

「いてっ。まあ、でも、俺はいいと思うけどな、あの王子サマ」
「……明日は雪でも降るのかしら? グレイが男性を薦めてくるなんて初めてじゃない? いつも難癖ばっかりつけるくせに」

 既に十八歳のリズベットがまだ結婚していないのには理由がある。これまでいくつかの縁談を持ちかけられたことはあったのだが、毎度この男が裏で妨害するせいで、全て白紙になってしまったからだ。

 地位が低い。
 財力が足りない。
 挙句の果てには、俺より強い奴じゃないとダメとか言ってくる始末。

 リズベットも早くどこか適当な家に嫁いで義両親を安心させたいのだが、この男のおかげで婚期を逃し続けているというわけだ。

 そんな過保護すぎるこの護衛が男を薦めてくるなんて、本当に珍しい。

「地位も権力もある。金も持ってる。強いし、おまけに顔もいい。結婚相手としてはこれ以上ないだろ」
「レオナルド殿下は私にとってただの患者よ。そもそも殿下、婚約者いるし」

 リズベットが適当にあしらうと、グレイは真顔でとんでもない発言をしてくる。

「あの男がもし王太子の座を降りたら、婚約者はいなくなる」
「こら! 滅多なこと言わないの!」

 リズベットはすぐさまグレイを窘めた。

 しかし、彼の言うことは間違ってはいない。

 レオナルドには、一つ年下の弟ミケルがいる。もしレオナルドの代わりにミケルが王太子になれば、レオナルドと大聖女マイアとの婚約は解消され、ミケルとマイアが婚約し直すことになるのだ。

 魔力暴走を起こし、多くの自国民の命を奪ったレオナルドを王太子から降ろすべきだという世論が優勢になっている今、ありえない話ではなかった。

「とにかく、婚約者がいる人に恋愛感情を抱いたりはしないから。はい、この話終わり!」

 リズベットが無理やり話を切り上げると、グレイはこちらの目をじっと見つめて言った。

「リズ。大聖女には関わるなよ」

 その表情と声が思った以上に真剣で、少しドキリとしてしまう。

 しかし、言われるまでもなく大聖女と関わる気など微塵もなかった。初対面でああも嫌われていたのだ。近づいて良いことなど何もないだろう。

「自分から面倒事に首を突っ込んだりしないわよ」
「ならいい」

 グレイはそう言うと、本棚から適当な本を一冊抜き取って寝台にごろりと横たわり、そのまま読書を始めた。

 もちろんその寝台はリズベットがこれから寝る場所なのだが、幼い頃はよく二人で寝ていたこともあり、もはやお互い何も気にしていない。彼がこの部屋にいる時は、いつもこんな感じで自由に過ごしているのだ。
 
 しばらくしてカルテの記入を終えたリズベットは、だらりと寝そべっているグレイに話しかけた。

「ねえ、グレイっていつまで私の護衛を続けるつもりなの?」

 問われた本人はこちらに顔を向けることなく、読書を続けながら答えてくる。
 
「んー? 俺が大丈夫だと判断するまで」
「もう大丈夫よ。あの事件から、もう十三年も経つのよ?」

 十三年前のあの事件。

 エインズリー侯爵家惨殺事件と聞いて、知らない者はいないだろう。それほどまでに、あれは凄惨な事件だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

処理中です...