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冒険者

暴走する樹

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「なんなのですかあなたは!?」

イシュリアの攻撃を槍で去なしながらロザリアが声を上げる。

「私は泉の精のハル。今は冒険者のハルです。この街をあなた達の好きにはさせないわ」
「泉の精……?聞いた事があります。大森林の最も深い所に泉があり、そこには神獣を従える大精霊がいると」

ミルドソールには私を知っている者がいるのね。

「何を余所見などしている?」

壁を蹴って跳躍するイシュリアの爪がロザリアを掠め、彼女のドレスを切り裂いた。

「くっ……!!」

ロザリアはイシュリアを睨みつけ槍を構える。
他のヴァンパイアは空を飛んだりは出来ないのかしら?

私はセロと斬り結んでいるヴァンパイアを掴みにいく。
先程の《栄養吸収》を見ていたのだろう。警戒して大きく飛び退いた。

その動き、隙だらけよ。

地面から石の槍を出して背中を貫く。

「かはっ…!?」

この程度では死なないだろう。
地面から水を吹き出して、それを右手に水を集めて高圧で発射する。

石の槍に貫かれ動きの止まっていたヴァンパイアの頭を吹き飛ばした。

芽依はエレと連携してヴァンパイアを一人倒した所だ。

「芽依とエレはイシュリアさんの仲間の人の援護をお願い。セロさんは私とジェイドさんの援護に」
「はーい!」「はい!」
「分かった!」

ジェイドは何とか相手の爪を防いでいたが劣勢だった。
セロがジェイドの右側からヴァンパイアの側面に回り込み、ヴォーリヤアステールで斬り込む。

良い踏み込みだ。背中を狙った一撃も良い。

ヴァンパイアは背中に深い傷を負って苦しそうに蹌踉めく。その隙をジェイドは逃さなかった。

小剣で右腕を斬り払って左手の爪を跳ね上げる。
上体が逸れた所に左手で鞘から引き抜いた短剣を体当たりする様に胸の真中に突き刺した。

断末魔の叫びを上げながら仰向けに倒れて動かなくなるヴァンパイア。

今のは流石に死んだだろう。
ジェイドも流石はベテラン冒険者だ。

イシュリアの仲間の二人と戦っていたヴァンパイアは芽依とエレの援護で倒された。

あと一人、残ったのはロザリアだけだ。

「愚かな人間達。私が何故同胞を助けずにここに留まっているか分かりませんか?」

イシュリアの攻撃を捌きながら不敵に笑うロザリア。

初めに倒したヴァンパイア以外は倒れ伏して自身の血で地面を赤く汚していた。

まさか……

ヴァンパイアソーンは驚異的な速度で根を伸ばし、血溜まりに触れると吸い上げ始める。

「そろそろ始まりますよ。大量に血液を得たヴァンパイアソーンの暴走が」

一気に大量の血を得たヴァンパイアソーンは幹を震わせ上に伸びていく。

地面の至る所から大小様々な根が飛び出してきて私達を襲う。

私は土を硬化させて私、セロ、ジェイドに襲い来る根の動きを止める。
二人は動きの止まった根を切り払っている。

芽依はそれを二本の小剣で切り裂き、躱して逃れていたが、エレはウォーハンマーで打ち払うのが間に合わず左腕を細い根に貫かれてしまった。それに気付いた芽依が直ぐにその根を切り離し、エレは腕を貫いていた根を引き抜いて投げ捨てた。

イシュリアの仲間二人は躱しきれずに無数の根に貫かれていた。

イシュリアは襲い掛かる根を躱してラティーシアを助けようと木の根元に横たわる彼女に向かって走る。

攻撃を警戒していたロザリアは大きく成長を始めたヴァンパイアソーンが邪魔してイシュリアを見失っていた。

今ならラティーシアを助けられるか。

身を低くして走るイシュリアの足元に無数の細い根が伸びる。
数が多過ぎて躱しきれないと判断した彼女は苦し紛れに前方に跳躍する。

そこで跳躍してもラティーシアに届く前に根に絡め取られてしまうだろう。

「ラティーシアさまぁぁぁっっ!!」

手を伸ばし叫ぶイシュリア。
宙を舞う彼女の足元には根が迫っていた。

届かぬ手、届かぬ思い。

無念そうに顔を歪めるイシュリア。

大丈夫よ。あなたの手は届く。

水を高圧縮させて噴射させると、それを束ねて手の中で一本の剣を作る。
とてつもなく長い剣を。

「みんな伏せなさい!」

それを水平方向に振り抜く。

私の一撃は、イシュリアに迫る無数の根を全て断ち切った。
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