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冒険者

白い蝙蝠亭

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「うわっ……!ビックリした……」
「お泊まりですか?お部屋は空いておりますよ」

表情が全くない少女は淡々と聞いてくる。見た目は十四、五歳ぐらいだろうか、黒のロングドレスを着ている。
喋らなければ人形に見える程綺麗な顔立ちだ。

「ええ。この街で冒険者をする事になったの。長期で泊まる事は可能かしら?」
「大丈夫です。一人部屋を二つですか?」
「二人部屋でお願いします」

教員として働いていた分の給料があるのでかなりの蓄えがあるし、一人部屋を二つでも良かったが、芽依が隣で無言の訴えをしていた為二人部屋にした。

「畏まりました。一泊朝晩二食付きで一人五百エルズです。食事はキャンセルが出来ます。キャンセルすると一食につき五十エルズ返金されます。尚、料金は前金でいただきますが何泊されますか?」
「そうね……取り敢えず七泊お願い」

そう言って七千エルズをカウンターに置く。少女はお金を数えてカウンター裏に仕舞うと壁に掛かった鍵を取る。

「申し遅れました。私、当宿屋の主人のラティーシア・ムルシエラゴと申します。何か御入用のものがありましたら何なりともお申し付けください」

そう言いながら鍵を手渡してくる。
ニコニコとしながら鍵を受け取る芽依。

「ありがとうラティーシアさん。宜しくお願いします」
「はい。部屋は二階の一番奥の部屋です。ごゆっくりおくつろぎください」

礼を言って二階へ向かう。この宿屋は奥に長い構造で、薄暗い食堂を通って突当たりにある階段を登ると部屋がいくつもあるフロアになっていた。

薄暗い廊下を歩き、言われた通り一番奥の部屋に行き鍵を差し込んで中に入る。

中は十畳くらいの部屋になっていて、ベッドが二つ、机が一脚、椅子が二脚。窓は無い。

灯りを探していると、入口の壁に石が埋め込まれていて、それに触れると部屋が明るくなった。

天井には魔力で光る石が吊るされていた。暖かみのある色の照明でかなり明るい。

「わあっ……スゴいね!」
「本当ね。廊下もこれにすれば良いのに」

言ってから思ったが、この照明はかなり高価なものなのだろう。廊下に設置していたら費用がかかり過ぎる。

「ベッドもフカフカだよ~」

綺麗にベッドメイキングされた一つに飛び込む芽依。気持ちよさそうだ。

「ほら、靴を脱がなくちゃ駄目よ。私達は客だけど、不要に汚したりしたらいけないわ」
「は~い」

起き上がると素直にブーツを脱いで横になる芽依。

「この宿ってラティーシアさんが一人でやってるのかな?」

芽依は仰向けになったまま聞いてくる。

二階にあったのは四部屋。三階への上り階段もあったのでまだ部屋はあるのだろう。食事の事もあるし後一人か二人は居ないとやっていけないだろう。

「どうだろうね?」
「お客さん見なかったけど私達だけなのかな?」
「そうみたいね。結構入り組んだ所にあるし、あまり人気が無いのかも知れないわね」

入口は綺麗にしてあったが、中の雰囲気はあまり良くない。あれでは泊まりたがらないのではないだろうか?

「貸切りみたいだね!」

芽依は嬉しそうだ。
暫くベッドの心地良さを堪能した後、冒険者ギルドへ向かう事にした。

「お出掛けですか?」
「ええ。ギルドに冒険者の証を取りに行くの」
「そうですか。気を付けて行ってきてください」

簡単なやり取りをして宿屋を出る。
背中のカバンは置いてきたが財布はしっかりと持って来ている。

歩きながら「お昼は何処で食べようか」と話しながら冒険者ギルドへ。

扉と窓は開け放たれたままで喧騒が聞こえて来る。

中に入るとテーブルを囲んで食事をする者、酒を飲む者、隅の掲示板を真剣に見ている者、カウンターに並ぶ列と、人間が犇いていた。

カウンターには四人いて、それぞれに列が出来ていた。私達はリフィナの所に並ぶ。

「お嬢ちゃん達依頼ならここじゃないぜ?」

前に並んでいた金髪を逆立てた若い男が振り返り言ってくる。

「私達は冒険者になりに来ました。朝合格を貰ったので冒険者の証を受け取りにきたのですよ」
「へぇ……そうなのか。俺はジェイドってんだ。宜しくな」
「ハルです」「メイだよ」

見た目は不良みたいだけど話してみると意外と普通。
人を見た目で判断してはいけないわね。
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