上 下
297 / 453
勇者

焦土

しおりを挟む
私達は街道に沿って進軍する。
ライアッド軍には流れ弾等で被害を出さない為に一定の距離を保ってもらっている。

三日後、初めに着いた街には火が放たれており、既に殆どが焼け落ちていた。

街の規模はセイランよりもやや小さいくらいか、ここには多くの人が住んでいた筈だが避難したのだろうか?

マイが地面に埋まっている罠が無い事を確認してくれたので街の中へ入る。

『結構な人数の人が死んでいますね』

マカミがニオイを嗅いで報告してくる。

「生存者はいなさそうだね」

颯太はギョクリュウの鞍上から周囲を見渡して呟いた。

『我々以外にアドラスを攻撃した者がいたという事でしょうか?』

メトは立ち上がり周囲を警戒しながら聞いてくる。

「いいえ、それは無いと思うわ」

アドラスと敵対している国は今のところライアッドだけだ。

念の為オオトリに確認をしてもらったが、竜などが飛来した様子はなかったそうだ。

ならば意図的に街を焼いたとしか考えられない。或いは内乱が起こっているのかもしれないが……

「生存者がいるです!」

地面を念入りに調べていたマイが声を上げる。

「案内して」
「はいです!」

急ぎ生命反応のあった場所へと移動する。

そこは焼け落ちた木造家屋で、燃え残った家具や瓦礫が倒れて酷い有様だった。

「ここの地下です」
「ありがとう。メト、瓦礫を退かして」
『はい!』

メトが瓦礫を除けると床には扉があった。どうやら地下室がある様だ。

「僕が開けるよ」

颯太が扉を引き開けてくれる。その先は梯子が伸びていて深さは二メートル程度。

「誰かいる?無事なら返事をして!」

芽依が中を覗き込みながら呼びかけるが返事はない。

「入ってみるね」
「私も行くわ」

芽依が飛び降りていく。私も梯子を使って下に降りた。

石で造られた細い通路になっていた奥には小さな木の扉がある。

「開けるよ?」

左手で取手を持ち一言声を掛けてからゆっくりと扉を開ける芽依。右手はいつでも小剣が抜ける様に柄に手を掛けている。私も攻撃をされても応戦できる様に身構えておく。

扉の先には幼い子供二人を抱いた少女がいた。少女は怯えきった目で私達を見ており、抱いている子供二人はグッタリとしていた。ここは物置の様で、子供達三人で一杯になる程狭かった。

「衰弱しているわ。水を飲ませるから手伝って」

芽依に言って指輪からコップを取り出すと泉の水を生成して手渡す。

少女は戸惑っていたが芽依が「大丈夫、もう助かったんだよ」と言ったら涙ぐみながらコップを傾けた。

二人の幼児は意識が朦朧としていてかなり危険な状態だと分かる。少々手荒だが水を少し頭からかけて無理矢理回復を促した。

「お水だよ。飲んで」

意識がハッキリしてきた所で芽依がコップを差し出すとゆっくりと飲み始める。

何とか三人とも助ける事ができた様だ。

「ありがとうございます……」
「何があったか話してもらえる?」

十二、三歳だろうか、きっと親にここに隠れる様に言われたのだろう。心情的に今は話せる状態ではないが、少しでも情報が欲しかった。

少女はポツリポツリと話し始める。

兵士が大勢やって来て、突然街の人を襲い始めた事。その者達は家々に火をかけて回り、街から逃げ出そうとしても矢を射掛けられて脱出出来なかった事。この子達の両親はここに三人を隠すと自分達は隠れずに……

「兵士はアドラス軍だったの?」

頷く少女。

「酷い……自国の民に何でそんな事を……」

沈痛な面持ちで呟く芽依。

開け渡す位なら使えない様に破壊して撤退する。こういった事に疎い私でも知っている地球にもあった戦術だが、その場合民間人も一緒に避難するのではないのか?

街で生き残ったのはこの子供達三人のみだった。

全員を殺す事で証拠の隠滅、この所業をライアッドが行った事にするつもりか?

シュウはどうしても我々を悪者にしたいらしい。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【本編完結】隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさんでも掲載中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

自由気ままな生活に憧れまったりライフを満喫します

りまり
ファンタジー
がんじがらめの貴族の生活はおさらばして心機一転まったりライフを満喫します。 もちろん生活のためには働きますよ。

処理中です...