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エルジュ王国

暴走

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驚愕する黒ローブの男。

「人間風情が、ミナ様が清めて下さった我が身を、邪気で汚しおって……。許さんぞ!!」

ウルちゃんが怒りの咆哮を上げる。
ビリビリと空気が震えて、全員が凍りついた様に動きを止めた。

「ま、まさか……邪竜…?いや、そんな訳が……クソっ!」

黒ローブの男はルーティアさんを乱暴に掴むと短剣を突き付けた。

「おいっ!これ以上動くなよ!!コイツが人質だって事を忘れるな!!」

『ルーティアさんを守護してきた全ての精霊達!今こそルーティアさんを護って!!』

「何をするかと思えば精霊か!俺を誰か知らないのか?精霊使い殺しシャーマンキラーだぞ!コイツの精霊は全て俺が殺した!!」

男の叫び声に反してルーティアさんの周りに精霊が集まってくる…!

炎の大精霊、炎の魔人イフリート
大地の大精霊、四足歩行の魔獣ベヒーモス
風の大精霊、風の魔人ジン
雷の大精霊、雷の竜アザト・テスラ
水の大精霊、水の天女アプサラス
氷の大精霊、氷の魔人グレイス

「ば、馬鹿な……何故生きている!?何故、主以外の呼び掛けに応える!?」

精霊使い殺しシャーマンキラーは精霊達の出す圧力でその身を震わせながら跪く。
次の瞬間大精霊達の攻撃が突き刺さった。
炎に焼かれ、大地に突き上げられ、風に切り裂かれ、雷に穿たれ、水に押し潰され、氷に飲み込まれ……。

断末魔の叫びと共に消滅した。

「ルーティアさんをこんなにして…町のみんなを傷つけて…。私は……!あなた達を……!許さない!!」

私の叫びに呼応してウルちゃんが咆哮をあげる。

恐れ慄いて逃げ出す兵士達。

ここでこの人達を逃しちゃ駄目だ。

フレアダガーを構える。

必ずまたここに来る。

クリムゾンフレアを発動準備。

ここで断たないと、ここで…

ラッキーシュートをクリムゾンフレアに付与。

「殺さないと……!」
「ミナさん!ダメ!!」

止めないでユキさん。こんな人達、生かしておく必要はない。

「クリムゾン「おうミナ、何やってんだ。」

ポンと頭に置かれた手。
大きな手。
血で真っ赤に染まっていた。

「悪りぃな、お前に嫌な事をさせちまった。俺たちゃ先輩失格だな。」

「ダキア…さん?」
「おう。もういいんだ。これ以上お前がやらなくても。」

私…何を…。
ユキさんが私を抱きしめる。

「ミナさん!もういいんです。もう、戦わなくて……。」

…そっか。私、我を忘れて…。

ウルちゃんがブレスを放つ。地平線の彼方へ。

「私はミナ様にお仕えし守護する者。よく覚えておけ愚かな人間よ。この先ミナ様やそのご友人を傷つけるというなら私がお前達を滅ぼす。帰って主に伝えよ!」

轟音の様な声が響き渡る。
兵士達は腰が抜けたように、這う様にして逃げていった。

そうだ、ルーティアさん!
駆け寄って怪我を確認する。重傷だ。
ユキさんが両手を縛り上げていた縄を切る。
私はラッキーシュートを付与して回復魔法を使う。

「《レストレーション》!」
「ミナ……まったく君は……。でもありがとう。助かったよ。」
「ルーティアさん…私のせいで…ごめんなさい。」
「それは違うぞ。悪いのは奴らだ。ミナのせいじゃない。」

ダキアさん達も集まってくる。
戦闘に参加していたクランのみんなや他の冒険者の人達は、拘束されていた宿屋のおじさんたちを解放したり、怪我の手当て等を始めてくれていた。

「ミナを守ろうとして逆に助けられちまったな。」
「俺達もまだまだ修行不足だ。ミナ、ユキ、ありがとう。」
「結局無茶をさせちゃったねー…。ありがとうミナちゃん!ユキちゃん!」

ルーティアさんの怪我は私が治してしまったのでもう大丈夫だけど、みんな酷い怪我をしている。アリアさんやリーシャさん、その他回復魔法を使える人達は大忙しだ。私も手伝おう。

「お手伝いします。」
「それなら1つ頼まれてくれないか?」

クランの回復術師のアロイさんだ。
超広範囲の回復魔法を使用するから覚えて欲しいと提案してきた。
それなら効率もいいし一気にみんなを治療できるかもしれない。

「よし、いくぞ。《スターヒール》!」

柔らかな光があたり一帯を包み込む。
温かくて心地よい。

「どうだ?できそうか?」
「はい!」

ステータスを確認してみたらちゃんと覚えていた。

ラッキーシュートを付与して魔法を行使する。
「ではいきます。《スターヒール》!」

柔らかな光が雨の様に降り注ぐ。

「な、なんだ?」
「傷が…癒えていく!」
「骨折も治ってるぞ…!」

よし、大成功みたいだ!

「流石だな。普通回復魔法じゃ骨折は治らない。」
「そうなんですか…。」

いつまでも痛いのは大変だし、治った方が絶対いいよね。
アロイさんにお礼を言って、解放された宿屋のおじさん達の元へ。

「ミナ、ユキ、無事で良かった!」
「私達を庇ってくれたばっかりに、本当にごめんなさい。」
「何を言ってるんだい!私達はアンタ達を子供同然思っているんだよ。私達からしたら当たり前なんだ。気にする必要はないんだよ。」
「ありがとうございます。」

余程嬉しかったんだろう、ユキさんの瞳が潤んでいる。

「ギルドはメチャクチャになってるから片付けもしないといけないけど、取り敢えずみんな、今日は体を休めてくれ。その後の事については明日話合おう。」

ルーティアさんが冒険者達にそう言って今日は解散となった。
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