341 / 453
勇者
敵
しおりを挟む
彼は私達に対して思考操作を行ったのだろう。私には何の影響もなかったが他の者は大丈夫だろうか?
振り返ってみると全員キョトンとした顔をして固まっていた。念の為《過剰分泌》させた泉の水を用意したが、必要なさそうだ。
「何?そんな事を急に言われても分からないよ?」
「この人頭がどうかしてるです」
「ハル様、やっつけちゃっていいですか?」
芽依は困惑し、マイは呆れた様子。エレは背中の大剣を抜いて構えている。
「き、効かない……だと!?」
私達のパーティはおろか同行していたライズ達、中隊の者も誰一人掛かっていない。
「貴様ァ……何のつもりだ?我が従うのはハル様のみ。くだらん世迷言で我らを惑わせたつもりか?」
トコヤミは怒気を含んだ低い声でコースケに聞く。
「どうやら君の力は僕達には効かないみたいだ。さてどうする?戦うと言うなら僕達全員が相手をするよ?」
『こんな人間やっつけましょう!』
颯太は穏やかに口調で話しているが目は笑っていない。カナエも颯太の肩に止まったまま怒っていた。
「ハルさん、彼の力は脅威だけど俺達には効かないみたいだ。でもここで戦うとなると敵が多過ぎる」
セロは剣を抜かずに柄に手を掛けたまま周囲を見渡して言った。リンとミラも寄り添う様にして周囲を警戒している。
既にエレが剣を抜いてしまっている。周囲の騎士、兵士達は全員武器を構えているがトコヤミの気迫に圧されて少しずつ後退っていた。
「ハルさん、ここで戦いますか……?」
アルも杖を構えていつでも魔法の詠唱に入れる状態だ。
「くっ……!この者達を殺せ!今すぐにだ!」
そう言って城の中に逃げていくコースケ。
ここで逃すと後々厄介な事になりそうだ。一番有効な追撃方法で追い詰める事にする。
「イヒカ、ククノチ、シラヒ」
「「「はい、お母様」」」
呼び掛けに応じて氷、植物、光の精霊の三人が現れる。
「颯太の指示に従って」
「母さんは彼を追いかけるんだね?」
「ええ。みんなの事をお願いね」
「気を付けて」
颯太は三人の精霊に「出来るだけ殺さない様に、拘束優先で」と指示を出していた。
トコヤミを取り囲んでいた騎士、兵士が雄叫びを上げながら突撃してくる。先程の能力発動で術に掛かっているのだろうか。
コースケを捕らえたら直ぐに戻ってこなければ。
私は《遠隔視野》と《瞬間移動》を使って城の廊下を走るコースケの前に転移する。
「ひぃっ!?どうやって先回りを!?」
「知る必要はありません」
「こんな所でやられてたまるか!出てこい!」
コースケが叫ぶと地面が大きく振動を始める。それは立っていられない程のもので思わず壁に手をついていた。と、突然壁が崩れて無くなる。そこにはギザギザの歯をした巨大な口が私を飲み込もうとこちらに向かって来ていた。
地下で倒したケイヴワームよりは小さいが、それでも私を丸呑みするには十分な大きさだ。
「ワダツミ!」
「はい!」
ワダツミは現れると同時に事態を瞬時に理解して大量の水をケイヴワームの口に流し込む。
そうしている間に足元も崩れていく。
今度は下から……?これは避けられない。
足場を失って私とワダツミは落下する。
ワダツミは私を抱き寄せて護ろうと必死になっている。
「母上ー!!」
廊下の壁にあった燭台の蝋燭の火が大きく吹き上がり、そこからカグツチが現れると下で大口を空けていたケイヴワームに向かって勢いよく飛んでいき拳を叩きつけた。
ケイヴワームは頭を殴りつけられて数メートル縮み、その後に巻き起こった炎に飲み込まれていった。
落下する私達を支えてくれる者がいる。ミカヅチだ。
「あなた達……どうやって?」
「母上の危機に駆け付けたんだぜ。無事か?」
「ええ。ありがとう」
ミカヅチはワダツミと私を抱えたまま壁を蹴って廊下に戻る。
「……ごめんなさい。助かりました」
「お前が母上の危機を知らせたんだぜ?よくやったな!」
ミカヅチはそう言ってワダツミの頭を乱暴に撫でる。ワダツミは不満そうだったが何も言わずにされるがままになっていた。
「さて、まだ隠し球があるか?俺達が全て打ち砕いてやる」
穴から飛び出して来たカグツチは全身に炎を纏わせたままコースケの方へと歩いていく。
彼は戦意を完全に失ってその場に座り込んでいた。
振り返ってみると全員キョトンとした顔をして固まっていた。念の為《過剰分泌》させた泉の水を用意したが、必要なさそうだ。
「何?そんな事を急に言われても分からないよ?」
「この人頭がどうかしてるです」
「ハル様、やっつけちゃっていいですか?」
芽依は困惑し、マイは呆れた様子。エレは背中の大剣を抜いて構えている。
「き、効かない……だと!?」
私達のパーティはおろか同行していたライズ達、中隊の者も誰一人掛かっていない。
「貴様ァ……何のつもりだ?我が従うのはハル様のみ。くだらん世迷言で我らを惑わせたつもりか?」
トコヤミは怒気を含んだ低い声でコースケに聞く。
「どうやら君の力は僕達には効かないみたいだ。さてどうする?戦うと言うなら僕達全員が相手をするよ?」
『こんな人間やっつけましょう!』
颯太は穏やかに口調で話しているが目は笑っていない。カナエも颯太の肩に止まったまま怒っていた。
「ハルさん、彼の力は脅威だけど俺達には効かないみたいだ。でもここで戦うとなると敵が多過ぎる」
セロは剣を抜かずに柄に手を掛けたまま周囲を見渡して言った。リンとミラも寄り添う様にして周囲を警戒している。
既にエレが剣を抜いてしまっている。周囲の騎士、兵士達は全員武器を構えているがトコヤミの気迫に圧されて少しずつ後退っていた。
「ハルさん、ここで戦いますか……?」
アルも杖を構えていつでも魔法の詠唱に入れる状態だ。
「くっ……!この者達を殺せ!今すぐにだ!」
そう言って城の中に逃げていくコースケ。
ここで逃すと後々厄介な事になりそうだ。一番有効な追撃方法で追い詰める事にする。
「イヒカ、ククノチ、シラヒ」
「「「はい、お母様」」」
呼び掛けに応じて氷、植物、光の精霊の三人が現れる。
「颯太の指示に従って」
「母さんは彼を追いかけるんだね?」
「ええ。みんなの事をお願いね」
「気を付けて」
颯太は三人の精霊に「出来るだけ殺さない様に、拘束優先で」と指示を出していた。
トコヤミを取り囲んでいた騎士、兵士が雄叫びを上げながら突撃してくる。先程の能力発動で術に掛かっているのだろうか。
コースケを捕らえたら直ぐに戻ってこなければ。
私は《遠隔視野》と《瞬間移動》を使って城の廊下を走るコースケの前に転移する。
「ひぃっ!?どうやって先回りを!?」
「知る必要はありません」
「こんな所でやられてたまるか!出てこい!」
コースケが叫ぶと地面が大きく振動を始める。それは立っていられない程のもので思わず壁に手をついていた。と、突然壁が崩れて無くなる。そこにはギザギザの歯をした巨大な口が私を飲み込もうとこちらに向かって来ていた。
地下で倒したケイヴワームよりは小さいが、それでも私を丸呑みするには十分な大きさだ。
「ワダツミ!」
「はい!」
ワダツミは現れると同時に事態を瞬時に理解して大量の水をケイヴワームの口に流し込む。
そうしている間に足元も崩れていく。
今度は下から……?これは避けられない。
足場を失って私とワダツミは落下する。
ワダツミは私を抱き寄せて護ろうと必死になっている。
「母上ー!!」
廊下の壁にあった燭台の蝋燭の火が大きく吹き上がり、そこからカグツチが現れると下で大口を空けていたケイヴワームに向かって勢いよく飛んでいき拳を叩きつけた。
ケイヴワームは頭を殴りつけられて数メートル縮み、その後に巻き起こった炎に飲み込まれていった。
落下する私達を支えてくれる者がいる。ミカヅチだ。
「あなた達……どうやって?」
「母上の危機に駆け付けたんだぜ。無事か?」
「ええ。ありがとう」
ミカヅチはワダツミと私を抱えたまま壁を蹴って廊下に戻る。
「……ごめんなさい。助かりました」
「お前が母上の危機を知らせたんだぜ?よくやったな!」
ミカヅチはそう言ってワダツミの頭を乱暴に撫でる。ワダツミは不満そうだったが何も言わずにされるがままになっていた。
「さて、まだ隠し球があるか?俺達が全て打ち砕いてやる」
穴から飛び出して来たカグツチは全身に炎を纏わせたままコースケの方へと歩いていく。
彼は戦意を完全に失ってその場に座り込んでいた。
0
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
異世界転生はうっかり神様のせい⁈
りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。
趣味は漫画とゲーム。
なにかと不幸体質。
スイーツ大好き。
なオタク女。
実は予定よりの早死は神様の所為であるようで…
そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は
異世界⁈
魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界
中々なお家の次女に生まれたようです。
家族に愛され、見守られながら
エアリア、異世界人生楽しみます‼︎
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
まさか転生?
花菱
ファンタジー
気付いたら異世界? しかも身体が?
一体どうなってるの…
あれ?でも……
滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。
初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる