上 下
303 / 453
勇者

悪足掻き

しおりを挟む
「よく頑張ったわね。すぐに治すわ」

私は《過剰分泌》させた泉の水を使ってトコヤミを治療する。
芽依とマイにも水掛けて治療した。

『トコヤミ様があれの爆発から私を守ってくれて……』

エレは人の姿に戻り泣きそうな顔をしながら言っている。

『お前の鱗ではあの爆発には耐えられなかっただろう。我はエレを失って悲しむハル様を見たくなかっただけだ』

トコヤミの傷は回復しているが、彼はまだ地面に伏したままだ。

「トコヤミがエレ守ってくれたから最後にメトとマカミを助けてくれたのよ。ありがとうトコヤミ」

私はトコヤミの頭を優しく撫でる。

『勿体なきお言葉』

トコヤミは嬉しそうだった。

「芽依とマイもよく頑張ってくれたわね。二人が守ってくれなかったら危なかったわ」
「当然だよ」

そう言いながらも嬉しそうに笑顔を見せる芽依。マイも喜ぶかと思ったが反応がない。

「あの中にまだ人がいるです!」

マイが指差したのは破壊された車の残骸。メトが無造作に捨てたので地面に横倒しになっていた。

『生き残りがいるのか』

メトが車を掴んで揺すると中から男が一人転がり出て来た。

短めの茶髪の中肉中背。どこにでもいそうな二十歳位。この男が瞬間移動の能力者かも知れない。

「ひぃっ!?ま、待ってくれ!俺はシュウに騙されて連れてこられたんだ!」

メトが車で潰そうとしているがそれを止めた。彼の言っている事が本当なら情報を聞き出せる相手かも知れない。

「あなたも転生者?」
「そ、そうだ。いえ……そうです」
「瞬間移動はあなたの能力ね?」
「はい……」
「名前は?」
「アキオ」

素直に答えるアキオ。しかし何かをしようとしている気配を感じる。
右手をズボンのポケットに入れたままなのも気になる。

「右手を見せなさい」

ビクリと反応するアキオ。額には汗。

「嫌だね」
「お母さん!」

咄嗟に芽依が飛び出してきて私を抱き抱えると地面に転がる。

芽依の後ろ、さっきまで私のいた所で爆発が起こっていた。

「メイおねーちゃん!」

直ぐにマイが反撃。
アキオの足元から石の槍を無数に出現させて身体を貫いた。

芽依は軽鎧の背中部分に金属片が幾つも突き刺さっているが幸い致命傷には至らなかった。
爆発したのは手榴弾の様な物だろう。それを瞬間移動させて私を爆殺しようとしたのだと思われる。

「芽依、ありがとう。何で気付いたの?」

礼を言いながら芽依に泉の水を振り掛ける。

「何となくお母さんが危ないと思っただけだよ。守れて良かった……」

そう言って力無く笑う芽依。

「ぐはぁっ……!い、痛え……頼む……俺にも水を……」

アキオは腹部に五本の槍が突き刺さっていた。
すぐに槍を取り除き水を掛ければ治す事は出来るだろう。無論そんな事はするつもりはない。

「あなた達はどうしても私を抹殺したかったみたいね。何故?」
「俺を、殺せば……リーグニツを、敵に、回す事になるぞ……」

話す気はない、か。

泉の水を掛けて傷を塞ぐ。
槍を抜かずに。

「お、おいっ……ウソだろ……俺の身体がっ、俺の身体があぁぁぁっっ!?」

槍は身体と同化していた。修復された内臓は槍と結合してしまっている様だ。

「何故私を殺そうとするの?」
「神に言われたんだよ!」
「その神の名は?」
「知らない!教えてもらってない!!」

歯をガチガチと鳴らしながら必死に槍を抜こうとしているアキオ。

「もう一つ、あなたはリーグニツの者なの?」
「俺はリーグニツの勇者だ!召喚の儀で呼ばれたんだよ!」

召喚の儀?

アキオが言うには神の奇跡により一度だけ国を救う為に異界から勇者を呼び出せる様になったらしい。

「ありがとう。よく分かったわ」
「全部話したんだ……!助けてくれよ……!」

泣きじゃくりながら懇願してくるアキオ。

残念だが生かしておくつもりはない。瞬間移動の能力は危険過ぎる。

「今、楽にしてあげるわ」

私はアキオの肩に触れると《栄養吸収》で彼を塵に返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界転生はうっかり神様のせい⁈

りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。 趣味は漫画とゲーム。 なにかと不幸体質。 スイーツ大好き。 なオタク女。 実は予定よりの早死は神様の所為であるようで… そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は 異世界⁈ 魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界 中々なお家の次女に生まれたようです。 家族に愛され、見守られながら エアリア、異世界人生楽しみます‼︎

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

処理中です...