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冒険者
手当て
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剣の直撃を受けた男はもんどり打って倒れた。
芽依ったら乱暴なんだから。
「大丈夫?」
気を失っている様だが大丈夫そうだ。打ち所が悪くて起きなかったりしたら不味い。泉の水を少しだけ生成して頭に掛けておく。
「うぅっ……なんて事しやがる」
「持てもしない剣をどう扱うの?」
「この……!」
芽依は悪びれた様子もなく男を見下ろして言う。その態度に激昂する男。
「ごめんなさいね。どこか痛い所はない?」
「あんな物をぶつけられて怪我をしない訳が……あれ?」
頭擦り腰を摩っているが痛みもなくポカンとしている。
「大丈夫みたいね」
「何をした……?」
「治療ですよ。怪我を治す水を使いました」
「水?そうか……お前が」
男は目を細めて私を見る。
私の事を知っている?
「お母さん。そんな奴、治してやる必要はないよ」
芽依は剣を拾いながら言ってくる。
「芽依、いきなり人に危害を加えては駄目よ」
「だって……セロに失礼な事言うんだもの。非礼には非礼で返せってロイドさんが言ってたもん」
ロイド……そんな事を芽依に教えていたのね。
「冒険者である前に淑女でありなさい」
「はーい」
少し不満そうだったけど返事をしてくれた。
「あなたも売って欲しいと言うのは分かるけど、相手を蔑む様なものの言い方はいけないわ。頼み事をするのなら尚のことです。相手に敬意を払って話しなさい」
「ちっ……まあいい。また来るぜ」
男は立ち上がると去って行った。
「こらー!返事はー!」
「芽依、いいのよ。彼に私は小娘にしか見えないのだから」
ああいう者自分より下に見ている者の言う事は聞こうとしない。分かってはいるけど言わない訳にはいかない。
「忠言耳に逆らいて行いに利あり、なんて言葉もあるのよ」
「ちゅーげん?」
芽依には難しかったわね。
「気にしないで。それより剣をセロに」
「うん。セロさん、剣を奪うような事をしてごめんなさい」
「い、いや……俺の為に怒ってくれていたんだね。ありがとう」
剣を受け取るセロ。
「芽依がごめんなさい。明日、お昼位に鍛冶屋に行こうと思うのですがどうでしょう?」
「分かった。じゃあ明日、待ち合わせはギルドでいいかい?」
「はい」
明日の予定を確認して三人と別れる事に。
『白い蝙蝠亭』に戻ると、食堂から良い匂いがしてきた。
「お帰りなさい。食事、すぐに召し上がりますか?」
「ええ。そうさせてもらいます」
「ごはん~!」
荷物を置きに戻らずにそのままいただく事にした。
相変わらずここの料理は美味しい。
何もかも一人でやっている様だが、これだけの腕前で客が来ないのは立地の所為なのだろうか。
「一昨日の衛兵ですが、どうやら偽物だったみたいです」
「そうなのですか」
ラティーシアに今朝確認した事を話してみる。
抑揚の無い返事だった。
彼女はほとんど感情を表に出さない。あの襲撃の時も侵入者を殺めた時ですらいつも通りだった。
ラティーシアにとって一昨日の男が偽物だった事について関心は無い様だ。
考えられるのは二つ。
一つは宿から不要な物を片付けてくれた相手であって、彼女の宿屋にとって危害を加えてくる者では無かったから気にしていない可能性。
例えあの男が襲撃者側の者だっとしてもラティーシアは気にしない。彼女の性格上、十分にあり得る。
もう一つは、あの偽衛兵がラティーシアの手の者だった可能性。
ラティーシアの指示で襲撃者を始末したのだとしたら……
いやよそう。
どちらの可能性も結果として私達に危害を加えるつもりはないのだ。
彼女は自分の店を守っただけなのだから。
「ラティーシアさん、先日の襲撃で宿を壊してしまったと思うのですが、弁償させてください」
「気にしないでください。修繕に費用はかかっていませんので」
「それはどういう?」
「私も魔法が使えます。便利な魔法があるのですよ」
そう言って食べ終わった器に魔法をかける。
手から光がこぼれ落ちて皿の汚れが消えていく。
見た事のない魔法だ。
芽依ったら乱暴なんだから。
「大丈夫?」
気を失っている様だが大丈夫そうだ。打ち所が悪くて起きなかったりしたら不味い。泉の水を少しだけ生成して頭に掛けておく。
「うぅっ……なんて事しやがる」
「持てもしない剣をどう扱うの?」
「この……!」
芽依は悪びれた様子もなく男を見下ろして言う。その態度に激昂する男。
「ごめんなさいね。どこか痛い所はない?」
「あんな物をぶつけられて怪我をしない訳が……あれ?」
頭擦り腰を摩っているが痛みもなくポカンとしている。
「大丈夫みたいね」
「何をした……?」
「治療ですよ。怪我を治す水を使いました」
「水?そうか……お前が」
男は目を細めて私を見る。
私の事を知っている?
「お母さん。そんな奴、治してやる必要はないよ」
芽依は剣を拾いながら言ってくる。
「芽依、いきなり人に危害を加えては駄目よ」
「だって……セロに失礼な事言うんだもの。非礼には非礼で返せってロイドさんが言ってたもん」
ロイド……そんな事を芽依に教えていたのね。
「冒険者である前に淑女でありなさい」
「はーい」
少し不満そうだったけど返事をしてくれた。
「あなたも売って欲しいと言うのは分かるけど、相手を蔑む様なものの言い方はいけないわ。頼み事をするのなら尚のことです。相手に敬意を払って話しなさい」
「ちっ……まあいい。また来るぜ」
男は立ち上がると去って行った。
「こらー!返事はー!」
「芽依、いいのよ。彼に私は小娘にしか見えないのだから」
ああいう者自分より下に見ている者の言う事は聞こうとしない。分かってはいるけど言わない訳にはいかない。
「忠言耳に逆らいて行いに利あり、なんて言葉もあるのよ」
「ちゅーげん?」
芽依には難しかったわね。
「気にしないで。それより剣をセロに」
「うん。セロさん、剣を奪うような事をしてごめんなさい」
「い、いや……俺の為に怒ってくれていたんだね。ありがとう」
剣を受け取るセロ。
「芽依がごめんなさい。明日、お昼位に鍛冶屋に行こうと思うのですがどうでしょう?」
「分かった。じゃあ明日、待ち合わせはギルドでいいかい?」
「はい」
明日の予定を確認して三人と別れる事に。
『白い蝙蝠亭』に戻ると、食堂から良い匂いがしてきた。
「お帰りなさい。食事、すぐに召し上がりますか?」
「ええ。そうさせてもらいます」
「ごはん~!」
荷物を置きに戻らずにそのままいただく事にした。
相変わらずここの料理は美味しい。
何もかも一人でやっている様だが、これだけの腕前で客が来ないのは立地の所為なのだろうか。
「一昨日の衛兵ですが、どうやら偽物だったみたいです」
「そうなのですか」
ラティーシアに今朝確認した事を話してみる。
抑揚の無い返事だった。
彼女はほとんど感情を表に出さない。あの襲撃の時も侵入者を殺めた時ですらいつも通りだった。
ラティーシアにとって一昨日の男が偽物だった事について関心は無い様だ。
考えられるのは二つ。
一つは宿から不要な物を片付けてくれた相手であって、彼女の宿屋にとって危害を加えてくる者では無かったから気にしていない可能性。
例えあの男が襲撃者側の者だっとしてもラティーシアは気にしない。彼女の性格上、十分にあり得る。
もう一つは、あの偽衛兵がラティーシアの手の者だった可能性。
ラティーシアの指示で襲撃者を始末したのだとしたら……
いやよそう。
どちらの可能性も結果として私達に危害を加えるつもりはないのだ。
彼女は自分の店を守っただけなのだから。
「ラティーシアさん、先日の襲撃で宿を壊してしまったと思うのですが、弁償させてください」
「気にしないでください。修繕に費用はかかっていませんので」
「それはどういう?」
「私も魔法が使えます。便利な魔法があるのですよ」
そう言って食べ終わった器に魔法をかける。
手から光がこぼれ落ちて皿の汚れが消えていく。
見た事のない魔法だ。
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