泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

新しい時代

生き残り

生き残ったエルフは戦闘に加わらなかった者達。村の中に残っていた者だ。
彼らは私達に降伏を申し入れてきた。

「言っておくけど、僕達は争いをしにきたんじゃない。話し合いに来たんだ。不意打ちをしたのはそちらの族長で、それに反撃したまで。この事から察するに、君達は言葉では分かり合えない生き物だと判断し、この場で駆除するのも僕達の勝手だよね。」

颯太は冷たく言い放つ。
森の中にいたのは子供や怪我をして不自由な生活を強いられている者ばかりの様だ。働き盛りの若者を殺してしまったのかと思うと少し胸が痛む。

「ならば……我らはもう抵抗は致しません。ですが、せめて見せしめに殺すのは私達大人だけにしてください。子供達には毒を飲ませて苦しまない様に逝かせます。どうかお慈悲を……」

跪いて祈る様な姿で言うエルフの男性。

「いいでしょう。今回だけは許します。この森に住うこともです。ただし次はありません。次に私達に敵対するような事があれば駆除します」
「……寛大な後処置に感謝致します」

地に伏して礼を言うエルフ。

「それから南の高地には踏み入らないように。守れますか？」
「はい……お約束します」
「宜しい。ならば皆をここに集めなさい」

言われるがまま、村から全員が集まってくる。数はおよそ二十人くらいか。皆私達を見て怯えていた。
集まった所で泉の水を生成して全員に振りかける。

「な、何を……」
「泉の水を与えました。怪我をしている者はこれで完治した筈です。これから死んだ者の分まで皆を守りなさい」
「あ、ありがとうございます……」

彼らは敵対する者を間違えていた事に気付いた様で、その場に平伏していた。

「さあ、帰りましょう」
「あの……私達はどうすれば……」

ずっとトコヤミのそばに立っていた四人、アルカが聞いてくる。

「好きにして構わないわ。ここのエルフ達と暮らすのも、私達に付いてくるのもあなた達が決めなさい」
「それなら精霊様について行きます」
「分かりました。トコヤミ、この子達も連れていきます」
『御意』

私達はトコヤミに乗って泉へと戻る。

「君達、本当に良かったのかい？」

帰りの空で颯太がエルフの子供達に聞いている。

「私達はもうあの村の者ではないのです。族長達は私達が居ても関係なしに矢を放ちました。それはつまり私達も殺そうとしたという事です」

その通りなのだ。この子達は既に死んだ者として扱われている。しかし生き残ったエルフ達なら迎え入れてくれるかも知れない。何せ孤児ばかりなのだから。

ただ、この子達の心情は違うだろう。
親を失い、肩身の狭い思いをしてきたのかも知れない。その上毒を飲まされ、魔物の供物にされようとしていたのだ。今更信用など出来るはずもない。

「私達と共に来た以上、私が責任を持ってあなた達を保護します。安心しなさい」

アルカ以外の３人は怯えてしまって何も言わないが、努めて優しい口調で話すと、少しだけ表情が緩んだ気がした。

『ところで、ハル様達は敵対種族に対していつもあの様に対処されているのですか？』

ゆっくりと空を飛びながらトコヤミが聞いてくる。

「いつもではないわよ。トコヤミの時は違ったでしょう？」
『そうでした』

私達が真正面から戦ったのはあの宝石みたいな塊に操られていたメトの母親とゴブリン、人間と今回のエルフだけだ。
長い間生きていてこれだけしか戦っていないのだから平和なものだろう。

「あと一瞬、トコヤミが降参を言うのが遅かったらここには居なかったと思うけどねー」

カナエに言われて一瞬ピタリと動きを止めたトコヤミ。すぐに羽ばたき直して元のペースで飛び続ける。

「私達は戦いが好きな訳ではないのよ。出来る限り共生関係でありたいと思っているの」

エルフの子供達にそう言い聞かせた。