上 下
164 / 453
冒険者

領主

しおりを挟む
駐屯兵団の反乱は鎮圧された。
セイランに駐留していた兵士千人の内、反乱に加わったのはおよそ九百五十人。
残りの五十人は反乱に異を唱えて領主軍または衛兵隊に合流し、各所防衛地点で戦闘していたそうだ。

私達は冒険者ギルドを奪還すると、ギルド内の清掃、整備を始める。
ここでも激しい戦闘が行われた為、椅子やテーブルが破壊されたり、食器類などギルドの備品もかなり被害を受けていた。

みんなで協力すれば早いもので、ものの一時間程でギルドホールは綺麗になった。

「ここに黒竜を駆る冒険者は居るか?」

やって来たのは駐屯兵団の鎧を着た男、ハーツとその部下数名だ。彼らが領主軍に味方した駐屯兵団なのだろう。

「それは私のことです。ハーツさん」
「ハル……君だったのか。怪我はないか?」

ハーツは私の事を子供の様に扱う。トコヤミを従えていた事を知った上でそう接してくれる彼は、とても優しいのだと思う。

「怪我はありません。何か御用ですか?」
「ソリムド伯爵が話を聞きたいと言っているのだ。一緒に来ては貰えないか?」
「分かりました。行くのは私だけですか?」
「君のパーティ全員と、事情を詳しく説明できる者が他にいるなら来てもらいたい」

それならばヴァンに来てもらおう。彼なら商隊護衛の任務についても詳しく話す事ができる。

味方だと宣言したので敵意を向けられる事は無いだろうが、念の為に颯太とカナエも一緒に行かせる事にした。

領主の館に向かいながらハーツ逹の話を聞いた。

反乱が起こったのは彼らが街の外へ警らに出ていた時だった。
その日は珍しく彼の部隊に上役がついて来ていて、警らの途中で『我々は領主を打倒しこの地に安寧をもたらす為に蜂起する』と語り始めた。
突然の宣言とと共に、ハーツ達の部隊はルーシェンに向かい書簡を届ける様に指示を受けた。

「我々は彼の言っている事が納得できず、従う事はできなかった。彼を拘束してソリムド伯の元へと向かったのだが我々が到着した頃には既に戦闘が始まっていた」

衛兵隊はまだ事態が把握できておらず混乱していたのでハーツが指示を出し住人の避難と防備の構築を行い、彼らは駐屯兵団の拠点に近い東側避難所の防衛に駆けつけたらしい。
当初は東側の避難所が一番形勢不利だったのだが、ハーツ達の部隊が来た事により押し返す事に成功し、その後も何とか凌ぎ切る事が出来た。

「君達冒険者が援軍に駆けつけてくれなければいずれは兵力差で押し切られていただろう。本当に助かった」
「いえ、ハーツさんこそ、よく反乱に加わりませんでしたね」

軍人は基本的には上の命令に背く事はないと思っていた。ハーツ達も例外ではないだろうと。

「上役に背いたのは、ソリムド伯の統治が悪いとは思えなかったのと、連行された盗賊達が即日解放された事への不信感からだな。それからハルとメイの様な子供に顔向けできる行いをするべきだと考えた結果だよ」
「ハーツさん達と戦う事にならなくて良かったです」
「私の判断は間違いではなかったと安心しているよ」

ハーツはそう言って笑い、私と芽依の頭を撫でる。
芽依はニコニコしているし、私も悪い気はしなかった。

領主の館の着くと、入り口から領主の兵士達に固められていた。

ハーツが「ドラゴンの主人をお連れした」と言うと伝令が走り、私達は庭へと通された。

着いたのは庭の中央。丁度トコヤミを着地させた所だった。

屋敷のバルコニーに伯爵が現れる。茶色の短めの髪に口髭をたくわえた四十代くらいの男性だ。その少し後ろには兵士というより騎士といった風貌の者が四人控えていた。

「まずは礼と謝罪をさせてもらおう。街の窮地に駆けつけてくれた事、礼を言う。そしてこの様な形で会う事になってしまってすまない。私の護衛がこれ以上の接近を認めてくれなかったのだ」

伯爵は声を張り上げて私達にそう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない

カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。 一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。 そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。 ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!! その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。 自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。 彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう? ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。 (R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします) どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり) チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。 今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。 ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。 力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。 5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)> 5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります! 5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

処理中です...