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冒険者

褒賞

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駐屯所の屋敷から出る前でハーツから報奨金を貰った。

「君達の働きには感謝している。しかし無理は禁物だ。今回の様に上手くいく日ばかりではないのだからね」
「はい。気を付けます」

ズシリと重い皮の袋を受け取って、ハーツに礼を言い駐屯所から出る。街とは門で隔てているだけなのでそこを通って街の中へ。

人目の少ない所で袋ごと指輪の中にしまっておいた。

「幾ら入ってるんだろうね?」
「どうかしらね。宿で数えてみましょう」

芽依は嬉しそうに話していたが、少し落ち着きが無い気がする。
やはり人を殺めた事を気にしているのだろう。宿に帰ったらじっくり話をしよう。

その前に冒険者ギルドに寄って薬草の納品と今回の事の報告だ。
報奨金についてはギルドを通さなくて良いそうなのでもらった事だけを伝えよう。

ギルドに入ると中にいた冒険者達が私達を見つけて騒ぎ出す。皆口々に「賊を捕らえた新人」と私達の事を言っていた。

「お母さん……」
「大丈夫よ。私達の活躍を称えてくれているだけだから」

珍しく物怖じする芽依の手を引いて受付へ向かう。バルドルがいたので彼の列に並んだ。

「おう、無事だったか」
「はい。バルドルさんが兵を呼んでくれたのですか?」
「そうだ。感謝しろよ」
「ありがとうございました」

ここは素直に礼を言っておこう。
続いてことの顛末を説明する。

「……つまりお前らだけで賊を捕えて帰る所に兵士が来たと」
「はい。連行するのが大変だったので助かりました」

それを聞いた周りの冒険者達は更に大きな声で騒ぎ出す。

「この前の事もあるから実力は信用するが、今度からはすぐに応援を呼べ。二人じゃ太刀打ち出来ない事の方が多いんだぞ」
「はい。気を付けます」
「とはいえ良く頑張ったな!助けた三人も無事だったしあいつらからも報告を受けている。近いうちに本人達から礼を言いに来るだろう。今日はもう休め」
「ありがとうございます」

言葉は乱暴だが私達を気遣いの出来る男だ。初めの印象は悪かったが、それは改めなければならない。

薬草の納品も行い、報酬は五百エルズ。
良い稼ぎになった。

芽依の事も心配だしバルドルの言う通り今日は宿に帰ってゆっくりするとしよう。

陽はまだ中天にあるが徹夜明けなのだから無理は良くない。

『白い蝙蝠亭』に帰ってくると受付の所にはラティーシアがいた。

「おかえりなさい」
「ただいま。お昼ご飯を食べたいのだけど、やってますか?」
「ええ。準備しますね」

そう言って厨房に入っていくラティーシア。彼女が調理しているのだろうか。

出てきたのはステーキとスープにサラダ、ふかふかのパンだ。

とても美味しく芽依も喜んで食べていた。

自室に戻り装備を外すと報奨金が幾ら入っていたかを確認する。

「いち、じゅう、ひゃく……えっ!?こんなに貰っていいの?」

袋の中にはニ万エルズ入っていた。

「賊を捕らえたのだし、相場はこんなものなのかも知れないわね」
「うん……」

流石に「もっと討伐をやりたい」と言う元気はない様だ。

「お母さんは人を殺しても平気?」
「そうね、仕方のない時はあるのよ。私は芽依と自分が最優先だから、芽依に危害が及ぶ可能性があるなら躊躇しないわ」
「そうなんだ……」

俯く芽依。私は頭を抱き寄せて撫でる。

「芽依は優しい子ね。それでいいのよ。でもいざと言う時は迷わないで、迷うなら逃げなさい」
「うん。そうする」

人を殺して平気でいられる様には育てていない。
芽依は優しく素直に育ってくれた。いつまでもそうあってほしい。

「明日もお休みにする?」
「お仕事したい!薬草採集やろ?」
「分かったわ」

芽依は少し元気になった。
明日は昨日と同じ薬草採集。あの時は退屈そうにしていたけど、こういう仕事の方が安心してやれると気付いた様だ。
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