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特別編3:異世界

効果絶大の運任せ

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「じゃあミナ、行きたい所を選んで」

そう言ってリオさんが地図を広げて見せてくる。

「え?私がですか?」
「ええ。それが一番の近道よ」
「ん、ミナの運任せなら間違いない」

ソラちゃんはそう言って頷いているしテュケ君も何も言わずに頷いていた。

「じゃ、じゃあ…」

地図を見てみると幾つか新しく書き加えられている情報がある。これはルキラさん達からもらった情報だね。

その中で気になるのを見つける。

『隣国の勇者が有力な勇者を捜索に訪れた山間の村。該当勇者を発見後に村民と揉めている』

うーん?この村って見た感じ規模が大きそうには見えないんだけど、何かあるのかな?商人のお兄さんのメモには山菜などの山の幸がよく採れるって書いてあるだけなんだけど。

「そこが気になるの?」
「はい」

私の目線の先の村を確認してリオさんが聞いてくる。

「じゃ、そこ行こー」
「即答なんだね…」

ソラちゃんがリオさんにそう言うとリオさんも《フライト》の魔法を全員に掛ける。

村はここから少し離れているけど飛んで、行けばそんなに掛からないのですぐに移動する事に。

空から見下ろした村は本当に小規模で、建物はどれも小屋程度のサイズで8軒。それを囲う様に申し訳程度の囲いがあるだけだった。

「隣国って言っても結構離れているんだろ?こんな辺鄙な所まで態々探しに来たのか」
「街道を通ると1ヶ月くらい掛かるけど山脈を越えれば半分位に短縮出来るそうよ。貴重な能力の勇者を見つけたのは偶然かもしれないけど、その子を自分の国に連れて帰ろうとしている可能性が高いわね」

なるほど。

「まずは聞き込みをしましょうか」
「そうね」

手前で下りて歩いて村に入っていく。
入り口を番する人は居ないし門もない。この辺りには魔物や凶暴な動物はいないのかな?

「なんか、人が居なさ過ぎじゃないか?」
「確かに」

テュケ君は周囲を見渡しながら剣の柄に手を掛ける。ソラちゃんは短かく応えてハルバードを肩に担ぎ直す。
私が誰もいないかを確認していると、僅かに開いていた近くの木窓が閉まるのが見えた。

「何人かは家の中にいるみたいですね」
「何かに警戒している様ね」

リオさんはゆっくりとその家に近付いていくと中にいる人に聞こえるように話し出す。

「私達はアストの勇者のパーティよ。何か困っている事があるなら力になるわ」

しばらく反応が無かったけど、少ししたら木戸を開けて12、3歳くらいの男の子が出て来た。

「アルバトのヤツらがフィエナ姉ちゃんを連れて行っちまったんだ!」
「村の子を隣の国の人達が連れて行ったのね?どっちに行ったのか分かる?」
「北の山の方に入って行ったよ。それと少し前にやって来た冒険者に同じ話をしたら後を追って行ったんだ」

地図によると隣国アルバトの一番近い国境は北の山の向こうだったね。

「アルバトと冒険者の人数と特徴は?」
「アルバトはセインっていう金髪の勇者と兵士が10人くらい。冒険者は4人だったよ」

テュケ君が少年に聞くと憶えている事を全て話してくれる。冒険者の人達の風貌が知り合いによく似ているんだけど…。

「これってセラ達かな?」
「うん、多分」

二振りの長剣を持った金髪の剣士、全身鎧に大盾装備の黒髪赤目の青年、肩に黒猫を乗せた黒髪の魔法使いと大きな杖を持った金髪の女の子…間違いないよね。

偶然通り掛かったのかな?まあ、そんな事より今は私達も追跡に加わらないと。

「セラ達が向かってるなら心配はないだろうけど、一応私達も急ぐわよ。あなたは家で待っていて」
「わかった!」

リオさんが少年にそう言うと大きく頷いて家に戻っていく。

私達は《フライト》の魔法で飛行して追跡を開始した。

「魔力の反応からするともうすぐよ。まあセラ達がこの世界の勇者に遅れをとるとは思えないけど」
「だねー」
「村人が巻き込まれているんだ。無事に救出できるまで気は抜かない方がいい」
「そうだね。気を引き締めよう」

テュケ君がしっかり者で安心するよ。

それぞれ武器を取り出して周囲を警戒していると前方に広がる森の一部が大きく動いた。

轟音と共に木々が次々と倒れていく。

「…派手にやってるわね」

リオさんが小さくため息を吐きながら呟く。

近付いて行くと状況が分かってきた。

まず四人の冒険者は予想通りセラさん達で、アルバトの人達とは交戦状態になっていた。

兵士…というより騎士が10人いるけど既に半数が倒れていて、残りも二刀流剣士のレイナスさんが俊敏な動きで次々と攻撃を加えている。

セラさんは15、6歳くらいの女の子を保護していて、その前にはシルヴァリオさん。

アルバトの勇者と思われる人はヒサメさんが相手をしている。

「加勢するぞ!」
「あい」

テュケ君とソラちゃんが速度を上げてレイナスさんと騎士の間に飛び込んでいく。
リオさんは少し速度を落として魔法を準備し始めた。

私はヒサメさんの援護に向かう。

「増援か…!もう加減はしてやれないぞ。死んでも恨むなよ!!」

アルバトの勇者はそう言うと後ろに軽く下がって長剣を両手に持ち替えて腰溜めに構えた。

「またあの攻撃が来る。気を付けろ!」
「了解」

ヒサメさんは大盾を構えて防御体制をとる。シルヴァリオさんはセラさん達の前で杖を構えて動きを止めた。

私は攻撃を阻止しようと思ったけど、シルヴァリオさんに手で制止されたので急降下せずに空中で待機。

勇者が剣を横薙ぎに振り抜くと、金属が擦れる様な大きな音と共に衝撃波が巻き起こる。

勇者の前方に轟音と砂塵が巻き起こり、放射状に木々が倒れていく。
吹き飛んだというより切り裂かれて倒れているみたいだった。

…スゴい威力だね。

ヒサメさん達は大丈夫かな?

ヒサメさんは目の前で攻撃を受けたけど無傷でその場に立っていた。全身が赤く光っているけど何かの能力みたい。

シルヴァリオさんは以前やっていた《魔王化》で、更に防御技能を使って後ろのセラさん達に被害が無いように防いでいた。

「勇者の能力、こちらの能力で防げる様だな」

シルヴァリオさんは少しつまらなさそうに言う。

「この程度なら問題無い。倒すぞ」
「ヒサメ、無力化だよ。殺すのはダメ」
「分かっている」

セラさんに釘を刺されてヒサメさんは少し面倒くさそうに返事をする。

「ば、バカな…《切断》を防ぐなんて…」

ヒサメさんは狼狽えている勇者に対して一瞬で間合いを詰めると右手の長剣で相手の剣を弾き飛ばし、流れるような動きで大盾を勇者にぶつける。
勇者はその動きに何一つ対応することが出来ずに吹き飛ばされて倒れた。

レイナスさんの方もテュケ君とソラちゃんが加勢して、あっという間に騎士達を昏倒させている。

「一丁上がりだな」
「ん、よゆー」
「援護サンキューな。ついでに騎士達を一箇所に集めるから手伝ってくれ」
「おう」「あい」

レイナスさんは二人に指示を出している。

「こっちの勇者は念の為拘束しておくとしよう」

シルヴァリオさんが《バインディング》で動きを封じて、ヒサメさんが剣を取り上げる。

「お疲れ様。周りに敵はいなさそうよ」

上空で索敵をしていたリオさんが降りてくる。私はリオさんとセラさん達の方へ向かう。

「ミナさん達がきてくれるとは思いませんでした。ここには偶然通り掛かったの?」
「えーと、まあ偶然と言えば偶然ですね」
「運任せでミナに行き先を選ばせたのよ」
「なるほど。私達と同じなのね」

セラさん達も運任せできたのかな?
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