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人間
冷たい優しさ
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「アイン!!」
彼は北側の少し下がった所にいた。
私がみんなを見送っていたのは西側、北側は大した距離ではなかったのに、雪のせいでかなり時間が掛かった気がする。
「ハル、こんな所にどうしたんだ?」
「アイン!ヨキ達に泉から出て行く様に言ったのは本当なの!?」
詰め寄って問い質す。
雪で腰の辺りまで埋まってしまい、足を取られて前のめりに転びそうなる。アインが素早く駆け寄って来て抱き留めてくれたけど私は彼を振り解こうと暴れた。
「ハル、落ち着いてくれ」
「なんで……!なんであんな酷い事をさせられるの!!」
アインは私をしっかりと抱いて離さない。私は彼の腕の中で暴れる。僅かに自由になっている両手で彼の胸を叩く。
「ハル……そうだ。あれを提案したのは俺だ。俺が彼らを殺したんだ……俺を憎んでくれ。俺を恨んでくれ」
そう言いながらもアインは私を離そうとはしなかった。
私は声を上げて泣いた。
私の後をメトがついて来ている事も分かっていたが抑えられなかった。
ヨキ達の事を思って泣いた。
自分の無力さに泣いた。
アインにこんな事をさせてしまった事に泣いた。
「ハル……勝手な事をしてすまない」
「…………」
分かっている。
アインは正しい決断をしたのだ。
少しでも多くの者を助ける為には大勢が犠牲になる必要があると、自分でも理解していた。
理解していたつもりだが、私は否定し続けた。彼にやらせてしまったのは私なのだ。
「……ごめん、なさい」
「いいんだ」
頭を撫でてくれた手はとても冷たかった。
私とアインとメトの三人で泉に戻ると颯太とカクカミとヤトとカナエが待っていた。
皆心配そうに私を見ていた。
「ごめんなさい。少し取り乱してしまったわ」
「母さん……母さんは我慢しすぎだよ。僕達は何時でも何でも聞くから、我慢しないで話してよ……」
颯太の顔色は相変わらず悪かった。それでも私の心配をしてくれている。
「ありがとう。もう大丈夫よ」
「それで……な、ハル。俺も一度泉を離れようと思うんだ」
私の肩を抱きながらアインが言う。
「なんで……?」
「ヨキ達にあんな事を言ってしまった以上、俺にも責任がある。彼らの行く末を見届けようと思うんだ。それから世界中を見てくるよ。ここにいては世界がどうなっているか分からない」
まさかアインまで居なくなるなんて……
何かで頭を殴られた様な、そんな衝撃だった。
「大丈夫、必ず戻ってくるから」
「本当……?」
「ああ、必ずだ。俺が居なくてもみんながいるから大丈夫だろう?」
私の頭を撫でながら言うアイン。
年長者のつもりだったけど、すっかり子供扱いだ。
『当たり前だ。一番弱いアインが居なくとも何の問題もない。だが、必ず戻って来い。ハル様が悲しむからな』
カクカミは地面を踏み締めながら言う。アインに大きな顔を近づけてフンと鼻息を吹き掛けた。
『悔しいけど俺にはアインの代わりは出来ないよ。早く帰ってきて』
メトは大きな身体を小さく丸めながらアインに言っていた。
『あなたの知恵はこの先も必要になるでしょう。必ず戻ってきて下さい。留守の間は我々がハル様をお護りしますので』
地面から頭だけを出してヤトが言う。
「アインにはアインしか出来ない事がいっぱいあるんだから、すぐに帰ってきてね」
カナエはクルクルと周りを飛びながら話す。
「迷子になって帰って来れなくなるといけないから、これを渡しておくよ」
颯太はアインに木で出来た腕輪を渡した。
「それを空にかざせば世界樹のある方向に風が吹く。僕達はその先にいる」
「ありがとう。ずっと身に付けておくよ」
「こちらこそありがとう。僕を気遣ってくれて」
アインは私の知らない所で颯太の事を気にかけてくれていたのだろう。二人は堅い握手を交わしていた。
「アイン、待っているわ」
「ああ、俺は必ず帰るから。何処にいてもみんなの事を忘れない。約束だ」
力強く頷いてアインは言う。
「それじゃ、行ってきます」
ヨキ達から遅れて、彼も出発した。
彼は北側の少し下がった所にいた。
私がみんなを見送っていたのは西側、北側は大した距離ではなかったのに、雪のせいでかなり時間が掛かった気がする。
「ハル、こんな所にどうしたんだ?」
「アイン!ヨキ達に泉から出て行く様に言ったのは本当なの!?」
詰め寄って問い質す。
雪で腰の辺りまで埋まってしまい、足を取られて前のめりに転びそうなる。アインが素早く駆け寄って来て抱き留めてくれたけど私は彼を振り解こうと暴れた。
「ハル、落ち着いてくれ」
「なんで……!なんであんな酷い事をさせられるの!!」
アインは私をしっかりと抱いて離さない。私は彼の腕の中で暴れる。僅かに自由になっている両手で彼の胸を叩く。
「ハル……そうだ。あれを提案したのは俺だ。俺が彼らを殺したんだ……俺を憎んでくれ。俺を恨んでくれ」
そう言いながらもアインは私を離そうとはしなかった。
私は声を上げて泣いた。
私の後をメトがついて来ている事も分かっていたが抑えられなかった。
ヨキ達の事を思って泣いた。
自分の無力さに泣いた。
アインにこんな事をさせてしまった事に泣いた。
「ハル……勝手な事をしてすまない」
「…………」
分かっている。
アインは正しい決断をしたのだ。
少しでも多くの者を助ける為には大勢が犠牲になる必要があると、自分でも理解していた。
理解していたつもりだが、私は否定し続けた。彼にやらせてしまったのは私なのだ。
「……ごめん、なさい」
「いいんだ」
頭を撫でてくれた手はとても冷たかった。
私とアインとメトの三人で泉に戻ると颯太とカクカミとヤトとカナエが待っていた。
皆心配そうに私を見ていた。
「ごめんなさい。少し取り乱してしまったわ」
「母さん……母さんは我慢しすぎだよ。僕達は何時でも何でも聞くから、我慢しないで話してよ……」
颯太の顔色は相変わらず悪かった。それでも私の心配をしてくれている。
「ありがとう。もう大丈夫よ」
「それで……な、ハル。俺も一度泉を離れようと思うんだ」
私の肩を抱きながらアインが言う。
「なんで……?」
「ヨキ達にあんな事を言ってしまった以上、俺にも責任がある。彼らの行く末を見届けようと思うんだ。それから世界中を見てくるよ。ここにいては世界がどうなっているか分からない」
まさかアインまで居なくなるなんて……
何かで頭を殴られた様な、そんな衝撃だった。
「大丈夫、必ず戻ってくるから」
「本当……?」
「ああ、必ずだ。俺が居なくてもみんながいるから大丈夫だろう?」
私の頭を撫でながら言うアイン。
年長者のつもりだったけど、すっかり子供扱いだ。
『当たり前だ。一番弱いアインが居なくとも何の問題もない。だが、必ず戻って来い。ハル様が悲しむからな』
カクカミは地面を踏み締めながら言う。アインに大きな顔を近づけてフンと鼻息を吹き掛けた。
『悔しいけど俺にはアインの代わりは出来ないよ。早く帰ってきて』
メトは大きな身体を小さく丸めながらアインに言っていた。
『あなたの知恵はこの先も必要になるでしょう。必ず戻ってきて下さい。留守の間は我々がハル様をお護りしますので』
地面から頭だけを出してヤトが言う。
「アインにはアインしか出来ない事がいっぱいあるんだから、すぐに帰ってきてね」
カナエはクルクルと周りを飛びながら話す。
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颯太はアインに木で出来た腕輪を渡した。
「それを空にかざせば世界樹のある方向に風が吹く。僕達はその先にいる」
「ありがとう。ずっと身に付けておくよ」
「こちらこそありがとう。僕を気遣ってくれて」
アインは私の知らない所で颯太の事を気にかけてくれていたのだろう。二人は堅い握手を交わしていた。
「アイン、待っているわ」
「ああ、俺は必ず帰るから。何処にいてもみんなの事を忘れない。約束だ」
力強く頷いてアインは言う。
「それじゃ、行ってきます」
ヨキ達から遅れて、彼も出発した。
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