上 下
448 / 453
竜の国

しおりを挟む
空から降りてきた竜の背に立っていたのは黒髪の中年男性。その風格は紛れもなく王のそれだった。
鋭い眼光で見下ろすと周りに居た者達は頭を下げる。

『何事であるかと聞いている?』
『これはこれは先王ギルディン様。今丁度奴隷で遊んでいたところです。あなたのご息女のエレ様の奴隷とね』

エレの父、ギルディンは説明を聞きながら真っ直ぐにアイレニヴを睨み付けていた。

『わ、私はこれで……』
『アイレニヴさん。必要が無いならその奴隷、私にいただけませんか?』

気圧されて立ち去ろうとするアイレニヴをエレが引き留める。

『ふむ……確かにこれはもういらないですが、タダでお渡しはできませんな。そこ奴隷と交換では如何でしょう?』

アイレニヴは私を見ながらエレに聞く。

『くだらぬやり取りはやめよ。アイレニヴ、お前がその奴隷を処分しようとしていたのを私は見ていた。必要の無い者ならば取引などせず手放せば良い』
『ぐ……わかりましたよ。グラムはエレ様にお譲りします』

既に王では無いが、ギルディンの言葉には逆らえない様だ。

『ありがとうございます。いずれ何かお礼をさせていただきますね』
『楽しみにしています。それでは私はこれで』

エレに返事をしながらそそくさと去っていくアイレニヴ。

「……何故俺を助けたのです?」
『それは、ええと……』

グラムに聞かれ返答に困るエレ。

「目の前で人が死にそうになっていたんだから当たり前だよ」

芽依はそう言うとグラムを助け起こす。

「しかし俺は……これまでに多くの同胞をこの手にかけてきた」
「そんなの関係ないよ。私は私の信念に従っただけだし。あ、でもそれはエレ……じゃなかった、ご主人様が許してくれるからなんだけど」

今頃になって設定を思い出して言い直している芽依。

『強き従者を従えて良く戻った。聞きたい事がある、ついて参れ』
『は、はい……!』

ギルディンがそう言うと、乗っている竜は勢いよく羽ばたき飛んで行く。私達はトコヤミの背に乗り、エレ、ロナディアと共に後を追う。

行き先はギルディンの居所だろうとエレは言っているが、街から随分と離れた瓦礫の山に近付いていく。

「もしかしてあそこ?」
『はい。元々私達が住んでいた家があった所です』
「ごめん……」
『いえいえ。でも、まだ建て直していなかったんですね』

芽依と話しながらエレはしんみりと呟く。

ギルディンを乗せた竜は瓦礫の手前に着地する。彼は降りると「ご苦労だった、休んでくれ」と告げ、竜は飛び立っていく。

私達もギルディンの近くに着陸した。

「まずはエレネージュをここまで連れて来ていただき感謝致します」

そう言うとギルディンは跪いて首を垂れる。どうやら私達が何者かを分かっている様ね。

「此方こそ話を合わせてくださったみたいで、ありがとうごぞいました」
「改めて名乗らせて頂きます。私はギルディン、ドラコニアンの王をしていた者です」
「私は泉の精霊ハルです」

立つ様に促すと、ゆっくりと立ち上がり穏やかな表情で私を見つめる。

「存じております。ここに来られたのは目的があっての事とお見受けしますが」
「ええ。ここに天空竜ラニターヴァスの子供が居る筈だけど」

ラニターヴァスはルドガイアの王に子供を奪われたと言っていたが、彼は元の王であると名乗っているし、その振る舞いを見る限り人質を取る様な真似をするとも思えない。

「はい。ラニターヴァスの御子は現王の城におります」
『スレイニグさんが……』

エレは今の王について思う所がある様ね。

「私達はその子を救い出す為に来たの。なるべく手荒な真似をせずに奪還出来れば良いと思っているのだけど」
「ならば私がスレイニグに話してみましょう。今の彼奴が応じる可能性は低いですが……」

ギルディンは協力してくれる様だけど穏便には済まなさそうね。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【本編完結】隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさんでも掲載中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...