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新しい時代
政変
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魔族がお礼を言いに来てから数年、西の方が騒がしいらしい。
『魔族の国で何かあった様ですね』
ヤトが報告に来てくれていた。
「もしあの家族が助けを求めてくる様なら保護してあげて」
『畏まりました』
それから数日後、二十騎程の一団がこちらにやって来ていると知らせを受ける。
どうやらブランザハーン達らしいのだが、今回は森に入ってこちらに向かってきているらしい。
急用なのだろうか、私達は泉の畔で彼らを待つ事にした。
彼らはすぐにやって来た。
「精霊様、森に無断で立ち入ったご無礼、何卒お許し下さい」
アンヴァールから降りるなりブランザハーンはそう言って、近くの騎馬から人を下ろす。その騎馬には二人乗っていて、一人は年配の騎士。もう一人の方、ブランザハーンが抱きかかえて下ろしたのは彼の妻だった。
「陛下……既にお妃様は……」
服は血塗れになっており、かなりの深手を負っていた様だ。残念ながら既に事切れている。
「母上!」
別の騎馬から少年が飛び降りて駆け寄って行く。母の亡骸に縋り付いて泣いていた。
「何があったの?」
「我らの国で謀反が起こりました。私は刺客の攻撃を退けたのですが、妻は息子を庇って……」
「そうだったの……辛いわね」
王を暗殺出来なかった首謀者達は軍部を動かして内戦状態に発展。
ブランザハーンの指揮下にある一部の部隊を伴って王城を脱出して来たらしい。
「何が原因だったの?」
「……申し上げ難い事ですが、生命の水が原因です」
ブランザハーンが言うには、軍部の強硬派が泉を占領しようと提案して来たのが事の発端らしい。
勿論彼は反対し、発案者である軍総司令官を更迭したそうだ。
しかし、泉を自国の物にしようと言う動きは収まるどころか日に日に拡大していき、とうとう軍部が暴発する事態にまで発展、大規模な衝突があったらしい。
「妻と息子に生命の水を与えておいて、他の者には与えない。王家だけで占有していると根も葉もない噂が流れてしまい、国民まで騒ぎ出す始末。誠に申し訳ありません」
彼が謝っているのは、恐らくこれからここに魔族の軍隊がやってくるからだろう。
「カクカミ、メト、カナエ、ギョクリュウは森の動物達を東側に避難させて」
『畏まりました』
「颯太、合図を送ってトコヤミをここに」
「分かった」
トコヤミは北の山に住んでいる為、何かあった時は颯太が合図を送って呼び出す事になっている。
「私達の住む土地を踏み荒らす者は許さないわ。私はこれからあなた達の同胞を殺します。どうしますか?」
私がブランザハーンに水を与えた事で起こったのだ。森の仲間達にはすまないと思う。だからこそ甘い判断は出来ない。
敵対者は徹底的に叩く。
「私達も共に戦う事をお許し頂けますか?」
「構わないけど、護ってはあげられないわ」
「勿論です。元々は私の責任ですので、この地を命に換えてもお守りします」
ブランザハーンは跪いて首を垂れる。
僅か二十人程だが、相手の事を知っている者がいるのは良い事だ。味方に加わってもらうとしよう。
トコヤミが来たので事情を話し、エルフ達にも逃げる様に伝えさせる。
しかしエルフ達は、『精霊様の危機に逃げるなど出来るはずがない』と武器を手にこちらに向かって来ているそうだ。
彼らも味方をしてくれるらしい。
魔族の軍隊はおよそ五千人。その全てが魔法を使う事ができるのだとか。
これはゴブリンの時の比ではない、激しい戦闘になるだろう。
逃げる事も考えておかなければならないかも知れない。
「大丈夫だよ母さん。僕が護るから」
「ありがとう颯太。でも無茶はしては駄目よ。カクカミ、メト、ヤト、カナエ、ギョクリュウ、トコヤミも、決して無理はしない事」
『ご安心くださいハル様。我らは絶対に負けません』
全員が力強く頷いていた。
『魔族の国で何かあった様ですね』
ヤトが報告に来てくれていた。
「もしあの家族が助けを求めてくる様なら保護してあげて」
『畏まりました』
それから数日後、二十騎程の一団がこちらにやって来ていると知らせを受ける。
どうやらブランザハーン達らしいのだが、今回は森に入ってこちらに向かってきているらしい。
急用なのだろうか、私達は泉の畔で彼らを待つ事にした。
彼らはすぐにやって来た。
「精霊様、森に無断で立ち入ったご無礼、何卒お許し下さい」
アンヴァールから降りるなりブランザハーンはそう言って、近くの騎馬から人を下ろす。その騎馬には二人乗っていて、一人は年配の騎士。もう一人の方、ブランザハーンが抱きかかえて下ろしたのは彼の妻だった。
「陛下……既にお妃様は……」
服は血塗れになっており、かなりの深手を負っていた様だ。残念ながら既に事切れている。
「母上!」
別の騎馬から少年が飛び降りて駆け寄って行く。母の亡骸に縋り付いて泣いていた。
「何があったの?」
「我らの国で謀反が起こりました。私は刺客の攻撃を退けたのですが、妻は息子を庇って……」
「そうだったの……辛いわね」
王を暗殺出来なかった首謀者達は軍部を動かして内戦状態に発展。
ブランザハーンの指揮下にある一部の部隊を伴って王城を脱出して来たらしい。
「何が原因だったの?」
「……申し上げ難い事ですが、生命の水が原因です」
ブランザハーンが言うには、軍部の強硬派が泉を占領しようと提案して来たのが事の発端らしい。
勿論彼は反対し、発案者である軍総司令官を更迭したそうだ。
しかし、泉を自国の物にしようと言う動きは収まるどころか日に日に拡大していき、とうとう軍部が暴発する事態にまで発展、大規模な衝突があったらしい。
「妻と息子に生命の水を与えておいて、他の者には与えない。王家だけで占有していると根も葉もない噂が流れてしまい、国民まで騒ぎ出す始末。誠に申し訳ありません」
彼が謝っているのは、恐らくこれからここに魔族の軍隊がやってくるからだろう。
「カクカミ、メト、カナエ、ギョクリュウは森の動物達を東側に避難させて」
『畏まりました』
「颯太、合図を送ってトコヤミをここに」
「分かった」
トコヤミは北の山に住んでいる為、何かあった時は颯太が合図を送って呼び出す事になっている。
「私達の住む土地を踏み荒らす者は許さないわ。私はこれからあなた達の同胞を殺します。どうしますか?」
私がブランザハーンに水を与えた事で起こったのだ。森の仲間達にはすまないと思う。だからこそ甘い判断は出来ない。
敵対者は徹底的に叩く。
「私達も共に戦う事をお許し頂けますか?」
「構わないけど、護ってはあげられないわ」
「勿論です。元々は私の責任ですので、この地を命に換えてもお守りします」
ブランザハーンは跪いて首を垂れる。
僅か二十人程だが、相手の事を知っている者がいるのは良い事だ。味方に加わってもらうとしよう。
トコヤミが来たので事情を話し、エルフ達にも逃げる様に伝えさせる。
しかしエルフ達は、『精霊様の危機に逃げるなど出来るはずがない』と武器を手にこちらに向かって来ているそうだ。
彼らも味方をしてくれるらしい。
魔族の軍隊はおよそ五千人。その全てが魔法を使う事ができるのだとか。
これはゴブリンの時の比ではない、激しい戦闘になるだろう。
逃げる事も考えておかなければならないかも知れない。
「大丈夫だよ母さん。僕が護るから」
「ありがとう颯太。でも無茶はしては駄目よ。カクカミ、メト、ヤト、カナエ、ギョクリュウ、トコヤミも、決して無理はしない事」
『ご安心くださいハル様。我らは絶対に負けません』
全員が力強く頷いていた。
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