泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

冒険者

代役

倒れている馬は起き上がろうともがいていた。
首を撫でて落ち着かせる。

「もう大丈夫よ。落ち着いて」
『貴女は……私を治してくれたのですか？』
「ええ。あなたはもう大丈夫よ。ゆっくりと立ち上がってみて」

落ち着きを取り戻した馬は、ゆっくりと起き上がる。

『本当だ。どこも痛くない』
「馬車は引けそう？」
『はい。ありがとうございました』

そう言って嘶く馬。私は首を撫でてから離れる。

「驚いたな。完全に治っている」
「その為に私に話したのではないの？」
「あ、ああ……！その通りだ」

ヴァンの様子がおかしい気がするが、何かあるのだろうか？

「君は動物とも話せるのか？」
「ええ。意思を持っていれば会話できるはずよ」

そうか。普通の人間は動物と話は出来なかったわね。

芽依も傷の癒えた馬の鼻先を撫でながら「治って良かったね」と話をしている。

芽依が話せるものだから誰でも話せると間違えてしまう。

「おい、そんな事よりもう片方はどうするんだ？」

鋼鉄の壁のリーダーが聞いてくる。
馬車を引く馬は一台につき一頭。二頭立てなら一頭のみにして人間が押すなどして動かせたが、このままでは引き馬が足らない。

仕方ない。彼を呼ぼうか。

「私の眷属に引かせます」
「君はさっきから眷属と言っているが、どんなものなんだ？」
「今お見せしますよ。ギョクリュウ！」

《眷属召喚》でユニコーンのギョクリュウを呼び寄せる。

「ハル様！私の出番が来たのですね！」

大喜びのギョクリュウは後ろ足で立ち上がり大きく嘶いた。

「ユニコーンだと！？」
「喋ってるぞ！」
「まさか……これがハルの眷属……」

冒険者も商人も集まってくる。

「ギョクリュウ、馬車を引いてほしいのだけど」
「お任せください！ハル様の乗る車を引かせていただけるのですね！」
「引くのは荷馬車よ」
「そうですか……どんな重い車でも引いてみせましょう！」
「小さいからそう重くはないわ」
「そうですか……」

やる気がある事はとても良い事だけど、ギョクリュウにとっては簡単すぎる仕事だろう。項垂れる彼を励ます事にした。

「あなたの力が必要なのよ。頼りにしているわ、ギョクリュウ」
「はい！」

頭を起こして元気よく返事をするギョクリュウ。

「ユニコーン が馬車を引いてくれるのか……」
「ええ。ただ一つだけお願いがあります。最後尾の馬と入れ替えてもらえますか？」
「君の側に置いておきたいと言う事だな？」
「はい」
「それは勿論だ。すぐに取り付けよう」

ヴァンが指示を出して馬の入れ替えが始まる。
これで移動については問題ないだろう。

「おい、コイツが逃げ出そうとしていたから捕まえておいたぞ」

『草原の風邪ステップウインド』のリーダーが腕を縛り上げられたフェルナンドを連れてくる。

「何をする！？この縄を解け！」

丁度良い、さっきの話の続きをしよう。

「今回の事、あなたが手引きしたのでしょう？」
「し、知らんな……」
「惚けても無駄よ。私の目は嘘を見抜けるもの」

勿論そんな能力は無いが、この狭量な男は少し脅せば簡単に落ちるだろう。

「……そうだ。私が手引きしたんだよ」

地面にと座り込んで呟くフェルナンド。

「何故そんな事を？」
「……契約だ」

フェルナンドは盗賊団と結託してわざと商隊を襲わせていたと自白した。

「それであなたに何の得があるの？」
「少しの商品と金を渡せば安全が保障される。今回は冒険者も始末する予定だった」
「何だと……！」
「そういう事ならコイツには相応の罰を受けてもらわねえとな」

剣を抜く草原の風ステップウインドのリーダー。

「今ここで報復するのは簡単だけど、役人に突き出して裁いた方が良いと思うわ」
「分かってる。ただ、腕の一本でも貰わねえと気が済まねぇ」
「よせよせ。そんな事をしたらこのクズが歩けなくなるぞ」

『雷鳴』のリーダーが止めに入ってくれた。

それにまだ訊かなければならない事がある。