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勇者
流浪の転生者
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リタは直ぐに目を覚ました。
「……パパ?」
「リタ……良かった。本当に……」
リタの顔色は良く、先程まで苦しんでいた様には見えない。ゆっくりと身体を起こしたリタを優しく抱きしめるトウヤ。
「精霊様、ありがとうございました」
「いいえ、私の水で苦しめてしまったのだから」
「パパ、このお姉ちゃん精霊様なの?」
「ああ、そうだよ。リタの病気を治してくれたんだ」
リタは私を見てニコリと笑顔を作る。
「ありがとう!」
「元気になって良かったわ」
それにしても気になるのはリタの身体に石があったのかだ。
トウヤが摘出した石は直径が二センチ程度あり簡単に飲み込める様な小さなものではなかった。
「リタが発症する前で口にしたものであなたが食べていないものはある?」
「この子がああなる前、私は仕事で数日の間、街から離れていました。知り合いの伝手で三日間孤児院に預かってもらいました」
「その三日間は孤児院で食事をとっていたのね。孤児院の子供達も同じ症状に?」
「私達が街を離れる前に同じ症状になった子供はいませんでした」
食べ物に混ぜられていた可能性を考えたのだが違ったか。
「精霊様の推測通り、孤児院の食事に混ぜられたのだと思います」
「心当たりがあるの?」
「その前に私の素性を話しておきましょう」
トウヤは一呼吸置いて皆を見てから話し始める。
「私は十年前にソンブルという国で召喚されました」
トウヤは地球で病死してこちらの神に転生の権利を得たと言われ、よく分からないままその国に呼び寄せられたらしい。
地球での死亡時の年齢は五十八、ソンブルに召喚された時は今の若い肉体を得ていたそうだ。
「勇者召喚の儀かしら?」
「はい」
呼び寄せたのは国王で、トウヤの事を勇者と呼び、厚遇されつつも一般教養や戦闘訓練を一年掛けてかなり厳しく扱われた。
「勇者にはこの世界の人間にはない特別な力が一つはあるそうで、私にあったのは《隠形》という能力でした」
「おんぎょう?」
「隠れる事ね。詳しくは分からないけど」
芽依が首を捻っていたので知る限りで説明する。あとはトウヤが話してくれるだろう。
彼の《隠形》は自身の感情や呼吸を静める事で隠れる度合いが変わってくるらしく、心を無にして息を止める事が出来れば誰からも見つからなくなるらしい。
「ヤトには見つかってしまったのね」
「私にはリタを助けたいという焦りがありました。あの巨体で動き回られたら息を殺して身を潜めるなんて不可能でした」
オークの族長がヤトを見たのは、手当たり次第に森の中を攻撃していた姿だったのだろう。
「私の能力を知った国王は、私を暗殺に使う様になりました」
初めは国内の反国王派の貴族を。次は隣国の王族をと、命令されるまま暗殺を繰り返していたそうだ。
「嫌になって逃げて来たの?」
「いえ、ソンブルは滅びました」
ソンブルはここからずっと北西に行った所にあったそうだが、八年前にルドガイアの侵略によって滅ぼされた。
「私は任務で他国に潜伏中だったので死なずにすみましたが、ソンブルはほぼ全滅だったそうです」
多少の恩はあったものの、自分を暗殺の道具にしていた国だ。滅んだのなら仕方がないと、そのまま他国に流れた。
新しく住む国は任務で行った事のない国を選び、そこで冒険者として再出発をした。冒険者仲間に恵まれて、そこで妻と出会い結婚。リタを授かるも、出産した一年後に他界。男手一つでリタを育ててきたそうだ。
「勿論自分だけの力ではありませんでした。ギルドの仲間達や、近所の人達に支えられてリタはここまで大きくなった」
愛娘の髪を撫でながら言うトウヤ。リタもトウヤの様子を見て笑顔を向けていた。
「仕事で一緒になった仲間に『お前を嗅ぎ回っている奴がいる』と教えられました。ソンブルの生き残りだとしたら、私の力を利用する為にリタに何かをしたのかも知れません」
なるほど。心当たりはあると。
「……パパ?」
「リタ……良かった。本当に……」
リタの顔色は良く、先程まで苦しんでいた様には見えない。ゆっくりと身体を起こしたリタを優しく抱きしめるトウヤ。
「精霊様、ありがとうございました」
「いいえ、私の水で苦しめてしまったのだから」
「パパ、このお姉ちゃん精霊様なの?」
「ああ、そうだよ。リタの病気を治してくれたんだ」
リタは私を見てニコリと笑顔を作る。
「ありがとう!」
「元気になって良かったわ」
それにしても気になるのはリタの身体に石があったのかだ。
トウヤが摘出した石は直径が二センチ程度あり簡単に飲み込める様な小さなものではなかった。
「リタが発症する前で口にしたものであなたが食べていないものはある?」
「この子がああなる前、私は仕事で数日の間、街から離れていました。知り合いの伝手で三日間孤児院に預かってもらいました」
「その三日間は孤児院で食事をとっていたのね。孤児院の子供達も同じ症状に?」
「私達が街を離れる前に同じ症状になった子供はいませんでした」
食べ物に混ぜられていた可能性を考えたのだが違ったか。
「精霊様の推測通り、孤児院の食事に混ぜられたのだと思います」
「心当たりがあるの?」
「その前に私の素性を話しておきましょう」
トウヤは一呼吸置いて皆を見てから話し始める。
「私は十年前にソンブルという国で召喚されました」
トウヤは地球で病死してこちらの神に転生の権利を得たと言われ、よく分からないままその国に呼び寄せられたらしい。
地球での死亡時の年齢は五十八、ソンブルに召喚された時は今の若い肉体を得ていたそうだ。
「勇者召喚の儀かしら?」
「はい」
呼び寄せたのは国王で、トウヤの事を勇者と呼び、厚遇されつつも一般教養や戦闘訓練を一年掛けてかなり厳しく扱われた。
「勇者にはこの世界の人間にはない特別な力が一つはあるそうで、私にあったのは《隠形》という能力でした」
「おんぎょう?」
「隠れる事ね。詳しくは分からないけど」
芽依が首を捻っていたので知る限りで説明する。あとはトウヤが話してくれるだろう。
彼の《隠形》は自身の感情や呼吸を静める事で隠れる度合いが変わってくるらしく、心を無にして息を止める事が出来れば誰からも見つからなくなるらしい。
「ヤトには見つかってしまったのね」
「私にはリタを助けたいという焦りがありました。あの巨体で動き回られたら息を殺して身を潜めるなんて不可能でした」
オークの族長がヤトを見たのは、手当たり次第に森の中を攻撃していた姿だったのだろう。
「私の能力を知った国王は、私を暗殺に使う様になりました」
初めは国内の反国王派の貴族を。次は隣国の王族をと、命令されるまま暗殺を繰り返していたそうだ。
「嫌になって逃げて来たの?」
「いえ、ソンブルは滅びました」
ソンブルはここからずっと北西に行った所にあったそうだが、八年前にルドガイアの侵略によって滅ぼされた。
「私は任務で他国に潜伏中だったので死なずにすみましたが、ソンブルはほぼ全滅だったそうです」
多少の恩はあったものの、自分を暗殺の道具にしていた国だ。滅んだのなら仕方がないと、そのまま他国に流れた。
新しく住む国は任務で行った事のない国を選び、そこで冒険者として再出発をした。冒険者仲間に恵まれて、そこで妻と出会い結婚。リタを授かるも、出産した一年後に他界。男手一つでリタを育ててきたそうだ。
「勿論自分だけの力ではありませんでした。ギルドの仲間達や、近所の人達に支えられてリタはここまで大きくなった」
愛娘の髪を撫でながら言うトウヤ。リタもトウヤの様子を見て笑顔を向けていた。
「仕事で一緒になった仲間に『お前を嗅ぎ回っている奴がいる』と教えられました。ソンブルの生き残りだとしたら、私の力を利用する為にリタに何かをしたのかも知れません」
なるほど。心当たりはあると。
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