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特別編2:神様はじめました

行きたい場所

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タカシさんが落ち着いて、1人で浮いていられる様になった。

「ここがヴィクトリアの滝…」

眼下に広がる雄大な景色を見ながら呟いている。

「これで分かった?」

隣にいたソラちゃんが聞く。

「まだだね。次はエンダビーランドがいい」
「…どこ?」

反対隣にいたユキさんに聞くソラちゃん。

「ええと…もしかして南極ですか?」
「そうだよ。行けるの?」

おお…ユキさん知ってた。

「行けるけど、この格好で行ったら死ぬかもしれないわよ。しかも何もない所だし、本当に行きたいの?」

リオさんは呆れ顔でタカシさんに聞いている。

「行きたいとかよりもまず、行けるの?」
「行けるわよ。ミナ、《ヒートリテンション》を全員に掛けて」
「はい」

防寒魔法だったね。サチさんのダンジョンでお世話になったよ。
みんなに掛けている間にリオさんは《ハイパークレアボイアンス》で位置を確認している。

「完了です」
「それじゃ行くわよ!《テレポート》!」

出た先は吹雪いていた。周りが全く見えない。

「これじゃホントにエンダビーランドに来たか分からないわね…ちょっと待ってて」

そう言うとリオさんは少し離れて何やら魔法を行使する。

「《コントロールウェザー》!」

両手を掲げて魔法を発動させると、吹雪が止み雲がなくなって晴れていく。

凄い魔法だね。

「…まあ、一面が雪景色だからやっぱり確認のしようがないわ」
「ここが…そうか…」

タカシさんはそう呟いて周りを見渡していた。

うーん、さっきのヴィクトリアの滝の時といい、何だかリクエストしたわりには反応が薄い。

「それで、どうなの?」
「そうだな、次は…」
「まだやるの?」

ウンザリした顔で聞いているリオさん。

「嫌なら帰ってもいい。でもあなたが俺の姉だとは信じないよ」
「…分かったわよ。次はどこに行きたいの?」

やれやれと両手を広げてタカシさんに聞いている。

「オリンポス山」

ソラちゃんが無言でユキさんを見る。私も分からないのでユキさんが言うのを待つ。

「ギリシャのですか?それとも…」
「ギリシャじゃない方」
「はあっ!?アンタ馬鹿じゃないの?私の《ハイパークレアボイアンス》も《テレポート》も惑星間移動は出来ないわよ!」

リオさんが怒り出した…。

「ええとユキさん、タカシさんの言っているオリンポス山ってどこにあるんですか?」
「火星です」
「えぇ…」

タカシさんは本当にそこに行きたいのかな?

「ええと、一応ですけど、オーバーブースト掛ければ行けますよ」
「火星は酸素がありませんから普通に行くのは不可能です。《アルスアドラステア》を掛けるか強力な結界を貼るかしないと」
「行かなくていいわよ。無理な事を言って難癖つけたいだけでしょ。大体行きたい場所に統一性が無いのよ。ただの……」

言い掛けてハッとなるリオさん。

「ヴィクトリアの滝、エンダビーランド、オリンポス山…それってお父さんへのリクエスト」

お父さんへのリクエスト?

「思い出したわ。私が高2の時、家族旅行を計画していたのよ。ごく普通の国内旅行。だけど出発前日にお父さんが仕事で行けなくなって…『この埋め合わせは必ずする。何処へでも好きな所に連れていく』って言ってくれたのよ。でも私は楽しみにしていた旅行が駄目になったのが許せなくて、お父さんに無理難題を言って困らせてやろうって隆志と話した…」

リンさんは懐かしそうに話す。

「それで行けもしない所の地名を?」
「ヴィクトリアの滝は行こうと思えば行けるけどね。南極はほぼ無理だし、火星なんて論外よね。我ながら馬鹿げた事を考えたものだわ」
「正解。その子…ソラちゃんが言った事はヴィクトリアの滝に瞬間移動した時点で大方信じたよ。あとは本当に姉ちゃんなのか確かめたかっただけ」

タカシさんは笑いながら言う。

「隆志…」
「久し振り。おかえり、姉ちゃん」
「ただいま…」

互いに頷きあっていた。

「お話中悪いんだけどさ、魔法が切れたら凍死するかも知れないから家に帰ろう?」

ソラちゃんが声を掛けると2人は顔を見合わせて笑う。

「そうね。《テレポート》!」

リビングへと帰ってきた。

「それにしてもあんな話よく覚えていたわね。隆志はまだ小学生だったでしょ?」
「覚えてるよ。あの時の話は印象的だったからね。行くわけでもないのに時差がどれくらいとか気温がどうだとか熱心に教えてくれたからね」

まだ幼いタカシさんにそこまで話したのは、落ち込む彼を励ます為だったのかも知れないね。

リオさんも「確かに難しい話もしたわね。火星までの距離とか。行けるわけないのに」と笑っていた。

「オリンポス山だけど、さっき行けるとか言ってなかった?本当に連れて行かれたらどうしようかと思ったよ」
「ミナだけなら連れて行ってたでしょうね」
「だって、信じてもらえるなら連れて行きますよ?」

やろうと思えばできるもんね。

「そう言えばちゃんと自己紹介してなかった。俺は神崎隆志かんざきたかし。莉緒姉の弟です。姉がいつもお世話になってます」

隆志さんは深々とお辞儀をする。

「いえ!お世話になってるのはこちらの方で」
「そうよ…と言いたいところだけど、私だってみんなに助けられてるし、お互い様よ」

笑いながら改めて自己紹介。
そうしているうちに3時間も経っていた。

「父さんと母さんは帰り遅いのよね?」
「そうでもないよ。会いたい?」
「会いたいっていうか、喧嘩別れしちゃったから一言謝っておきたいかな」
「会うのはいいんだね?もうすぐ帰ってくるよ」
「は?」

リオさんの目が点になる。

「待って、2人とも仕事が忙しいでしょ?平日のこんな時間に帰ってくるわけ…」
「事情は2人から直接聞けばいいよ。緊急事態宣言を出したから飛んで来ると思うよ」

隆志さんが言うには緊急事態を宣言したら、何があっても直ぐに家に集まるという取り決めができたらしい。

「莉緒姉が死んでから出来た神崎家のルールだよ」
「へえ……」

リオさんは自分の所為で余計なルールを作ってしまったと思っているのかな。少し俯いて考え事をしている。

「本当に帰ってくるからね。この前なんてレンタルしてたDVDの返却期限を一週間過ぎてるのに気付いて、パニクって緊急事態宣言を出したら2人とも15分で帰ってきたから。後でガチで怒られたけど」
「そりゃ怒られるわ」

そんな事で会社を早退してたらクビになっちゃうんじゃない?
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