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竜の国

新貨幣

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人間の国で使われているエルドと魔族の国で使われているレムズ。聞いてみたが両替レートは固定されたままで、特に変動する事はないらしい。

他にも地域貨幣は幾つもあるらしいが、世界的にはエルドとレムズの二大貨幣が主な流通貨幣らしい。

一層の事、統合する事は出来ないのかしら。

「互いに信用していないのです。人間、魔族で独自の貨幣を持っているのはそれが大きな理由になりますね」

ザハーンはそう説明する。

「それで、新貨幣を作る事はどんな利点があるのかしら?」
「先程申しました様に森に住まう方々は新貨幣の方が扱いやすいと思います。また、貨幣を作ると言うのは権威の象徴なのです」

よく考えれば世界的に二つの貨幣で取引が為されているのは凄い事だ。

「エルドとレムズを発行している国があるの?」
「どの国でも発行していますよ」

それでは貨幣価値が下がってしまうのではないだろうか。

「貨幣は銀や金の含有量が細かく指定してあります。貨幣の表面にある図柄も指定された刻印でした作れない様にしてありますね」
「その仕組みはいつからあるの?」
「それは残念ながら分かりません。しかし貨幣の製造が出来るか出来ないかで国の格というものが変わってきます」

現在同盟を組んでいる全ての国が貨幣の発行権を有しているらしい。

つまり私達は国としての認められても他国よりは一段低い扱いという訳か。

私は別に構わないと思うのだが、ザハーンは違った。

「ハル様は我らの盟主なのですから、ハル様の国も豊かに強くなっていただきたいのです」
「今でも充分豊かよ」

彼の言う強さと言うのは単純な戦闘力の話ではないのだろう。国としての強さを身に付ける手始めとして独自の貨幣制度が良いと言いたいのだ。

しかさ私の一存では決められない。
現状各種族の間では物々交換か無償提供で生活が成り立っている。そこに貨幣を導入するとなると全員に教育が必要だ。
教育するための人員も大勢必要で、まずそれらを教育しなければならない。

「私達だけのお金、面白そうだね!」
「ええ。でもみんなに覚えてもらうのに時間が掛かるわ」
「教育については新しい街に学校が出来たからそこでやれば良いよ。貨幣の製造はドワーフ達に頼もうか」

芽依は楽観的な感想だったが颯太は課題に対して現実的にクリアが可能だと告げてきた。

「貨幣の金属の含有率は教えてもらえるのかしら?」
「はい。既に陛下に情報開示の許可はいただいております」

流石に行動が早いわね。

「それで一つ提案なのですが、シグルーン聖泉国独自の貨幣にはミスリルを入れてみてはいかがでしょう?」

そうする事によって貨幣の価値はかなり高いものになるとザハーンは言っていた。

確かにミスリルは大量に余っているので貨幣に含んでも何ら問題はないだろう。

「僕はザハーンの事を信用しているからこんな事は聞きたくないのだけど、君はミスリルが目当てではないのだよね?」
「勿論ですとも。必要であれば颯太様に取引をお願い致します」

この場にいる者全てが納得出来る様に、颯太は敢えて聞いたのだ。

ザハーンには随分と世話になっているのだから、一塊くらいタダで渡しても良いと思う。実際に渡そうとした事があったのだが、ザハーンは受け取ろうとはしなかった。

『私は商人ですから』

欲も出さずに笑顔でそう断るザハーン。私達は彼も彼の国も信頼している。

ザハーンに硬貨の成分について説明を受けて、私は試しに《物質変換》で生成してみる事にした。

泉の水から硬貨を創造。成分を意識して、ミスリルを僅かに含める事を忘れずに……デザインの事を考えていなかったわ。思い浮かんだのは日本の硬貨。

取り敢えずこれでいいか。

手の平に溜めた水から白銀色の硬貨がザクザクと零れ落ちる。

「キレイだね!」

手に取って硬貨を掲げて見せる芽依。
皆硬貨を手に取って溜息を漏らしていた。

「母さん、表面に描かれているのは何の花なの?」
「それはサクラという木の花よ」

そういえばこの世界には桜は無かったわね。
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