415 / 453
竜の国
新貨幣
しおりを挟む人間の国で使われているエルドと魔族の国で使われているレムズ。聞いてみたが両替レートは固定されたままで、特に変動する事はないらしい。
他にも地域貨幣は幾つもあるらしいが、世界的にはエルドとレムズの二大貨幣が主な流通貨幣らしい。
一層の事、統合する事は出来ないのかしら。
「互いに信用していないのです。人間、魔族で独自の貨幣を持っているのはそれが大きな理由になりますね」
ザハーンはそう説明する。
「それで、新貨幣を作る事はどんな利点があるのかしら?」
「先程申しました様に森に住まう方々は新貨幣の方が扱いやすいと思います。また、貨幣を作ると言うのは権威の象徴なのです」
よく考えれば世界的に二つの貨幣で取引が為されているのは凄い事だ。
「エルドとレムズを発行している国があるの?」
「どの国でも発行していますよ」
それでは貨幣価値が下がってしまうのではないだろうか。
「貨幣は銀や金の含有量が細かく指定してあります。貨幣の表面にある図柄も指定された刻印でした作れない様にしてありますね」
「その仕組みはいつからあるの?」
「それは残念ながら分かりません。しかし貨幣の製造が出来るか出来ないかで国の格というものが変わってきます」
現在同盟を組んでいる全ての国が貨幣の発行権を有しているらしい。
つまり私達は国としての認められても他国よりは一段低い扱いという訳か。
私は別に構わないと思うのだが、ザハーンは違った。
「ハル様は我らの盟主なのですから、ハル様の国も豊かに強くなっていただきたいのです」
「今でも充分豊かよ」
彼の言う強さと言うのは単純な戦闘力の話ではないのだろう。国としての強さを身に付ける手始めとして独自の貨幣制度が良いと言いたいのだ。
しかさ私の一存では決められない。
現状各種族の間では物々交換か無償提供で生活が成り立っている。そこに貨幣を導入するとなると全員に教育が必要だ。
教育するための人員も大勢必要で、まずそれらを教育しなければならない。
「私達だけのお金、面白そうだね!」
「ええ。でもみんなに覚えてもらうのに時間が掛かるわ」
「教育については新しい街に学校が出来たからそこでやれば良いよ。貨幣の製造はドワーフ達に頼もうか」
芽依は楽観的な感想だったが颯太は課題に対して現実的にクリアが可能だと告げてきた。
「貨幣の金属の含有率は教えてもらえるのかしら?」
「はい。既に陛下に情報開示の許可はいただいております」
流石に行動が早いわね。
「それで一つ提案なのですが、シグルーン聖泉国独自の貨幣にはミスリルを入れてみてはいかがでしょう?」
そうする事によって貨幣の価値はかなり高いものになるとザハーンは言っていた。
確かにミスリルは大量に余っているので貨幣に含んでも何ら問題はないだろう。
「僕はザハーンの事を信用しているからこんな事は聞きたくないのだけど、君はミスリルが目当てではないのだよね?」
「勿論ですとも。必要であれば颯太様に取引をお願い致します」
この場にいる者全てが納得出来る様に、颯太は敢えて聞いたのだ。
ザハーンには随分と世話になっているのだから、一塊くらいタダで渡しても良いと思う。実際に渡そうとした事があったのだが、ザハーンは受け取ろうとはしなかった。
『私は商人ですから』
欲も出さずに笑顔でそう断るザハーン。私達は彼も彼の国も信頼している。
ザハーンに硬貨の成分について説明を受けて、私は試しに《物質変換》で生成してみる事にした。
泉の水から硬貨を創造。成分を意識して、ミスリルを僅かに含める事を忘れずに……デザインの事を考えていなかったわ。思い浮かんだのは日本の硬貨。
取り敢えずこれでいいか。
手の平に溜めた水から白銀色の硬貨がザクザクと零れ落ちる。
「キレイだね!」
手に取って硬貨を掲げて見せる芽依。
皆硬貨を手に取って溜息を漏らしていた。
「母さん、表面に描かれているのは何の花なの?」
「それはサクラという木の花よ」
そういえばこの世界には桜は無かったわね。
4
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
異世界転生はうっかり神様のせい⁈
りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。
趣味は漫画とゲーム。
なにかと不幸体質。
スイーツ大好き。
なオタク女。
実は予定よりの早死は神様の所為であるようで…
そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は
異世界⁈
魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界
中々なお家の次女に生まれたようです。
家族に愛され、見守られながら
エアリア、異世界人生楽しみます‼︎
まさか転生?
花菱
ファンタジー
気付いたら異世界? しかも身体が?
一体どうなってるの…
あれ?でも……
滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。
初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる