泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

勇者

仲裁

全員にこの先で起こっている事を伝える。

「説得に応じない場合は制圧します。決して殺さない様に」

私と芽依はゴブリン達を乗せたアンヴァールを追い越し前に出る。

目視で明かりが見える所までやって来た。

「すぐに戦いをやめてください！」
『お前ら！ニンゲンと戦うな！』

私が声を張り上げるとゴブリンの一人も大声で叫ぶ。

突然の乱入者に驚いたのか、人間達もゴブリン達も互いに距離をとって身構えていた。人間は七人、ゴブリンは五人か。

「なっ……！馬、いやアンヴァールか？何でこんな所に」

体格の良い男性剣士がこちらに剣を向けて動きを止める。

「私は泉の精霊ハルです。双方とも武器を納めてください」

私の呼び掛けに両陣営とも仲間同士で顔を見合わせている。

「《生命の泉の大精霊》は人間よりも魔物の味方をするのか？」
「私は人間だけの味方をするつもりはありません。どちらの血も流したくないだけです」

人間達は冒険者のパーティだ。その名前を知っているという事はライアッドの者なのだろう。

『精霊様、俺達はそこから地上に出ようとしただけだ。出口の近くでニンゲンに遭ってここまで逃げて来たが追い付かれた』
「彼らに危害を加えたわけではないのですね？」
『そりゃ追い付かれたから戦いはしました。まだ一人も殺しちゃいません』

ゴブリン達はここから脱出する為に近くにあった地上への通路を使い冒険者達に見つかっただけの様だ。

「話は分かりました。ゴブリン達は住処を追われて逃げて来ただけです」
「だが精霊様よ、コイツらは放っておくとドンドン増える上に家畜や人を襲うんだ。見つけ次第駆除するのが普通なんだぜ」

冒険者達は武器を手にしたままだ。
互いに相容れない仲なのだ。生活圏が重なり合うと争いが起こってしまうのは必然か。

彼らは私が下がればすぐにでもゴブリン達に襲い掛かるだろう。

「それではゴブリン達は私が保護します。それなら問題はないでしょう？」
「この辺りに居付かなければ問題ないですがね」

ここでようやく冒険者達は武器を納めてくれた。

『お前達、無事だったか！』
『おお！俺達以外にも生き残りがいたのか！』

ゴブリン達はそれぞれで無事を喜び合っている。

「事情は聞かせてもらえるんですかね？」
「はい。私達は──」

冒険者達に住処を追われたゴブリン達の要請でケイヴワームを討伐しに行く所だと説明する。

「ケイヴワームをタダで倒しに向かっているいると……しかもゴブリンの頼みで。なかなか酔狂じゃねえの」

話を聞いて鼻で笑う冒険者の男。
冒険者は体を張って仕事をしているのだからタダ働きはしないのが普通だ。彼の反応は当然だろう。

「だが嫌いじゃない。俺達にも手伝わせてくれ」
「おいおい、正気かよ？」

男がそう言うと後ろから抗議の声が上がる。

「ケイヴワームと戦った事は？」
「流石にあんなバケモンとやり合った事はないが、俺達腕は立つぜ？」

命の保証は出来ないが、巻き込んでしまって良いのだろうか。

「タダ働きなんて馬鹿のやる事だ！俺は降りるぞ」
「そう言うなよ！考え直せって」

揉めているわね。よく見ると冒険者達も戦っていたゴブリン達も大小様々な怪我をしていた。

私は泉の水を生成して全員に掛けていく。

「うわっ……！？何をするんだ！」
「今ので傷は治った筈です。手伝っていただけるのなら泉の水を報酬として差し上げましょう」
「マジか！この水をくれるのならやっても良いぞ！」

私の水は安売りするべきではないと言われた事があるが、これが一番交渉しやすい。

「それで、ケイヴワームとどう戦うつもりですかい？」
「考えてなかったわ」

そう、地中に大穴を空ける程の巨大生物に対して有効な戦術が思いつかない。正面から大魔法で貫いてしまおうと考えていたのだが。

私の言葉に芽依やセロ達を含む全員が固まっていた。