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人間
出航
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一人乗りの船は沖へと流れていく。
全員でそれを見守っていると船は大きく揺れ出して向きを変えて岩礁の方へと流されていく。
あれが危険な海流かしら。それにしてはそんなに強い流れには見えないけど。
「何だか海流が弱い気がするな。これならここから脱出するのは容易かもしれない」
アインは船の流れる様子を見ながら言っている。
水流の操作はできないかしら。
「私も魔法で支援できないか試してみるわ」
水を操作する様にイメージをしていく。
かなり沖に流されていた船をこちらに戻って来る様に意識を向けていく。
船の舳先がこちらに向いて戻ってきた。
「おおっ!凄い!今のはハルがやったのか?」
「ええ……かなり疲れたわ……」
立っていられなくなってその場に倒れてしまう。
慌てて颯太が受け止めてくれた。
「母さん、大丈夫?」
『どうやら力を使い過ぎたみたいですね。一度《実体化》を解除された方がよろしいのではないでしょうか?』
「そう……ね。そうするわ」
一旦《実体化》を解除して泉に戻る。
「ハル様!何かあったんですか?」
「魔法を使い過ぎたみたいなの。消耗が激しくて衰弱してしまったから戻ってきたわ」
それでも魔法による水流制御で海流からの脱出はできそうなのでアインはこの島から出られそうだ。
『それは良かったですね。今晩はお祝いをしましょう』
ヤトも喜んでくれた。彼が来てから人間の生活や文化をみんなには教えてきた。
良い事があった時は喜びを分かち合う為にお祝いをするというのは真っ先に教えたことだった。
ヤトは狩りをして来てくれて、カナエは木の実を集めて来てくれる。
アイン達が戻った時には食事の準備が整っていた。
みんなでワイワイと食事を取り、夜になった。
いつものように泉のほとりで休んでいたらアインがやってくる。
「思ったよりも早く島から出られそうね」
「ああ、君達のおかげだよ」
「アインは家族はいないの?」
「いないよ。俺は孤児だったから。ここに迎え入れてもらって、ハル達を見て本当に羨ましく思った」
すこし寂しそうに言うアイン。
「あなたも家族みたいなものよ。あと少ししか一緒にいられないかもしれないけれど、それまではここを自分の家だと思って暮らしていいのよ」
「ハル、良かったら俺と一緒に来ないか?」
唐突に言ってきた彼は私の両肩を掴む。
「君は人間に興味があるのだろう?俺と一緒に島を出て一緒に暮らさないか?」
「私は一緒には行けないわ。ここには家族がいるもの。それに泉からは離れられないの」
彼は真剣だ。しかし気持ちに応えてあげられない。私は精霊、生きる世界が違いすぎる。
「俺は……君の事が……」
そう言って私を抱き寄せるアイン。私は彼を抱きしめ返す。彼は泣いていた。
孤児だった彼は家族の温もりを知らなかったのだ。別れたくない気持ちがそうさせているのだろう。
頭を撫でながら気持ちが落ち着くまで好きにさせてあげよう。
「落ち着いた?」
「ああ、すまなかった」
「島を出たらもう会えないかも知れないけど、私達はあなたの事を忘れないわ。ずっと家族よ」
「ありがとう」
彼はそのまま泣き疲れて寝てしまった。私は膝枕をして優しく髪を撫でる。
まるで子供みたいね。
「母さん」
「颯太、アインも寂しかったのよ」
「分かってるよ。でも、少し貸してあげるだけだからね」
「ふふ、颯太は優しいわね」
月明かりが泉を照らしてとても綺麗な夜だった。
次の日からは船を漕ぐ為のオールや風を捉えて進めるように帆を作ったりと忙しかった。更に数日が過ぎたて、全ての準備を終えていよいよアインがこの島を出発する日がやって来た。
「今まで本当にありがとう。俺は君達の事を一生忘れない」
「私達もよ。無事に帰れる事を祈っているわ」
船は海流に逆らって進んでいく。私も水を操って彼を後押しする。
そして彼は島を出た。
全員でそれを見守っていると船は大きく揺れ出して向きを変えて岩礁の方へと流されていく。
あれが危険な海流かしら。それにしてはそんなに強い流れには見えないけど。
「何だか海流が弱い気がするな。これならここから脱出するのは容易かもしれない」
アインは船の流れる様子を見ながら言っている。
水流の操作はできないかしら。
「私も魔法で支援できないか試してみるわ」
水を操作する様にイメージをしていく。
かなり沖に流されていた船をこちらに戻って来る様に意識を向けていく。
船の舳先がこちらに向いて戻ってきた。
「おおっ!凄い!今のはハルがやったのか?」
「ええ……かなり疲れたわ……」
立っていられなくなってその場に倒れてしまう。
慌てて颯太が受け止めてくれた。
「母さん、大丈夫?」
『どうやら力を使い過ぎたみたいですね。一度《実体化》を解除された方がよろしいのではないでしょうか?』
「そう……ね。そうするわ」
一旦《実体化》を解除して泉に戻る。
「ハル様!何かあったんですか?」
「魔法を使い過ぎたみたいなの。消耗が激しくて衰弱してしまったから戻ってきたわ」
それでも魔法による水流制御で海流からの脱出はできそうなのでアインはこの島から出られそうだ。
『それは良かったですね。今晩はお祝いをしましょう』
ヤトも喜んでくれた。彼が来てから人間の生活や文化をみんなには教えてきた。
良い事があった時は喜びを分かち合う為にお祝いをするというのは真っ先に教えたことだった。
ヤトは狩りをして来てくれて、カナエは木の実を集めて来てくれる。
アイン達が戻った時には食事の準備が整っていた。
みんなでワイワイと食事を取り、夜になった。
いつものように泉のほとりで休んでいたらアインがやってくる。
「思ったよりも早く島から出られそうね」
「ああ、君達のおかげだよ」
「アインは家族はいないの?」
「いないよ。俺は孤児だったから。ここに迎え入れてもらって、ハル達を見て本当に羨ましく思った」
すこし寂しそうに言うアイン。
「あなたも家族みたいなものよ。あと少ししか一緒にいられないかもしれないけれど、それまではここを自分の家だと思って暮らしていいのよ」
「ハル、良かったら俺と一緒に来ないか?」
唐突に言ってきた彼は私の両肩を掴む。
「君は人間に興味があるのだろう?俺と一緒に島を出て一緒に暮らさないか?」
「私は一緒には行けないわ。ここには家族がいるもの。それに泉からは離れられないの」
彼は真剣だ。しかし気持ちに応えてあげられない。私は精霊、生きる世界が違いすぎる。
「俺は……君の事が……」
そう言って私を抱き寄せるアイン。私は彼を抱きしめ返す。彼は泣いていた。
孤児だった彼は家族の温もりを知らなかったのだ。別れたくない気持ちがそうさせているのだろう。
頭を撫でながら気持ちが落ち着くまで好きにさせてあげよう。
「落ち着いた?」
「ああ、すまなかった」
「島を出たらもう会えないかも知れないけど、私達はあなたの事を忘れないわ。ずっと家族よ」
「ありがとう」
彼はそのまま泣き疲れて寝てしまった。私は膝枕をして優しく髪を撫でる。
まるで子供みたいね。
「母さん」
「颯太、アインも寂しかったのよ」
「分かってるよ。でも、少し貸してあげるだけだからね」
「ふふ、颯太は優しいわね」
月明かりが泉を照らしてとても綺麗な夜だった。
次の日からは船を漕ぐ為のオールや風を捉えて進めるように帆を作ったりと忙しかった。更に数日が過ぎたて、全ての準備を終えていよいよアインがこの島を出発する日がやって来た。
「今まで本当にありがとう。俺は君達の事を一生忘れない」
「私達もよ。無事に帰れる事を祈っているわ」
船は海流に逆らって進んでいく。私も水を操って彼を後押しする。
そして彼は島を出た。
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