上 下
425 / 453
竜の国

古の竜

しおりを挟む
「シグルーン、あなたには話したい事が沢山あるの」
『聞かせてくれ。あの状態からどの様にしてここまで世界を再生してきたのかを』

シグルーンも私の話を聞きたがっている。
この場で話すには時間がかかり過ぎるし、まずシグルーンの立場をはっきりとさせておきたい。

「その前に、あなたは私達と敵対するつもりなの?」
『ズロヴァストは親同然だが、やり方が気に入らない。ハル達が奴を倒すと言うのなら協力しよう』
「本当にいいの?」
『構わぬよ。この世界はハルが作り上げてきたのだろう?奴はそれを破壊しようとしているのだ』

記憶の戻ったシグルーンは理性的にズロヴァストを分析し、こちらの味方をしてくれると言う。

「お主、記憶が戻ったのか」

メリーゼハーヴも嬉しそうだ。

『すまぬ、我の記憶は今代のシグルーンのものとハルが生まれたばかりの頃の記憶しかないのだ』
「そうか……ならば名乗らせてもらおう。妾はメリーゼハーヴ。海竜を統べる者、大洋竜メリーゼハーヴじゃ。先代のお主と天空竜、大地竜の四体で四大竜王と呼ばれていた事もあった」
『機会があれば先代の我の事も聞かせてほしい』

四大竜王の話は初めて聞くわね。

「メリーゼハーヴ、天空竜と大地竜は今何をしているの?」
「天空竜は知らんが、大地竜はシグルーンが挑む前に倒されておるな」
「天空竜がズロヴァストに与する可能性はある?」
「ないじゃろうな。シグルーンとラグガイア……大地竜を殺した者の味方などせぬよ」

地上の者はともかく古い竜達が敵になるのは危険だ。私達ならば勝つ事は容易いだろうが大きな被害が出てしまう。
今の所は大丈夫そうだが。

「シグルーン、泉で話をしたいのだけどいいかしら?」
『うむ。我も泉を見てみたいと思っていた所だ』

そうと決まれば海竜達に防備について説明をして私達は帰る事にする。
メリーゼハーヴも来たがっていたが、今は眷属達の所に居るように言って聞かせておいた。

『おぉ……ここがあの時の場所なのか……』

巨木に囲まれて静かに水を湛える大きな泉を見て、シグルーンは感嘆の声を上げる。

『ハル様、その者は?』

気配で気付いたのだろう、トコヤミが一番に飛んで来た。

「シグルーンよ。私がこの世界に来て初めて会った竜」
『忠義に厚い者よ、我はシグルーン。記憶を取り戻しハルに味方する事にした。よろしく頼む』
『そうだったか。我はトコヤミ。ハル様の眷属だ』

名乗り合う両者。並んで見るとトコヤミの方がかなり大きいのが分かる。

『とはいえ我が皆と肩を並べて戦える様になるには百年単位で時間が掛かるだろうな』
「それなのだけど、私と眷属にならない?そうすれば幾らかは強くなるはずよ」
『ふむ。それは有難い申し出だ。是非頼む』

シグルーンは頭を下げて私に顔を近付けてくる。

「分かったわ。不滅竜シグルーン、あなたを私の眷属とします」

私が頬に手を当ててそう言うと、シグルーンの鱗が虹色に輝き出した。
身体はトコヤミと同じくらいに大きなった。

『素晴らしい……ハルよ、力を授けてかれてありがとう。これで共に戦える』

シグルーンは嬉しそうに言ってくる。

「私もよ。家族達を紹介するわ」

皆の事も紹介したい。

「精霊殿よ、シグルーンはこの国と同じ名前じゃが良いのか?」
『なんと、我の名前をハルの国に付けてくれたのか……』

メリーゼハーヴが言うとシグルーンは驚いていた。

「ええ。まさか本人が現れるとは思っていなかったもの」
『ふむ……それでは我の名前を変えようではないか』
「名前を変えるって……それなら後で付けた国名の方を変えるわ」

それが道理だろう。

「それは流石に無理じゃろ。もう既に諸外国に通達しておるからのぅ」
「確かに今から変えるのは大変かもしれないわ。でもシグルーンから名前を奪う事は出来ないわ」
『ならばハルが名付けてくれないか?我はハルが付けてくれた名前ならば嬉しいぞ』

シグルーンは名前を変えると言って譲らなかったので新しい名前をつける事になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました

上野佐栁
ファンタジー
 前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

愛されイージーモードはサービスを終了しました。ただいまより、嫌われハードモードを開始します。

夕立悠理
恋愛
ベルナンデ・ユーズには前世の記憶がある。 そして、前世の記憶によると、この世界は乙女ゲームの世界で、ベルナンデは、この世界のヒロインだった。 蝶よ花よと愛され、有頂天になっていたベルナンデは、乙女ゲームのラストでメインヒーロ―である第一王子のラウルに告白されるも断った。 しかし、本来のゲームにはない、断るという選択をしたせいか、ベルナンデにだけアナウンスが聞こえる。 『愛されイージーモードはサービスを終了しました。ただいまより、嫌われハードモードを開始します』 そのアナウンスを最後に、ベルナンデは意識を失う。 次に目を覚ました時、ベルナンデは、ラウルの妃になっていた。 なんだ、ラウルとのハッピーエンドに移行しただけか。 そうほっとしたのもつかの間。 あんなに愛されていたはずの、ラウルはおろか、攻略対象、使用人、家族、友人……みんなから嫌われておりー!? ※小説家になろう様が一番早い(予定)です

【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※ 3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。 2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。 いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。 いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様 いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。 私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?

処理中です...