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勇者
アインの話
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結局宿を元に戻す話をし損ねてしまい、このまま泊まる事になった。
ただ、私、芽依、エレ、マイは同じ部屋にしてもらう。
あんなに広い部屋を一人で使うのは忍びないし、マイを一人にするのは可哀想だと思ったからだ。
そして時刻はまだ昼。
食事も各自の部屋でとるらしいのだが、皆で話をしながら食事をしたいと話したら一つの部屋に食堂を作ってくれた。
食事も豪華で上品なものだ。
食べ盛りなうちの子達は量があった方が良さそうなので追加をお願いしておいた。
「ハルさんはこういう所に来慣れているの?」
あまり食事が進んでいないリンが聞いてくる。
「初めてよ。なぜ?」
「すごく落ち着いているし、私達とは違うなあって」
「ここは私達をもてなしてくれる所なのだから、遠慮する必要はないと思いますよ」
エリオットの様子を見る限り罠という事はなさそうだし、折角なので満喫させてもらうべきだろう。
「お母さんに聞きたいんだけど」
「なあに?」
芽依が真剣な顔で聞いてくる。
「アインって人はお母さんの旦那さん?」
「違うわよ」
突然何を言い出すかと思ったら……
「じゃあ恋人?」
皆が私に注目している。
「いいえ。アインは私達の家族だけど恋人ではないわ」
「えーでも相手はそう思ってないかも知れないよ?」
「私の事をそう思ってくれているのなら何百年も帰って来ないのはおかしいでしょう?」
「それはそうだけど……」
芽依は口籠もる。
「何百年……」
「そんなに昔からなんだ……」
酷く驚いていたのはセロとリン。
「芽依にもあまり話してなかったし、いい機会だからアインの事を教えるわ」
彼は今の文明より一つ前の文明に生きていた人間で、当時まだ大森林が島だった頃に偶然漂着した。
彼は船乗りで私達と友好的だったが、再び来た時に連れてきた者達は違った。私達はその者達を排除したがアインは重傷を負ってしまい、やむ得ず泉の水で治療を行い眷属にした。
それからは一緒に暮らすようになり色々と知恵を借りたりもした。
彼は私の下す事のできない非情な決断も、自身が罪を背負う形で行ってくれた。
その後彼は旅に出て未だに戻らない。
私は彼の事を大切に思っているが、それは芽依や颯太に向けるものと変わりはないつもりだ。
「大切な人なんですね」
「ええ。彼もまた掛け替えのない家族です。彼は私の事を恨んでいるかも知れないけど、私はアインの事を大切に思っています」
何だかしんみりしてしまった。
「あのねお母さん、揶揄うつもりで聞いたんじゃないんだよ。アインさんの事をリザードマン達から聞いた時スゴく嬉しそうだったから、もしかしてと思ったの」
「ずっと話さなかったものね」
「じゃあアインさんはお父さんじゃなくてお兄ちゃんって呼べばいいのかな?」
「それは……」
アインは見た目としては芽依くらいの娘がいてもおかしくない風貌をしているか。
お兄ちゃんと呼ばれているアインは……何だが想像がつかない。
「好きに呼んだらいいと思うわ。どう呼ばれても喜ぶだろうから」
芽依は可愛いからね。
「俺達もアインさんを探しますよ」
「そうだね。これから何処か遠くに行った時は人に聞いて回ろうよ。ハルさんアインさんの顔を描ける?」
「ありがとうございます。顔ですか、やってみます」
部屋にあった紙とペンを使って描いてみる。
……我ながら絵心が無いわね。
特徴を捉えきれていないというか、ただの子供の落書きだ。
「ハルさんにも苦手な事があるんですね」
描きあげた似顔絵を見ながらミラが呟く。芽依は必死に笑いを堪えている。
「ありますよ。むしろ苦手な事の方が多いです」
皆は私が何でもできると勘違いしているのではないかと心配になった。
似顔絵の作成に失敗したので、オオトリを呼んで颯太に相談したら、その日の夜にはアインの顔を描いた羊皮紙が届いた。
……完全に本人と同じ顔だわ。
何でもできるのは颯太の方ね。
ただ、私、芽依、エレ、マイは同じ部屋にしてもらう。
あんなに広い部屋を一人で使うのは忍びないし、マイを一人にするのは可哀想だと思ったからだ。
そして時刻はまだ昼。
食事も各自の部屋でとるらしいのだが、皆で話をしながら食事をしたいと話したら一つの部屋に食堂を作ってくれた。
食事も豪華で上品なものだ。
食べ盛りなうちの子達は量があった方が良さそうなので追加をお願いしておいた。
「ハルさんはこういう所に来慣れているの?」
あまり食事が進んでいないリンが聞いてくる。
「初めてよ。なぜ?」
「すごく落ち着いているし、私達とは違うなあって」
「ここは私達をもてなしてくれる所なのだから、遠慮する必要はないと思いますよ」
エリオットの様子を見る限り罠という事はなさそうだし、折角なので満喫させてもらうべきだろう。
「お母さんに聞きたいんだけど」
「なあに?」
芽依が真剣な顔で聞いてくる。
「アインって人はお母さんの旦那さん?」
「違うわよ」
突然何を言い出すかと思ったら……
「じゃあ恋人?」
皆が私に注目している。
「いいえ。アインは私達の家族だけど恋人ではないわ」
「えーでも相手はそう思ってないかも知れないよ?」
「私の事をそう思ってくれているのなら何百年も帰って来ないのはおかしいでしょう?」
「それはそうだけど……」
芽依は口籠もる。
「何百年……」
「そんなに昔からなんだ……」
酷く驚いていたのはセロとリン。
「芽依にもあまり話してなかったし、いい機会だからアインの事を教えるわ」
彼は今の文明より一つ前の文明に生きていた人間で、当時まだ大森林が島だった頃に偶然漂着した。
彼は船乗りで私達と友好的だったが、再び来た時に連れてきた者達は違った。私達はその者達を排除したがアインは重傷を負ってしまい、やむ得ず泉の水で治療を行い眷属にした。
それからは一緒に暮らすようになり色々と知恵を借りたりもした。
彼は私の下す事のできない非情な決断も、自身が罪を背負う形で行ってくれた。
その後彼は旅に出て未だに戻らない。
私は彼の事を大切に思っているが、それは芽依や颯太に向けるものと変わりはないつもりだ。
「大切な人なんですね」
「ええ。彼もまた掛け替えのない家族です。彼は私の事を恨んでいるかも知れないけど、私はアインの事を大切に思っています」
何だかしんみりしてしまった。
「あのねお母さん、揶揄うつもりで聞いたんじゃないんだよ。アインさんの事をリザードマン達から聞いた時スゴく嬉しそうだったから、もしかしてと思ったの」
「ずっと話さなかったものね」
「じゃあアインさんはお父さんじゃなくてお兄ちゃんって呼べばいいのかな?」
「それは……」
アインは見た目としては芽依くらいの娘がいてもおかしくない風貌をしているか。
お兄ちゃんと呼ばれているアインは……何だが想像がつかない。
「好きに呼んだらいいと思うわ。どう呼ばれても喜ぶだろうから」
芽依は可愛いからね。
「俺達もアインさんを探しますよ」
「そうだね。これから何処か遠くに行った時は人に聞いて回ろうよ。ハルさんアインさんの顔を描ける?」
「ありがとうございます。顔ですか、やってみます」
部屋にあった紙とペンを使って描いてみる。
……我ながら絵心が無いわね。
特徴を捉えきれていないというか、ただの子供の落書きだ。
「ハルさんにも苦手な事があるんですね」
描きあげた似顔絵を見ながらミラが呟く。芽依は必死に笑いを堪えている。
「ありますよ。むしろ苦手な事の方が多いです」
皆は私が何でもできると勘違いしているのではないかと心配になった。
似顔絵の作成に失敗したので、オオトリを呼んで颯太に相談したら、その日の夜にはアインの顔を描いた羊皮紙が届いた。
……完全に本人と同じ顔だわ。
何でもできるのは颯太の方ね。
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