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聖国
転売、避難、漂流
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あのお屋敷に戻されて3日。何をするでもなくただボンヤリと過ごしていた。
外は昼間なのに真っ暗。ザーザーと雨の音が聞こえてくる。
聖王様の奇跡だとかで3日前から降っている雨はまだ降り止まない。
食事や着替え等、身の回りの事は数人の使用人がやってくれていた。
奴隷なのに意外と待遇が良い。
暇な時はリオとお話もした。
私よりも年上だけど、ゲームの話で盛り上がった。元の世界が懐かしい。
今日もこのまま一日終わるのかと思っていたら夕方に人がやってきた。
丸々と太った髭面の男。奴隷商人だった。
「お前たちの所有権はシン様からこの私に代わった。さあ!馬車に乗れ!」
「シンはどうしたの?」
「この国の私財を纏めて出て行ったよ。お前たちは捨てられたんだ。」
「分かった。」
どうせ誰の奴隷でも変わりはしない。でも歩くのも困難な私は移動がちょっと大変。
「ソラ、私が運ぶわ。」
リオが抱っこしてくれた。
「なんだ?歩けないのか?」
「制限を解除してくれたら歩ける。」
「それは駄目だ。お前が運べ。」
「言われなくてもやってるでしょ。」
屋敷から出る前に奴隷紋の更新を行わされた。
シンが居なくても受け渡しは出来るらしい。
巻物みたいなものを使って何かやっていたけど多分アレが契約譲渡の証なんだろう。
どうでもいいけど。
馬車に乗るとリオと同じくらいかもう少し年上の女の子ばかり6人も乗っていた。みんな私達と同じ奴隷らしい。表情は暗く、みんな俯いている。
大雨で馬車の中は水浸し。幌から雨漏りしていた。私達が座るとほぼ同時に馬車が動き出す。大雨のせいで道が悪く、物凄く揺れた。
奴隷商の館に連れて来られ、牢屋に入れられる。私とリオの2人だけは別の牢屋だった。
なんでも、「お前達はかなり高かったから客層が違う。」だそうだ。
リオは諦めた様子で、「どうせ買われるなら渋いおじ様の所がいいわね。」とか言っていた。
リオはそれでいいとして私の様な子供を高値で買う人なんているのだろうか?
シンが私達の素性を話していて戦闘力面で買われるなら理解できる。
それ以外は…。
ヤバい人に買われるのだけは嫌だ。
それから一週間近く経ったけど、私達は売れなかった。値が高すぎるのか、お客さんもあんまり見にこない。
他の牢屋にいた子達は全員売れたらしい。
「お前達は見た目は良いのに何故売れない?高すぎたか…?」
「さてねぇ。雨が止まないからそれどころじゃないってのもあると思うわよ。」
「確かにこのまま降り続けたらこの町も危うい。高い所に避難しなくては…。」
次の日、奴隷商人のおじさんと売れ残りの私達は馬車で町から避難する。
行き先は特にない。まずは一番近い高台に。
みんな考える事は一緒で、一番近い丘は人で一杯だった。
馬車の中にはおじさんの財産が沢山入っているので捨てる事は出来ない。
仕方なく南方にある高台を目指すけど、既に砂漠の至る所に川が出来ていて移動が難しくなっていた。
「なんでこんな事になったんだ……!」
「聖王様の奇跡のせいね。」
「くそっ!向こうから渡るぞ!早くしろ!」
リオはおじさんの独り言に返事をしているけど余裕があるわけじゃない。少しでも馬車を軽くするために私を背負ってぬかるんだ地面を歩いている。おじさん以上に疲労をしている筈だ。
「おじさん、私たちの制限を解除して。そうしたら助けられる。」
「駄目だ駄目だ!その瞬間私を殺す気だろう!」
「奴隷紋がある限りそんな事は出来ないわよ。それよりこのままじゃ全員水に飲み込まれて死ぬわよ。」
私とリオの申し出にもおじさんは応じてくれない。
膝まで水に浸かりながら何とか川を渡り切る。そのまま休まずに南へ。
少しずつ高台を選んで進む。
暫く進むと丘の上に馬車が見えてくる。
周りには6人こちらに手を振っていた。
近くに行くと全員武装していた。冒険者だろうか。
「この丘なら暫くは大丈夫だ。アンタら商人か?」
「はい。私は奴隷商です。この2人は商品です。」
「なんだ奴隷商か…。食料を分けて貰えないかと思ったんだが…。」
「どうかしたんで?」
「渡河中に荷物を大分流されちまってな。運悪く食料を全部やられちまったんだよ。」
「それは災難でしたね。」
「なあ、アンタらの食料を少し分けてくれないか?」
「申し訳ありません。私共も分けられる程もっておりませんので。」
「嘘つけ!あんなでかい馬車を持ってるのに。」
他の人が馬車の幌を乱暴に引っ張る。
「何だこれ!食料じゃないぞ!」
「おやめ下さい!」
「くそっ!がめつい奴隷商人め!」
おじさんが殴られた。さらに掴みかかって殴り続ける。
何だこれ。災害でみんなおかしくなってるのかな?リオ、どうしよう?
「マズいわね。ここの人達自棄を起こしているわ。」
「助ける?」
「さあ?私達は無力な奴隷だしね。」
リオは少しずつ後ろに下がる。おじさんが殺されれば奴隷契約がなくなるのかな?
「お、おい!お前達……!禁止事項を5分間解除する!……何とかしろ!」
「何言ってんだ?あんなガキどもに何ができるんだよ!」
「どうするリオ?」
「決まってるじゃない。」
「《ファインデス》。そのおじさんから離れなさい。警告はしたわ。次は手加減無しの攻撃よ。」
おじさんに掴みかかっていた男がその場に崩れ落ちる。
殺しちゃったの?
「気絶させただけよ。」と小声で教えてくれた。
私もリオの背中から降りて構える。
「魔法が少し使えるからって調子に乗るなよ!」
他の男達は剣を抜いて襲いかかってくる。私は近くにあった石を拾って投げつける。
「ぐあっ!!?」
皮の鎧に石が命中して男を後ろに弾き飛ばした。
「おい、今何をした?」
「何か投げたぞ!」
「見えなかった…。」
どうやら何かを投げる時も筋力が影響するらしい。もう一つ石を拾って構える。
「《アストラルディザイア》はい、お終い。ソラ、時間稼ぎありがとう。」
「うん。」
男達は全員倒れた。外傷は無いけどさっきの魔法と同じ感じの効果かな?
「このクソ共が!!よくもやってくれたな!!」
気絶している男達を蹴りまくるおじさん。私達は冷ややかな目でそれを見ていた。
「はあっはあっ……!」
「ねえ、治療魔法掛けるからそろそろ。五分経ったら魔法使えないし。」
「そうだったな…。」
素直にリオの所に戻ってくるおじさん。
回復魔法を掛けて治療をするリオ。
「……なんで私を助けた?」
「もしもあなたが5分間って言わなかったら見捨ててもよかったんだけど。知恵の回る商人で良かったわね。」
「5分あれば逃げ出す事も出来ただろう?」
「その後どうするのよ?ソラを背負って無力な私が生き残れる訳がないでしょ。」
「ふん。どうだかな。シンはお前の事を奴隷契約の穴を突くと言っていた。油断できん。」
「あら、そんな事しないわよ。」
「聞いているぞ。実際命令を誤魔化したとな。」
呪符の時の事かな。
「なんでそんな厄介な奴隷を買ったのよ?」
「私にもよく分からん。」
「はあ?」
「シンと話している時は良い買い物だと思ったのだ。今思えば奴の口車に乗ってしまっただけなんだが……。」
もしかしてシンには他の能力もあるのかな?
ーーーー
その後私達は更に南を目指して移動した。降り頻る雨の中、黙々と歩き続けた。私はいいけどリオが限界だ。
「おじさん、せめて私が歩ける様にだけでもしてほしい。リオが限界。」
「黙っていろ。」
困った。私のせいでリオが……。
日も落ちてきて歩くのも危ないから、丘の上で休む事になった。
テントを出して組み立てる。食事は雨が強すぎて調理は無理だったので、干し肉とすごく硬いパンと水だった。
テントはそんなに大きく無い。びしょ濡れの状態ですごく寒い。リオと身を寄せ合って震えていた。
「おい、もっとそばに来い!」
「…いやよ!」
「勘違いするな。温め合うだけだ。」
「…魔法を使わせてよ。…そうすれば、服も乾かせるし…もっと安全な所まで…運べるわ…。」
「駄目だ。」
「なんでよ…!」
このままじゃ本当に死んじゃうよ…。
突然の事だった。
テントを破っておじさんの頭に剣が振り下ろされる。
…一撃だった。
「当たりか…!」
破れた向こう側に見えたのは昼間にやっつけた男の顔だった。剣を引き抜きおじさんを突き倒すとテントに入ってくる。
「ようやく追いついたぞ…。」
「私達も殺すの…?」
「さて…どうするかな…。お前達の所為で仲間は全員死んじまったしなぁ。」
「…抵抗はしないわ。その代わりこの子は助けてあげて。」
「ほぉ…なら少し遊ばせてもらおうか…。」
男はリオを乱暴に押し倒す。
「私はいいわ。でもソラには手を出さないで。」
「お前で満足できたらな。」
服を剣で引き裂く男。リオは抵抗しなかった。
「ソラ…ソラ、目を閉じていて…。私は大丈夫だから…見ないで…。」
「やめて。リオを離して。」
「煩いガキだ。そこで大人しく見ていろ。」
駄目…やめて…。
「つまらねぇ身体だ。」
「……悪かった…わね。」
「やめて!!」
リオを助ける事で無我夢中だった。
リオに覆いかぶさろうとする男の頭と肩を掴んでテントの外に投げ飛ばす。
身体中に激痛が走る。
刺す様な、切り刻まれた様な、火傷の様な痛みが次々と襲ってくる。
痛い…苦しい…。体を抱える様にして転げ回る。
「ソラ!」
リオが私の側に来てくれた。
無事みたいだね。
「しっかりして!」
リオが仕切りに声を掛けてくれるけど返事が出来る状況じゃない。
とにかく痛くて苦しくて息をするのも忘れてしまう程だった。
「リオ…大丈夫……?」
「私の事はいい!なんて無茶をしたのよ!?」
「よかっ…た…」
私は意識を手放した。
ーーーー
「それでさー、名前入力の時にフルネームっぽいのが全部入っちゃうんだよ。でスタートしてみると『キャプテンキャプテン』ってなっちゃってさ。」
「デフォルトの名前は始めからついてるんじゃないの?」
「それがねー、空欄なんだよ。入力できる文字数も8文字でね、丁度入っちゃうからみんな結構やったらしいのよね。」
何もする事がないのでゲームの話で盛り上がっていた。
私が目を覚ましたら大海原を漂流していた。
砂漠がほぼ水没してこうなってしまったらしい。
気を失っている間、水位はどんどん上昇してきて丘が水没しそうだったから、リオ1人で馬車の底板を剥がしてイカダを作った。馬車にあった食料と使えそうなものは積み込んであって、馬はどうする事も出来なかったから放したらしい。
因みにあの男の人はリオがトドメを刺したと言っていた。
ーーーー
暫く漂流していたら空一面が真っ赤に染まって雨雲が消えた。
「綺麗ね…。」
「ちょっと怖い。」
「大丈夫よ。私が守るわ。」
「うん。」
そうやって流れていたら大きな魚に襲われそうになっている所をミナ達に助けられた。
ドラゴンが降りてきた時は正直終わったと思ったけど、私達は運が良かったみたいだ。
外は昼間なのに真っ暗。ザーザーと雨の音が聞こえてくる。
聖王様の奇跡だとかで3日前から降っている雨はまだ降り止まない。
食事や着替え等、身の回りの事は数人の使用人がやってくれていた。
奴隷なのに意外と待遇が良い。
暇な時はリオとお話もした。
私よりも年上だけど、ゲームの話で盛り上がった。元の世界が懐かしい。
今日もこのまま一日終わるのかと思っていたら夕方に人がやってきた。
丸々と太った髭面の男。奴隷商人だった。
「お前たちの所有権はシン様からこの私に代わった。さあ!馬車に乗れ!」
「シンはどうしたの?」
「この国の私財を纏めて出て行ったよ。お前たちは捨てられたんだ。」
「分かった。」
どうせ誰の奴隷でも変わりはしない。でも歩くのも困難な私は移動がちょっと大変。
「ソラ、私が運ぶわ。」
リオが抱っこしてくれた。
「なんだ?歩けないのか?」
「制限を解除してくれたら歩ける。」
「それは駄目だ。お前が運べ。」
「言われなくてもやってるでしょ。」
屋敷から出る前に奴隷紋の更新を行わされた。
シンが居なくても受け渡しは出来るらしい。
巻物みたいなものを使って何かやっていたけど多分アレが契約譲渡の証なんだろう。
どうでもいいけど。
馬車に乗るとリオと同じくらいかもう少し年上の女の子ばかり6人も乗っていた。みんな私達と同じ奴隷らしい。表情は暗く、みんな俯いている。
大雨で馬車の中は水浸し。幌から雨漏りしていた。私達が座るとほぼ同時に馬車が動き出す。大雨のせいで道が悪く、物凄く揺れた。
奴隷商の館に連れて来られ、牢屋に入れられる。私とリオの2人だけは別の牢屋だった。
なんでも、「お前達はかなり高かったから客層が違う。」だそうだ。
リオは諦めた様子で、「どうせ買われるなら渋いおじ様の所がいいわね。」とか言っていた。
リオはそれでいいとして私の様な子供を高値で買う人なんているのだろうか?
シンが私達の素性を話していて戦闘力面で買われるなら理解できる。
それ以外は…。
ヤバい人に買われるのだけは嫌だ。
それから一週間近く経ったけど、私達は売れなかった。値が高すぎるのか、お客さんもあんまり見にこない。
他の牢屋にいた子達は全員売れたらしい。
「お前達は見た目は良いのに何故売れない?高すぎたか…?」
「さてねぇ。雨が止まないからそれどころじゃないってのもあると思うわよ。」
「確かにこのまま降り続けたらこの町も危うい。高い所に避難しなくては…。」
次の日、奴隷商人のおじさんと売れ残りの私達は馬車で町から避難する。
行き先は特にない。まずは一番近い高台に。
みんな考える事は一緒で、一番近い丘は人で一杯だった。
馬車の中にはおじさんの財産が沢山入っているので捨てる事は出来ない。
仕方なく南方にある高台を目指すけど、既に砂漠の至る所に川が出来ていて移動が難しくなっていた。
「なんでこんな事になったんだ……!」
「聖王様の奇跡のせいね。」
「くそっ!向こうから渡るぞ!早くしろ!」
リオはおじさんの独り言に返事をしているけど余裕があるわけじゃない。少しでも馬車を軽くするために私を背負ってぬかるんだ地面を歩いている。おじさん以上に疲労をしている筈だ。
「おじさん、私たちの制限を解除して。そうしたら助けられる。」
「駄目だ駄目だ!その瞬間私を殺す気だろう!」
「奴隷紋がある限りそんな事は出来ないわよ。それよりこのままじゃ全員水に飲み込まれて死ぬわよ。」
私とリオの申し出にもおじさんは応じてくれない。
膝まで水に浸かりながら何とか川を渡り切る。そのまま休まずに南へ。
少しずつ高台を選んで進む。
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周りには6人こちらに手を振っていた。
近くに行くと全員武装していた。冒険者だろうか。
「この丘なら暫くは大丈夫だ。アンタら商人か?」
「はい。私は奴隷商です。この2人は商品です。」
「なんだ奴隷商か…。食料を分けて貰えないかと思ったんだが…。」
「どうかしたんで?」
「渡河中に荷物を大分流されちまってな。運悪く食料を全部やられちまったんだよ。」
「それは災難でしたね。」
「なあ、アンタらの食料を少し分けてくれないか?」
「申し訳ありません。私共も分けられる程もっておりませんので。」
「嘘つけ!あんなでかい馬車を持ってるのに。」
他の人が馬車の幌を乱暴に引っ張る。
「何だこれ!食料じゃないぞ!」
「おやめ下さい!」
「くそっ!がめつい奴隷商人め!」
おじさんが殴られた。さらに掴みかかって殴り続ける。
何だこれ。災害でみんなおかしくなってるのかな?リオ、どうしよう?
「マズいわね。ここの人達自棄を起こしているわ。」
「助ける?」
「さあ?私達は無力な奴隷だしね。」
リオは少しずつ後ろに下がる。おじさんが殺されれば奴隷契約がなくなるのかな?
「お、おい!お前達……!禁止事項を5分間解除する!……何とかしろ!」
「何言ってんだ?あんなガキどもに何ができるんだよ!」
「どうするリオ?」
「決まってるじゃない。」
「《ファインデス》。そのおじさんから離れなさい。警告はしたわ。次は手加減無しの攻撃よ。」
おじさんに掴みかかっていた男がその場に崩れ落ちる。
殺しちゃったの?
「気絶させただけよ。」と小声で教えてくれた。
私もリオの背中から降りて構える。
「魔法が少し使えるからって調子に乗るなよ!」
他の男達は剣を抜いて襲いかかってくる。私は近くにあった石を拾って投げつける。
「ぐあっ!!?」
皮の鎧に石が命中して男を後ろに弾き飛ばした。
「おい、今何をした?」
「何か投げたぞ!」
「見えなかった…。」
どうやら何かを投げる時も筋力が影響するらしい。もう一つ石を拾って構える。
「《アストラルディザイア》はい、お終い。ソラ、時間稼ぎありがとう。」
「うん。」
男達は全員倒れた。外傷は無いけどさっきの魔法と同じ感じの効果かな?
「このクソ共が!!よくもやってくれたな!!」
気絶している男達を蹴りまくるおじさん。私達は冷ややかな目でそれを見ていた。
「はあっはあっ……!」
「ねえ、治療魔法掛けるからそろそろ。五分経ったら魔法使えないし。」
「そうだったな…。」
素直にリオの所に戻ってくるおじさん。
回復魔法を掛けて治療をするリオ。
「……なんで私を助けた?」
「もしもあなたが5分間って言わなかったら見捨ててもよかったんだけど。知恵の回る商人で良かったわね。」
「5分あれば逃げ出す事も出来ただろう?」
「その後どうするのよ?ソラを背負って無力な私が生き残れる訳がないでしょ。」
「ふん。どうだかな。シンはお前の事を奴隷契約の穴を突くと言っていた。油断できん。」
「あら、そんな事しないわよ。」
「聞いているぞ。実際命令を誤魔化したとな。」
呪符の時の事かな。
「なんでそんな厄介な奴隷を買ったのよ?」
「私にもよく分からん。」
「はあ?」
「シンと話している時は良い買い物だと思ったのだ。今思えば奴の口車に乗ってしまっただけなんだが……。」
もしかしてシンには他の能力もあるのかな?
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その後私達は更に南を目指して移動した。降り頻る雨の中、黙々と歩き続けた。私はいいけどリオが限界だ。
「おじさん、せめて私が歩ける様にだけでもしてほしい。リオが限界。」
「黙っていろ。」
困った。私のせいでリオが……。
日も落ちてきて歩くのも危ないから、丘の上で休む事になった。
テントを出して組み立てる。食事は雨が強すぎて調理は無理だったので、干し肉とすごく硬いパンと水だった。
テントはそんなに大きく無い。びしょ濡れの状態ですごく寒い。リオと身を寄せ合って震えていた。
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「…いやよ!」
「勘違いするな。温め合うだけだ。」
「…魔法を使わせてよ。…そうすれば、服も乾かせるし…もっと安全な所まで…運べるわ…。」
「駄目だ。」
「なんでよ…!」
このままじゃ本当に死んじゃうよ…。
突然の事だった。
テントを破っておじさんの頭に剣が振り下ろされる。
…一撃だった。
「当たりか…!」
破れた向こう側に見えたのは昼間にやっつけた男の顔だった。剣を引き抜きおじさんを突き倒すとテントに入ってくる。
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「私達も殺すの…?」
「さて…どうするかな…。お前達の所為で仲間は全員死んじまったしなぁ。」
「…抵抗はしないわ。その代わりこの子は助けてあげて。」
「ほぉ…なら少し遊ばせてもらおうか…。」
男はリオを乱暴に押し倒す。
「私はいいわ。でもソラには手を出さないで。」
「お前で満足できたらな。」
服を剣で引き裂く男。リオは抵抗しなかった。
「ソラ…ソラ、目を閉じていて…。私は大丈夫だから…見ないで…。」
「やめて。リオを離して。」
「煩いガキだ。そこで大人しく見ていろ。」
駄目…やめて…。
「つまらねぇ身体だ。」
「……悪かった…わね。」
「やめて!!」
リオを助ける事で無我夢中だった。
リオに覆いかぶさろうとする男の頭と肩を掴んでテントの外に投げ飛ばす。
身体中に激痛が走る。
刺す様な、切り刻まれた様な、火傷の様な痛みが次々と襲ってくる。
痛い…苦しい…。体を抱える様にして転げ回る。
「ソラ!」
リオが私の側に来てくれた。
無事みたいだね。
「しっかりして!」
リオが仕切りに声を掛けてくれるけど返事が出来る状況じゃない。
とにかく痛くて苦しくて息をするのも忘れてしまう程だった。
「リオ…大丈夫……?」
「私の事はいい!なんて無茶をしたのよ!?」
「よかっ…た…」
私は意識を手放した。
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「それでさー、名前入力の時にフルネームっぽいのが全部入っちゃうんだよ。でスタートしてみると『キャプテンキャプテン』ってなっちゃってさ。」
「デフォルトの名前は始めからついてるんじゃないの?」
「それがねー、空欄なんだよ。入力できる文字数も8文字でね、丁度入っちゃうからみんな結構やったらしいのよね。」
何もする事がないのでゲームの話で盛り上がっていた。
私が目を覚ましたら大海原を漂流していた。
砂漠がほぼ水没してこうなってしまったらしい。
気を失っている間、水位はどんどん上昇してきて丘が水没しそうだったから、リオ1人で馬車の底板を剥がしてイカダを作った。馬車にあった食料と使えそうなものは積み込んであって、馬はどうする事も出来なかったから放したらしい。
因みにあの男の人はリオがトドメを刺したと言っていた。
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暫く漂流していたら空一面が真っ赤に染まって雨雲が消えた。
「綺麗ね…。」
「ちょっと怖い。」
「大丈夫よ。私が守るわ。」
「うん。」
そうやって流れていたら大きな魚に襲われそうになっている所をミナ達に助けられた。
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